PK戦の末に日本が辛うじて勝ったサッカー男子準々決勝のニュージーランド戦。

NHK総合の放送は、途中ニュースで46分間中断する変則的な中継だったが、夜7時30分からは接触率がぐんぐん上がった。

そして視聴者は次第に興奮し、PK戦で日本が勝利した瞬間に喜びを爆発させた様が数字に残る。

人々は対戦をどうみたのか、視聴データで振り返る。

サッカーへの注目度

東京オリンピックの大会9日目は、人気競技が目白押しだった。

日本テレビが夕方6時台から陸上男子100m予選を放送した。山県・多田・小池の「最高トリオ」が出場するだけに、注目度は高かった。

同時間から7時台、TBSは柔道混合団体を放送していた。

個人で金メダル9個と最多チーム日本の登場とあり、やはり話題性は抜群だった。そしてTBSは8時台に、バレーボール女子予選「日本×韓国」を放送していた。こちらも伝統の一戦とあり、視聴者は少なくない。

こうした好カードが並ぶ中に、サッカー準々決勝「日本×ニュージーランド」がNHK総合で放送された。

関東地区でスマートテレビ約34万台の視聴動向を調べる東芝視聴データTimeOn Analyticsによれば、各番組の見られ方は以下の通りとなった。

日本テレビ

 「陸上など」(6時30分~10時)        8.04%

TBS

 「柔道 混合団体」(5時~7時50分)     10.38%

 「バレーボール対韓国」(7時50分~9時25分) 8.13%

NHK

 「サッカー 対ニュージーランド」

  前半(5時45分~6時44分)  12.45%

  後半(7時30分~8時55分)  22.78%

明らかにサッカー人気が頭一つ抜きん出ているが、特に後半の数字が凄かった。

試合の模様は、ニュースが放送される間もサブチャンネルで放送されており、『NHKニュース7』が終わった瞬間に、サッカー中継の接触率はギザピョンと上昇している。

まず前後半では、日本にとって惜しい場面が幾つかあった。

前半34分には相馬から堂安へ決定的瞬間があった。後半25分には、久保がドリブルからシュートに持ち込んだ。さらに36分の堂安から上田の絶妙な攻撃は、ニュージーランドのキーパーによる好セーブに阻まれた。さらに40分の堂安のシュートもネットを揺らすことがなかった。

延長に入っても、日本は見せ場を作った。

しかし日本を研究してきたニュージーランドの守備を突破できなかった。解説者の中には、「フラストレーションのたまる日本の攻撃」と評する人もいたが、視聴者は日本の勝利を信じて、どんどん接触率を上げていた。

じゅうぶん見ごたえのある試合だったと言えよう。

そして延長でも雌雄が決まらなかった同試合は、PK戦で接触率を急騰させた。

コマメに動く視聴者

東芝の視聴データは、接触率を1秒単位で測定できる。

この細かいメッシュで観察すると、PK戦で視聴者がコマメにザッピングしている様がわかる。

基本的には決着がつくまで見届ける人が大半だ。

ところが中には、キーパーとキッカーの1対1対決という緊張感に耐えられないのか、途中でザッピングする人もいる。

例えばニュージーランドの1人目が成功すると、6秒後から8秒間、接触率は落ち続けた。

相手が決めたことに腹を立てたのか、あるいは敵の喜ぶ姿を見たくないのか、VTRが始まるまで逃げる人が少なからずいた。

基本的にPK戦の間は、噂を聞いて流入する視聴者がかなりいる。

それでも接触率が下がるというのは、流出者が相当な数に上ったことになる。ただし一瞬ザッピングで逃げた視聴者も、直ぐに戻って来ていた。

気を取り直して、対戦の行方に固唾を飲む様子が目に浮かぶ。

次は日本の1人目・上田が決めた。

ここで特徴的なのは、上田のゴールシーンのVTRで接触率が急伸した点だ。

喜びを噛みしめたい人には、リプレイは大切な時間のようだ。中にはスローでキーパーとキッカーの駆け引きを反芻する人もいるだろう。すべからくPKでは、接触率が右肩上がりとなる傾向にある。

ところが上田の成功の後、またしても次のPKの直前で数字が下がる。

どうもニュージーランド選手の登場に精神的圧迫を感じる人がいるようだ。ところが2人目がはずすと、接触率はまたも急伸した。不安から安堵の気持ち、あるいは勝利の予感を噛みしめているようだ。

ここまでで対戦成績は2対1。

こうなると視聴者の心に余裕が出来たのか、接触率は落ちなくなる。

ニュージーランドの3人目がバーを越えるミスキックをし、日本の3人目・中山が成功すると、数字はみるみる上がって行った。

そして最後はキャプテンの吉田麻也。

冷静な成功で、接触率は今回の全放送の中で最高値を付けた。視聴者のさまざまな思いが爆発した瞬間と言えよう。

ただし視聴者の興奮は移ろいやすい。

吉田成功の6秒後から、接触率は下落を始めた。そして1分と立たずに1割以上の視聴者がチャンネルを替えるかテレビを消している。

この時間は、まだ日テレの陸上とTBSのバレーボールが放送されていた。時間を無駄にせずに、他の競技にサーフィンする人が相当数いたのかも知れない。

以上が平均接触率で22.78%、PK戦の間は30%を超えた「日本×ニュージーランド」の見られ方だ。

基本的に「自分の見たいものを見たいように見る」視聴者がかなりいることが浮かび上がった。テレビ局が最適と考えた構成で届けようと、それと関係のない見方がかなりあるということだ。

実は勝利の直後に1割以上が逃げた後、スタジアムの特設スタジオで櫻井翔・福西崇史・堀アナ3人のコーナーが始まると、10秒ほどでさらに1割の人が逃げ出した。

番組論的には試合の前後やハーフタイムに、スタジオでMCやゲストが解説したり感想を述べたりというのが従来の常識的な演出だ。ところが、そんな段取りは無用と受け止める人も少なからずいるのが現実なのである。

この数年、テレビ業界がじり貧で「若者のテレビ離れ」も問題になっている。

東京五輪はそうした現実を、視聴データが白日の下にさらす機会なのかも知れない。視聴者の動向を凝視することで、放送界は新たな地平を切り開いてもらいたいものだ。