史上初の二刀流で、MLBオールスターとホームランダービーの出場を果たした大谷翔平。

スターが集結する夢舞台でも、並みいる大リーガーに引けを取らない彼の活躍は、米国のメディアも絶賛したが、テレビの前の日本人も大フィーバーとなった。

特にMLB球宴のホームランダービーには日本人打者が参戦したことがないため、馴染みのない視聴者が多かったに違いない。

ところが大谷がワシントン・ナショナルズのソトと対戦した20分間は、手に汗握る展開となり接触率は上昇を続けた。しかし死闘の末に大谷が惜敗したために視聴者は落胆し、優勝者が決まるまでに3つの対決を残しながら、視聴者は一挙に中継から離れていった。

その20分間の人々の熱狂と落胆ぶりを、各種の視聴データから再現してみたい。

「史上初」ずくめの大谷翔平

大谷翔平には「史上初」という言葉がよく似合う。

日本のプロ野球では、史上初の「2桁勝利・2桁本塁打」を2014年に記録した。そして16年には投手と指名打者として、史上初のベストナイン・ダブル受賞をした。

さらに日本人として、初めて球速165Km/hという快記録も出していた。

2017年にMLBロサンゼルス・エンゼルスに移籍して以降も、傑出ぶりは変わらない。

新人王に輝いた18年。初登板初勝利の2日後に、第1打席で本塁打を記録した。1921年のベーブ・ルース以来、実に97年ぶりの快挙だった。

さらに開幕から10試合で2勝し、3本の本塁打を放った。

こちらも1919年のジム・ショー以来99年ぶりの大記録となった。

他にもア・リーグ「Players of the Week」に、二刀流選手として初選出された。

またこの年は、同一シーズンに2度週間MVPに選ばれた。1年目の日本人選手として、史上初の名誉だった。さらにMLB史上初の「10登板・20本塁打・10盗塁」も達成している。

2020年にはMLBで二刀流選手がルール上定義され、大谷は初の適用選手となった。

そして今年、前半戦でホームラン33本、長打率.704でMLB全体のトップに立ち、米球宴に史上初の二刀流による先発出場とホームランダービー参戦を果たしたのである。

視聴データもありえない値!

ビデオリサーチの視聴率では、大谷が登場した朝10時台の世帯は17.1%・個人9.0%と発表された。中継したNHK総合は、同時間帯前4週平均より8~9倍も高く、滅多に出ない好成績となった。

実はNHKだけでなく、地上波テレビのPUT(総個人視聴率)も4.5%上昇した。NHKは裏の民放各局から視聴者を奪っただけでなく、普段その時間はテレビを見ない人々にテレビを付けさせたのである。

ではどの層の人々がより中継に注目したのか。

東芝視聴データ TimeOn Analyticsによれば、男女年層別ではいずれの層も急伸していた。ただし女性より男性の方が変化は大きい。

例えばF4(女性65歳以上)は、前4週平均の6倍ほどが大谷に注目したが、M4(男性65歳以上)は14倍だった。

また中高年より若年層がより反応した。

男性の中高年は10倍強の伸びだったが、M1(男性20~34歳)やT層(男女13~19歳)は20倍強となった。

ふだん若者に見てもらえないのがNHKの悩みだったが、大谷のホームランダービー参戦は望外の結果をもたらしたのである。

視聴データ20分間の乱高下

番組全体の視聴率が高かっただけではない。

大谷が打席に向かってから、最終的に一回戦敗退が確定するまでの20分間、視聴データが通常のテレビ放送ではありえないような乱高下を見せた点は特筆に値する。

インターネット接続テレビの視聴動向を調べるインテージによれば、調査対象となっている全国約285万台のうちの30万台以上が大谷とソトの対決を映し出した。

そして大谷が必死でソトに食い下がった瞬間、番組から離れる人の数は他のどの番組より少なかった。如何に多くの人が、手に汗握って大谷に注目していたかがわかる。

たとえば大谷は最初のバッティング3分で、ソトと6本差となった。

ところがボーナス時間最初の30秒で2本差まで追い上げ、ほとんどの視聴者が大谷の勝利を確信した。

それでも大谷のペースはそこで急減速し、敗色濃厚となってしまった。ただし最後の数秒で2本を押し込み、土壇場でなんとか追いつくという薄氷を踏む展開だった。

この間の流出率は、極端に低い数字となった。

さらに特筆すべきは延長戦。

ソトは60秒でホームラン6本を加えたが、大谷も15秒ほどを残して追いついた。ほとんどの視聴者は、ここでまた大谷の勝利を確信した。

ところが大谷のペースは再びそこで失速し、最後の一撃も外野フェンス直撃でソトを突き放すことが出来なかった。

この最後の30秒間は、流出率が0.01%もない。

この間に脱落したテレビは、全国285万台の中のわずか20台ほど。これは最終回で世帯視聴率が30%を超えた『半沢直樹』(20年夏・TBS)より格段に少ない。「事実は小説より奇なり」というが、史上初の二刀流大リーガー大谷の死闘は、ドラマ以上にドラマチックな展開だったのである。

ところが最後は“あっけない”ものだった。

延長戦でも決着がつかず、互いに3スイングずつの最終対決となったが、ソトは3スイングとも決め、大谷にプレッシャーをかけた。

それでも視聴者は、大谷の奇跡的な粘りに期待した。しかし1球目を凡打してしまい、対決は肩透かしのような終わり方をした。

ここで視聴データは、またしても極端な動きを見せた。

大量の視聴者が番組から離れ始めたのである。わずか2分で6万台、10分間で14万台のテレビが別のチャンネルに切り替えられるか消されてしまった。

ホームランダービー優勝の行方はこれからだったが、接触率はほぼ半減してしまったのである。

空前のエンタメ

以上が熱狂と落胆の20分間だ。

短時間に視聴データが極端に動いたのは、大谷が二度にわたって土壇場で追いついた踏ん張りの反動だろう。つまり多くの人を熱狂させ、しかもその度合いが大きい分だけ落胆も大きくなった。

実際に中継の中で、久保純子アナは「悔しいです!」と言葉にした。

しかも大谷にも、「今の気持ち、悔しいっていう感じなんでしょうか」と聞いている。

ところが彼は同調しなかった。

「いや、楽しかったです。雰囲気自体もすごいよかったですし、良い経験になったと思います」と答えた。

インタビューの最後でも、「勝てなかったですけど、雰囲気だけでも楽しんでもらえたら嬉しいなと思います」と締めくくった。

筆者には彼の言葉は、「結果が全てではない。プロセスが大切」と聞こえる。

流出率が極端に下がったと思いきや、直後に極端に上昇する。この視聴データの乱高下こそ、闘いの内容がスリリングで心底楽しめる空前のエンタメだったことを物語る。

史上初の二刀流大リーガー大谷の闘いぶりと最後の言葉は、勝負にこだわるだけではないスポーツの楽しみ方を我々に示してくれたと考えたい。

大勢の視聴者が心を大きく動かした20分間は、空前のエンタメだったのである。