『イチケイのカラス』が好調のまま最終回を迎えた。

世帯視聴率では『ドラゴン桜』と並び、初回から最終回まで安定した成績だった。

ただし量の問題だけでなく、質的な評判もすこぶる良い。SNS上では「感動した」「泣けた」などの声が、放送終了後も絶えない。

なぜ同ドラマは、かくも見る人の心を動かしたのか。

視聴データで実証しつつ、同作品の完成度の高さを振り返りたい。

今も続く絶賛の声

放送終了後一週間近くになるが、同ドラマを評価するつぶやきは今も絶えない。

「やっぱりサイコーです‼ ってか毎回涙涙」

「最高だった。 後半ずっと鳥肌と涙」

「『あったことを無かったことにしない』この数ヶ月うちも同じ事を言い続けていたから、代弁してくれてるような気がして涙腺崩壊した」

「どストレートな正義のお話は間違いなく感動の連続で…ほぼほぼ全話で泣いてました」

「人の心に訴えかけるメッセージ性の強いドラマで心が洗われました」

優れたドラマの条件は、娯楽性・時代性・普遍性の3要素があること。

SNSのつぶやきにある通り、感動と面白さと普遍的テーマに心打たれた視聴者は少なくない。さらに以下のセリフやつぶやきに表れている通り、時代性も存分に反映した物語になっていた。

「政治に忖度するのですか?!」

「あったことをなかったことにされたら どれだけの人が傷つくことになるか」

「衆議院議員:安斎『国益のためにやらなければいけない』、裁判官:入間みちお『それは、犠牲が出てもですか?』、安斎『誤解を恐れずに言うなら、YESです』、今の時勢を切り取り過ぎてて固唾を飲んだ」

このように三拍子そろったドラマ。

その卓越ぶりは、視聴データでも随所で見られる。

優れたドラマの視聴パターン

インテージ「Media Gauge」では、番組の15秒毎の接触率を追跡できる。

関東地区の約95万台のインターネット接続テレビの視聴動向なので、0.01%でも100人近い人の反応だ。つまり微細な数字の上下動は、かなり正確に世の中全般を反映していると言えよう。

このデータによると同ドラマは、各話が例外なく冒頭からエンディングまでが右肩上がりとなった。

例えば人気料理家・深瀬(前田敦子)が虐待母と疑われた第2話では、序盤と比べ最後の盛り上がりシーンは0.8%も上がっている。関東地区の標本の中では、8000人も視聴者が増えた計算だ。

春クールの中でこれほど毎回右肩上がりとなったドラマは他に例がない。

しかも一旦一部の視聴者が逃げるCMとCMの間の各本編も凄い。それぞれが全て右肩上がりだからだ。

例えば2話4回目のCMの後の本編。虐待を疑われた深瀬(前田敦子)だったが、実は娘を治療した医師がかかわり、さらに背後に黒幕がいることが判明する一連では、接触率は0.5%ほど急伸した。CMで一時的にザッピングに走った人を含め、サンプルの中で5000人増えている。

如何に多くの視聴者が注目した展開だったかがわかる。

流出率が示すもの

ストーリー全体および各シーンが右肩上がりとなるのは、途中で見るのをやめる人が少ないからだ。

インテージ「Media Gauge」では、15秒ごとの流出率も計測できる。これによると、番組冒頭の2分間でサンプル中の2万人ほどが逃げている。もともと別の番組を見ようと思っていた人たちが、9時になったことに気づいて、チャンネルを替えている。

同様に最後2分ほどで3万人ほどが逃げ出した。

お話の大筋が終わり、エンドロールや次回予告は見ない人たちだ。また2分前後のCM中にも、毎回数千人が一時的にザッピングに走る。CMを毛嫌いする視聴者だ。

これらは仕方ないとして、本編放送中の流出率は中身を見て途中でやめる人たちの存在を意味する。つまりドラマの出来の良し悪しに影響されると言える。

接触率が右肩上がりを描いた2話は、流出率でその出来の素晴らしさが説明できる。

まずCMとCMの間の平均流出率は、ドラマ中盤まではほどほどだ。ただし19分頃に、事件の内容に納得のいかない入間みちお(竹野内豊)が「職権を発動します」と宣言し、37分頃に虐待を疑われた深瀬(前田敦子)が冤罪だったことがわかるように構成されている。

視聴者の心をグッと摑まえるツボが頃合い良く配置されているのである。

ただし問題は、その後。

検察の訴状と真相が違うらしいことはわかっても、入間みちお・坂間千鶴(黒木華)・駒沢部長(小日向文世)の3判事と石倉(新田真剣佑)ら書記官でなるイチケイチームが、証拠を見つけ出し正しい判決を下せるか否かがドラマの山場となる。

まず鍵を握る足達医師(金井勇太)は、海外に行ってしまうことがわかった。

彼の証言が必須となったチームは、すかさず空港に向かうが渋滞に巻き込まれる。すると3人は召喚状をもって走り出す。しかし途中で力尽きるが、何と井出検事(山崎育三郎)がバトンを受け継ぎ、美しい走りを魅せる。

視聴者を楽しませる展開のオンパレードで流出率はグッと下がり、しかも要所要所で0.02%台という大記録が出る。

ほぼ全ての視聴者が、画面に見入っていたことを示すデータだ。

そして黒幕だった最高裁事務総長(石丸謙二郎)の息子・幸田判事(馬場徹)との法廷対決。

真相を知る幸田判事が、過ちを無視していた。ところが「母親としての誇りを取り戻せるかどうかの裁判」という入間裁判長は、足達医師に真相を証言させ無罪判決を下す。

これで物語は終わりではない。

泣き崩れる被告(前田敦子)の表情劇。慣例を無視して法檀を降りた入間裁判長は、彼女が強いられた苦痛に対して「一裁判官としてお詫びします」と頭を下げる。

ところが二人の崇高な泣き笑いの顔の直後、反省なき幸田判事の太々しい顔が3秒アップで映る。

早いテンポでさまざまな事実と心情が映し出された。

さらにエンディング。

イチケイをわざわざ訪ねた最高裁事務総長が、「懲戒処分にします」と言い放った。

息子・幸田判事の面目を潰した報復で、イチケイが処分されるのかと緊張が走った瞬間、流出率は0.024%と第2話で最低を記録した。視聴者も固まった一瞬だった。

ところが処分はイチケイに対してではなく、誤審した幸田判事に対してだった。

しかも入間みちおが「裁判所は真実に公平な場」と記者に話した談話が防波堤になったことが明かされる。またしてもジェットコースターに乗っているように、見る者の感情はテンポよく振り回される。この第2話で、同ドラマの本・俳優の演技・展開の卓越性は確定し、多くの人が面白いと確信したに違いない。

以降の回は、最初の10分で多くの視聴者を集めるようになっていく。

圧巻の最終回

ドラマが最終回に向け視聴者の心を捉えていく様は、やはり流出率に表れる。

例えば第4話「17歳の少年が5千万円を強奪」でも、7話「司法vs型破り裁判官 決戦のとき」でも、流出率は山場に向かうほど下がっていく。ぐいぐい視聴者の心を鷲づかみにしていく様がデータに表れている。

そして最終回「型破り裁判官最後の裁判!?」は、後半が圧巻だった。

地下鉄工事と事故の関係を追究する訴訟で、入間みちおにとって最後となるかもしれない裁判だった。

チーム“イチケイ”は、型破りな入間みちおに全員がいつの間にか感化されていた。

堅物でテキパキ判決を下すために最初は“ベルトコンベアー裁判官”と揶揄された坂間千鶴が、「馬鹿にさせたのはあなたです」と入間みちおの弱気を一喝する瞬間の流出率は0.025%。

工事現場の崩落事故で亡くなった本庄の息子・歩くん(有山実俊)が、生前の父に“勇気を注入”したシーンは45秒にわたって0.02%台。

歩くんの証言がきっかけで、口裏合わせを強いられていた人事部長が真実を暴露し、事故の黒幕は二世議員の安斎(佐々木蔵之介)であることが判明した一連は、なんと2分にも渡って0.02%台。しかもその全責任を秘書(篠井英介)に負わせた瞬間が0.023%となった。

怒り心頭という視聴者の心の動きが、大記録につながったようだ。

最終回は、まだ続きがある。

「あったことをなかったことにしてはいけない」という入間みちおの信念は、裁判官としての職業倫理そのもの。ところが最高裁判所事務総局長は、「正しい裁判をするが問題あり過ぎる」と彼の再任を認めない。

単身で抗議に乗り込んだ坂間千鶴は、彼女の処分を免れる条件で入間が自らの処分に同意したと知り、なす術を失う。

ところがイチケイのチームが乗り込み、城島検事(升毅)の問い「入間君の馘は妥当か?」に全員が「異議あり」と抗議した。しかも川添主任書記官(中村梅雀)に至っては、事務総長が息子を復帰させることの暴露をチラつかせる。

この間の約2分も流出率0.02%台が続くが、事務総長を追い詰めた瞬間は30秒にわたり0.021%と、シリーズ全体で最高の結果となった。

結局は入間みちおの再任と熊本転勤で今シリーズは幕を閉じた。

ただしそのシーンでも、「暖かい場所と寒い場所、どっちが良いか?」と坂間が入間に聞いたり、転勤先に入間みちおの“取り扱い説明書”が送り付けられたりと、流出率0.02%台となる微笑ましいシーンが続く。

喜怒哀楽の感情に揺すぶられまくり、その途中に人や職業のあるべき姿が提示され、しかも心温まるシーンやクスっと笑える場面が散りばめられていた。

流出率の低下は、それら全てにビビッドに反応し、この物語の質の高さを雄弁に物語った。

これを超える第2シリーズがどんな物語になるのか。

既に次を心待ちにしている視聴者が大量発生しているに違いない。次のつぶやきが、それを象徴していると思えてならない。

最後の坂間さんの「私はイチケイのカラスになります」でちょっと涙したのはきっと私だけじゃない