9都道府県の緊急事態宣言が、今月20日まで再延長された。

コロナ対策と東京オリパラへの対応が後手にまわり、菅首相の政権運営は火の車だ。そして頼みのワクチン接種も、出遅れたためか進捗の遅れや不手際が目立つ。

その菅首相をNHKニュースは、やたらと露出させている。

首相官邸HPによれば、菅首相の会見は政権発足当時こそ少なかったが、昨年末から増え、今年になってからは「記者会見」「ぶら下がり会見」は、2日に1回弱の頻度となっている。

それらをせっせと放送するのがNHKニュースで、中でも頻発される「ぶら下がり会見」を必要以上に露出しているのが『ニュース7』だ。

その報道姿勢に問題はないだろうか。

ニュース価値がないのに特別扱い

「ぶら下がり会見」の模様は、映像と音声をそのまま使ってたっぷり放送されることが多い。

例えば5月27日(木)。

9都道府県の緊急事態宣言の延長について、この日は午後6時過ぎから菅首相が関係閣僚と協議した。延長幅や必要な対策がどうなるかが注目されていた。協議は7時前に終わり、菅首相は7時12分から15分まで「ぶら下がり会見」をおこなった。

その1分半後、NHKは急遽その模様を伝えた。

キャスターが突然、「ここで菅総理大臣の発言が入ってきました」とアナウンス。「速報 緊急事態宣言延長は」のタイトルで、菅首相の映像と音声をそのまま1分15秒伝えた。

首相のはじめの発言の後、「延長について、どの地域をいつからいつまでの方針でしょうか?」と記者の質問があった。

これに対して「各都道府県の取り扱いについては、明日専門家に諮ったうえで決定をいたします。当然、期間とかそうしたものも一緒であります」と首相は答えるだけで、延長期間は明示されなかった。

そしてキャスターが「菅総理大臣の発言でした」とコメントするだけで終わる不思議な放送だった。

これは通常のテレビニュースと伝え方が大きく異なる。

ふつうは視聴者にわかりやすく伝えるため、ニュースのポイントを前文(リード)で伝えた後に本文に入る。まず不思議なのは、ニュースに新味がないためリードがないことだ。

「何はともあれ“菅首相の発言”が大事だからお聞きください」と言っているのかと嫌みの一つも言いたくなる。

次に不思議なのは、「速報 緊急事態宣言延長は」との赤字のおどろおどろしいタイトルまでつけて視聴者の目を引こうとしていること。リードも立たず中身のない会見とわかっていて見てもらおうというのでは、首相の露出を増やそうと忖度していると思えてしまう。

3つ目の不思議は、「ぶら下がり会見」を最後まで見せないこと。

菅首相の「ぶら下がり会見」は放送以外の部分もある。首相官邸のHPには会見の全体が掲載されているが、記者が次々に質問をぶつけても、首相は「明日、専門家にお諮りしたうえで決定します」と繰り返すだけだった。

特に「再延長の責任」を問われても、「いずれにしろ明日、専門家の、委員会の皆さんにお諮りするわけでありますから、お諮りした上で、意見を伺って、判断するということです」とした。

これでは禅問答を超え、落語の世界だ。最後に解除の可能性を聞かれると、菅首相自身が笑いを吹き出す様子まで映っている。

首相の表情を伝えるなかなかのシーンだったが、『ニュース7』はカットしていた。

ちなみにSNSのつぶやきは、この放送に対して厳しい。

「“国民への説明を尽くす”姿勢が全く感じられない」

「今のスガの速報いる?」

首相の発言への違和感と同時に、放送の仕方にも疑義が投げかけられていたのである。

民放ニュースの扱い

同じ会見も、民放のニュースは扱いが大きく異なる。

夜10時からのテレビ朝日『報道ステーション』は、メインとなる菅首相の発言を短めにした。

そしてポイントとしては、記者がどんな角度から質問しようと「専門家に諮ったうえで」を繰り返すのみだったことを強調した。

同じ時間帯のテレビ東京『WBS』は、菅首相発言は10秒ほどしか聞かせなった。

後はコメントで、「あすの有識者を交えた分科会などを経て再延長を正式決定へ」と、簡潔に伝えた。

夜10時からの日本テレビ『news zero』も、同じ時間のTBS『NEWS23』も、菅首相のONは10秒ほど。

「正式決定は明日」以上の意味はない会見だったので、相応の扱いだったのである。

如何に『ニュース7』の扱い方に、違和感が際立っていたかがわかる。

繰り返されてきた「ぶら下がり会見」放送

実はこの「ぶら下がり会見」の不思議な放送は、この日だけではない。

緊急事態宣言の一回目の延長前の5月6日(木)も、「菅総理大臣の発言が入ってきました」というキャスターの言葉で番組は始まった。「速報 緊急事態宣言 延長は」のタイトルも今回と同じ。やはり見出し(リード)もなく、「菅首相発言」ありきの構成だった。

記者はこの日も、延長期間や対策を質問した。

ところが菅首相は「明日専門家に諮問して決めたい」を繰り返し、「菅総理大臣の発言をお聞きいただきました」のキャスターコメントで終わっていた。驚くほど酷似していたのである。

しかもしばらく後に、いかにも冒頭からリードがあったかのように「冒頭でお伝えしました様に、延長方針を明日分科会に諮ることを明らかにしました」と唐突にキャスターのコメントが入った。

視聴者にとっては、2度にわたる意味不明の放送となった。この日の「ぶら下がり会見」は6時59分から7時2分までだったが、無理に番組冒頭に入れたための混乱と言わざるを得ない。

5月12日(水)も同様だった。

「菅総理大臣の発言が入ってきました」の突然のキャスターアナウンスも同じ。菅首相の「ぶら下がり会見」の映像と音声は2分10秒。

緊急事態宣言延長追加で国民への協力のお願い、ワクチン接種の見通し、デジタル庁の意義についてが「発言」の中身だったが、やはり急いで報道するほどの「ぶら下がり会見」には見えなかった。

これら2回の放送でも、SNSには厳しい声があった。

「首相の発言が冒頭出てたけど、なんかすべて専門家に丸投げしてるような気がする」

「また首相記者会見の中継? いきなり? 気持ち悪い」

「日毎 ニュース7が気持ち悪くなって行く」

かくも意味なく杓子定規に繰り返されると、『ニュース7』は菅首相の「ぶら下がり会見」を露出させることを最重要課題にしているのかと邪推してしまう。

露出過多は首相にどんなメリット?

内閣総理大臣は日本の行政の長である。

多くのニュースの発信源になる以上、テレビ報道で数多く登場するのは不思議ではない。しかし首相が「発言」するだけで、いわゆるニュースバリューの判断も無く、不自然に登場するのは違和感が残る。

これでは「公平・公正」の原則を揺るがせかねない。

ともあれ、首相の露出が増えると政治的にどんなメリットがあるのかをメディア研究者に聞いてみた。

「一般論で言うと、スキャンダルでもない限り首相が政策マターで、テレビ、それもNHKのメインニュースに登場することは、“仕事をしている”“存在感がある”というプラスイメージにつながる可能性がある。その意味でNHKニュースへの頻繁な登場は、“プラス”と政権側はみているのではないでしょうか。ただし本当にイメージアップから支持率アップに繋がっているのかは怪しいです」

実際にNHK世論調査での内閣支持の理由に個人のイメージがかかわる「人柄が信頼できるから」を挙げた人の比率と、菅首相の露出ぶり指標となる「記者会見」「ぶら下がり会見」の回数を重ねてみよう。

内閣発足当初の会見数はさほど多くなかった。ところが年末頃から急増し、今年になってからは2日に1回弱の頻度となっている。

一方NHK世論調査の回答者の中で「人柄が信頼できるから」とした人の比率は、反比例するように減り、5月は当初のほぼ半減だ。

つまり『ニュース7』で徒に露出しても、イメージアップにつながるどころか、マイナスとなっている可能性すらある。

「テレビの映像と音声は、意外に正直だ。どんな質問にも同じ回答を繰り返すだけだと誠実に見えない。厳しい質問をはぐらかせば、痛いところを突かれたのだろうと思う人が多い。まして普通に聞いた質問に気色ばめば、よい印象を持たれないのは当たり前でしょう」(メディア研究者)

なるほど露出過多のニュース編集の結果、首相会見の空疎な部分が目立ってしまったようだ。

世論調査では明確なイメージアップ効果はみられず、ネットの反応からは逆効果すら出ていたことがうかがえる。

同様のことは正式の「記者会見」にも当てはまる。

5月28日(金)の緊急事態宣言再延長の記者会見では、「緊急事態宣言が出ていてもオリンピックを開催するのか」という質問に正面から答えず、オリンピック開催への不安を収める効果はなかった。

IOC国際オリンピック委員会の首脳陣が、緊急事態宣言下の開催に「もちろんイエス」と答えたり、たとえ「菅首相が開催中止を言っても開催される」と発言したという報道が伝えられたりしたことへの明確な反論の機会を失うことになった。

結果として国民のIOCへの反発を沈められず、無力な日本政府というイメージを助長してしまったようだ。

これまた露出しても“内容が伴わなければメリットなし”あるいは“逆効果”すらあり得る例と言えよう。

NHKのメリットは? 

では露出過多させるNHKのメリットは何か。

「会長以下上層部には地位保全というメリットがあるかもしれないが、組織にも現場にもメリットがあるとは思えない。一方ニュースを出す現場の記者やディレクターは、視聴者に異様と映る内容を強いられているわけで、どのような気持ちで仕事をしているのか同情を禁じえません」(NHKのOB)

筆者はNHKの『ニュース7』について、これまで数回疑問を呈してきた。

「やはり変だぞNHKニュース~オリパラ・森発言・内閣支持率・・・世論調査の扱い恣意的過ぎ!?~」2月11日

「疑問残る菅政権とNHK報道の関係~組織的忖度で世論調査の客観性は風前の灯!?~」3月9日

「理由なき内閣支持率上昇の意味~政治もメディアも劣化の一途!?~」4月15日

「世論調査が浮き彫りにした菅内閣・オリパラ・NHKの“崖っぷち”」5月12日

問うたのは、以下のような問題だった。

ニュースの編集に「公平・公正」が維持されているのか。

世論調査の聞き方が恣意的に変えられていないか。

菅首相の発言ミスを取り繕って放送していないか。

五輪の聖火リレー中継で、「開催反対」を叫ぶ市民の音声を中断させたのは妥当か。

これらに共通するのは、政権への忖度の疑いだ。

公共放送としての「自主自律」「公平・公正」はお題目だけではないのか。今やNHKは崩壊の危機に瀕していると言っても過言でないと考えるが、残念ながら『ニュース7』の報道姿勢を見る限り、その懸念は深まるばかりだ。