世論調査が浮き彫りにした菅内閣・オリパラ・NHKの“崖っぷち”

(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

NHKの世論調査が、菅内閣と東京五輪に引導を渡し始めた。

5月の世論調査で、内閣支持率は去年9月の発足以降“最低”となった。またオリパラについても、過去3回の結果を覆し“中止”が“開催”を上回った。

両項目について国民は極めて厳しい見方をしていることが判明したのである。

ただしNHKはこれまで、両項目の質問の仕方や報道のあり方で、公正・中立を疑われる場面が散見された。ところが両項目が崖っぷちに追い詰められた今、“世論調査ではなく世論操作”と疑いの目を向けられたNHK報道の立場も瀬戸際に立たされた感がある。

菅内閣の支持率

菅内閣の支持率は先月より9ポイント減の35%と最低になった。

いっぽう不支持は5ポイント増の43%、不支持が支持を8ポイント上回った。4月25日の菅政権初の国政選挙で、自民党が全敗したのもうなずける数字だ。

今回の調査では、支持する理由は「他の内閣より良さそうだから」44%、「支持する政党の内閣だから」23%といった消極的なものが相変わらず多い。いっぽう不支持の理由は、「政策に期待が持てないから」40%、「実行力がないから」39%がさらに増えた。

これらの支持/不支持の理由を、毎月の内閣支持率/不支持率と掛け合わせると、回答者の何割がその理由を挙げたかをトレースできる。

これによると政権発足当初から支持理由の項目は、割合が横ばいか減少の一途となっていた。ところが不支持理由の「政策に期待が持てないから」と「実行力がないから」は、年末年始と4~5月にかけて、5%前後から15%前後へと急伸している。

明らかに新型コロナウイルスの3波と4波が、菅内閣にダメージを与えたことが浮き上がる。

菅内閣を追い詰めるコロナ禍

そのコロナ禍は、菅政権をどの程度追い詰めているだろうか。

第2波が終息する頃に発足した菅政権。当初のコロナ対応は過半の国民に評価されていた。

ところが第3波と第4波で「評価する」は下がり、反比例するように「評価しない」が上昇する。5月は先月比で10ポイントの上昇で、“短期集中”の名のもとに、わずか3週間と設定した緊急事態宣言をやはり延長せざるを得なかった。

政権の手腕に国民は合格点をつけなかったのである。

元々「感染の不安を感ずる」は8割弱、「不安は感じない」が2割弱だった。

経済を優先するあまり民意を正しく認識しなかった菅内閣は、明らかに失政を犯したと言わざるを得ない。

しかも第4波では、変異ウイルスが加わった。

これへの不安は「大いに感じる」54%、「ある程度感じる」34%。合計88%は従来型への不安より大きい。

ここで変異ウイルスの蔓延を許すと、政権へのダメージは絶大になるだろう。

さらに今回の世論調査では、「ワクチン接種」進捗の評価も聞いている。

「順調」と答えた人は9%、82%が「遅い」としている。100人あたりのワクチン接種回数を世界各国と比べると、NHKの特設サイトによれば英国・米国・チリは既に80回前後、欧州では40回前後の国が少なくない。しかもインド・メキシコ・ブラジルでも10~20回となっているが、日本はいまだに4回未満だ。

“崖っぷち” 菅政権にとって、コロナ禍は焦眉の急と言わざるを得ない。

オリパラの開催問題

コロナ対応と並ぶ政権の「政策課題」として、オリパラ開催の是非がある。

NHKの5月調査では、「東京オリンピック・パラリンピックの観客の数について、IOC=国際オリンピック委員会などは来月判断することになりました。どのような形で開催すべきか」と聞いた。

結果は「これまでと同様に行う」が2%、「観客の数を制限して行う」19%、「無観客で行う」23%。つまり「開催」の合計は44%だったが、「中止する」が49%と上回った。

4月の調査では「東京オリンピック・パラリンピックについて、IOC=国際オリンピック委員会などは開催を前提に準備を進めています。どのような形で開催すべきだと思うか」と質問した。

この時は「開催」の合計が61%で、「中止する」32%の倍近くになっていた。

2月の拙稿『やはり変だぞNHKニュース~世論調査の扱いが恣意的!?~』で指摘したが、五輪についてのNHK世論調査は、2月の調査から質問を大幅に変更した。

1月までは「開催すべき」「中止すべき」「さらに延期すべき」の3択で質問していたが、2月からは観客数によって「開催」の選択肢を1つから3つに増やし、その一方で「さらに延期すべき」を選択肢からはずした。

この“世論調査のルール違反”とも言うべき変更の結果、それまで少数だった「開催」が「中止」を一挙に逆転した。

この不可解な変更はその後も改められなかったが、それでも5月の調査では「中止」が「開催合計」を再逆転した。

NHK報道が忖度や配慮を重ねようとも、民意は抑えきれなかったと言えよう。

ちなみに世論の動向は、他のマスメディアの調査でも確認できる。

5月8~9日のJNN調査では、「通常通り開催すべき」2%・「観客数を制限して開催すべき」13%・「無観客で開催すべき」20%・「延期すべき」28%・「中止すべき」37%と、「延期」「中止」が合計で65%となった。

読売新聞の5月7~9日調査では、「延期」の選択肢は無く、「中止」が59%と過半数を占め、「無観客開催」23%・「観客数を制限して開催」16%の合計39%を大きく上回った。

オリパラも“崖っぷち”と感ずる所以である。

NHK五輪報道への疑問

その五輪についてのNHK報道のスタンスを見てみよう。

聖火リレーの際、NHKのインターネット中継で、沿道から「オリンピック反対」の声が上がったあと、約30秒間音声だけが途絶えたと報道されている。これについて新聞報道によれば、NHKの放送総局長は4月21日の定例記者会見で、「ランナーの思いを伝えることにも配慮しながら対応している」と述べ、「公共メディアとして、意見が分かれている問題については、多角的に伝えていくということが原則。今後もきちんとやっていきたい」としたという。

では実際に、意見は多角的に放送されたのか。

例えばNHKのメインニュースと言われる『ニュース7』では、首相の会見、閣僚の国会答弁、組織委員会の動向など、「開催」への動きのニュースばかりが目立つ。

NHKスペシャルでも、当初の放送予定が延期された、いわくつきの「令和未来会議―あなたはどう考える?東京オリンピック・パラリンピック」が3月21日に放送されて以来、賛否両論の企画は見当たらない。

ニュースの一例をあげれば、「IOCのバッハ会長の来日、緊急事態宣言延長を受け見送り」が報じられた5月7日の『ニュース7』では、バッハ会長のニュースの直前に、長崎の聖火リレーで女優さんが笑顔で走る姿を50秒近く使って放送、開催に前向きな雰囲気を作り出していた。

いっぽう同じ5月7日、「東京五輪・パラ中止求めるオンライン署名開始3日で20万人超に」という中止要求についての原稿が、NHKサイトに夕刻アップされた。

ところがこのニュースは、『ニュース7』など主なニュース枠では扱われなかった。

4月28日には、政府の分科会の尾身会長が衆議院厚生労働委員会で「開催に関する議論をしっかりすべき時期に来ている」と述べた。

しかしこの発言も、東京オリパラ5者会談の観客数検討のニュースと、コロナ対策や医療体制の最後に20秒余りで、“付け足し”という印象だった。

「開催に関する議論」さえ、消極的にしか扱われていないと言わざるを得ない。

NHKも“崖っぷち”?

これではNHKの報道は、「開催実現」の社会意識の醸成に前のめりで、「反対」の声はパスする姿勢ととられても仕方あるまい。

東京オリパラに向けての選手の活躍や競技の模様は、人々の関心も高く、スポーツニュースで報道されるのは自然な流れだ。

しかし感染症の拡大で多くの国民が不安を抱き、経済的危機も心配される中での大会開催の是非は、社会全体の問題だ。水際対策・ワクチン・医療体制のひっ迫など具体的な課題を踏まえて、賛否の多角的な議論の材料が報道されるべきだろう。

放送法第4条の4は「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」とされている。公共放送NHKには、特に厳格に求められるルールだ。                        

7月23日のオリンピックの開会式まで70日余りに迫っている。

このまま「開催」の是非についての議論を避け続け、菅政権への忖度の姿勢を散見させるのであれば、世論調査で「中止」を選択した49%の人々、あるいは菅内閣「不支持」を表明した43%の国民は、受信料によって成り立つNHKの存在に疑問を持つことにならないか。

ゆえに国民を無視し政権の顔色をうかがうあまり、法律のルールを踏み外した疑いの濃いNHKも、菅内閣やオリパラ同様“崖っぷち”に立たされ始めていると考えるが如何だろうか。