半沢直樹は『ドラゴン桜』の敵か味方か~毀誉褒貶の先は新境地!?~

番組ホームページから

「バカとブスこそ東大へ行け!」

05年放送の第1シリーズで、主人公の桜木(阿部寛)はこう言い放った。

今期の第2シリーズでは、当時の教え子・水野(長澤まさみ)が同じセリフを口にした。

ところが今回、「東大なんか絶対に行くな!」「お前らには東大合格の価値はない!」という桜木の真逆の発言で初回が始まった。

熱い学園青春ドラマだった前作と異なり、今作はTBS日曜劇場の勧善懲悪の匂いが漂う。

しかも過剰な演技が随所に見られた『半沢直樹』の演出に近い部分が多い。それもそのはず、プロデューサーや監督などスタッフが同じだ。

こうした『ドラゴン桜』第1と第2シリーズの違いを否定する視聴者がいる。

「半沢テイストが見たかったのではない」「社会的なものは会社だけで充分」という。

それでも「面白かった」「見入ってしまった」という声も少なくない。

毀誉褒貶の激しい出だしだったが、この半沢テイストは吉と出るのか凶と出るだろうか。

賛否の声

ネット上では、半沢風に対して否定的な声が少なくない。

「前作踏み台に別のものやってるだけ(中略)続編と銘打ってやるならテイスト引き継いでよ」

「誰も傷つかないパート1の設定がよかった。恨みとか人を傷つける描写とかは避けてほしかった」

「学園ものにドロドロした学生は要らないよ(中略)真面目すぎて疲れる」

「ドラゴン桜今回つまらない、途中で他局の番組に切り替えた」

ちなみにYahoo!JAPANリアルタイム検索での放送中および直後のつぶやきでは、ネガティブな感情3割に対して、ポジティブは7割だった。

「初回から波乱万丈な展開で、予想より面白かった!」

「見て勇気湧いたわ、東大目指します」

「こんなにスカッとさせてくれるドラマ久しぶりだなって単純に楽しめました」

「このドラマ良さそうだから来週からも見よ!!」

原作もので前作の続編なら、読者や前の視聴者の見方はふつう気になるところ。

ところが「時代に負けるな 今こそ動け」をキャッチコピーにした第2シリーズ。制作陣は賛否7対3を覚悟の上で、敢えて従来のファンを裏切る道を選んだようだ。

世代による違い

では大多数の視聴者は実際にどう動いただろうか。

関東地区で約64万台のインターネット接続テレビの視聴状況を調べる東芝視聴データ TimeOn Analyticsによれば、番組冒頭の10分間、接触率は急増する。話題性や評判から大量の流入が起こった。

いっぽう流出は、さほど多くなかったようだ。

全体の接触率は、その後40分ほど横ばいが続く。

そして次の15分で、再び右肩上がりとなった。阿部寛演ずる主人公・桜木弁護士が生徒二人を追い詰め、謝罪させるシーンだ。冒頭もこの場面も、男女世代に関係なく、接触率は上がり続けた。

ところが50分までの40分間は、世代で明確に差が出た。

T層(男女13~19歳)は右肩上がりが続いた。F1(女性20~34歳)もわずかだが右肩上がり傾向。ところがF2(女性35~49歳)はほぼ横ばい。F3(女性50~64歳)は微減傾向。そしてF4(女性65歳以上)は明確な右肩下がりとなった。

男性の世代間格差も全く同じだった。

どうやら前シリーズを視聴していた世代では、今回途中で見るのをやめた人が一定程度いたようだ。ところが前作を知らず、今回はじめて見た若年層の評価は上々だったと言えそうだ。

その意味で“半沢風”は、前を知る中高年にとって敵となった側面がある。

『半沢直樹』との関係

ところが多数派には、味方だった可能性が高い。

東芝の視聴データでは、TBS日曜劇場の各シリーズ最終回の視聴者が他のシリーズの初回を継続視聴したか否かを追跡できる。

これによれば竹内涼真主演『テセウスの船』を見て、次の堺雅人『半沢直樹』初回も見たのは、関東約64万台のテレビのうち1万7167台だった。

『半沢直樹』から次の妻夫木聡『危険なビーナス』は1万3744台。次の綾瀬はるか『天国と地獄~サイコな2人~』は9544台。そして『ドラゴン桜』は1万1522台だった。

前作最終回の視聴実績の大きさと次回作への期待度で、数字の大小が決まるのだろうが、その意味で『テセウスの船』と『半沢直樹』の偉大さが浮かび上がる。

では過去1年の4作最終回から『ドラゴン桜』初回への継続視聴はどうか。

『危険なビーナス』からは7803台、『天国と地獄』で1万1522台、『テセウスの船』が1万1593台だったが、『半沢直樹』からは1万4524台と断トツで多い。

同じ制作陣が撮る『ドラゴン桜』第2シリーズへの期待が如何に大きかったかがわかる。つまり半沢直樹は大きな援軍になっていたと言えよう。

評価は東高西低

『半沢直樹』ファンが注目した『ドラゴン桜』。

では初回を視聴した結果は、地域によってどんな評価となっていただろうか。全国約262万台のテレビ視聴状況を調べるインテージ「Media Gauge」によれば、東高西低の傾向が浮かび上がる。

各シリーズの接触率を、上位・中位・下位に3分割すると、チャンネル数の少ないエリアを除くと『ドラゴン桜』は首都圏でよく見られた。

これに『半沢直樹』最終回を接触率で3分割し、『ドラゴン桜』初回でのランクの上下を調べてみた。自治体名が黒字は同一ランク、赤字がダウン、青字がアップした地域だ。

これで見ると、関西が軒並みダウンしている。

『半沢直樹』の時は、大阪・京都・兵庫・奈良が上位。全国で一番見られていた。

しかも初回から後半への上昇率も極めて高い地域となっていた。初回では東京より低かったが、中盤で断トツ1位となっていたのである。

在阪民放の関係者は、人気の秘密をこう解説していた。

「吉本新喜劇に見られるように、関西では“ベタ”が好まれる。半沢直樹は非常にクオリティが高いですが、大筋は勧善懲悪の“ベタ”な物語です。そのような風土が関係しているでしょう」

またお笑いの世界に造詣の深い方の見方はこうだった。

「関西の人はコメディとして見ているでしょう。歌舞伎役者のオーバーな演技に、『おいおいそこまでやるんか?』『エライ顔しとんな』など、家族でツッコミを入れつつ爆笑しながら観ている。それでも毎回問題が起きつつスッキリさせてくれる。娯楽としてのテレビドラマで100点でしょう」

つまり『半沢直樹』は、関西人には突っ込みどころ満載が受けたのである。

ところが『ドラゴン桜』では、歌舞伎役者のオーバーな演技も、暑苦しい顔芸も出てこない。「真面目すぎて疲れる」という声がSNSにあったが、『半沢直樹』とは似ているようで微妙にテイストが違う。

これが西高東低の要因となったようだ。

あえて硬派路線!?

優れたドラマの3要件として、次の3つを挙げたドラマ関係者がいる。

「時代性」「普遍性」「娯楽性」だ。

「いいかお前ら、東大なんか絶対行くな」

こう言い放った桜木弁護士は、龍海学園の生徒をディスる。

「勉強も学校生活もみんな中途半端。一日中やれスマホだゲームだ。毎日なんとなく、ボケーッとした日々を送ってやがるバカばっかりだ」

さらに水野弁護士(長澤まさみ)を陥れた二人(西山潤・西垣匠)を追い詰める。

「お前らクソみていな人生だな。クソみていにブラブラしている奴の目は、大人になっても腐ったままだ。人を叩き、罵り、そのくせ自分の権利ばかり主張している。真面目に生きている人間の足を引っ張り、クズみたいな大人になり下がる。特にお前らみたいな人間はな。真っ当に生きている人間を殺しかねない。おっかない時代だよなあ。あばよ~」

鉄パイプで殴りかかった桜木。

寸止めするが、二人は小便を漏らしてしまう。

「どうだ。暴力でねじ伏せられ、笑いものにされ、嘲られる気分は?」

「力でねじ伏せるのも暴力。言葉でねじ伏せるのも暴力。人を騙してスマホやSNSを使って陥れるのも立派な暴力だ」

二人にハメられた水野弁護士に対しても、桜木はこう言い放つ。

「お前こいつらを変えてやりたいと言ってたなあ。だがそれは間違っている。クソみていな人生を変えられるのは自分しかいない。こいつらが自分自身で目を覚ますしかないんだ」

さらに学園改革に反対する理事長(江口のりこ)には、こう反撃する。

「子供の自由を尊重することと、甘やかすことは違う。間違いを犯して叱らず、目標すら与えず、そんなんだからこのガキどもは、濁ったどぶ川みたいな目をしているんだ。自由にかこつけて、守ってるのは生徒ではなく自分の立場だろう。責任と問題から目を背けているだけだろう」

この怒涛の終盤は、説教のオンパレードだ。

その意味で、「時代性」「普遍性」は十分感じる。ただし「娯楽性は?」と問われれば、確かに関西人が面白がった遊びは少ないかも知れない。

それでも迫真の場面は、息を飲むものが多かった。

水野弁護士を陥れた二人のやり口。その二人を追い詰める際の桜木弁護士のバイクのチェースシーン。鉄パイプで殴りかかる瞬間。

つまり今作の「娯楽性」は、アクションや「次がどうなるのか」など、ハラハラどきどき感だろう。これが合うか合わないか、個人差が生じ、東高西低の接触率につながったようだ。

「花は桜木 人は武士」という言葉がある。

現代のサムライ・桜木弁護士は、権力を持つ上層部の巨悪と闘った半沢直樹と異なり、落ちこぼれの劣等生や彼らを導かない大人たちを相手にしている。

普通の庶民の中にある、小さいが放置すると許しがたい問題となる悪だ。

その意味で、“半沢風”という否定論は当たっていない。

「娯楽性」は全く異なるし、主人公が向き合うベクトルも正反対だ。それが個人の好みに合う合わないは仕方のない問題だ。

ただしサムライが我々の心に巣食う邪悪をどう摘出してくれるのか。

個人的には“ドラマの新境地”を期待する初回となっていた。