理由なき内閣支持率上昇の意味~政治もメディアも劣化の一途!?~

(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

今月のNHK世論調査によれば、菅内閣の支持率が上昇した。

「支持する」は、3月より4ポイント上がって44%。「支持しない」も1ポイント上がって38%となった。

これで支持率は3~4月と2か月連続で改善した。

ところが支持率の上昇については、明確かつ説得力のある理由が見当たらない

これまで言われていた“新型コロナの新規感染者数と支持率の関係”も通用しない。

理由なき内閣支持率上昇の意味を考えてみた。

内閣支持率の動向

菅内閣の支持率上昇は、NHK以外のメディアが実施する世論調査でも同様の結果となっている。

朝日新聞は2月時点で、支持33%・不支持45%だった。

ところが2か月連続で改善し、4月は40%・39%と支持が不支持を逆転した。

読売新聞も2月は39%・44%と不支持が上だった。

ところが3月は支持48%・不支持42%と逆転、4月も47%・40%と差が広がった。

菅内閣の支持率(NHK世論調査)は、発足直後は支持62%・不支持13%と好調だった。

ところが3か月後には、支持20ポイント下落・不支持23ポイント上昇で、両者は肉薄した。実は菅内閣発足直後は、新型コロナの第二波が落ち着いた時期で、3か月後は第三波が始まった頃だった。

そして支持率が改善した3月は、その第三波による新規感染者数が下がった時期だ。

つまり、菅内閣支持率の上下動は、コロナ感染のコントロール具合と相関関係があったように見える。実際、世論調査関係者の間ではこんな定説がある。

新規感染者数の拡大 → 不安を感じる人の増加 → 政府のコロナ対策評価悪化

→ 内閣支持率の低下

ところが4月は変異株が拡大を始め、「第四波の襲来」と言われるほど新規感染者数が増え始めていた。

にもかかわらず、内閣支持率は上昇したのである。

「これまでの見方が当てはまらなくなった」と、首を傾げる人が少なくない。

コロナ対策の評価

実際に今回の世論調査では、コロナ関連の質問でネガティブな結果が圧倒的だ。

「感染の不安」については、「大いに感じる」と「ある程度感じる」で84%。「(全く)+(あまり)感じない」14%を大きく上回った。

新型コロナに対する政府の対応についても、「(全く)+(あまり)評価しない」が53%で、「評価」の44%を上回った。新たに発動されたまん延防止等重点措置についても、「(全く)+(あまり)効果なし」が58%で、「効果あり」の37%を大きく引き離した。

さらに今の対応では不十分とみる人が大半だ。

「緊急事態宣言を出すべき」が70%と、「出す必要なし」20%の3.5倍となった。

つまり今回の内閣支持率は、コロナの新規患者増加局面でも上昇した。

しかも、政府のコロナ対策への評価が散々で、人々がコロナ感染の不安を抱いている中でも支持率が改善していたのである。

菅内閣を支持する理由

毎月行うNHKの世論調査では、「支持の理由」も聞いている。

「政策に期待が持てるから」「支持する政党の内閣だから」「人柄が信頼できるから」「実行力があるから」「他の内閣より良さそうだから」などだ。

これらのうち「政策に期待が持てるから」と「実行力があるから」は、去年10月時点でともに18%だったが、今年に入ってからは10ポイント以上落ち、5~8%で低迷している。

実は不支持の理由でも、「実行力がないから」が当初8%から、今年に入ってからは30%台後半で推移している。

「国民のために働く内閣」という触れ込みだったが、国民は必ずしもそうは評価していない。

逆に政権発足後に、右肩上がりで上昇している項目がある。

「他の内閣より良さそうだから」だ。当初は26%で始まったが、年末に36%と10ポイント上がり、今年3~4月も上がり続けて43%となった。

もう一つが「支持する政党の内閣だから」。

10%台前半で始まり、ほぼ右肩上がりで10ポイントほど上げた。

ともに消極的あるいは間接的な支持の理由だ。

コロナ対策をはじめとする“政策への期待”や“実行力”など明確な理由が影を潜め、なんとなく漠然と支持される何とも不思議な政治状況となってしまっている。

見えない政策の論点

この背景に何があるのか?

内閣支持の理由としてウエイトが下がる一方の「政策への期待」。その「政策」の最大の課題は誰もが認める「コロナ対策」だ。

ところが現政権の「コロナ対策」への評価は低い。

そもそもコロナ禍に対しては、「政策」の議論はもっとあり得た。

変異種の問題もあり、感染防止を最優先に規制の強化を徹底すべきか。経済・社会活動を考慮して、規制の緩和路線をとるべきか。世界の中で遅れている日本のワクチン接種だが、もっと早める手立てはなかったのか。第四波が危惧される状況下で、オリンピックはこのまま実施すべきか否か。

ところが「政策」のこうした論点は、国民にわかりやすく示されて来ただろうか。

まず政治側の問題。

与野党の論戦、あるいは与党内の議論を、国民にアピールしてこれただろうか。コロナ禍の中で聖火リレーは行われているのに、街頭演説や集会などはほとんど見られない。

これでは内閣支持のトップ理由「他の内閣より良さそう」は疑わしい。

「選択肢がない中、国民は関心を無くしている」と解説する政治部記者OBがいたが、確かにそう思えてならない。

NHKの責任

そこで期待したいのが報道機関だ。

「政策」の争点になる事実を取材活動で掘り起し、わかりやすく提示するのが本来業務だからだ。

たとえばNHK。

経営計画で掲げる「5つの重点項目」のトップは「安全・安心を支える」とある。「さまざまな脅威から一人ひとりの“命と暮らしを守る”ため、専門知識を活かした取材に基づく信頼できるコンテンツを(中略)きめ細かくお届けします」と謳っている。

ところが現実は、政権への忖度が疑われるゴタゴタが続いている。

今回取り上げた世論調査の報道でも、支持率が高かった去年の政権発足当初は大きく取り上げておきながら、支持率が低下して以降は目立たない報道にかわっていた。

しかも五輪の調査では、2月調査から質問の仕方を変え、あたかも国民の過半が五輪開催を支持しているように見せている。政権への忖度のため、世論操作をしていると疑われても仕方ない

さらに五輪関連では、「開催反対」を叫ぶ市民の声が聞こえないよう、NHKは聖火リレー中継の音声を30秒中断し物議をかもした。

そもそも五輪開催を討論するNHKスペシャル「令和未来会議」が急遽差し替えられたこともあった。

他にも、政権に都合の悪いインタビューでキャスターを降板させたと疑われた問題、『クローズアップ現代+』の終了など、理不尽と感じさせる問題が続いている。

これで本当に視聴者ファーストの公共放送足りえるのだろうか。

コロナ禍に話を戻そう。

パンデミックが始まって既に1年が経過した。ところが、なぜ日本での感染率は桁違いに低いのか。緊急事態が予想されたのに、なぜ医療体制は十分整備されなかったのか。大きな決め手がワクチンであることが早くからわかっていたのに、なぜ日本の体制はこんなに遅れたのか。そんな中での五輪開催が、なぜ「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証」となるのか。

素朴な疑問が幾つも残るが、NHKはこうした問題に十分答えて来たのか。

これらに対する納得できる議論が前提なら、世論調査への回答も意味のある動向を示したのではないだろうか。

「論点・争点を視聴者に伝え、場合によっては政治に問題を投げかけ、知る権利に応えてほしい。公共放送の看板が泣かぬよう、“ごく当たり前の気概”を示してほしい」と嘆くNHK報道のOBが少なくない。

理由を説明できない世論調査の結果だけを伝えるニュースは、もう見たくない。