最大公約数から専門特化へ~『WBS』『報ステ』ガチ対決の意味~

番組ホームページから

23時台から22時台に移ったテレビ東京『ワールドビジネスサテライト(WBS)』

テレビ朝日『報道ステーション』とガチンコ勝負となって、第一週が終了した。

月~木の平均を前四週と比べると、残念ながら『WBS』の個人視聴率は横ばいのまま。ただし『報ステ』も微減となっていた。全体では明暗はまだはっきりしていない。

ただし特定層の視聴率でみると、『WBS』は経営層や部課長で健闘しており、特にビジネスに関心がある人々では肩を並べた

個人全体は『報ステ』が2.5倍と圧倒しているにもかかわらず、特定層で善戦したのである。

これまで地上波テレビは、最大公約数を狙うことで世帯視聴率の最大化に努めて来た。

ところが両ニュースの見られ方をみると、特定層に特化することでも活路が見出せる時代が来つつあるように見える。

直接対決第一週

テレ東この春の改編のキャッチフレーズは「思いっきり第一歩 新テレ東はじめます」だった。

最大の目玉は『WBS』が22時台への枠移動。

強力なテレ朝『報ステ』との全面対決を選んだのである。実は3年前から議論を重ねて来た上での枠移動だが、コロナ禍で人々の生活パターンが変わったことが大きかったようだ。

「23時台になると就寝してしまう方が約半数いらっしゃるということもあり、我々の元には『放送時間を早めて欲しい』という声も届いておりました」

「22時台にすることで、政治家や企業経営者など、いろんな方のご出演が可能になると思います」

「テレビ東京グループの報道番組をいかに強化するか・・(中略)・・コンテンツ強化に向け、『WBS』の改編を使いたいというのが、最大の主眼」

石川一郎社長が述べる通り、番組強化と視聴者のニーズに応えるための枠移動だったようだ。

しかし蓋を開けてみると、個人視聴率はほとんど動かなかった。

関東地区2236世帯5853人のテレビ視聴状況を調べるスイッチ・メディア・ラボによれば、23時台放送の『WBS』は過去3年微増傾向だった。ところが今春は少し数字を落としていた。

そして22時台に移っても、第一週を見る限り数字はほぼ横ばいのままに終わっていた。

一方ガチンコ対決となった『報ステ』は、2.5倍ほどの数字を持つ強敵だ。

過去3年を見ると、コロナ禍で緊急事態宣言直前の20年度第一週で3%以上数字を上げていた。『WBS』は0.25%しか上がらなかったのと比べると、一旦緩急があった場合に、如何に『報ステ』が多くの視聴者を集めるかがわかる。

ところがコロナ禍が常態化した今春は、一昨年の水準に戻していた。

そして『WBS』の挑戦を受けた第一週、0.18%とごくわずかだが、数字は微減していた。

個人視聴率から浮かび上がること

両ニュースを層別個人視聴率でみると、興味深い事実がみえる。

個人全体で2.5倍の『報ステ』は、F3-~F3+とM3-~M3+層で数字を荒稼ぎしていることがわかる。要は男女50歳以上で強く、特にF3+(女性65以上)ではトリプルスコアとなっている。

ただし特定層で比べると、『WBS』の持ち味が浮かび上がる。

役職に就いていない一般社員では、両者の差はやはり2.5倍ある。ところが500人以上の大企業のサラリーマンでは2倍強に縮まる。さらに部課長では1.8倍程度、経営者や自営業者では1.6倍と小さくなった。

さらにビジネスに関心のある人々では、両番組は完全に肩を並べてしまうのである。

テレ東石川社長は「日本経済新聞の協力を強め、番組の厚みを増やしたい」とも語っていた。

「経済が日本の国力の元、国民の皆さんの生活も経済がきちんとしていればこそ安定する」の考えのもと、経済に特化したニュースは、なるほど会社組織で地位の高い人々や、ビジネスに関心の高い視聴者によく見られていたのである。

枠移動前後の明暗

では『WBS』の枠移動で、両ニュースにどんな変化が起こったのか。

まず『報ステ』では、個人全体や男女年層の各層で顕著な差は今のところ見られない。ところが500人以上の大企業のサラリーマン、経営者や自営業者、そしてビジネスに関心のある視聴者で明らかに数字を落としていた

いずれの層も2割ほど数字を失っている。

一方『WBS』も、個人全体では顕著な差が生まれていない。

ところがM3-(男性50~64歳)は1.4倍に増えていた。役職に就いていない一般社員では上がっていないが、大企業のサラリーマン、部課長、経営者や自営業者、ビジネスに関心のある視聴者は、23時台から22時台に移ったことで増えていた

こうした視聴者の一部は、恐らく『報ステ』から『WBS』に鞍替えしたのだろう。

ただし人数自体は大きくないため、個人全体に影響を与えるほどのインパクトは持たなかった。それでも経済・ビジネスと専門特化した見られ方は、今後の広告営業では意味を持つ

実は地上波テレビは2020年、コロナ禍の影響で広告費を2000億円ほど失った

前年比マイナス11.3%、2009年のリーマンショックを超える大打撃だ。

広告収入の大幅減に対して、テレビ局は対応を求められている。

その一つが、スポンサーが求める視聴者に見てもらえる番組を作ることで広告収入を確保する道だ。

『WBS』の提供社には、VOLVO・オービック・三井不動産・DELL Technologies・NIKKEI・XIOXIA・シノケングループ・大和証券グループ・Money Forwardなどが名を連ねる。食品・日用品などのCMは少なく、比較的高価な耐久消費財のCMや、ビジネスマンの間での認知度アップを目指した宣伝が多い。

つまり『WBS』の枠移動は、当初の目的を果たしていたのである。

視聴率自体は今のところ上がっていないが、番組提供社が求める層を増やしていた。今後、こうした層を増やしていければ、広告収入の増加も果たせるかも知れない。

どうやら従来のような最大公約数狙いばかりが、今後のテレビ局の道ではなさそうだ。

専門特化でも収入を確保し、増収を果たせそうだ。

地上波テレビの生き方は、いよいよ多様化の時代に入るかも知れない。