内閣広報官辞任~展開に追いつかないテレビ報道の奮起に期待~

(写真:Motoo Naka/アフロ)

『テレビはなぜ取材しないのか?~総務省接待ニュースへの違和感~』という原稿をアップしようとした直前、「山田内閣広報官辞職 総務省接待問題で」というニュースが飛び込んできた。

そこで急遽、一部を書き直して掲載することにした。

26日(金)夕方、菅首相の「ぶら下がり会見」の特設ニュースをきっかけに、総務省接待問題について、国会のやりとり・政治家の会見・総務省発表などで構成するだけのテレビ報道の在り方を考えたものである。

NHK特設ニュース

先週金曜の18時53分、『気象情報』が開始1分ほどで特設ニュースに切り替えられた。

緊急事態宣言の先行解除について、通常の首相会見が中止され「ぶらさがり」形式となったものが緊急中継された。

通常の記者会見では各社ベテランの記者が質問するが、ぶらさがりでは若手が対応する。NHKはいわば通常の取材を、「気象情報」を途中で切るという大地震、津波警報級の緊急特別編成として放送したのである。

ところが中継は、奇妙な放送となった。

緊急事態宣言の先行解除についてより、菅首相の長男らから7万円超の会食接待を受けた山田内閣報道官が司会進行を行う首相会見を開かなかったことへの質問が続き、菅首相の不機嫌な表情や苛立った口調が目立ってしまったのである。

この特設ニュースの評判は、芳しくなかった。

インターネット接続テレビでの視聴動向を追う東芝視聴データ「TimeOn Analytics」によれば、18時52分からの『気象情報』は、普段は19時にかけ接触率が急上昇する。ところがこの日は、上昇の度合いが明らかに少なかった。

この辺りの視聴者の気持ちは、同じ時間帯にアップされたツイートに表れている。

「どうせ菅の会見なんてニュース7でやるんだから天気予報を見せてくれよ」

「せっかく明日の天気予報を見てたのに、興醒めしたからテレビ消したわ」

中断された『気象情報』

後半のローカル天気もなくなり、直後の『ニュース7』でもフォローされなかったので、全国の視聴者は地元の天気予報を見そびれてしまった格好だ。

また通常なら、19時ちょうどで『ニュース7』の接触率は1%ほど跳ね上がる。

同番組を見ようという視聴者がかなり多いからだ。ところがこの日は、2%弱といつもより倍近く跳ねた。18時台にニュースを放送していた民放3局が、同様に会見の模様を中継していたが、いずれも19時でバラエティ番組に切り替わったために、会見の続きを見たいという視聴者がNHKに流入したようだ。

ところがその後がいけない。

いつもなら5分ほど接触率は上昇し、その後しばらく横ばいとなる。ところがこの日は、19時2分頃から落ち始め、その後の中継はずっと右肩下がりになった。18分続いた中継が視聴者には不評だった証拠だ。

想定外が重なった!?

直後にデイリースポーツが『NHK「ニュース7」冒頭突然…不機嫌な菅首相が映り、キレる、開き直る中継続く』の記事をアップすると、SNS上では首相への厳しいツイートが続いた。

「キレる相手が違うだろう、接待関係を続けた身内に怒るべき事で」

「お子様すぎる。知能のカケラのなさは前任といい勝負」

「国民に真摯に向き合う気はあるのか?」

「生放送されるのは想定外だったでしょうね」

確かに会見は、想定外が重なったように見える。

「どうせ菅の会見なんてニュース7でやるんだから天気予報を見せてくれよ」という声があったように、“通常の取材”なのでNHKは『気象情報』を潰して特設ニュースにする必要があったのか疑わしい。会見を収録し『ニュース7』で概要をまとめた方が、はるかに分かりやすかったはずだ。

そもそも各マスコミ記者の質問の声が聞き取れない。技術的なミスだ。

その間に菅首相の“不機嫌”な顔がボーっと映り続けたが、これで“キレる”“開き直る”様子が強調されてしまった。

NHKが“通常の取材”をなぜ特設ニュースにしたのかは分からない。

NHK報道OBの中には、「菅首相へのNHKの忖度で、発言を手厚く放送しようとした」と批判する人もいる。ところが“ぶらさがり取材”は、“忖度”しない若手記者が決定的な発言を引き出そうと頑張る。結果として「先ほどから、同じような質問ばっかりじゃないでしょうか」と首相がキレたように、首相にとっても想定外となり、記者につっかかる・気色ばむ・苛立つなど人間性が露呈してしまった。

「NHK、菅にいい様にやられっぱなしだったから、久々のグッジョブだな」

こんなツイートがアップされたように、首相にとって会見はプラスよりマイナスが大きくなった可能性がある。NHK報道OBが言うように「菅首相へのNHKの忖度」だったとしたら、その思惑は逆の結果を生んだことになる。

テレビ報道の現実

首相会見18分間で視聴者が逃げていく最大の原因は、知りたいことにいつまでも届かない点にある。

インタビューだけでは難しいとしても、問題はテレビ報道が独自取材で真相に迫っていない点だ。

首相会見の直後の27~28日の週末、各局は一週間を振り返る報道番組を放送した。

27日(土)はNHK『週刊まるわかりニュース』、日テレ『ウェークアップ!ぷらす』など7番組。28日(日)も日テレ『シューイチ』、TBS『サンデーモーニング』など6番組が同問題に時間を費やしていた。

ところがどの番組も、公表された事実の紹介と有識者やゲストの解説に終始した。

例えばテレ朝『週刊ニュースリーダー』に至っては、「今週のニュース!気になる人物 第1位」で山田真貴子内閣広報官を採り上げ12分以上を費やしながら、問題の核心に触れる情報はなかった。いつからテレビ報道は、公開情報の整理に堕してしまったのだろうか。

中ではTBS『報道特集』が、17分以上の特集で他番組との違いを見せた。

接待を受けた広報官と、接待をした東北新社と菅親子の関係を掘り起こした上で、衛星放送についての同社の認可が例外的だったことに焦点を当てた。その上で今回処分された総務省幹部の元部下だった国会議員や総務大臣経験者へのインタビューで、国会では事実が明らかになっていないことを浮き彫りにした。

ただし現状では、テレビニュースがつかんだ事実はここまで。

週刊文春は「菅首相長男 高級官僚を違法接待」と現場の写真付きで、スクープをものにした。さらに国会での官僚の発言を「ウソ答弁」として、オンラインで証拠音声を公開した。テレビなどマスコミは、これを受けて報道を厚くしたが、文春のような独自取材による事実の掘り起しは出来ていない。

次回の世論調査に注目

多くのテレビのニュース番組のキャスターやコメンテイター、それに新聞の社説は「総務省の調査結果だけでは、真実の解明が不十分」と主張している。

ならば検証委員会や第三者委員会の解明を待つだけではなく、自らも独自取材を期待したい。

一方、少なくとも今回の問題を「国民がどう受け止めるか?」を明らかにすることは可能だ。

「国民の意思」は最終的には選挙によって示されるが、現実は「包括的」なものになりがちで、今回については次の選挙では時間が空きすぎる。ここは3月実施の世論調査に「総務省接待問題」の調査項目をしっかり入れ、「政府の調査・説明に納得できるか」「関係者の処分・人事で再発防止につながるか」といった民意を聞く必要があろう。

例えば、従来のNHKの世論調査でも、コロナ関係の質問や、オリンピック・パラリンピックの質問と並んで、「桜を見る会」や「学術会議問題」をたずねている。3月に行われるNHKの世論調査では「総務省接待問題」がしっかり調査項目に入るか注目される。

拙稿『やはり変だぞNHKニュース~オリパラ・森発言・内閣支持率・・・世論調査の扱い恣意的過ぎ!?~』で指摘したが、2月の世論調査には疑問点が多々あった。今度こそ、本来のジャーナリズム精神を発揮してもらいたい。

ジャーナリズムへの期待

繰り返しになるが、今のところテレビ報道では「独自ネタ」「特ダネ」が見られない。

「文春砲」以外では、総務省の調査しか新しいファクトはない。

新聞も同様だ。

「森友」や「加計」ではテレビも新聞に伍して、取材競争に参戦し、「独自ネタ」「特ダネ」もあった。では取材はなぜなくなったのか。「働き方改革による足腰の弱体化」や「コロナ禍というハードル」を指摘する声も聞こえるが、それは送り手の論理だ。

「文春砲」のメンバーは同じ「記者」。

それらを乗り越えて、決定的な証拠を入手して「とくダネ」をものにしている。より規模の大きいメディアにいながら、手も足も出ないとしたら報道機関として如何なものか。

「テレビ局は東北新社と同じ放送事業者」という事情も聞こえてくる。

しかも「接待の対象になった総務省・情報流通行政局はテレビ局の監督部署であり、今回処分された官僚はテレビ局経営幹部のカウンターパート」という声も聞く。しかし「こうした関係性ゆえに取材の足が止まっている」なら、ジャーナリズムの看板は下ろさなければならない。

「他者を報道する時は容赦ないが、自分たちのこととなると別」

これもマスコミについて時々耳にする言葉だ。確かに職員の自殺問題や不可解な番組の放送中止問題などでは、「組織ジャーナリズム」のダブルスタンダードを感じることもある。

そんな疑念を晴らすべく、テレビ報道が奮起して事件の核心に迫って欲しい。

内閣広報官の辞職は、接待した側・された側・接待の目的について、真相究明を避けて幕引きを急ぐ政府の意図を感じないでもない。それを許しては、ウオッチドッグの存在意義がない。

次々に展開する事件の展開に後れを取ることなく、「文春砲」に負けないように、テレビ報道の存在感をしっかり示してもらいたい。