少し変だぞNHKローカル~福島県沖地震にみる“安全・安心放送”の幻想~

(写真:ロイター/アフロ)

2021年2月13日23時7分頃、福島県沖を震源とする地震が発生した。

マグニチュード7.3、最大震度6強、負傷者185人、被害総額154億円以上という大災害だった。

NHKは視聴者に対し、「命と暮らしを守る」報道を約束している。

ところがこの地震直後の放送は、民放と比べ十全だったと言えない内容だった。実はこの時以外にも、NHKのローカル放送は、必ずしも地域の人々に支持されているとは言えないデータがある。

大前提として、NHK地方局の弱体化が進んでいるからだ。

何が問題なのか、明らかにしたい。

その時、視聴率は急伸したが・・・

緊急地震速報が出た直後、NHKにチャンネルを合わせる人が急増した。

インターネット接続テレビの視聴動向を調べるインテージ「Media Gaouge」によれば、関東で測定する約87.4万台のテレビの中で、NHK『SONGS』をつけていた約8100台が、緊急報道が始まり4分で約24.1万台にまで増えた。

接触率にして、0.9%ほどから27.6%と26%以上急伸した格好だ。

さすがに大事件・大災害が起こった時のNHKの存在感は絶大だ。東京のスタジオから緊急報道体制に入ったのも一番早い。瞬間最大の接触率は2位TBSの2.5倍以上。上昇率では10倍以上の差をつけた。

ところがその後の見られ方が変だ。

ピークから10分で10万台ほどのテレビがNHKから去った。次の10分でさらに4万台、30分後だと合計で15万台以上がやめている。接触率で示すと、10分で約10%を失い、次の10分で4.3%、30分後には合計で16%が消えた。6割減だ。

いっぽう民放で地震直後に最も見られたTBSは、ピークが10.7%、その10分後が8.8%、次の10分後でも7.1%。30分後は少し盛り返して8.5%。この間に失ったのは2割程度だった。

また日本テレビに至っては、緊急報道を始めて8分間、接触率を上げ続けた。

ピークが地震発生から12分後で7.4%、緊急報道が始まって20分後が6.9%、30分後で6.2%。やはり減少率はピークから2割未満で続いていた。

明暗の背景

NHKと民放で、接触率ピークから後の減少率に明暗が生ずるのは何故か。

一つには、発生直後に「まずはNHKで確認」という人が圧倒的に多いせいだろう。しばらく見た後に、被害がさほど大きくないことに安心してテレビを消した人が一定程度いたと思われる。

しかし今回は、その後の報道内容に明確な差が生じていた点が問題だったと言わざるを得ない。

被災地の福島県や宮城県からの情報量に差があったからだ。例えばTBSは、地震から13分後には東北放送のスタジオから、生々しい映像で局舎内の揺れの激しさと地域の状況を伝えていた。

フジも地震から17分後には仙台放送から、26分後には福島テレビがつながった。

テレビ朝日も23分後に福島放送、27分後に東日本放送が出ている。

日本テレビは21分後に福島中央テレビ、31分後に宮城テレビが登場した。

ところがNHKは、15分後にたまたま妻の実家に行っていた職員が電話で様子を伝えたのが最初。

続いて18分後にNHK福島局が出たものの、NHK仙台局は46分後まで登場しなかった。

被害の状況を伝える現場中継でも大差が生じた。

フジテレビは福島テレビが気を吐き、34分後には福島の街の様子を現場から伝え、42分後には看板と思われる大きな落下物を映し出した。福島駅構内の激しい水漏れを伝えたのも、同局が一番早い。

テレ朝も福島放送が郡山の様子を37分後には伝えていた。

ところがNHKは、電話で被災地にいる職員、自治体の防災担当者、大学の先生とつなぐばかりで、現場の映像が出るまでには43分かかっていた。

土曜深夜の緊急報道体制として、NHKが最も手薄だったのではと感じる放送内容だった。

平時の地域放送

地域放送の弱体化は、地震のような緊急報道以外でも散見される。

ビデオリサーチの全日(6~24時)世帯視聴率(2020年)を見ると、NHKがあまり見られていない地域が目立つ。同社のサンプル調査では、50歳以上の比率がネット接続テレビでの調査より多くなるため、中高年に強いNHKの実績は有利に出やすい。

ところが民放首位局を1として、NHKを指数化して表現すると、NHKの苦戦ぶりが浮き彫りになる。

長野こそ、NHKが民放を凌駕しているが、47都道府県の中で唯一の例外だ。関東・関西・名古屋では民放1位の7割台、広島や北部九州で6割台。そして今回の仙台では6割しかない。

しかも18時台のローカルニュース枠に限定すると、NHKは壊滅的だ。

コロナ禍で最初の緊急事態宣言が出た頃の去年4月1日から5月10日の平均を、インテージ「Media Gauge」のデータでみると、全日世帯視聴率で1位だった長野でも民放1位の7割しかない。

これが札幌・仙台・広島だと4割程度。

関東・関西・名古屋に至ってはさらに少ない。NHKの放送は、全国放送と比べ明らかに地域放送が見られていないことが露呈する。

ローカル軽視の放送体制になっていると疑われても仕方がない。

地方局弱体化の背景

長年NHKの経営計画には、「安全・安心を支える」「あまねく伝える」などの文言が重点方針として謳われてきた。

NHKk英英計画(2021ー2023年度)案から
NHKk英英計画(2021ー2023年度)案から

このため各県にある地域放送局は、ローカル放送を担当するとともに、地震津波や台風などの緊急報道の際、重要な役割を果たしてきた。要員としても、ディレクター・記者・カメラマン・アナウンサー・技術要員などが配置されている。

地震津波や大きな事件事故はいつ起きるかわからない。

このため、休日ばかりでなく、夜間も緊急対応可能な宿泊勤務体制がとられてきた。警察・消防などに「異常はないか」電話取材をして、事件事故をニュースにするとともに、地震や津波に備えていた。

ところが数年前から「働き方改革」もあり、ディレクターを各地方の中心となる拠点放送局に集約し、徐々に県域局の宿泊体制を間引くようになった。

例えばABC3県の地方で、A県に拠点局があると想定しよう。

従来はABC各県すべてで宿泊勤務体制をとっていた。ところが最近はB局とC局が交代で宿泊勤務を止め、互いに泊りのいない県の事件事故を電話取材でカバーするようになった。

さらにBC局いずれも宿泊勤務を止め、拠点のA局が地方全体をカバーする場合もあるという。こうして宿泊体制の間引きが進むと共に、土地勘なしの取材が日常化してきた。

この体制の変更は、NHK内でも不安視する声もあった。

2018年の西日本広域豪雨災害の後、NHKの経営委員会では、「今回、拠点局に人を集めて体制を変えたので、例えば高知などでは取材にかなり支障をきたしたのではないか。道路が寸断され心配していた」という意見が出たほどだ。

それでも豪雨や台風は、事前に予測されるので応援体制がとれる。

ところが地震や津波は突然起きるので待ったなしだ。各地域局が自前で取材し放送するしかない。そこで宿泊体制のない放送局は、アナウンサーや記者などを放送局の近くに住まわせ、いざというとき駆けつけるという「個人依存」で対処しようとしてきた。

しかし勤務時間外も「常在戦場の精神」が求められる仕事の仕方は、本当に正しい選択だろうか。

今回の地震で、NHK仙台の放送や災害現場からの中継が大幅に遅れた原因は、外からでは正確な理由はわからない。

それでもNHKのある報道関係者は「近年NHKは、地方局を中心に効率化を進めてきた。加えて経営トップが政権に忖度して、放送内容やキャスター人事をゆがめていると報じられていることで、現場の士気と使命感が落ち、放送に影響が出ているのではないか。NHKは東京を中心とした報道の劣化と共に、地方からも公共放送の要の緊急報道の弱体化が進んでいる」と危惧している。

「災害は忘れた頃にやって来る」と言われたのは過去のこと。

近年は毎年のように“何十年に一度”の災害が起こっている。「安全・安心を支える」と本気で思っているのなら、民放に劣後するような地域局の災害報道は、直ぐにでも改めなければならない。

あるべき公共放送として、信頼される放送を続けることを望む。