世帯視聴率37.3%で“史上最低”と酷評された前回と比べ、40%台に戻し内容も好評だった今回の『第71回NHK紅白歌合戦』。

コロナ禍の中で無観客とするなど、難しい運営を強いられた。

それでも日テレ『笑ってはいけない』が中盤に数字を落としたのと比べ、『紅白』は随所で大健闘した。

世帯視聴率40.3%は見事な復活と言えそうだ。

実はその前提に、要因が7つあったと筆者はみる。

完成度の高いMCや、歌手および歌の力、そして巧妙な構成および演出だ。明暗を分けたポイントを具体的に検証したい。

ステイホームが前提

一昨年の大晦日では、8時台のHUT(総世帯視聴率)は70%に届かなかった。ところが今回は、1割以上高くなっている。コロナ禍でステイホームがかなり徹底したようだ。

実際に『紅白』の放送直前には、これまでで最多となるコロナ感染者数が発表された。

感染状況の悪化で、終夜運転を取りやめる鉄道会社も多かった。明治神宮など、大晦日から元旦の参拝を自粛したところもあった。

外出を控えた若年層や家族連れが自宅にとどまったお陰で、多くの番組は例年より高い視聴率でスタートした。

『紅白』も直前の『ニュース7』が前年より高い数字だった。そして東芝視聴データ「TimeOn Analytics」によれば、『紅白』スタート前後で1.8倍ほど接触率を急伸させた。

70年ほどの歴史を持つ同番組として、前提条件に大きく恵まれた点は見逃せない(詳細は拙稿「ステイホームが追い風!?~『第71回紅白歌合戦』世帯視聴率40%超えの背景~」を参照されたい)。

進化したMC

今回の『紅白』全体を通して、まず注目すべきはMCの力だろう。

総合司会の内村光良・白組の大泉洋・紅組の二階堂ふみのそれぞれの力と、3人のバランスの良さが光った。

個々の力量は他の論評などで既に多く語られている。

ここでは三密回避のため、多くのスタジオを使いわけたことの効果に触れたい。前回までは舞台装置の入れ替えなどで時間を要し、時間つなぎのMCトークが“ぐだぐだ”“噛み噛み”となり、視聴者が白けてしまう瞬間が散見された(詳細は「データでみる“最低紅白”の真相~ワースト断定は早計だが改善の道は見えた!~」を参照されたい)。

ところが今回は、次の曲が別スタジオで早々にスタンバイしていたため、歌手や曲の紹介がコンパクトとなり、テンポが快適だった。加えて3人の “落ち着き”“淀みないトーク”“自然なふるまい”により、実に聞きやすいMCとなっていた。

MCは全番組の中で40回以上ある。

「塵も積もれば山となる」ではないが、ここで視聴者の流出率を0.1%ずつ防げば、全体としては莫大な数字の底上げにつながるのである。

スタートダッシュ

次が番組のスタートダッシュ。

先に触れた通り、東芝のデータでは番組開始直前の接触率13%が、開始5分で23%まで上昇した。「無観客紅白がどうなるのか」など、視聴者の関心の高さも追い風だったのだろう。

加えてオープニングのテンポの良さも大きく作用した。

筆者が特に注目したいのは、最初の3曲。

従来は1曲ずつ紹介して歌い出すパターンが多かった。ところが今回は、従来とは全く異なる構成・演出だった。

実はこれまでは、この曲紹介で視聴者が逃げることが多かった。

特に演歌の場合は、歌唱中に逃げるだけでなく、MCで演歌と分かった瞬間にチャンネルを替える人が少なくなかった(詳細は「データでみる“最低紅白”の真相」を参照されたい)。

3曲目となった演歌の山内惠介も、前回は歌唱中の高流出率で3位だった。

ところが今回は、「いきなり3曲連続でまいります」という大泉の言葉で始まり、「King & Prince」「Foorin」「山内惠介」がまとめて紹介された。結果として山内パートは、曲紹介でも歌唱中でも、前回ほど流出しなかった。

前半の山場

ディズニーメドレーを前半の山場にしたのも巧妙だった。

ライブが前提の番組だったが、ディズニーランドでの収録は、変化が生じて視聴者に新鮮に映った。特にキンプリと乃木坂46の「星に願いを」の後の、二階堂ふみと氷川きよしの聞きごたえのある「ホール・ニュー・ワールド」で数字は急上昇した。

さらに追い風を受けた渡辺直美・キンプリ・乃木坂46の「小さな世界」で、接触率は前半の最高値となったのである。

しかも、この直後の構成も巧みだ。

20時55分から5分間、ニュースが入る決まりだが、例年ここで数字は急落する。“ニュースの谷”と呼ぶべき現象だが、制作陣はこれを逆手にとって、この直前に北島三郎のトークと五木ひろしの歌を置き、接触率下落が長く尾を引かないよう、ニュースで一旦切っている。

平均視聴率最大化のための知恵と言えよう。

“ニュースの谷”からの回復

その“ニュースの谷”からの回復も強かだった。

2020年に最もブレークした、初出場NiziUの「Make you happy」を置いたのである。幅広い年齢層に注目されているが、特に若年層に人気で5分ニュースの終盤から接触率の急上昇が始まっていた。

さらに、やはり初出場の瑛人「香水」が続いた。

サビ部分に登場するブランド名『ドルチェ&ガッバーナ』がNHKで歌えるかが取り沙汰されるなど、何かと話題の出場者ゆえ、数字押し上げに持ってこいと位置付けられたのだろう。

実際にNiziUが3%押し上げた接触率は、瑛人でさらに1%ほど上昇した。狙い通りと言えよう。

ただし惜しむらくは、この直後の演出。

短くではあったものの、北島三郎のトークが入ったために数字は急落し、次のPerfumeが歌い出すまでに2%ほどを失ってしまった。

前半の最初3曲と同じように、NiziU・瑛人・Perfumeそして4番目のBABYMETALまでを、余計な夾雑物を入れずにテンポよくつなげていたら、この時点で接触率は2%以上高く推移していただろう。

早い仕掛け

今回が例年と違うのは、仕掛けが早い点だ。

既に紹介した前半・後半のオープニングもそうだが、それら以上に際立ったのは21時30分台以降の構成だ。GReeeeN・嵐・LiSAという今年大きく注目された3大出演者を早々に並べ、一挙に4%以上接触率を上げた作戦は見事としか言いようがない。

GReeeeNは朝ドラ『エール』の主題歌「星影のエール」を歌ったボーカルグループだ。

その朝ドラはコロナ禍で放送が変則的となり、急遽内容も変更され、コロナで亡くなった志村けんが出演するなど、何かと話題となった。そこに今まで姿を明かさずに来たグループが、仮想現実という演出で出演し、話題が話題を呼ぶ展開となった。

嵐はいうまでもなく、活動休止前の最後の出演。

歌の合間に5人それぞれの挨拶もあり、最後の曲「hapiness」で最高接触率32.86%を記録した。記憶にも残る紅白としたのである。

さらに興行収入が歴代1位となった映画『鬼滅の刃』の主題歌などを歌ったLiSAも大健闘した。

嵐のメドレー終了後に接触率は一旦2%近く下がる。明らかに嵐ファンの一部が離れて行っている。ところが映画やLiSAのファンも力強い。間髪を入れずに新たな視聴者を取り込み、接触率は32.80%と嵐に肉薄したのである。

これら3出場者の後は、上下動はあるものの、接触率を8%ほど失う。

ところが9時台という早い仕掛けが奏功し、10時台は数字は下がったものの、前回比で4~5%高く推移した。

やはり作戦は見事に当たったのである。

高い満足度

以上は視聴者を多く集める量の側面。

ところが今回の紅白は、満足度という質の側面でも健闘した。その原動力は、「今こそ歌おう みんなでエール」のテーマや、歌をじっくり聞かせることに徹した演出によるところが大きい。

例えば最後の3曲。

松任谷由美「守ってあげたい」、福山雅治「家族になろうよ」、MISIA「アイノカタチ」は、時代状況にマッチした聞かせる曲として、視聴者の心に響いたのではないだろうか。番組の最後を盛り上げる役割をしっかり果たしていた。

番組に対しては、「“しがらみ”から抜け出せない」「中途半端に終わった」など、業界の裏をしたり顔で批判する声も確かにあった。

それでも「それぞれの出演者が個性や才能を発揮できていた」「一体感があった」「音楽番組として楽しめた」と、例年以上に評価する声もかなりの数に上る。

普通の視聴者がどう受け止めたかは、正にインターネット接続テレビの接触率データが示す通り、ポジティブだったのではないだろうか。

いずれにしても7つの要因に支えられ、コロナ禍という稀有な1年を象徴する、大晦日ならではの番組になっていたと思う。

『紅白』復活を支えた出演者やスタッフの健闘を讃えたい。