第203回臨時国会が10月26日に始まった。

この前後から夜のTVニュースは、国会での議論はいうに及ばず、野党が論点の一つとする日本学術会議の問題も取り上げるようになっている。

ただしその分量や掘り下げ方を比べると、番組間の落差は途轍もなく大きい。

報道関係者の中には、その状況を見て“TVニュースの劣化”を嘆く人も少なくない。

学術会議関連のニュースは、番組によってどう異なる取り上げられ方をしたのか。その差は何を意味しているのか。TVニュースの状況を考えてみた。

大差のついた10.23

菅内閣は9月、高い内閣支持率でスタートした。

ところが10月に入ると、各社の世論調査で軒並み内閣支持率が低下した。発射台が高かったので、なお低くない数字だが、低下幅にフォーカスすると下落ぶりは決して小さくない。

その最大の原因とみられるのが、日本学術会議の候補者6人が政府から任命されなかった「学術会議任命拒否」問題だ。

NHKによる10月の調査では、「説明に納得」が38%、「納得できない」が47%だった。

この問題については、臨時国会が始まる直前の23日(金)に動きがあった。

日本学術会議の梶田会長と井上科学技術担当相との面談が行われ、さらに任命拒否された大学教授らが記者会見を行った。

一連の出来事を、テレビ朝日『報道ステーション』・TBS『NEWS23』・日本テレビ『news zero』は全く触れなかった。

NHK『ニュース7』は番組の終盤で1分ほど扱ったが、触れたのは学術会議のあり方の議論だけ。なぜか梶田会長が任命拒否問題の解決を求めたことは割愛されていたし、6人の記者会見は無視された。

ところが同じNHKでも、『ニュースウオッチ9』は、同ニュースを3番手ではあるものの、大きく扱った。

他で扱われなかった6人の記者会見は、本人たちの音声も使って伝えられた。菅首相や自民党が行革の観点から会議のあり方を見直す議論を進めていること、これを「論点のすり替え」とする野党内の指摘など、問題の経緯をまとめて放送していた。

さらに梶田会長と井上科学技術担当相の面談では、学術会議のあり方議論だけでなく、「この問題の解決が大変重要」という梶田会長の声を活かし、論点に任命拒否問題があることを明確に伝えた。

最後に有馬キャスターが、こんなコメントで結ぶ。

「梶田会長、今日は覚悟のようなものを感じました。学術会議のありかたの検討を厭わない代わりに、任命問題の解決を求める、その強さを感じました」

ここまで一連の項目は6分半以上。他の夜ニュース4本と比べ、分量も踏み込みも圧倒的だった。

「扱い量」比較

臨時国会が始まった10月26日の週の平日4日間を含めても、扱い量には大差があった。

『ウオッチ9』は毎日触れ、総合計では27分近く。全放送時間の9%強を費やしていた。

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続くのは『報ステ』で、28日(水)に衆議院の代表質問の開始を受け、7分18秒を使って詳しく扱った。5日間では13分弱。全体の3.5%を占めた。

『NEWS23』も5日間の扱い量は3.5%あった。

ただし丁寧に報じたのは、代表質問2日目の29日(木)と3番目。放送時間は5分40秒あったが、同じ日の21時に『ウオッチ9』が9分35秒、22時の『報ステ』が4分半近く報じている。やや出し遅れ感が否めない。

いっぽう同じNHKでも、『ニュース7』は『ウオッチ9』と対照的だ。

毎日触れてはいるものの、長くても1分ほど。事実を淡々と紹介するだけで、問題がどこにあるのか解説はない。総合計でも5日間で4分ほど、放送比率2.6%は『報ステ』『NEWS23』にも届かない。

徹底していたのは『news zero』。

5日間で触れたのは2日のみ。26日(月)はコメントで12秒のみ。28日(水)は国会でのやりとりを1分強に編集して紹介しただけだ。1%に満たない放送比率にとどまり、限りなく“ニュースゼロ”だった。

踏み込みの差

量だけでなく、質でもニュース間で大差があった。

圧倒的なのは、やはり『ウオッチ9』。

26日(月)は、臨時国会で所信表明演説を行った菅首相をスタジオに招いて番組は進行した。そこで有馬キャスターは、「今後国民にどう理解を得ていくのか」と問うた。

これに対して「政府の機関」「多様性」「一部の大学に偏る」という何時もの見解を述べる菅首相に、「国民にわかりやすい言葉で説明する必要があるのでは」と重ねて質問。

菅首相は「政府として関与して、責任を取る必要がある。民間の人、若い人が極端に少ない」と答えたが、キャスターは「大きく改革するときにはギャップもあるわけで、説明が欲しいという国民の声もある」とさらに質問した。

二の矢三の矢を放たれた菅首相は、「説明できることとできないことってあるんじゃないでしょうか。民間の人、若い人、地方の大学とかを万遍に選んでほしいと私は思っているわけですから。そうしたことを改革する必要があると思います」と、最後は語気を強めて答えた。

ここで時間切れとなったが、視聴者のテレビの見方はいつもと違っていた。

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インタネット接続テレビでの個人視聴率を測定する東芝視聴データ「TimeOn Analytics」によれば、菅首相が登場した番組の冒頭から、TV全体も各視聴者層も接触率は横ばいあるいは下落傾向にあった。ところがキャスターとのやりとりが始まると、それまでと異なり、TV全体は横ばいに転じた。65歳以上の男女とT層(男女13~19歳)に至っては、個人視聴率が上昇し始めたのである。

「予定調和ではない、久しぶりに熱の入った首相へのインタビュー」と受け止めたテレビ局関係者もいた。たとえ硬い話だろうと、踏み込んだ本物を映し出せば、若年層も画面に見入ることを証明したシーンだった。

この後も『ウオッチ9』は、28日(水)には代表質問に立った立憲民主党の枝野代表を中継で結び、菅首相の答弁の受け止めを聞いた。

また29日(木)には、複数の関係者の声を紹介した。

学術会議を訪問した井上大臣、2年前にも同様の問題に直面した山極前会長、機械的な答弁に徹する坂井官房副長官、菅首相の対応を支持する百地国士舘大学特任教授などだ。

人選への批判もあるようだが、「ニュースは運動論でやっているわけではない。多様な見方を提示することで、最後は視聴者に判断してもらうという意味では、バランスのとれた放送」と評価する有識者もいる。

なぜ『ウオッチ9』だけなのか?

「政府が右ということを左というわけにはいかない」と発言した籾井NHK元会長時代、『ニュース7』や『ウオッチ9』が割愛したテーマを、『報ステ』や『NEWS23』が詳細に扱うことは多々あった。

ところが今回、NHKと民放の状況が逆転したように見える。

民放ニュースは臨時国会を取り上げても、学術会議問題には消極的に見える。扱うことがあっても分量は少ないし、後出し気味だ。しかもスタジオのコメンテイターが意見を述べるだけで、多様な視点を提供するような手間暇かけた作りに欠ける。

「筑紫哲也がキャスターを担うなど、取材経験豊富な記者がしきった時代と違い、今は局アナや取材経験に乏しいフリーアナがメインに座る。これでは勝負しにくくなっている」と語るのはTV報道の関係者。

「有馬キャスターは『ウオッチ9』4年目。実質的にニュースの編集責任を担っているでしょう。年齢的にも、政治部など各部の部長とは同期あるいは先輩にあたり、組織内で発言しやすくなっているはず。今や唯一のキャスターニュースの匂いを感じますが、だから首相に対しても、踏み込んだ質問が出来ていると思います」

確かに民放の3ニュースは、映画『鬼滅の刃』・コロナ禍・プロ野球ドラフト会議・携帯料金値下げ・伊藤健太郎容疑者の保釈などが優先されがち。「国民の関心に応える」という言い訳のもと、ウオッチドッグの機能が低下しているように感じる。

ただしNHKも有馬キャスターの後継者はと問われれば、はなはだ心もとない。

視聴者の中で『ニュース7』も『ウオッチ9』も両方見る人は少数派で、『ニュース7』しか見ていないと学術会議問題はほとんど認識できない。

新聞は各紙とも学術会議問題をきちんと取り上げているが、現実は部数激減に苦しんでいる。

民放ニュースは、広告収入減少に苦しむ中、ニュース選択が変わり始めているようだ。そしてNHKも、どのニュースを見るかで提示される内容が大きく違うとなると、最低限の重要なニュースが国民にあまねく伝わっているかと問われると首を傾げざるを得ない。

学術会議問題は官僚から学者へ菅マネージメントが広がり始めていることを意味するだけではなく、TVニュースの抱える課題も明らかにしたようだ。