『相棒』好調はテレ朝の致命傷!?~withコロナ時代に向けた修正が課題~

番組ホームページから

水谷豊主演『相棒』のseason19が、好調なスタートを切った。

初回の世帯視聴率17.9%は、秋クールのトップ。同シリーズの過去5年でも最高だ。

ところが同ドラマの根強い人気は、皮肉なことにテレビ朝日の経営にプラスに働いていない。

番組が好評ゆえに抱える同局のジレンマに迫る

『相棒』の存在感

02年のseason1以来、毎年秋クールに放送され、今回で19回目となる『相棒』。

かつて視聴率競争で民放キー5局の中で万年4位、「振り向けばテレ東」と揶揄されたテレ朝の今世紀の躍進を象徴する番組の1つだ。

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当初は右肩上がり基調でクール平均の世帯視聴率を上げ続けた。

そして2010年から11年に放送されたseason9は、2クール平均が20%を上回った。これと歩調を合わせるように、テレ朝のGP帯(夜7~11時)の視聴率は5局の中で順位を上げ、12年に開局以来初の1位となった。

その後同ドラマは、2クール平均で17%前後が4年続き、season14以降は5年連続で15%前後となっている。同局がずっと首位争いに絡む原動力となり続けたのである。

しかも主演の水谷豊は既に68歳だ。

season11以来8年連続で、60代の主役ドラマが15%前後以上の記録をとり続けている。過去に例のない快挙と言えよう。

世帯視聴率の不思議

ただし近年、ビデオリサーチ(VR)の世帯視聴率に対して懐疑的な見方が高まっていた。

少子高齢化で日本の人口構成に占める50歳以上の比率が半分を超え、世帯視聴率は中高年の視聴に左右されるようになっていた。ところがCMを出稿する広告主は、商品を購入してもらいたい働き盛り以下の層にCMを露出したい。結果として世帯視聴率は、指標としての意味を弱め、業界では個人視聴率を基準にするようになったのである。

それでもVRの視聴率測定は、人口構成に近いサンプル構成のため、相変わらず中高年の影響が大きい。

例えば、『半沢直樹』『相棒』『危険なビーナス』の各初回を比べてみよう。VRの世帯視聴率では、22.0%・17.9・14.1%とほぼ4ポイント差が出来ている。個人視聴率でも、13.4%・9.8%・8.0%と同じ並びだ。

ところが全国約220万台のインターネット接続テレビで、視聴状況を調べるインテージ「Media Gauge」では、3ドラマの平均接触率は16%前後・7%前後・9%前後となる。

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『半沢直樹』と『危険なビーナス』の比率はVRとあまり変わらないが、『相棒』は大きく下げ、順位も3位に後退する。

実はネット接続テレビで測定する東芝視聴データ「TimeOn Analytics」でも、インテージと同じような結果になる。高齢者の影響が小さくなると、どうやらドラマの順位は入れ替わるようだ。

ただし『相棒』は、『半沢直樹』同様に番組内で徐々に接触率が高まっている。総数は少し減るが、面白いと高く評価する人は少なくない。

個人視聴率で比べると

では男女年層別や個人の様々な特性別に個人視聴率を出すスイッチメディアラボ(SML)のデータで、秋クール4ドラマの初回を比較してみよう。

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VRの世帯視聴率では、『相棒』『危険なビーナス』『極主夫道』『ルパンの娘』の順になるが、同社のデータでは『相棒』がトップから3位に後退する。

「映画ドラマ好き」な人々の間では、『相棒』『危険なビーナス』『極主夫道』が拮抗している。

ドラマとしての出来は、やはり好評なようだ。

3+層(男女65歳以上)ではVRで『相棒』が首位となるが、SMLのデータでは『危険なビーナス』と互角だ。そして3-層(男女50~64歳)では、『相棒』は『危険なビーナス』から大きく遅れる。

SMLもインターネット利用を前提にしているため、やはり高齢者の比率が下がる。すると『相棒』の分が悪くなっている。

さらに2層(男女35~49歳)で『相棒』は3位争いとなってしまう。

そして1層(男女20~34歳)やT層(13~19歳)では、残念ながら最下位に沈んでしまうのである。

この若年層や働き盛りで数字がとれないことが大きな問題だ。

新型コロナウイルスの感染拡大で、今テレビ広告費は大きく落ち込んでいる。スポンサー各社が、不況から広告費を大幅に絞り込んでいるからだ。

キー5局合計で見ると、第一四半期にスポットは前年比34.6%減・タイム8.1%減・広告全体22.3%減と、09年のリーマンショック以上の痛手となった。

タイムは減少幅が小さく見えるが、取引が長期で行われるためだ。

ところが見直しが行われる10月の秋改編で、営業に苦しんだ局が少なくなかったが、テレ朝も例外ではなかった。世帯視聴率では秋クールで圧倒的な『相棒』も、初回放送を見る限り2社が降りたようだ。

TBS日曜劇場は90秒ずつ出稿する4社で構成されるが、変更はなかった。日テレ土曜ドラマも、春に名を連ねた7社が、秋改編でも契約を続けていた。

世帯視聴率ではなく視聴者の年齢層で、明暗が分かれたようだ。

ドラマ制作の各局差

実は各局のドラマ制作姿勢には大きな差がある。

世帯視聴率を重視するテレ朝はドラマをシリーズ化させ、固定客を囲い込む作戦を進めてきた。1999年にスタートした『科捜研の女』をはじめ、Season19に入った『相棒』や『ドクターX』など、週3枠あるGP帯ドラマの大半はシリーズドラマだ。

シリーズものは、人々の視聴習慣を定着させやすい。

制作する側も企画の目的が明確で、テーマの絞り込みや番組構成の取捨選択がしやすい。結果として番組の水準を保ちやすく、スタッフや役者の教育にも活用できる。

さらに既に認知度が高いので、立ち上げ時の宣伝が楽というメリットもある。結果としてここ何年も、GP帯ドラマの局別平均視聴率では、テレ朝がずっとトップを走ってきた。

ところが日テレは逆の戦略をとってきた。

例えば18年秋の『今日から俺は!!』以降、『3年A組』『俺のスカート、どこ行った?』と、3クール連続で世帯視聴率をとりにくい学園ドラマを敢えて編成してきた。後半での盛り上がりに特化した『あなたの番です』は、2クールで様々な手法を繰り出した。『俺の話は長い』では、1話30分を2つ並べる作戦を試した。

今期『極主夫道』が、世帯より若年層の個人視聴率が良いのも、こうしたトライアルの結果と言えよう。

テレ朝が打破すべき壁

その日テレは、6月に発表した決算報告で、こんなデータを出した。

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各局のP帯視聴率を、世帯・個人・コアターゲット(13~49歳)で比較したのである。これで見ると、世帯や個人でテレ朝が日テレに肉薄しているが、コアでは6.6%対3.3%とダブルスコアだ。

またテレ朝は、世帯と個人で2位だが、コアではTBSにもフジにも抜かれ4位に後退する。

実はテレ朝は、2010年代前半に好調な世帯視聴率を追い風に、広告収入を大きく伸ばしてきた。ところが18~19年度は変調をきたし、4局中マイナス幅が最も大きくなっている。また直近2年で失った広告収入も日テレの1.5倍に達するし、今年度第一四半期の減少率も日テレより大きい。

やはり広告主から、選ばれにくくなっていると考えられる。

実は同局の世帯視聴率重視の姿勢は、経営トップの意向であり、現場の声が反映されていない結果だという。

テレビでは視聴者の多い中高年をとり、若年層は同局がサイバーエージェントと一緒に設立したAbemaTVで獲得すれば良いのだという。

ところがテレ朝の広告収入は1800億円ほどで、19年度は110億円以上を失った。

一方AbemaTVは売上が500億円に届かず、営業損益は150億円を超えている。黒字化の目途も見えない。

つまりテレビとAbemaTVで分業と言っている間に、より大きな市場のテレビでどんどんビジネス機会を失っている。

テレ朝単体の売上は総額で2200億円を超える。

この大きなビジネスで、コンテンツを中心として価値最大化を図るのが常道だろう。他局はすべて若年層の開拓に走っているが、そこを禁じ手にして地盤沈下していくのは如何なものだろうか。

系列局からも、営業につながり難い番組の多さを危惧する声が上がっている。やはりここは、『相棒』に象徴される中高年狙いの番組を少し減らし、新たな挑戦をすべきだろう。

過去の成功体験に拘泥するのは危険だ。

2012~13年に向けて上昇を続けた同局のチャレンジ精神を、今一度見せてもらいたいものである。