TBS火曜ドラマ 成否の分かれ目~『わたナギ』『逃げ恥』vs『きみすみ』『中学聖日記』~

各ドラマのホームページから

最終回の世帯視聴率が19.6%と大好評だった多部未華子主演『私の家政夫ナギサさん』。

クール平均15.1%は、2014年4月に始まったTBS火曜ドラマの中で歴代最高だ。

2位は14.6%の『逃げるは恥だが役に立つ』、3位は14.2%の『義母と娘のブルース』が続く。

今や女性主役のラブストーリー枠として定着した感があるが、過去5年をみても視聴率が低い作品も少なくない。『きみが心に棲みついた』は7.7%、『中学聖日記』6.9%、『G線上のあなたと私』7.7%と低迷している。

似たような設定でも視聴率が倍近くの差となっているが、その明暗を分けているのは何だろうか。

20~40代の女性ターゲット

TBS火曜ドラマは、女優が主演をずっと務めてきた。

20~40代の女性層をターゲットとした恋愛ドラマが大半を占める。ところが似たような設定のラブストーリーでも、世帯視聴率の高い作品と低いものでは、個人視聴率で明確な差が生じている。

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新垣結衣主演『逃げ恥』は、ビデオリサーチの世帯視聴率で歴代2位だったが、スイッチメディアラボの個人視聴率ではF1(女性20~34歳)とF2(女性35~49歳)で歴代1位。しかも初回から最終回まで、一度も数字を落とさずに最終回は20%の大台に乗せた。

若い女性を狙う同枠としては、理想的な展開のドラマだった。

綾瀬はるか『ぎぼむす』も多部未華子『わたナギ』も、『逃げ恥』ほどではないものの、F1~2が世帯視聴率をけん引し、狙い通りの作品となっていた。

ところが吉岡里帆『きみすみ』、有村架純『中学聖日記』、波留『G線上のあなたと私』の3作は、F1かF2のどちらか、あるいは両方が低くなったのが敗因だった。

他にも武井咲『せいせいするほど、愛してる』、杉咲花『花のち晴れ~花男Next Season~』など、明らかに若年女性を狙ったラブストーリーでも、不発に終わった例が少なくない。

成否には、恋愛ドラマ以外の要素がかかわっていそうだ。

接触率の波形

インテージ「Media Gauge」の視聴データをみると、成否の差は一目瞭然となる。

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ドラマの序盤から中盤に、大きな違いがある。

接触率の波形が最も美しいのは『逃げ恥』。各話内で横ばいか右肩上がりを描いている。加えて回が進むごとに数字が上がっている。それぞれの回が面白く、「次も見たい」と思わせる出来になっていたことがわかる。

『ぎもむす』も基本的に同じような波形を描いたが、『逃げ恥』ほどの傾斜はなかった。

『わたナギ』に至っては、4話まで横ばいか右肩下がり気味だったが、5話あたりから理想的な軌跡を描き、『ぎもむす』も抜いていく。

ところが低迷したドラマには共通の欠点がある。

序盤の各話が、ことごとく右肩下がりなのである。物語の設定および展開が、今一つ魅力的でなかった証拠だ。序盤で空振りしたため、口コミで評判が広がっていない。

以上はライブの視聴状況を示すデータだが、録画再生を含めた総合接触率でも状況は似ている。

東芝「TimeOn Analytics」の視聴データでは、総合接触率や全話を見続ける人がどれ位いたのかを見られる。

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それによると成功作は録画再生がライブを支えていることがわかる。

用事などで放送に合わせて番組を見られなくとも、録画再生で補うことで全話を見続ける人が多く、そうした人からの口コミで新規の視聴者も増えている。結果としてライブの視聴率も回を追うごとに上昇し、3作とも最終回の世帯視聴率は20%前後まで上がっていた。

成否の分かれ目

では、こうしたデータの違いはどこから来るのか。

民放のドラマプロデューサーは、「ホームドラマをベースにしたコメディタッチのドラマか、禁断モノなどシリアスな恋愛ドラマかの違いがある」と指摘する。

「笑って泣けるのは上質なドラマです。『半沢直樹』がコメディとなっているのが典型でしょう」

TBS火曜ドラマを、クールによって見たり見なかったりする知人(F2)は、「ドラマは理屈でなく、感覚で見るもの」という。

「多くの人にとっては娯楽なので、仕事で疲れた一日、解放されたい、そんな瞬間、人が心理的に心地よいと思えるのは、現実からあまりにもかけ離れていてもNG。そっか、これもあり思えると感情移入しやすい」

「例えば『東京ラブストーリー』は、90年代ならキラキラしていたかも知れないが、今はこれないでしょうって思えてしまう。ところが『わたナギ』は、今の世の中で女性が窮屈だなって思う問題をさりげなく解放してくれる心地よさを感じる。ジェンダー的に尖ってないし、押し付けがましくないのも良い。主役の女優さん、これまではあまり好きでなかったが、今回で好きになった。いろんな意味で、こういうのもありだよねって思わせてくれたドラマ」

確かに『逃げ恥』も、高学歴女子と自尊感情の低い「プロの独身」という二人の契約結婚という生き方を提示していた。『ぎぼむす』もこれまでにない家族のあり方が新鮮だった。

単なる恋愛物語でなく、こうした付加価値が加わることで、いろんな立場の視聴者の共感につながっているのかも知れない。

スイッチメディアラボの個人視聴率からは、ドラマ視聴層の幅広さをみることが出来る。

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低迷したドラマと比べると、例えば『逃げ恥』は、FT(女性13~19歳)からF3-(女性50~64歳)までを魅了したことがわかる。ターゲットだった20~40歳前後もとらえている。

しかもM1からM3-と、男性も巻き込んでいたのが勝因だった。

若年層では『逃げ恥』に少し及ばないまでも、『わたナギ』や『ぎぼむす』は50歳以上にもよく見られた。新しい生き方が、中高年の心も揺さぶった証拠だろう。

テレビドラマは娯楽である。

と同時に物語である以上、人は感動も求める。それまでに作り上げた心の座標軸を揺さぶってくれる新しい価値観を提示してくれるか否か。

その辺りもTBS火曜ドラマの成否を分けているようだ。

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