『エール』ブレークの原点~『サラリーマンNEO』が朝ドラを進化させる!?~

緊急事態宣言の延期で、放送の継続が危ぶまれる朝ドラ『エール』。

皮肉なことに、このタイミングで放送はブレークし、視聴者の支持が高まっている。

初回のユニークなプロローグで一旦視聴者が離れたが、ユーモアあふれる演出で支持を取り戻し、第5週では多くの視聴者をテレビ画面にくぎ付けにした。

こうした成功には、脚本と演出を担当する吉田照幸プロデューサーの、『サラリーマンNEO』時代に培った諧謔の精神が生きているように見える。

『エール』ブレークの要因を分析してみた。

快進撃の第5週

朝ドラ『エール』は、第1週の不調を、2~3週で徐々に挽回し、4週でテイクオフ、そして5週でブレークした。

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全国173万台のインターネット接続テレビの視聴状況を調べるインテージ「Media Gauge」のデータによれば、新しい朝ドラに期待し集まってきた多くの視聴者を、第1回の放送は番組途中で脱落させてしまった。

筆者は初回放送後に「朝ドラ『エール』に3つの不安~歴代初回との比較から見えること~」を認め、ユニーク過ぎるプロローグの問題点を指摘した。

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初回は実際にプロローグ終了時に視聴者がどっと流出し、その後の接触率を下げてしまった。

しかも2~5話といずれも、初回で失望したのか、視聴者が集まらなくなっていた。原始時代・西部劇・テニスの試合・フォーク・フラッシュモブが続いた「人生と音楽」を謳い上げる新手の演出の後遺症は、決して小さくなかったのである。

ところが『エール』は、粘り腰で徐々に視聴者の支持を得ていく。

主人公・裕一(窪田正孝)と音(二階堂ふみ)の幼少期を描いた第2週。裕一が音楽に目覚め、諦めた第3週。いずれも接触率は十分挽回できなかった。

「Media Gauge」のデータで見ると、番組スタート1分ほどで見るのをやめる人が続出している。初回での期待からの失望は、第3週まで尾を引いていた。見ないと決めてしまった人が一定程度いたのが痛い。

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ところが裕一が『国際作曲コンクール』で入賞し、音との文通が始まった第4週あたりから、状況は好転する。番組冒頭も途中も、脱落する人がぐっと減り、番組中の接触率は右肩上がりに転じたのである。

さらに裕一が音の家に押しかけ、結婚を反対した父・三郎(唐沢寿明)と音の母・光子(薬師丸ひろ子)に認めさせた第5週は、流入者も増え、接触率の軌跡は力強い右肩上りを描くようになった。

途中脱落者を減らし、完全にブレークしたといえよう。

圧巻の23~25話

流出率を追うと、『エール』初回~2話と、第5週の山場となった23~25話との差がくっきり浮かび上がる。

プロローグの違和感から、初回~2話では大量の流出が発生している。期待を裏切られたと感じた人々の反応は厳しいと言わざるを得ない。

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ところが23~25話では、流出者は半減している。

しかも流入者が増えており、結果として25話の終盤は最高の数値を記録した。視聴者が如何に魅せられていたかがわかる。

圧巻は23話。

若い二人を諦めさせるはずだった裕一の父・三郎と音の母・光子は、裕一がいきなり「音さんをお嫁にください」と来たものだから、滑稽な言い争いを始める。

さらに音と三郎のバトルも展開される。

そして三郎と光子が席を外すと、裕一と音は互いの気持ちを確かめ合い、口づけをしてしまう。

それを目撃した光子は、当初は反対していたのに「汽車は走り出した」と2人を応援する側に回る。結局三郎も、「俺に任せておけ」と前途多難を棚に上げて安請け合いしてしまう。

4人だけのほぼ15分は、『サラリーマンNEO』を見ているような、テンポの良いコント・ドラマだった。第5週では、他にもコント風の肩透かしや落ちが散見されたが、接触率右肩上りの原動力となっていた。

『サラリーマンNEO』の香り

実は『エール』の脚本と演出を担当している吉田照幸プロデューサーは、04年から11年まで断続的に放送された『サラリーマンNEO』の監督を務めていた。

沢村一樹が演じる「セクスィー部長」や「テレビサラリーマン体操」などが有名となった、コントやショートドラマ中心のバラエティ番組だ。

筆者はこの『サラリーマンNEO』やその女性版ともいうべき『祝女』から、ミニ動画をインターネットで配信していたことがある。

NHKの多くの番組のダイジェストやミニコーナーを切り出していたのだが、視聴率では決して高いとは言えなかった両バラエティ番組のミニ動画は、短期間に100~200万回ほど視聴数をとっていた。

エッジの効いた諧謔が、ネット動画として受けた。

変なお茶出しシーンから会社の理不尽を抉り出したり、部下にお世辞を強要する上司を笑うなど、シャープな笑いの中のペーソスや批判精神が秀逸なバラエティ番組だった。

吉田氏はNHKの広報番組でも、その才能を発揮していた。

04年の不祥事からNHKの受信料不払いが増え、史上初めて技術出身の会長が誕生した。そのクリーンなイメージを強調すべく、会長が怪獣のような大きさになって、放送センターを洗うミニ番組を制作した。

公共放送キャンペーン『今日も、どこかでNHK』の1本だった。

奇抜な演出で笑いを誘う中、NHKの出直しをアピールしていた。

ところが時の政権に近すぎる報道が目立つなど、魑魅魍魎が跳梁跋扈する公共放送は、完全にクリーンにはならない。氏はそれも予見していたかのような演出だった。

新しい朝ドラマへ

NHKの朝ドラといえば、エネルギッシュな女性が志を貫き、成功していく物語が多い。

結果として中高年の女性の支持が高い。もちろん朝8時台という放送時間の関係もある。

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ところが『エール』は、これまでとは異なる層の個人視聴率が高まっている。

第1週の各層個人視聴率を1とすると、2~5週で高くなっているのは、女性ではなく男性だ。

音楽を題材にしたドラマゆえ、音楽ファンは増えているが、それほど劇的ではない。ドラマやバラエティ好きに至っては、はっきり言って伸び悩んでいる。

代わりに目立つのは、「社会・政治」「経済・ビジネス」「国際」などのニュースに関心を持つ層が伸びている。

まだ5週と序盤ゆえに、明確な理由はわからない。

それでもコロナ禍で沈みがちな社会状況にあり、暗い時代に向かう中での主人公の前向きな生き方と諧謔精神に富んだ描き方が、ある種の男性に刺さっているのかも知れない。

『エール』快進撃は、ステイホームが続く間だけに留まるかも知れない。

それでも新たな層を振り向かせた今回の朝ドラは、時代にジャストミートした良作だと思う。

今週からは苦難が次々と裕一を襲うようだが、それに負けず前向きに生きる姿が我々を勇気づけてくれるだろう。

ユーモアと諧謔を忘れない新しいドラマに期待したい。