「緊急事態宣言」特番の明暗~“素材のNHK”と“料理の民放”が意味するもの~

7日7時の『NHKニュース7』を映し出す街頭スクリーン(写真:アフロ)

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、安倍首相が7日に「緊急事態宣言」を出した。

宣言の効力は来月6日まで。対象は東京・神奈川・埼玉・千葉・大阪・兵庫・福岡の7都府県となった。

NHKと民放各局は、その記者会見を生中継で伝えた。

さらに会見が終わっても特番を続け、中には合計5時間ほど報道番組を続けた局もあった。ところが視聴者のテレビの見方は、同じような報道に対しても、細かく選択しつつ視聴仕分けをしていた。

人々の視聴行動を分析すると、“素材のNHK”と“料理の民放”という差が明確に浮かび上がる。

番組平均と15秒毎接触率の違い

スポーツ紙が記事にしたビデオリサーチ関東地区2700世帯の世帯視聴率は、以下の通りとなった。

NHK『ニュース7』(7時~7時30分)26.3%

日テレ『news every.特別版』(7時~8時54分)12.6%

テレ朝『生中継緊急事態宣言で総理会見』(7時~8時54分)8.0%

TBS『Nスタスペシャル』(7時~8時57分)7.6%

テレ東『ありえへん∞世界スペシャル(一部特番を含む)』(7時~8時54分)7.7%

フジ『FNN特報』(7時~8時)7.0%

上記の数字だけをみると、NHKの独走ぶりが際立つ。

ところが関東地区で、約63万台のインターネット接続テレビの視聴動向を調べるインテージ「Media Gauge」の15秒毎の接触率推移をみると、番組平均ではわからないコーナー毎や番組毎の詳細な見られ方が見えてくる。

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まず注目したいのは、25分ほど続いた安倍首相発言と、40分ほどの各社記者とのQ&Aの時間帯。

ビデオリサーチの世帯視聴率では、NHKが日テレをダブルスコアで引き離した。ところがインテージのデータでは、NHKが上を行くものの、日テレとの差はそれほど大きくない。

これはインターネット接続テレビを持つ世帯では高齢者の比率が低いのに対し、ビデオリサーチは実際の人口構成に近く、結果として高齢者比率が高いために起こる違いだ。

つまり高齢者ほどNHKをよく見ていることがわかる。

よってここでは、関東地区の約63万台というサンプルで、時々刻々ザッピングするなどして、視聴者が各局のニュースをどう見分けていたのかに注目したい。

6局の5時間

会見中の生中継でトップだったのはNHK。

ところがスタジオベースで、いろいろな切り口でニュースを伝え始めると、NHKの接触率は急落していく。7時50分頃のピーク17.3%と比べると、『ニュースウオッチ9』が終了する10時半頃には4.2%と4分の1まで下落した。

明らかに素材をそのまま中継する際には強いが、ニュース素材を料理して提示し始めると、視聴者が逃げていく様子がみえる。

7時台の生中継で2位だったのは日テレ。

8時台でNHKに並び、10時台ではNHKに大きく差をつけた。しかも『news zero』の通常放送となった11時台に、3%強も接触率を押し上げ、横並びでトップに立った。

料理の腕でNHKや他局に勝ると言えそうだ。

7時から11時10分まで報道を続けたのはテレ朝。

7~8時台は5%前後とパッとしなかったが、9時台でジワジワ数字を上げ、『報道ステーション』通常放送の時間帯の10時台で10%台まで上げて首位となった。

『報ステ』には固定ファンがついていることがわかる。

7~8時台の2時間を特番としたのはTBSとフジ。フジの方が上を行ったが、共に4~8%の間で上下動を繰り返した。

両局で特徴的だったのは、通常番組に戻した9時台以降。

TBSは『マツコの知らない世界』(9時台)で数字を急伸させ、10%台で1位に躍り出た。ところがフジ『華大&千鳥のテッパン』(9時台)は、NHKが大きく数字を落としていたにもかかわらず、あまり視聴者を拾うことが出来なかった。

特筆すべきは、当初特番を組まないと発表していたテレ東。

会見が行われた7時台に、池上彰による特番を急遽入れて来た。これにより0.5%だった接触率は急上昇を始め、最終的には2.6%と5倍ほど数字を膨らませた。

ただし7時40分で、もともと予定していた『ありえへん∞世界スペシャル』に番組の途中から戻すと、数字はさらに上がり、最高で7.5%に至った。

“意外性のテレ東”とか“逆張りのテレ東”と言われるが、一定の存在感を示したと言えよう。

生中継の違い

この日の接触率の全局計は、安倍首相の発言が終わる直前の7時25分が50.6%でピークだった。

7時の45.4%から5%ほど上げている。そして発言終了後、9時までに7%ほど下がって行く。首相が何を言うのかに、如何に国民の注目が集まっていたかがわかる。

首相の発言はNHKと民放の6局が生中継した。

ここで興味深いのは、NHK・日テレ・テレ朝・TBSはいずれも横ばいだったが、テレ東とフジだけ右肩上りだった点。

首相発言の中継中、各局は「L字画面」を駆使し、文字情報を加えていた。

ところがテレ東だけは、こうした手法を用いず、シンプルに首相発言の要点を、一つずつをテロップ処理するにとどめた。

また発言中は、スタジオの池上彰が首相に注目する表情のアップを映し続けた。

これらが幸いしたか否かは断定できないが、テレ東の独自路線が際立ったことは間違いない。

一方フジは「L字画面」の中で、「暮らしは?」と題して各種の情報を流し続けた。

社会インフラがどうなるのか、百貨店・スーパー・コンビニなどは開店しているのかなど、生活にかかわる情報を最も詳しく提供したのである。

ちょっとした違いのようだが、こうした細部が接触率に影響したのかも知れない。

問われるNHKの報道のあり方

首相発言の後の記者によるQ&Aでも明暗がわかれた。

この40分ほどの中で、民放各局はCMを入れ始めた。これにより接触率を落とし、ザッピングで流出した視聴者を集めたNHKが数字を大きく伸ばした。

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例えば日テレは、7時47分頃から2分15秒のCMで、4%弱の視聴者に逃げられている。CMは民放の宿命だが、時々刻々事態が動く生中継特番では、やはり致命的な存在となる。

一方NHKは、Q&Aの中継中に各局がCMを流したおかげで大量の流入が発生し、接触率を2.5%ほど挙げた。

敵失によるメリットを享受した格好だ。

ただし生中継が終わると、状況は一変した。

NHKは接触率で16%を超えていたが、スタジオで記者が解説した4分ほどで3.5%を失った。実は担当した政治部の岩田明子記者は、去年4月1日の新元号特番でも大量流出の元凶だった。今回も解説を始めた最初の15秒で1.5%、最初の1分で3%近くが逃げ出した。

SNS上のつぶやきでは、批判の声が目立つ。

「すぐにチャンネル変えました」

「岩田明子がすぐに御用解説やるのだけは自粛してほしい」

「安倍翼賛解説聞きたくもない」

「政府の広報担当みたいだった。1つの批判、批評も無く」

かつて籾井勝人氏は、NHK会長就任時に「政府が右というのに左というわけにはいかない」と発言して、バッシングを受けた。

公正中立・不偏不党はNHK自らが掲げる理念だ。ゆえに政権との距離を正しく保っていないと見られる報道姿勢に、やはり視聴者は厳しい。

NHKの報道と比べ、同じくスタジオスタジオベースの民放の伝え方は、CM部分を除けば大きく下落することはなかった。

例えば日テレとフジは、NHK同様に政治部の記者が解説を行った。それでも両局とも、解説部分で流出が起こることはなかった。

また生活者の視点に拘ったフジに至っては、CMで一旦5%台まで落ちた接触率を、8時台半ばまでに2%挽回している。政権の側からの視点だけでなく、視聴者の知りたいことに寄り添う伝え方が功を奏したと言えそうだ。

また全体で45分と短い特番だったが、テレ東もスタジオ解説で数字を上げ続けた。

注目すべきは2点。

まず25分におよぶ首相の発言を、池上彰が1分ほどで要約し、しかも安倍総理発言の「恐るべきは恐れそれ自体」が米国ルーズベルト大統領の演説からの引用と解説した点。

簡潔で分かりやすいスタジオには、SNS上でも評価の声が見られた。

「安倍さんの会見より池上彰さんのお話のほうがよっぽど分かりやすかった」

「一番分かりやすく解説されてる」

「圧倒的わかりやすさ」

2点目は池上解説での批判精神。

ゲストと一緒に、最悪のシナリオに備えた準備が遅かったと手厳しい。さらに宣言が出ても、東京都と国との間で具体的な休止要請が詰め切れていない点などを指摘した。特にパチンコ店について、都が休止要請を検討しているが、国が要請をしないで欲しいと働きかけをしていることを指摘し、対応のチグハグぶりと遅さを批判している。

池上解説は、「多くの人が納得できる」ことが大切という姿勢で一貫している。

ここを起点に、政権や一部団体の思惑を重視する施策や、朝三暮四のような誤魔化しに異を唱えている。その意味では他の民放のスタジオ部分も、視聴者の興味関心に寄り添うなどして、25分以上を費やした首相発言を相対化する姿勢を示していた。

結果として、CMという不可抗力を除き、接触率を落とさず、場合によっては上昇させる実績を作っていた。

一方NHKは、首相発言や記者クラブでのQ&Aを中継した部分でこそ強かったものの、スタジオベースの報道となった途端に右肩下がりとなった。

良く言えば「淡々と事実だけを伝えた」となるのだろうが、視聴者ニーズとの乖離は否定できない。

公共放送としての報道のあり方とは何か。

受信料が国会審議で決まるゆえに政権政党に弱いという事実を言い訳にせず、もう一度あるべき姿を表明し、毅然と実行に移すべきと考えるが如何だろうか。