『麒麟がくる』復活はホンモノ!?~鍵は女性・英傑・新型コロナウィルス~

朝日の海で登場した信長が話題となった第7話(提供:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

初回から5話までで、世帯視聴率が3割以上落ちた長谷川博己主演『麒麟がくる』。

第7話は6話を1.2ポイント上回り、ネット上では「V字回復」とか、ラストの織田信長初登場シーンを「鳥肌モノ!」とはやし立てる記事が出た。

しかし冷静に視聴データをみると、ドラマが支持された部分と、世の中の環境変化という追い風参考的な部分の両方がある。

現状の客観的な分析から、今後を占ってみたい。

6話まで低迷した理由

今年の大河『麒麟がくる』は、舞台が人気の戦国時代。

しかも前作『いだてん』が絶不調で、さらに出演者のゴタゴタが重なり、何かと話題となった。そんなこんなもあり、初回は19.1%とまずまずのスタートを切った。

画像

ところが筆者は、その初回放送後に、「『麒麟がくる』初回19.1%で安堵?~求心力と視聴者構成に不安~」と、2話以降への懸念を示した。

インテージ『Media Gauge』の接触率(15秒単位)で分析すると、「視聴者を釘付けにするほどの求心力に欠けていた」からだ。さらに若年層の視聴が少ないのも気になった。

「今後の演出力が決め手」と、拙文を締め括った次第である。

そして危惧した通り、視聴率は4話まで下落を続け、3割の人々に逃げられてしまった。

ここで再び、「『麒麟がくる』は失速する?~戦国大河なのに苦戦する5つの理由」と不安材料を列挙した。一つは、早すぎる視聴率下落ペース。二つ目は、女性視聴者が離反していた点。特に独居の高齢女性に不評だった。ドラマやバラエティ好きな人々に離反されているのも心配だった。そして最後は、人間の感情を織り交ぜた娯楽性の欠如だった。

ところがその後は下げ止まり、6話で少し上昇を始めた。

6話は京都での激しい殺陣が山場だった。そして美濃に帰る手負いの十兵衛(長谷川博己)に、駒(門脇麦)が付き添い、小屋での一晩がしっとりしたシーンになった。

緩急を織り交ぜた、良く工夫された回ではあった。

それでも戦国のダイナミズムを期待する視聴者には、細川春元と三好長慶の対立は大きな話に感じられない。ましてや架空の登場人物の駒と主人公との一夜は、戦国絵巻を期待する向きには肩透かしのような展開と映った。

世帯視聴率こそ少し上昇したが、個人視聴率はあまり良くなかった。

いよいよ時代が動き始める!

ところが7話は、戦国大河ファンが待ち望むような展開になった。

政治状況がまず戦国的だ。

尾張の一門の織田彦五郎・遠江の今川義元(片岡愛之助)・美濃の斎藤利政(本木雅弘)と、三方向に敵を作ってしまった織田信秀(高橋克典)。難局を打開するために、利政と和議を申し入れる。その条件が、娘の帰蝶(川口春奈)を嫡男・信長(染谷将太)に嫁がせることだった。

ところが美濃でも意見が割れる。

今川義元まで敵に回すので得策でないとする一派の鼻息が荒い。いっぽう利政は、国に豊かさをもたらす海を手に入れるために、ぜひ進めるべきと考える。ただし当の帰蝶は、父と口を利かないほど頑なに拒否した。

戦国ならではの難しい局面で立ち往生した十兵衛。

しかも帰蝶は十兵衛に特別な想いを持ち、結果的に帰蝶・十兵衛・駒の三人の感情が微妙に絡み合う。

そして帰蝶に“うつけ”を見てこいと命じられた十兵衛は、朝日に染まった海岸で、三英傑の一人・信長と劇的な出会いを遂げる。

女性層、動く!

この7話では、世帯視聴率が13.8%から15.0%へと1.2ポイント上昇したが、それ以上に大きく動いたのは中高年の女性だった。

画像

関東2000世帯5000人のテレビ視聴動向を調べるスイッチ・メディア・ラボによると、F3+(女性65歳以上)は14.7%から1.9ポイント上げた。さらにF3-(女性50~64歳)は、7.4%から4ポイント上乗せした。5割以上の急伸だ。

またM3+(男性65歳以上)は微増だったが、M3-(男性50~64歳)も7.6%から2.9ポイントの大躍進だ。

どこと手を結び、何を優先するのか。戦国らしい権謀術数の世界と、その中で人質というカードに使われた女性の微妙な心の揺れを活写し、男女ともに面白く見続けたということだろう。

歴史とドラマ好きが評価

ふだんよく見る番組・好きな番組ジャンル別の個人視聴率でも、7話が優れていたことがわかる。

画像

基本的に大半の層が、初回以降じりじり数字を下げ、6話を底にして7話で反転上昇する。

中でも“歴史好き”や“ドラマ好き”の、7話での急伸ぶりが目立つ。

“ドラマ好き”は6話から7話で3割強増えた。

大河ドラマは歴史的事実を扱う割合が多い分、人間の感情を描くことが少なくなりがちだ。ところが7話では、和議の賛否の狭間で揺れる主人公の気持ちといい、帰蝶と十兵衛、さらには駒との微妙な気持ちの交錯が、ドラマとしての見応えと映ったようだ。

“歴史好き”に至っては、4割強も上昇した。

美濃・尾張・遠江にまたがる武将たちのせめぎ合いが魅力的だった。さらに戦国の三英傑の一人・信長が、鮮烈な登場をした点が、“歴史好き”を魅了したのだろう。

いよいよ同ドラマが、疾風怒濤の時代に突入する予感に満ちた7話だった。

追い風参考の可能性

ただしテレビ番組の視聴率は水物でもある。

実は大躍進した第7話が放送された3月1日は、家でテレビを見ている人が何時もよりかなり多い一日だった。

新型コロナウィルスの感染が広まり、直前に安倍首相が小中高の一斉休校を要請していた。加えて大規模イベントの自粛も行われ、外出する人の少ない静かな週末となっていたのである。

実は『麒麟がくる』が放送される日曜夜8時は、『イッテQ』と『ポツンと一軒家』が激突する激戦区だ。どれかの視聴率が上がると、他の番組が数字を奪われるという、激しい叩き合いが1~2月と行われていた。

画像

ところが7話が放送された3月1日は、3番組とも前の週より数字が上がった。しかも3番組の上昇分は、3.5%に達していた。

NHK・日テレ・テレ朝以外の局の番組を圧迫した一面もあるが、HUT(総世帯視聴率)も2.7%上昇しており、3番組の数字がよくなりやすい環境だったとも言える。

特にNHKは、新型コロナウィルス問題に関心が集まり、『NHKニュース7』が前週より2.3%上昇し、大河への良い流れが出来ていた。

追い風参考とも言える状況だったのである。

以上のように、ドラマの内容の良さと、HUTが高い週末という環境の中、『麒麟がくる』7話は好結果となった。そして今後を展望すると、信長・秀吉・家康が登場し、戦国のダイナミズムを堪能できる予感がある。

ただし2~5話が低迷したように、視聴者のニーズと異なる展開を続けると、人々の興味は失われかねない。

時代状況という大きな物語と、登場人物の心の動きなどの小さな物語が、良いバランスで我々を魅了してくれることを願ってやまない。