データでみる“最低紅白”の真相~ワースト断定は早計だが改善の道は見えた!~

世帯視聴率が“史上最低”とされた『第70回NHK紅白歌合戦』。

ビデオリサーチ(VR)のデータが発表された後、同番組を批判する記事がたくさん出た。しかし統計データは誤差がつきもの。

しかも今や、テレビ番組の視聴データは複数ある。

これらを見比べると、単純に去年の紅白がワーストだったとは言い切れない。

もちろんデータは、課題も浮き彫りにしている。

“史上最低”とされた紅白の真相に迫ってみた。

視聴データによる位置づけ

VRは1月2日、年末年始の世帯視聴率を発表した。

画像

これによると『第70回NHK紅白歌合戦』第2部は37.3%。2部制になった1989年以降で最低の値だった。

ただし1部の34.7%は、過去に30%強が何度もあるので、史上最低ではない。

これを受けて、今回の出来を批判する記事がたくさん出た。

「ヤマ場が少ない」

「サプライズ感に乏しい」

「まとまりと決定力に欠けた」

「リハから欠けていた高揚感」

紅白放送の翌日に発言するならまだしも、視聴率が判明してから鬼の首をとったように言うのは、「なんだかなあ」って気もしないでもない。

中には「初期のころのように、純粋な歌合戦で勝負するべき」と、何を根拠に個人の主観を述べているのか、首をかしげたくなるような極論も散見された。

そもそも近年の紅白2部は、それまで4回が40%前後で、今回3%ほど下がったからと言って大騒ぎすべき出来事なのか。

視聴率調査を行うVR自身も、40%の番組の誤差は±3.3%と明言している(視聴率をご覧いただくときの注意事項)。

例えば15年2部は、36~42%のどこかだ。19年は34~40%のどこか。15年より下だったかも知れないし、逆に上だった可能性も残っている。

また近年は、多様な視聴データが登場している。

スイッチ・メディア・ラボ(SML)は、関東地区でVRより2倍以上のサンプルで、世帯視聴率や属性別の個人視聴率を測定している。

これによると、世帯も個人も18年紅白に負けているものの、15~17年より高い。

サンプルの集め方などが異なるので単純に比較できないが、VRのデータだけで最低と決めつけるのは、短絡的過ぎるだろう。

画像

ちなみに「世帯が下がったのは、若い出演者が増え、紅白の主な視聴者である60歳以上がついていけなかったから」旨の批判もあった。ところがSMLのデータを見ると、3-層(男女50~64歳)も3+層(65歳以上)も、18年には及ばないが、14~17年比では同等あるいは上を行く。

「キャスティングが高齢者を排除した」とは、安易には断定できないのである。

視聴データが浮き彫りにする課題

ただし今回の紅白に課題がなかったとは言わない。

この辺りも視聴データを分析すると、番組改善のためのヒントが浮かび上がる。

例えばインテージ「Media Gauge」は、全国150万台ほどのインターネット接続テレビの視聴ログを集め、接触率の変動を15秒単位で見せている。さらに紅白の視聴をやめ、他のチャンネルへザッピングするなどの行動も分かるようになっている。

画像

このデータで見ると今回の紅白は、中盤から終盤にかけて、数字が今までのように上昇していない。

例えば1部開始時点では、3年間で大きな差はなかった。ところが1部終了時には、差が少し生じた。さらに2部では、右肩上りの度合いが少なく、差がさらに開いた。

こう書くと、キャスティングが駄目だったように思われる。

ところが17年で接触率を大きく押し上げたアーティストの多くは、19年でも出演していた。

三浦大地・郷ひろみ・欅坂46・関ジャニ∞・椎名林檎・YOSHIKI・Superfly・嵐・ゆず等だ。18年で視聴率に貢献したYOSHIKI・Da Bump・TWICE・松田聖子・松任谷由実・嵐らも同様だ。

19年で欠けたのは、西野カナ・安室奈美恵・米津玄師・サザンオールスターズ。代わりにFoorin・King Gnu・星野源・菅田将暉・氷川きよし・MISAなどが気を吐いた。

「ヤマ場が少ない」と言われるほど、強力な歌手が少なかったわけではない。

最大の課題は演歌

では、何が問題だったのか。

課題をデータで示すとすれば、流出率の高いパートが、接触率の上昇を阻んだ点だ。

例えば歌手が歌っている部分では、15秒ごとの流出率は全体平均が0.885%だった。15秒ごとに視聴者100人に1人弱が逃げ出した計算だ。

では誰のどんな歌の時に、視聴者は視聴をやめたのか。

やはり目立つのは演歌歌手。ワースト5のうち3組を占めた。平均を上回った21組では、10組に及んだ。

画像

例えばワーストの丘みどり。

歌ったのは2分ほどと短い。Kis-My-Ft2の踊りと折り紙の鳥が飛ぶという工夫が凝らされていたが、曲紹介のMCから流出が激しく、歌い始めの1分では視聴者の1割以上が逃げた。

幸い、裏の民放番組でCMがあり、流入も比較的多かったため、接触率曲線が大きく落ち込むことは回避された。しかしこの部分で、流出率が平均並みだったら、この時点での接触率は18年に迫る上昇をしていた。

同じように山内惠介や坂本冬美も痛い。

前者では、激しいダンスや本格的なバイオリンで盛り上げた。後者ではキンプリの3人が太鼓をたたくなど、若年層を押しとどめる努力が光った。

ところが共に冒頭1分で累積7~10%ほどの流出が起こった。小手先の演出では、残念ながら大きな流れは変えられなかったようだ。

そもそも「演歌はノー」!?

演歌歌手のコーナーでは、歌のパート以外にも課題がある。

例えば恒例のけん玉でギネスブック挑戦もした三山ひろし。確かにギネス記録が気になったのか、歌後半で流出が目に見えて減った。ところが曲とけん玉を紹介するMC部分で、累積で1割以上の視聴者に逃げられていた。

マジックを幾つも入れ込んだ水森かおりの場合もそうだ。

歌のパートでは視聴者がマジックに目を奪われ、流出は平均に近かった。ところが曲紹介では冒頭1分で12%以上の視聴者を失っている。

演歌ではこのパターンが少なくない。ザッピングを頻繁に行うのは、今や若年層から3-層まで広がっている。「そもそも演歌は見たくない」人が、年々確実に増えている。

ただし流出が極めて少ないケースもある。

「VIVA・LA・VIDA!」の五木ひろしと、今回が11回目の「津軽海峡・冬景色」を歌った石川さゆりだ。

五木ひろしは、武田真治のサックスと筋肉美、さらにチコちゃんのドラムに助けられ、3分弱と長丁場だったが、比較的流出を抑えられた。

石川さゆりに至っては、典型的な演歌のセットと演出のみで3分を歌い上げた。ところが流出は0.658%と、平均を大きく下回った。カラオケで人気のお陰か、やはり聞きごたえがあると多くの視聴者が思ったのか、演歌でも成功するケースがある。

つまり本当に大多数が聞きたい演歌に絞り込むか。あるいは流出を防ぐ演出を総動員するか。どうやら演歌生き残りの道は、限られているようだ。

グダグダのMCも課題

「何回かやってらっしゃらるのに、初々しさをまったく失ってない。素晴らしいです」

M-1グランプリでは厳しい審査で有名な上沼恵美子に、こう言わせた綾瀬はるか。今回が3回目の紅組司会で、“ノーミス”宣言も報道されていたが、蓋を開けてみると序盤から言い間違いなど“噛み噛み”の連続。

他にもMCでは、歌の準備が整わないため間延びすることが多く、“グダグダ感”が滲み出ていた。SNSでも、それを指摘する声は多かった。

「MCグダグダでワロタ」

「今年の紅白、歌の準備がいつにも増してグダグダじゃない?」

「せっかくの歌番組のリズムをグダグダにする」

「グダグダ司会を大晦日に見させられる視聴者の気持ちも考えてくれよ」

内村光良・桜井翔・綾瀬はるかが司会を務めたMCの、平均流出率は1.23%。

歌コーナーの1.4倍ほど高い。ちなみにオープニングとエンディングを除く紅白の平均流入率は1.03%。つまり歌コーナーで接触率を上げ、MCで下げている格好だ。

それでも綾瀬を「初々しい」と上沼がいじったMCは、0.651%と秀逸だった。

他にも平均を下回る流出率で済んだMCがあった。

「嵐と米津玄師」

「YOSHIKIとKISS」

「Official髭男dism」

「ラグビー日本代表とビクトリーロード」

「鬼滅の刃とLiSA」

「AKB48世界選抜」

画像

逆にベテラン歌手が登場するMCは、多くの流出を起こした。

要はNHKへの貢献度など送り手の論理は通用せず、その年にどれだけ注目されたのか、純粋に話題力で人選し、MCでの扱いも計算しなければ、視聴者は逃げていく。

大晦日に放送する特番として、ある意味当たり前の編集方針が求められていると言えよう。

特別企画の明暗

最後に特別企画について。

「Disney Cinema Medley 2019」の流出率は0.731%と全体平均を下回った。

特に中村倫也と木下晴香の「ホール・ニュー・ワールド」は、0.525%と健闘した。『アナと雪の女王2』の大ヒットを追い風に、やはりディズニーの強さを見せつけた。

ところが、ここに取って付けたような「おしりたんてい」の一連は、1.02%と空振りだった。やはりNHKの番宣と受け止められるコーナーは評価が高くない。

似た現象はNHKのコント番組『LIFE』に関連するコーナーにも当てはまる。

「紅白×LIFE SPコント」の流出率は1.038。綾瀬が参戦した「三津谷寛治のダメ出し」も0.95と、あまり効果はなかった。

NHKの事情が目立ち、2019年1年との関係が希薄だったのが原因だろう。

究極は嵐が歌った「NHK2020ソング」の「カイト」のコーナー。

MCと歌パートの平均流出率は0.835。全体よりは良いが、トリとなった「嵐デビュー20周年SPメドレー」の0.549と比べると大きく落ちる。

NHKが五輪をPRしたい気持ちはわかるが、“この1年を振り返りたい”視聴者の気持ちとはあってない。

以上のように、紅白2019は史上最低だったかどうかは断定できないが、時代とのミスマッチが随所で目立った。

「その年に一番ふさわしい歌を聞く」

「大晦日に歌を介して1年を振り返る」

この基本がじゅうぶんでなかった点を反省して、次は大晦日にマッチした番組を放送してもらいたいものだ。