松岡昌宏は成仏できない!?~『死役所』は逆張りテレ東の真骨頂ドラマ~

写真提供 テレビ東京

松岡昌宏主演『死役所』は、テレビ東京が今クールから始めた水曜深夜24時台のドラマ枠「ドラマホリック!」の第1作。

今やテレビの連続ドラマは、テレビ朝日の『相棒』『科捜研の女』などの長寿シリーズ、『ドクターX』のような劇画ドラマ、あるいは小が大を大逆転するTBS『日曜劇場』のような大活劇が高視聴率の常連となっている。

一方『死役所』は、死んだ人が成仏するまでを描く“生と死”の物語。

流行のドラマとは一線を画した“地味で暗い”ドラマで、世帯視聴率もずっと1%台と、お世辞にもヒットしているとは言えない。

それでも「死と向き合うことは生を直視すること」。

内容は深く、見た人々の心を揺さぶるインパクトを持つ。

こんな大胆な作品を深夜枠で放送するテレ東の、ドラマ魂を考えてみた。

人生は“やり直し”出来ない一発勝負!

日本では年間130万人以上が亡くなっている。1日あたり4000人弱だ。

亡くなり方には、病死・事故死・他殺・自殺の他に、死産や死刑などいろいろある。こうした様々な死の前提には、人々の多様な生があり、死の経緯に対する後悔・無念・怒り・悲しみ・絶望などの想いがある。

「お客様は仏様です」は、『死役所』の主人公・シ村(松岡昌宏)の決まり文句。

死んだ後に成仏するまでを管轄する死役所を舞台に、ドラマは死んだことで初めて自らの生と向き合い、人生に何らかの句読点を打つ死者たちを描いている。

例えば初回に登場した、いじめを苦に自殺した少年。

学校ではいじめ、家では義理の父と会話ができず、どこにも居場所がないと悲観して自殺してしまった。

ところが自分をいじめたクラスメイトも死んでいた。

しかも彼を殺したのは、自分に無関心と思っていた義父だった。さらにそのクラスメイトは、少年が死んでも何も反省していない。こんなクズのせいで少年は自殺し、義父は殺人を犯してしまった。

少年のやるせなさがヒシヒシと伝わる。

少年はシ村らとの対話で、最後に来し方行く末を悟る。

「お義父さんと会いたい」

そしてシ村に、義父への伝言を託す。

「迷惑かけてごめんなさい」

「今度生まれ変わったら、いい親子に」

「もっといろんな話したかった」

残された者の救い

2話のメインは、死産の赤ちゃん(チビちゃん)。

8年にわたる不妊治療の末に、ようやく懐妊した泉水(酒井若菜)。苦労が報われ、夫(野間口徹)と大喜びした。ところが買い物中に腹痛で倒れ、救急搬送。母子ともに危険な状態に陥ったが、結局は母だけ助かった。

「ごめんね、一人で死なせちゃって」

長年苦労して受胎したのに、無事に産んであげられなかった自分を責める泉水。

そこへ産婦人科で顔なじみとなった少女がやってきて、自責の念で沈む泉水を慰める。

「赤ちゃん、まだいるよ。ありがとうって言ってる」

「楽しかったって。お母ちゃんのところに来られてよかったって言ってるよ」

「すごくニコニコしてる」

画像

24時台のテレビ視聴者は、就寝直前でゆったりテレビを見る人が少ない。

視聴データでいえば、番組の途中で流出する人が夜7~24時より高い比率となる傾向だ。ところが、初回に続き2話も、理不尽極まりない人生が描かれたためか、途中離脱する人が少なかった。後半で見ている人が増えているところをみると、多くの人の心に深く刺さったストーリーだったと推測される。

データが示す視聴者の反応

ただし同ドラマは3話目以降で、視聴者の反応が変化する。

40分と決して長くなく、テンポも悪くない番組だが、3~4話と6話は接触率の右肩下がりが目立つ。途中で見るのをやめた人が少なくなかった。

3話は間もなく子どもが生まれるのに、突然頭のおかしい男に刺されて死んでしまった青年の話。

4話は、好きな人との最初で最後のデート中に、事故で無残な姿で亡くなってしまった中2少女の話。

そして6話は、遺伝性の病気で亡くなった芸人と残された相方の、悲しくも麗しい友情の物語。

それぞれのストーリーは胸にしみる良い話だったが、就寝前に慌ただしくしている視聴者を釘付けにするには、別々の1話完結物語が続いたためか、今一つ力が及んでいなかったようだ。

これに対して、5話や7話はちょっと違う。初回や2話同様に、ラストまで多くの人の注目を集め続けた。

同じように1話完結型でも、死刑で亡くなった死役所の職員にスポットを当てた点が、他とは異なっていた。例えば5話は、自分の妻と子、および妻の愛人を殺し死刑となったハヤシ(清原翔)の物語。実はハヤシは祖父と母の子という“出生の秘密”があった。これが発覚し、人生の歯車が狂い始めた結果、殺人を犯していた。

そして7話は、他殺課を担当するイシ間(でんでん)。

空襲で亡くなった弟夫婦の娘・ミチ(田鍋梨々花)と幸せに二人で暮らしていたが、ある日優しいミチが以前助けた少年二人に乱暴されてしまった。ミチをわが子のように溺愛していたイシ間は、怒り狂って少年2人を殺害してしまったのである。

ハヤシもイシ間も、死刑になるほどの重罪を犯していた。

それでも経緯には同情の余地がある。そんな理不尽極まりない悲しい罪とどう向き合うのか。またそんな死刑囚が、死役所職員として多くの死者が成仏するまでを担当する意味とは何なのか。

物語は一挙に重層的なテーマとなり、俄然おもしろくなった。視聴者の反応も、明らかに変化していた。

ヘタをすると眠れなくなるような重いテーマだが、あえてテレ東は視聴率という記録より、記憶に残るドラマに挑戦したようだ。

シ村(松岡昌宏)の成仏は?

さて『死役所』は残るところ、9話と最終回の2回。

8話までで、娘殺しで死刑になったが実は冤罪という、主人公・シ村の生前がほのめかされてきた。9話以降は、そのシ村と妻・幸子(安達祐実)、そして娘・美幸の物語が展開し始める。

シ村がどんな経緯で死刑になったのかも興味深いが、それ以上に一連の事件をシ村がどう考えているのかが物語の肝のようだ。

普段は感情を一切表に出さないが、時にはホラー並みの強張った顔や不気味な笑顔を見せて来たシ村が、自分の罪と罰をどう受け止め、成仏して行くのか、しないのか。

「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」

19世紀末にゴーギャンが描いた絵には、こんな言葉が添えられていた。『死役所』は正にこんな根源的な問いを思い起こさせる。

人気のテレビドラマがまず向き合うことのない“重すぎるテーマ”を、これまで喜怒哀楽をまぶしつつ哲学させてくれた佳作だ。

最後に主人公の“生と死”で何をメッセージするのか。酒を飲まずに、深夜一人でじっくり見届けたい。