“聖母”鈴木京香が“俺さま”木村拓哉を活かす~『グランメゾン東京』は令和の『西遊記』!?~

(写真:YUTAKA/アフロ)

木村拓哉主演『グランメゾン東京』が好調だ。

この1年の日曜劇場では、序盤に高視聴率でも、中盤に大きく下げるものが多かった。ところが今回は、ほとんど下げることなく、むしろ上昇気味だ。

主演は木村拓哉だが、中心に鈴木京香が“聖母”のようにデンと構え、“俺さま”キムタクが孫悟空のように暴れまわる展開が、好調の理由かも知れない。

強さのホンモノぶりを、視聴データで裏付けてみた。

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面白さはホンモノ!

TBS日曜劇場は、中盤から最終回にかけて4割前後、世帯視聴率(ビデオリサーチ関東地区)を上昇させるパターンが多い。今年冬の常盤貴子『グッドワイフ』は35%アップ、春の福山雅治『集団左遷!!』は68%も上昇、そして大泉洋『ノーサイド・ゲーム』も42%上げた。

この伝でいくと、『グラメ東京』は17~18%ほどに届き、場合によっては20%に迫るかも知れない。

兆候はある。

全国で140万台以上のネット接続テレビの視聴状況を調べるインテージ「Media Gauge」のデータがその可能性を物語る。

上記3ドラマと比べると、『グラメ東京』は毎話、番組の最初から最後までで接触率が大きく上がっている。

例えば各ドラマ初回の冒頭から、ラスト直前のピークを比較してみよう。

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『グッドワイフ』   4.8%→6.6% 38%上昇

『集団左遷!!』    6.0%→8.6% 43%上昇

『ノーサイド・ゲーム』7.9%→9.1% 15%上昇

『グランメゾン東京』 5.2%→8.5% 63%上昇

ドラマでは、設定・出演者あるいはストーリーが気に入らないと、離脱する人が必ずいる。ただし『グラメ東京』では、そんな人よりザッピングで途中から見始める人の方がはるかに多い。

しかも初回に限らず、2話以降5話まで、その傾向はずっと続いている。

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初回 5.2%→ 8.5% 63%上昇

2話 7.8%→10.0% 28%上昇

3話 6.3%→ 8.9% 41%上昇

4話 7.6%→ 9.8% 29%上昇

5話 6.2%→ 8.9% 44%上昇

面白さの方程式

面白いと感ずる人が多いのにはワケがある。

まずストーリー展開。

3年前、尾花(木村拓哉)は、パリにオープンした自分の店・エスコフィユで二つ星を獲得。ところが己の慢心からアレルギー物質混入事件を招き、店も仲間も信用も、すべて失いどん底に転落した。

物語はそんな尾花が、女性シェフの早見倫子(鈴木京香)とパリで出会うところから始まる。

東京で世界最高の三つ星レストラン「グランメゾン東京」を作り上げようと再起をかける。そのプロセスで、エスコフィユ時代の京野(沢村一樹)、相沢(及川光博)、丹後(尾上菊五郎)、弟子だった平古祥平(玉森裕太)、元恋人のリンダ(冨永愛)などとの関係が再始動する。

面白いドラマの方程式満載といった展開だ。

次に重要なのが料理。

『SMAP×SMAP』で「BISTRO SMAP」を、キムタクは長年やっていた。おかげで料理の手つきは決まっている。

また素材の組み合わせの意外性、完成プロセスでの映像モンタージュ、読めないスピードでも材料名などを敢えてテロップする演出など、「料理をドラマチックに見せる」手際はもはや発明だ。

さらに筆者が最も納得するのが、人間の描き方。

尾花(キムタク)は料理に対して繊細かつ誠実。ところが周囲には“俺さま”ぶり満開で、一見「人間として最低」と思われている。それでも仲間に対しては、繊細で誠実な側面を持ち合わせている。

例えば第4話。

プレオープンにやってきた「マリ・クレール ダイニング」編集長で元恋人のリンダ。日本人の舌にあうフレンチを作ってみせた尾花に対して、「変わったわね、あなたの料理。何か心境の変化でも?」と聞いて来た。

対する尾花の答えが振るっている。

「あれは俺の料理ではなく、早見倫子シェフの料理」

第5話では、3年前の大事件は祥平のミスだったことが浮かび上がる。

それを名乗り出ようとする祥平を尾花は押しとどめ、以前失意の際に祥平が作った料理に似た一皿を振る舞う。

「俺はお前のまかないを食べて救われた。平古祥平の作る料理には人を動かす力がある。だからフレンチやめんじゃねえぞ」

これまでも布石はあったものの、“仲間の罪を背負って再起をかける”主人公の青春ドラマだったことが中盤で完全に浮かび上がった。

仕掛けの妙

尾花の再起をかけたチーム「グランメゾン東京」は、中心に早見倫子(鈴木京香)がいる。

尾花がチームに絶対欠かせないとこだわる京野(沢村一樹)。その二人のコンビは、倫子が1千万円の大金を用意し、ライバル「gaku」から引き抜くと宣言したことで再結成がなった。

店オープンのため、銀行から融資を受ける交換条件に、自ら大切にしていたものも差し出した。

母が愛人時代に愛する男からあてがわれた思い出深い家だ。以前から「絶対に手放したくない」と言っていたが、頑固な尾花が考えを改め、仲間の意見を聞いて日本人の舌にあう料理を作り始めた価値を認めてのことだった。

筆者は当稿のタイトルに、「“聖母”鈴木京香」の言葉を入れてしまった。

キリストを処女降臨させたマリアのイメージに重なったが故の表現だが、実はドラマ全体の構図から言えば、1978年のドラマ『西遊記』で夏目雅子が演じた三蔵法師がより近いかも知れない。

善悪をわきまえるが戦闘能力のない法師に対して、倫子も料理の才能に欠けるが味覚と使われた素材を見分ける能力は抜群だ。

その倫子の下で、孫悟空のような“俺さま”尾花が暴れまわる。

京野・相沢などチーム「グランメゾン東京」が、互いにサポートしあい、紆余曲折はあるものの少しずつ前進していく。

倫子の発した「美味しい料理を作っていれば、いつかはお客さまに伝わるときがくる」が、第5話ラストでようやく実現した。

ところがドラマは、日曜劇場お約束の悪役が立ちはだかる。「gaku」のオーナー江藤(手塚とおる)の妨害工作だ。

2話では、尾花たちへの融資を検討した銀行に、過去の事件を耳打ちして邪魔をした。

3話では、高級ジビエ肉を買い占めたり、票集めのためにロビー活動をしたり。

4話では、プレオープンという大切な日に、7品目を担当していた部門シェフ・柿谷(大貫勇輔)を突然失踪させ、チームをピンチに陥れる。

そして5話では、フードフェスに参加した尾花たちに対して、主催者にチクり、出店中止に追い込んだ。

ドラマの醍醐味は、困難が発生し、その困難から逃げることなく立ち向かう主人公の活躍だ。

TBS日曜劇場は、巨悪に弱小が挑み、どんでん返しの中で最後は逆転するパターンが多い。視聴者は「溜飲を下げる」快感に酔いしれて来た。

今回も倫子の手のひらで尾花たちチーム「グランメゾン東京」が、天竺ならぬ三ツ星めざして暴れまわる物語だ。

面白いドラマの方程式満載なのである。

流出しない展開

こした面白さは、インテージ「Media Gauge」の視聴データで検証すると、途中で見るのを辞める「流出」の少なさで確認できる。

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ドラマの初回は、試しに見る人も多いため、序盤で流出する人が少なくない。

今クールでも、0.15%以上の流出が序盤で続くドラマが続出している。ところが『グラメ東京』は、初回序盤から流出が少なめだ。そして2話から5話にかけて、視聴を辞めるひとはほとんどいなくなる。

特に毎話ラストの10分は圧巻だ。

0.1%前後の流出が続くのが一般的だが、当ドラマでは初回から0.1%を下回っている。そして4~5話では、0.05%を下回るようになった。視聴者のほぼ全員が、固唾を飲んでラストを見守っている様が目に浮かぶ。

実はラストは、次回を見てもらうため重要なパートとなる。

日曜劇場では、ここに飛びっきりのどんでん返しを置いて、「次週の展開が気になってしかたない」という視聴者を続出させてきた。

『グラメ東京』も、その肝は外していない。

3話では、ようやくチームの中核メンバーがそろい、プレオープンを迎えることになった。そこに尾花の元恋人のリンダが登場し、3年前の事件が動き出す予兆で終わった。

4話では、グランメゾン東京の命運を左右するリンダの記事が発表された。料理やサービスは賞賛されていたものの、3年前の事件を起こした尾花夏樹が店に関わっていることも暴露され、店は大ピンチに追い込まれる。

そして5話では、ようやく軌道に乗り始めたグラメ東京チームが、市場に買い出しに行きgakuのメンバーと遭遇する。そこにはプレオープンの日に失踪した柿谷光(大貫裕介)の姿あった。

そしてもう一人・平古祥平の姿も・・・

皆戸惑いの表情だが、尾花だけ「面白くなってきたじゃん」と笑み。

ドラマの後半は、チーム「グラメ東京」と、丹後&江藤のコンビに、祥平という強力な武器を加えた「gaku」との対決が始まる。そして三ツ星という天竺に到達できるか否かの戦いも待っている。

もはやTBS日曜劇場の典型的なパターンだが、従来は“俺さま”ぶりを前面に出してきたキムタクが、一歩下がって共演者の持ち味をどう“引き立てる”かも興味深い。

一段とステージが上がった展開と、進化した演出と出演者たちのパフォーマンスに期待したい。