高畑充希が新垣結衣を超える!?~『逃げ恥』を凌駕する『同期のサクラ』の可能性~

(写真:つのだよしお/アフロ)
高畑充希主演『同期のサクラ』が好調だ。
今クールでは、木村拓哉主演『グランメゾン東京』の視聴率がほぼ横ばい。他大半が回を追うごとに下落しているが、『同期のサクラ』だけが唯一上昇を続けている。
好調の要因は何か。後半で視聴率を上げた新垣結衣主演『逃げるは恥だが役に立つ』などと比べ、強さの秘密に迫ってみた。
唯一の上昇パターン
今クールの連続ドラマの大半は、ビデオリサーチが計測する視聴率が、回を追うごとに下がっている。
『グランメゾン東京』こそ4話までで、12.4%→13.2%→11.8%→13.3%とほぼ横ばいだが、他は大半が下落傾向にある。

視聴率好調と言われる米倉涼子主演『ドクターX』も、初回20.3%から4話17.8%と下がり続けた。
このところ好調なフジ月9も、ディーン・フジオカ主演『シャーロック』は、初回12.8%から6話8.3%と4割弱数字を失った。
中には、新木優子と高良健吾のダブル主演『モトカレマニア』のように、4話までで約半減となってしまったドラマもある。
木枯しが吹き始めた今クールのドラマ界にあって、唯一好調なのが『同期のサクラ』だ。
5話までが8.1%→9.5%→9.3%→11.5%→11.8%。3話で0.2%下げたのは、『日本シリーズ・第4戦』が延長し、放送が大幅に遅れた影響だ。この回を除けば、上昇が続いている。
では後半はどうなるのか。過去の後半高視聴率ドラマとの比較で、今後の可能性を占ってみよう。
“あり得ない主人公”パターン
『同期のサクラ』は、遊川和彦描く“あり得ない主人公”を、高畑充希が好演する作品。
同氏が書くドラマには、こうした名作が幾つかある。
1998年放送の『GTO』(反町隆史主演)は、暴走族の元リーダーが教師となって学校を立て直す物語。振る舞いは無茶苦茶だが、目先の理屈よりも“ものの道理”を通そうとする姿勢で、次第に周囲を納得させる“あり得なさ”が秀逸だった。
2005年『教室の女王』(天海祐希主演)は、一見強権的で“悪魔のような鬼”教師。ところが自らが「壁」となることで、児童の成長を促す感動的なドラマだった。
他にも10年『曲げられない女』(菅野美穂主演)、11年『家政婦のミタ』(松嶋菜々子主演)、15年『〇〇妻』(柴咲コウ主演)、18年『過保護のカホコ』(高畑充希主演)、19年『ハケン占い師アタル』(杉咲花)等。
“あり得ない”キャラクターなのに、言動が視聴者の心を動かす主人公を遊川和彦は描いて来た。
高畑充希の“あり得なさ”
北の小さな離島から、一人上京した主人公のサクラ(高畑充希)。
大手ゼネコンの入社式で、「私の夢は、故郷と本土を結ぶ橋を架けること」と宣言。ところが「忖度できない」性格から、さまざまな軋轢・トラブルを巻き起こす。
それでも周囲の態度は次第に変化する。
“あり得ない”性格のサクラに、最初は冷めていた同期も次第に巻き込まれる。どんな逆境になろうと「自分にしかできないこと」に拘り、自分を貫き続けるサクラに、5話までで同期たちが一人ずつ脱皮を遂げてきた。
初回でまず度肝を抜かれたのは、入社式の社長の挨拶に手を挙げてズバズバ感想を述べた点。
「良いことを言っているのに長すぎる」とした上で、データや言葉使いの間違いを指摘した。現実ではこんな新人を見聞きしたことはないが、もし「やってみろ」と言われても、とても出来ることではない。
これからの長い会社人生を考えたら、絶対黙ってしまうだろう。「敢えて指摘するほどではない」と目を瞑るのが常識的な反応だ。
入社5年目までの変化
同ドラマは1話1年で展開する。
そして2話から5話までで、サクラの同期たちが順番に感化されて成長する。
2話では菊夫(竜星涼)。
部長(丸山智己)による理不尽な命令で残業が続いた菊夫は、サクラに言われた「自分の弱さを認め」、最後は部長に「俺はもう部長の言うとおりにはできません」「やらされるんじゃなく、自分がやるべき仕事をやる」と宣言した。
3話では百合(橋本愛)。
女だから責任ある仕事をやらせてもらえず、得意先のセクハラも卒なくこなす百合。しかし「もう疲れた」と退社することに。ところがサクラは、「現実から逃げている」「種をまかねば一生花は咲かない」と、百合を責め、二人は言い合いになる。こうした本音のぶつけ合いを経て、二人は互いを呼び捨てにし合う仲になる。
4話では蓮太郎(岡山天音)。
設計の仕事がうまく行かず、閉じこもってしまった蓮太郎。サクラは彼の上司に「色々なアイデアを引き出す力がある。粘り強さがある」と長所を指摘する。それを目の当たりにし、周りのせいにしていたこと、一人よがりで閉じこもっていたことなどを反省し、蓮太郎は再び立ち上がる。
そして5話が葵(新田真剣佑)。
社長賞をとった葵は、実は高級官僚の父のコネ入社で、実力を認められてはいなかったことが判明する。自暴自棄になってしまったが、サクラはじいちゃんに教えられ、「勝ち負けにこだわらず、自分の価値を知ることが大切」、「素晴らしい才能がある。たくさんの人を動かす力がある」と励ます。それまでものが言えなかった父に、葵は初めて自分の考えを主張できるようになる。
後半高視聴率ドラマとの比較
ここまで1話1年で、サクラと同期は一人ずつ関係が深まって行った。
毎話の各同期の葛藤と、サクラとの関わりを経ての再起が、多くの視聴者の感動を呼んだ。その巧みな展開の結果、視聴率は初回を100とすると、5話で146にまで上昇していた。

クール後半で視聴率が急上昇した過去の作品と比較してみよう。
実は最終回で高視聴率を誇った名作も、中盤では必ずしも上昇していない作品が少なくない。最終回で25.3%に跳ね上がった『女王の教室』は、5話では初回を下回っていた。最終回で40%の金字塔を打ち立てた『家政婦のミタ』も、5話では初回100に対して115とそれほどでもない。
最終回42.2%とドラマの歴代2位を誇る堺雅人主演『半沢直樹』(2013年夏)は、5話で149とやはり途中でも凄かった。
ところが近年で最も話題となった『逃げ恥』は、最終回こそ204と画期的な数字だが、5話では130で必ずしも華々しくはない。
『同期のサクラ』は2話以降順調に指数を高め、5話で146となっている。
『半沢直樹』にはわずかに及ばないものの、『逃げ恥』を大きく上回り、遊川和彦の“あり得ない主人公”ドラマの中では、断トツの上昇カーブを描いている。
強さの秘密は脱落者の少なさ
では、『同期のサクラ』成功の秘密は何か。
実は番組途中で見るのを辞める人が少なく、見た人の口コミで次第に視聴者が増えている点にあるようだ。

インテージ「Media Gauge」関東地区の接触率データで分析してみよう。
例えば『4分間のマリーゴールド』や『シャーロック』は、番組冒頭よりラストが低いことが多い。それでも前の週のラストより、翌週の冒頭が上がっているため、回を追うごとの平均接触率はゆるやかな下落で済んでいる。
逆のパターンが『相棒』や『ドクターX』。
番組冒頭はあまり高くないが、途中から見始める人が多く、ラストは必ず高くなっている。長寿シリーズのためか、視聴者は初めから見なくても良いと、ゆったり構えているようだ。
16年秋放送で、最終回が20.8%、初回より指数で204となった『逃げ恥』も、実は初回から4話までは毎回冒頭よりラストが低かった。
5話で初めて尻上がり型となり、以降はそのパターンを維持して最終回で大台突破を果たした。
その意味で『同期のサクラ』は、序盤から視聴者の心をガッチリつかみ、脱落者をあまり出していない。
序盤から『逃げ恥』を超える、求心力の強いドラマと言えそうだ。
後半の大ブレークは?
サクラ(高畑充希)は、初回ラストでこう主張した。
「私には夢があります。ふるさとの島に橋を架けることです」
「私には夢があります。一生信じ合える仲間をつくることです」
「私には夢があります。その仲間と、たくさんの人を幸せにする建物を造ることです」
「それだけは諦められないので、私は自分にしか出来ないことをやります」
5話までで“自分にしか出来ないこと”をやり続け、“一生信じ合える仲間”をつくることに成功した。
ところが子会社への出向を命じられ、“ふるさとの島に橋を架ける”ことも、“仲間とたくさんの人を幸せにする建物を造る”夢も遠ざかってしまった。
これから後半。
同期の次に会社のキーマンたちを動かし、夢を実現させていけるのか。それとも抵抗勢力の岩盤は、簡単には崩せるようなものではないのか。
ドラマの醍醐味は、視聴者の予想を裏切る展開だ。
普通の言動から外れた“あり得ない”サクラが、凡人の弱さや安きに流れる安直な考えを砕き、毎話一人ずつ“勝ち負け”ではなく、“自分の価値”と向き合わせられれば、前半と同様に後半も視聴者は増えていくだろう。
遊川和彦がこれまで書いた数々の名作を、『同期のサクラ』がどう超えていくのか、後半を楽しみにしたい。