スポーツ中継戦国時代!~野球は地盤沈下から挽回できるか?~

(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

『ワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)決勝』が行われた。

2階級の王者・井上尚弥(26)が、5階級制覇のノニト・ドネア(フィリピン)を3-0判定で下し、世界のバンタム級の統一王者となった。

実はこの日の同時刻、TBSは『世界野球プレミア12・日本×台湾』を、テレビ東京は『卓球ワールドカップ団体戦2019TOKYO・男子・日本×ドイツ』を放送した。スポーツ3番組が激突していたのである。

この秋はテレビでスポーツ番組が花盛りとなっている。ただし反比例するように、野球の地盤沈下が目立つ。スポーツの隆盛と、野球の地盤沈下について考えてみた。

3世界大会が激突

11月7日(木)、フジテレビは『プロボクシング・WBSSバンタム級決勝・井上尚弥×ノニト・ドネア』を中継し、ビデオリサーチ(VR)によれば、夜9時台からの73分の世帯視聴率は15.2%だった。海外メディアから「年間最高試合の候補」と絶賛されるほど迫力のある試合だったが、同局の同時刻前4週平均の倍に相当する好記録を叩き出した。

一方TBS『世界野球プレミア12』は、夜7時半からの2時間40分平均が11.6%。前4週平均と比べ、少し高い数字に留まった。また夜7時からのテレ東『卓球ワールドカップ』(約3時間)は3.8%。残念ながら、前4週平均に届かなかった。

この日はスポーツ中継が3つ激突したことで、各番組に明暗が生まれた。ただし全体としては、普段よりテレビを見る人が多くなった。

HUT(総世帯視聴率)は62.5%と、前4週より2.8%上昇した。そのうち3中継合計の占有率は40.2%。テレビを付けていた家庭の4割が、世界と戦う日本人の姿に注目していたことになる。

この秋はラグビーW杯をはじめ、バレーボール・卓球・野球・サッカー・陸上など、各種スポーツの生中継が多く放送された。

7日の3中継同時刻激突は、まさに近年のテレビ状況を象徴する1日だった。

野球の地盤沈下

ただし野球の地盤沈下が目に余る。

今年は日本シリーズの平均が、関東地区で初めて一桁に留まった。しかも試合は、長く球界の盟主と自他ともに認めていた巨人戦だ。

70~80年代には、リーグ中の普通の試合でも、20~30%を軽く叩き出していた。ところが日本一を決める重要カードで10%に届かないとは、過去の栄光は消えたと言わざるを得ない(詳細は、拙稿『巨人戦はオワコンか?~日本シリーズ視聴率一桁から見える現実~』参照)。

巨人だけでなく、世界野球プレミアも深刻だ。

オープニングラウンドの3戦、ベネズエラ・プエルトリコ・台湾との平均は11.3%だった。4年前の開幕からの3戦は16.5%だったから、3分の1ほど視聴者を失った格好だ。

他のスポーツ中継と比べると、野球の深刻さはより際立つ。

この秋はラグビーW杯の躍進が最も目立った。日本代表が世界と戦った5試合の平均は30.2%。史上初めてベスト8に進出した対南アフリカ戦では、41.6%とサッカーW杯での日本代表戦と肩を並べる健闘だった。

しかもラグビーは、日本代表戦に留まらない。

日本人は日本代表以外の外国同士の試合はあまり見ないと言われていた。ところが今回のラグビーW杯では、夕方4時半以降に始まった外国同士の8試合平均が14.1%。決勝戦の「イングランド×南アフリカ」に至っては20%を超えた(詳細は、拙稿『ラグビーW杯 決勝戦20%超の意味~視聴データで読むドラマチックな物語~』参照)。

世界を舞台にした侍ジャパンの奮闘は、ラグビーW杯の外国同士のカードにも及ばなかったのである。

野球はサッカーにも届かなかった。

『2022FIFAワールドカップアジア2次予選』で、日本代表はミャンマー・モンゴル・タジキスタンと対戦した。3試合の平均は12.8%。ハッキリ言って対戦した3か国は、アジアの中でもサッカー弱小国だ。それでも野球の上を行ったのである。

野球がかろうじて勝てたのは、『FIVBワールドカップバレーボール2019』。視聴率は10.0%だったので、侍ジャパンは何とか1.3%上回った。

野球視聴者の実態

野球が深刻なのは、視聴者が超高齢化している点。

VRが測定する世界野球プレミアでの個人視聴率は平均で6%ほど、日本シリーズは5%ほどと聞く。しかもこの数字は、70~80代が20%ほどをとることで、平均が維持されているという。

明らかに野球は、高齢者向けコンテンツとなっている。

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VRの個人視聴率は公開されていないので、関東で2000世帯の視聴率を測定するスイッチ・メディア・ラボのデータで、スポーツ中継の性・年齢・属性などの含有率で確認してみよう。

野球で多いのは、M3-(男50~64歳)・M3+(男65歳以上)・無職層。要は年金生活の高齢者が、一人あるいは老夫婦のみで見ている場合が多い。

そして心配なのはFT~F3-(女13~64歳)での含有率が低い点。若い女性に人気がなく、子供と一緒にお母さんが見ているケースも少ない。

一方ラグビーW杯やW杯バレーボールは、C層(男女4~12歳)やT層(男女13~19歳)と、F2やF3-(女35~64歳)が多い。子供と母親が一緒に楽しんでいる家庭が多いと推測される。

しかも世界野球プレミアは、4年前に比べ明らかに世帯視聴率が下がった。

このままでは、野球人気は今後も低落しかねない。

テレビとスポーツの関係

全体状況を再び俯瞰してみよう。

今回3番組が激突したように、テレビでのスポーツ中継が増えている。背景には、録画再生やネットでの動画再生など、タイムシフト視聴が増えている現実がある。

リアルタイムで見ることに意義のあるスポーツが重用される所以である。

しかしラグビーがにわかに脚光を浴びたように、スポーツ中継が増えると、本物の迫力、スリリングな展開、気持ちの良いテンポ、感動を呼ぶストーリーなど、新たな要素が中継番組にも求められるようになる。

この意味で、過去の栄光の時代と変わり映えしない野球が、苦戦を強いられ地盤沈下しているのは納得できる。

ただし野球も、ソフトバンクの福岡、カープの広島、日本ハムの北海道、楽天の東北など、地域密着で高い視聴率を保っているエリアもある。

時代のこうした変化に出遅れた関東エリアで、野球の後退が特に目立つ。

種目の人気を高めるには、テレビの影響力は無視できない。野球も成功例から謙虚に学び、スポーツ中継戦国時代に生き残ってもらいたいものである。