台風報道でTVがもっと出来ること~視聴データが示す情報ニーズ~

死者・行方不明者90名、堤防の決壊71河川130か所、農林水産の被害35都府県571億円超と、広範囲かつ甚大な被害をもたらした台風19号。

12日午前9時から13日12時までの27時間、台風関連の特番を放送し続けたNHKの見られ方は、地域によって大きく異なっていた。時々刻々変化する状況に対して、どこに住んでいるかで必要とする情報が異なるからだ。

こうした視聴データからは、台風報道でテレビが出来ることが、もっと多岐にわたることに気づかされる。

接触率と被害の関係

全国約140万台のネット接続テレビの視聴状況を調べるインテージ「Media Gauge」によれば、台風19号関連の特番は、関東甲信越や東北でよく見られた。

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1分毎にどの局を見ていたかで判定する27時間の平均接触率では、犠牲者が出た岩手・宮城・福島や関東甲信越で、NHKはほぼ12%を超えていた。2位の日テレと比べても、2~3倍の値となっていた。

人的被害・土砂崩れ・川の氾濫・農林水産業へのダメージなど、被害の大きかった地域ほど数字は高かった。

他の民放も通常番組を休止して、数時間ほど特番を放送した。それでも常時台風関連情報を流し続けたNHKとの差は歴然だった(詳細は、『台風19号報道はNHKの圧勝!~浮き彫りとなった民放の課題~』を参照されたい)。

12日昼過ぎまでの接触率

各エリアでの接触率推移を見ると、地域や被害状況により、人々が必要とする情報が変わっていたことがわかる。

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12日午前9時。この時点での台風の勢力は935hPaと、大型で非常に強かった。

夕方から夜にかけて、静岡か関東に上陸する見込みと報道されていた。ここから数時間、接触率は南関東が最も高かった。続いて静岡・山梨が続き、長野・新潟や東北三県はまだ切迫していないこともあり、南関東ほどではなかった。

また関西、去年7月の西日本豪雨で大きな被害が出た瀬戸内エリア、そして南九州を比較すると、台風からの距離が離れるにつれ、接触率は低くなった。

想定される被害の大きさに従い、明らかに人々の注目度が異なる。

夕方から台風上陸まで

12日の午後2時以降、突風・浸水の被害が出始めた。さらに各地の川も増水すると、関東甲信越の接触率が20%を超えるようになった。

迫りくる災害への警戒感の高まりから、東北三県でも17%前後まで上昇した。

一方、台風の影響下にない西日本では、接触率が二桁になることはほぼなかった。

関東甲信越が最高となったのは、台風が静岡県伊豆半島に上陸した夕方6時台。

この時点での台風の勢力は955hPa。依然として大型で強く、首都圏各地の川が氾濫の可能性を高めていた。

NHKへの接触率は、東京で21.7%、千葉は22.1%、神奈川県では23.5%を記録した。

12日夜から13日昼まで

そして台風が上陸すると、まず静岡・山梨の接触率が下がり始めた。

台風の左側に位置し、被害はあまり大きくならないと感じた人が多かったようだ。そして夜、南関東や長野・新潟は、時間と共に接触率が下がり始めた。

ところが深夜以降に台風が最接近する東北三県は、12日夜11時から13日早朝にかけて、全国で最も台風特番に注目する地域となった。13日の午前2時でも8%超。多くの人が不安な夜を過ごしていたことがわかる。

さらに長野・新潟でも、他の地域ほど接触率は下がらなかった。13日朝まで、5%超が続いた。

実は12日の深夜に、福島県の新田川や長野県の千曲川などが氾濫し始めた。身に危険が差し迫る地域となっていたのである。

他にも12日夜9時半に、神奈川県相模川上流の城山ダム・長野県天竜川水系三峰川の美和ダム、栃木県那珂川水系箒川の塩原ダムなどが緊急放流を始めた。

川の氾濫が危惧される地域が次第に増えていた。

そして13日朝。

千曲川流域の複数か所での氾濫の模様がテレビに映し出された。人的被害や住宅などの被害も次第に明らかになっていった。

かくして長野県の接触率は、7時台で23.3%と全国一高くなった。台風一過となった南関東より2倍近い値だ。

さらに台風通過直後の東北三県も、川の氾濫や土砂災害が次第に明らかになり始めた。

福島・宮城・岩手の接触率も軒並み20%超。起こってしまった災害、これからあり得る被害について、多くの人が情報を求めていたことがわかる。

市町村によって大差

以上は都府県単位での違いだが、実は特番の見られ方は、市町村単位でも大きく異なっていた。

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例えば神奈川県の西部では、12日昼までの24時間降水量が500mmを超えた地域がたくさんあった。この結果、足柄上郡山北町では、11時に接触率が30%を超えた。しかも夕方4時台には、37.6%まで上昇を続けた。土砂災害などへの不安が高まっていた証拠である。

また相模川下流の茅ヶ崎市では、12日夕方4時台が接触率31.5%で最高だった。

上流にある城山ダムが午後5時に緊急放流を初めて実施する可能性があると発表された直後だった。自分たちの命に直接かかわる情報の力はさすがに強い。外出を控えていた人が多かったこともあるが、4時台で30%超はスポーツの国際大会でも滅多に出ない数字だ。

こうした災害の心配がなかった横浜市西区より、倍近い値となった。

異なるピーク

死者30人と被害が大きかった福島県でも、接触率は地域によって極端な差が出た。

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双葉郡葛尾村では、12日夜7時台の接触率が50%。土砂災害が危惧された地域だった。そして翌朝6時台も37.5%まで上がった。実際に被害が発生しており、住民の関心がかなり高くなっていたことがわかる。

氾濫した只見川沿いの河沼郡柳津町では、接触率のピークは12日夜11時台だった。

台風が接近し、川の水量が増すにつれ、人々の不安が高まっていたようだ。

河川の氾濫で住宅被害が出た石川郡古殿町も、特番はよく見られた。

比較的早い時間から高い水準で上下動を繰り返していたが、ピークは13日朝の8~9時台。身近に被害が発生し、地元福島県や近隣県での状況が気になり、テレビを見た人が多かったようだ。

テレビ壊滅のケースも

福島県に次いで死者が多かった宮城県でも、状況は同様だ。しかも宮城県では、テレビが壊滅する状況も発生していた。

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複数か所で氾濫した阿武隈川の下流にある角田市や丸森町では、12日午後から接触率が20%を超えるなど、台風への警戒感がかなり高かった。

そして実際に大きな被害が顕在化した13日朝、角田市の朝8時台の接触率は34.3%と、県内でもかなり高くなった。

一方、町の中心部が浸水の被害を受けた丸森町では、12日午後から夜にかけては、接触率25%超が続くほど警戒していた。ところが町の各所で停電も発生し、住民はもはや自宅でテレビを見られる状況ではなくなった。

13日朝の接触率はあまり上がらず、夜には1%を切るまでになってしまった。町のほぼ全域が被災した状況が見て取れる。

地域差が出やすい県

県内が北信・中信・東信・南信の4地域に分かれる長野県も、台風特番の見られ方は差が大きかった。

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小海町のある東信地域は、12日夕方までの24時間で、これまでに経験したことのないような大雨となっていた。この結果、小海町の午後4時台は接触率36.2%と高い数字を出していた。県内では断トツだ。

一方この時点では、北信に位置する長野市はあまり切迫していなかった。

ところが千曲川氾濫のおそれが非常に高い「氾濫危険水位」を超えた夕方から、長野市の接触率は急伸し、夜8~9時には20%を超えた。

結局、千曲川およびその支流が、県内6か所で氾濫した。

堤防が70mにわたり決壊した長野市では、朝7時台の接触率が31.2%にまで急伸した。また千曲川の支流「滑津川」と「志賀川」も決壊したが、そこから比較的近い小海町も、朝7時台は34.0%まで数字を上げている。

千曲川およびその支流の決壊は、それほどショッキングな出来事だったのである。

ところが南信に位置する駒ヶ根市では、普段よりは高いものの、台風特番にはあまり反応しなかった。やはり自分事と受け止めるには、距離があったようだ。

次世代の台風報道

以上、台風特番の接触率を、県単位および市町村別に分析してみた。

ここまでで分かる通り、視聴者の求める情報は、地域、地形、生活実態、そして台風の状況で時々刻々変化する。

これを前提とするならば、各地を点でリレーしつつ、全体状況を俯瞰するような報道だけでは十分でないことがわかる。

例えば、川の増水・氾濫・決壊に直面する人々へは、川の上流から下流にかけて一貫した情報を時系列で提供できると、次の一手をどうすべきか、視聴者の判断はかなり的確になるだろう。

土砂災害の危険性がある人々には、降水量の情報や土砂崩れのメカニズムなど、テーマに沿った情報提供があると分かりやすい。

また、神奈川県武蔵小杉のタワーマンションで被害が発生したように、都市部の集合住宅向けの情報も、実はルールや補償関係などが多岐にわたるゆえ、切り口を決めて報道するとニーズを満たすことになろう。

こうした多様なニーズに多様なテーマの報道を展開するには、やはり1局1チャンネルだけでは厳しい。地デジのマルチチャンネル機能を活用して、1チャンネルは全国を対象とした放送(娯楽を含む)、もう1つは各局の判断で特定ニーズに対応した放送をしたらどうだろうか。

放送局の人手が足りないという声も聞く。

しかし今回の報道でも、各地の監視カメラが活躍している。既に多くの地域には、地域メディアがあるし、SNSなど連携できるネットシステムもある。

社内の事情で「出来ません」と、言っていられる状況だろうか。

地球温暖化の進行により日本は、今後も豪雨を伴う強烈な台風の直撃が避けられない。

その時に最善の報道を実現するために、テレビ局・国・自治体・研究者・地域メディア・ネット企業が一緒に考え、パフォーマンスの最大化を図ってもらいたい。

使える武器は揃い始めている。あとは知恵と実行力あるのみ。