会社員と中高生は“空気”に疲れてる!?~黒木華『凪のお暇』が逆照射した世相~

(写真:ロイター/アフロ)

“真面目で気が弱く優しい”が、場の空気を読みすぎて倒れてしまった良い人が、幸せになるため人生のリセットを試みた物語『凪のお暇』。

最終回までの個人視聴率を分析すると、職業別では会社員、人生のライフステージ別では中高生がこのドラマに最も反応していた。

2007年には「KY(=空気を読めない人)」が新語・流行語大賞の候補になったが、“空気を読む”という同調圧力は、その後も日本に蔓延している。

会社員と中高生はドラマのどんな展開に反応したのかを分析してみた。

同調圧力からの自由

組織や集団において、少数者に対して周囲と同じように考え行動するよう、暗黙のうちに強制する“同調圧力”。

ドラマ第3話では、群れからはぐれるイワシの場面が出てくる。

凪(黒木華)「がっ、がんばって! 落ち着いて。きっと、まだすぐ戻れるから」

周囲の流れに逆らうイワシを応援する凪。本当は縮れ毛なのにストレートのサラサラヘアを装い、会社でも空気ばかりを読んでいたが思うように振る舞えないOLだった凪は、平然と皆と逆を行くイワシに憧れていた。

一方、素直に自分を出せない慎二(高橋一生)は、そのイワシをバカにする。

「何はぐれてんだ、あのイワシ。空気読めよな(笑)」

ところが、幼い頃から空気を読み、理想の家族ショーを演じて来た慎二は、本音を凪に語らなかった。

「俺、そいつに憧れた。どんどんはぐれろ、勝手にどこまでも行っちまえっ」

ドラマは会社を辞め、住んでいたマンションも解約し、付き合っていた慎二を含め関わっていた全員と連絡を絶ち、コンプレックスだった天然パーマもそのままに、東京郊外のボロアパートで凪が暮らし始めたところから始まった。同調圧力からの自由がテーマだった。

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会社員たちが共感

関東5000人以上の個人視聴率を、詳細な属性別に把握しているスイッチ・メディア・ラボによると、職業別では会社員がドラマに最も反応した。

初回以降、個人視聴率が右肩上り基調となった『凪のお暇』だが、初回を100とすると、会社員は第2話が119、第3話で152と視聴者数が急増していた。

一方、会社組織の中での権力者たる経営者、自分で全てを差配する自営業者、そして家庭の中で主導権を握る主婦などは、逆に2~3話で視聴者を減らしていた。

日々の仕事や生活で、同調圧力をヒシヒシと感ずることの多い会社員だからこそ、3話までで1.5倍も増えていたようだ。

凪は家電メーカーで働く28歳のOL。

空気を読みすぎ、いつも笑顔だが、内心はビクビクしていた。足立心(滝内公美)ら同僚の言動に卑屈なくらい反応していた。

そんな凪の拠り所は、皆に内緒でつきあう営業部のエース・我聞慎二(高橋一生)。ところが慎二はモラハラ男で、凪は結婚してもらうために嫌なことをされても我慢し続けた。

ドラマ序盤に対してSNSでは、会社勤めと思しき人々の共感の声が寄せられていた。

「凪のお暇分かり過ぎて・・・女子社会生きづらいよね~」

「空気読むの疲れるんだよね」

「凪ちゃん、悲しい。この空回りのしんどさ」

「自分を見ているようで、辛すぎる」

終盤は中高生で大ブレーク

実は会社員以上に同ドラマに反応した層がある。人生のライフステージ別でみた場合の、中学生と高校生だ。

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初回から3話までで1.5倍に視聴者が増えた会社員に対して、中高生は2.5倍ほどに伸びていた。しかも終盤に至っては、3倍から最終回の3.5倍と、急傾斜な右肩上り曲線を描いた。

序盤で急伸した会社員も、中盤以降は伸びていない。中高生の圧倒的な反応が印象的だ。

同じ学生でも、小学生は終盤でこそ1.6~2.2倍と増えていたが、それまではあまり増えていなかった。まだその年頃は、人間関係の煩わしさに反応する前の、あどけない子供も多いのだろう。

また大学生も、2話以降では初回を下回ることが頻繁にあった。大学生活では、全員が同じ授業を受けるわけではなく、本人の選択により別々の道を歩める。そもそも大学での滞在時間も、中高生と比べればずっと短くて済む。

会社員と中高生が顕著だったのは、同じ仲間と物理的に一緒にいる時間が長いのと、関係が濃密だからだろう。

その中でも、会社員より中高生がより急増したのには、理由が三つほどありそうだ。

一つ目は、学校でのクチコミという評判の伝播力。

二つ目は、思春期前後で他人との距離の取り方が未熟なために、“自分事”の度合いが高かった。

そして三つ目は、“空気を読む”だけでなく、子供をスポイルしてしまう毒親問題を、同ドラマがもう一つのテーマとしていたからだろう。

同調圧力は家庭から

中高生は終盤で大きく反応した。ドラマが原作の領域から出て展開し始めた部分だ。

柱の一つとして、凪をめぐって慎二とゴン(中村倫也)の三角関係が転がり始めていた。ラブストーリーが中高生を惹きつけた側面はもちろんある。

もう一つの柱が、毒親から如何に自由になるかだ。

凪がそれを果たすのは、慎二の祖母の米寿祝いのパーティ。凪の母(片平なぎさ)と、慎二の両親との顔合わせが行われたが、その場で慎二の母(西田尚美)は、興信所を使って凪の家族の真実を暴いてしまった。

ところが慎二の兄・慎一(長谷川忍)が乱入し、我聞家の仮面も剥ぎ取ってしまった。

屈辱を受けた末に、我聞家も酷い状況と知った凪の母は、あざ笑いながら凪に吐き捨てた。

「ハッハッハッハ。さすがあなたが選んだ人ね、凪。みっともないご家族」

この言葉に対して凪は、初めて本当の気持ちを母にぶつけた。

「嫌い……。お母さんがずっと。罪悪感あおって言うこと聞かせようとするところとか、外ではいい人ぶるところとか、自分もできないようなこと私に期待するところとか、嫌い」

こうした展開を、固唾を飲んで見入った中高生が多かったが、実は視聴者数の伸び率では、女子より男子が勝っていた。

女子は最終回までで3.4倍に増えていたが、男子は5.2倍に達した。初回の絶対数が女子の半分だったこともあるが、“空気を読む”同調圧力と毒親からの独立に関心を示す男子が少なくないと推察される。

アラサー女の成長物語

『凪のお暇』最終回は、主人公の成長物語で締めくくられた。

生き方を変えてくれた凪にプロポーズしたゴン。ところが凪は、感謝を言葉にして断った。

「私ゴンさんから色々もらうんじゃなくて、美味しい空気を大好きな人たちにあげられる人になりたい」

かつてイワシの群れを見た水槽の前で、慎二にも感謝の気持ちを言葉にした。

「さまよった時はいつも慎二が助けてくれた。なのに私はずっと一緒にいたのに、慎二の思いも家族のことも何もわかってあげられてなかった。ごめん」

「好きになってくれてありがとう」

凪の未来に自分がいないことを悟った慎二は、「おまえはしっかり一人で泳いでいるよ。俺もお前から卒業してやる」と凪の言葉を受け入れた。

かくして凪もお暇から卒業することとなった。

同ドラマの視聴者を世代別でみると、F1(女20~34歳)が最初から最後までを比較的よく見ていた。一般的に数字の高いF2(女35~49歳)に迫る個人視聴率となっていたのは珍しい。

会社員の中でも女性こそ、同調圧力と毒親の問題に強い関心があったようだ。

そして慎二にもゴンにもなびかず、ウィッシュリストの実現を選択した凪の生き方に共感したアラサー女性が多かった。

「素晴らしいドラマだった」

「私が望んでいた形に一番近い終わり方だったー!」

「私もウィッシュリスト作って頑張って生きる」

二人の男のどちらを選ぶかという恋愛ものに終わらず、どう生きるのかの成長物語で締めくくった『凪のお暇』。

「空気は読むものではなく、吸って吐くもの」

周囲に流されずに、自らが人生の主人公となる生き方に勇気を与えてくれた同ドラマに拍手したい。