『あなたの番です』右肩上りのメカニズム~それは母娘の随伴視聴から始まった!?~

2クールに渡り放送された『あなたの番です』が、ついに最終回を迎える。

初回はまずまずだったが、2~8話では視聴率が低迷し、「大コケ」「失敗作?」「2クール持たない」「暗すぎる」などの批判がネット上に溢れた。ところが第1章の終盤から持ち直し、第2章・反撃篇で右肩上りとなった。誰が犯人かの考察もネットに溢れ、日テレの幹部も「読み切れていなかった」と明かすほど加熱した。

では同ドラマは、なぜここまで盛り上がったのか。

各種視聴データから誰が見ていたのかを割り出し、ヒットのメカニズムに迫りたい。

苦戦の序盤

第1話のマンション住人会。

「“殺したい人”が一人くらいいるのではないか?」と管理人・床島比呂志(竹中直人)の発した一言で、交換殺人ゲームが始まった。マンションの住人も、それ以外の人も次々に巻き込まれていく。

初回ラストで、床島がマンション屋上から宙吊りにされ、転落死した終わり方は衝撃的だった。

ところが、これは序の口。回を重ねるごとに誰かが死んで行く展開に、毎回戦慄が走った。

日曜の夜10時半からの一時間として、直ぐに眠れなくなってしまうような展開だ。

田中圭と原田知世がW主演で、年の差新婚カップルのホッと一息つけるシーンもあったが、2話以降は1~2%数字を落とし、低迷してしまった。

SNSやネット記事でも、批判がかなりあった。

「大コケに日テレ内戦慄」

「半年間放送の“地獄”」

「主要キャラクターが多すぎて理解できない」

「子どもには見せられない」

「殺人ばかりで日曜夜に見るドラマとしては暗すぎる」

ところが第1章前半での苦戦は、ある程度読み込み済みだったようだ。日本テレビでドラマ統括の福士睦情報・制作局担当局次長は、次のように語っている。

「秋元康さんの“交換殺人ミステリー”というコンセプトは秀逸で、必ず当たると確信していました」

「しかし登場人物が多数になり、わかりやすいドラマにはなりません。浸透するにも時間がかかるので、当初は苦戦するかもしれないと覚悟はしていました」

「1クール目では土台をしっかり作り、SNSや動画などでしっかり話題の種をまいておくように努めていました」

発火点は小学生女子と母親!?

ネット記事の中には、「視聴率3%台に沈んだまま延々と半年間放送し続けなければならない可能性も出ている」と断じたものもあった。

ところが第1章中後半まで6%台で持ちこたえ、終盤で8%ほどに数字を戻す。ここを支えたのは、実は小学生女児とその母親たちだったようだ。

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テレビ視聴やネット上の情報消費をシングルソースで調査するインテージのi-SSPは、東阪名の大都市圏で7000人を対象にデータを集めている。これによると、『あなたの番です』を圧倒的に視聴していたのは、男女19歳以下だった。さすがに第1章の途中は中だるみがあったが、それでも第5話で持ち直し、第1章の終盤で急伸していた。

この層につられてか、F2(女35~49歳)とF3(女50歳以上)が、第1章の間に右肩上がり傾向となっていた。男性陣はほとんど反応していなかったにもかかわらずだった。

関東2000世帯・5000人のテレビ視聴状況を調べるスイッチ・メディア・ラボのデータでは、性年層や属性別に、誰がより見ていたのかを追跡できる。

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これによると、第1章の前半から後半で数字を上げていたのは、小学生とF1(女20~34歳)およびF2(女35~49歳)だった。しかもより詳細に分析すると、小学生でも男子はあまり伸びておらず、顕著に伸びていたのは女子だった。

そして既婚女性や主婦も個人視聴率を上げていた。

つまりお母さんと小学生の娘が、怖いものみたさでドキドキしながら凝視していた可能性が高い。

ではお父さんはどうか。

残念ながら、第1章の前半と後半では、既婚男性や会社員の個人視聴率は微増にとどまった。翌月曜からの仕事が気になるのか、子供とくつろいで“交換殺人”を楽しむ余裕はあまりなかったようだ。

ツイッターの活躍は第2章以降

今回のドラマは、ツイッター世界トレンドで1位になり、「#あなたの番です考察」が飛び交うなど、SNSがかつてない盛り上がりを見せた。

中にはつぶやきが視聴率右肩上りに大きく貢献したという意見も出ているが、データを冷静に見ると、それは言い過ぎと言わざるを得ない。

インテージのi-SSPは東阪名2300人について、テレビ視聴とスマホ(Android)の利用状況をシングルソースで調べている。このデータを分析すると、『あな番』の視聴者と非視聴者のネット活動の違いが見えてくる。

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その中のツイッターの平均利用時間を調べると、番組視聴時あるいは視聴直後に誰がどの程度つぶやき、人の発言を見ていたかの状況が浮かび上がる。

これによると、第1章前半は設定や展開が衝撃的なため、視聴者が活発にツイッターを利用していた。ところが第1章後半は、ツイッター利用は下火になってしまった。

やはりこの時期、お母さんと小学生の娘が、ドギマギしながら、ネットで発信することなく、ひたすら画面を凝視したことが、同ドラマの数字を支えたようだ。

ツイッター以外も活躍

第1章のラストで、W主人公の1人・手塚菜奈(原田知世)が殺されたのは、あっと驚く展開だった。この衝撃で、第2章・反撃篇の初回は、視聴率がギザピョンと跳ね上がった。

しかも同ドラマはオリジナルで、次が読めない。「展開が気になる」「続きを早く見たい」と強く思った視聴者が少なくなかった。

「#あなたの番です考察」のフィーバーは、こうした中で従来にない盛り上がりを見せた。

しかしツイッターのつぶやきは、1日あたり数万単位。目に見えて視聴率を押し上げるのは容易ではない。

制作陣はネット上に幾つかの仕掛けを配し、“中毒性のあるドラマ”の内容と相まって、右肩上りがもたらされたと思われる。

仕掛けの一つは、各話の「5分でわかる〇話ダイジェスト」配信。

公式ホームページの「あらすじ」には、「以下ネタバレはこちら」というボタンもあった。5話分を簡潔にまとめた「あな番まとめ」動画もあった。他にも、「重大なヒント」動画、「最終回への『謎』まとめ」動画まで用意する周到さだった。

きわめつけは6月下旬の「第1章全話と特別編の無料配信」と、7月中下旬の「1~13話の無料配信」。「見てなかった人」「一部見逃してしまった人」「謎解きをしっかりやりたい人」など、様々なニーズに応えるべく、ネット展開が懇切丁寧にやられていた。

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結果として、放送後の人々のネット利用はどんどん増えて行く。

インテージi-SSPデータによれば、同ドラマを見た人のネット利用は次第に増えており、ツイッター以外にも、ホームページや動画に触れる人が増えていたことがわかる。

ドラマ成功の鍵はコミュニケーション・デザイン

同ドラマは、日テレ25年ぶりの2クールドラマだった。

しかも第1章で「毎週、死にます。」のキャッチコピーを掲げ、各話の最後に衝撃的なシーンを並べ、一部に「子どもに見せられない」「暗すぎる」などの反発も招いた。

実際に視聴率は第1章の2話以降で低迷したが、小学生女子と母親を中心に、一定程度支えた。筆者の子供も学校で話題になっているので録画で見始め、「怖いッ~」と言いながらハマっていた。

日テレの福士睦ドラマ統括は、2クールものの設計として、次のように語っている。

「1クール目で土台をしっかり作り、SNSや動画などでしっかり話題の種をまいておきました」

「必ず当たると信じて、中毒性のあるドラマを意識しながら制作し、話題性を広げる様々な施策を展開し続けたのです」

なるほど「2クールもの」「殺人など尖がったドラマ」など、幾つものリスクを承知の上で臨んでいたようだ。

結果として、第2章以降の右肩上りというリターンが得られている。しかも同ドラマは、見逃しサービスや一気見のVOD、関連動画の視聴、関連グッズ、海外番販・映画など、従来のドラマ以上に二次利用の可能性が高くなっている。

こうした立体的な仕掛けの基本は、作り手が視聴者とどんなコミュニケーションをデザインするかだ。ドラマの内容をしっかり考える人、そのドラマの価値を内容的にもビジネス的にも最大化する人と、日テレは分業体制を徹底させて臨んできたのだろう。

5ヶ月にわたって、視聴者の心を翻弄し続けてきたドラマの最後は、どんなピリオドが打たれるのか。これまでばら撒かれた布石は、どう回収されるのか。

そして放送後の二次展開で、ビジネス展開をどう創造するのか。

ドラマ最終回と同様、ハイリスクを勝ち抜いた同局のリターンの最大化戦略にも注目したい。