『24時間テレビ』批判への疑問~背景にあるのは世帯から個人重視の姿勢~

番組ホームページから

平均世帯視聴率が16.5%と、相変わらず高い数字をたたき出した日本テレビ『24時間テレビ』。

「マンネリ」「チャリティー精神にもとる」「視聴率優先」など、ネット上には否定的な意見が少なくない。しかし今年は、「熱血」「アート」「スポーツ」など、ガチな要素を増やしたために、世帯視聴率ではなく個人視聴率で大変な結果が出た。

90年代以降、ドキュメントバラエティという新分野を開拓し、幅広く多くの人に見てもらう方法論を確立した同局。明らかに今回は、これまでのノウハウを活かし、個人視聴率を伸ばす令和の“新24時間テレビ”の方向性を示していた。

24時間テレビの歴史

『24時間テレビ「愛は地球を救う」』は、日本テレビ 開局25周年特集として、1978年に始まった。

初回の平均世帯視聴率は15.6%。目的だった募金も12億円近くに達し、翌年以降も継続となった。

ただし2回目以降、視聴率は次第に下がった。募金も初回の半分ぐらいの年も出て来た。

そこでマンネリを打破するため、日テレは1992年にリニューアルを行い、エンタメ化を進めた。

ドラマやドキュメンタリーなどを、福祉色から音楽番組など娯楽色を強めた。さらにチャリティーマラソンをスタートさせ、感動を演出するようになった。

かくして平均視聴率は安定して二桁をとるようになった。ビデオリサーチが調べる平均視聴率は、05年に19.0%を記録した。募金も2011年に、19億8600万円ほどと最高を記録した。

以降も世帯視聴率は15%以上で推移している。

HUT(総世帯視聴率)が1割以上下がる状況下で、数字を一定以上に保っているのは大健闘といえよう。

批判の声

ところが同番組に対しては、批判の声が少なくない。

今年の放送に対しても、ヤフーリアルタイム検索を見ると、感情の割合はポジティブとネガティブが半々。否定的なつぶやきがかなりの数にのぼる。

例えばデーブ・スペクターが、放送のエンディングでつぶやいた批判は辛辣だ。

「障害を持つ方へのサポートを目的にしているはずなのに、実際は広告代理店と企業の利益とイメージアップのために続けられている。僕は、本当のボランティアとは何かを、大好きな日本の皆さんに分かってほしい」

このツイートには、リツイートが8万5千強、「いいね」が28万近くもついた。

放送直後に出されたネット記事『今年も終わった日テレ「24時間テレビ」、マンネリ化を脱するための“ギャラの話”』の論調も手厳しい。

「“マンネリ”と言われて久しい」

「これがチャリティーとどう結びつくのかは誰にも説明できないだろう。そろそろチャリティーの原点に立ち返り、再出発したらどうだろう」

『3冠危うく視聴率稼ぎ 24時間テレビ「不要論」日テレ内外から噴出』では、視聴率優先の姿勢を批判した。

「なりふり構わず番組PR攻勢に明け暮れた」

「視聴率3冠王に黄色信号がともり始めていますから(中略)『24時間テレビ』でドカンと高視聴率を取り、貯金をしておく必要があった」

「いま一度、番組のコンセプトを考え直す時が来ているのかも知れない」

随伴視聴が伸びている!?

いずれも見直し・出直しを迫る意見で、一聴に値する部分がないわけではないが疑問も残る。

番組の内容を精査せず、思考停止した批判という感じが拭えないからである。

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まずはデータから見てみよう。

ここ5年、世帯視聴率は15~18%台で上下して来た。上昇傾向でも下降傾向でもない。

しかし関東で2000世帯5000人以上の視聴率を測定しているスイッチ・メディア・ラボのデータでは、個人視聴率は明らかに上昇傾向にある。

特にC層(男女4~12歳)・1層(男女20~34歳)・2層(男女35~49歳)・3層(男女50歳以上)は、ここ5年で最高値。T層(男女13~19歳)も2位の記録となった。

世帯が大きく変わっていないのに、個人が伸びているのは何故か。

一人ではなく、家族一緒に視聴する家庭が増えている可能性がある。特に子供の視聴が増えているのは、親との随伴視聴が伸びている証拠だろう。

それを裏付けるのが、視聴者層の年齢別比率だ。

近年の番組は、3層が極端に高く、C層から1層の若年層が低いケースが目立つ。

“若者のテレビ離れ”と言われることもあるが、『24時間テレビ』に限っては、10代以下・20~40代・50歳以上がほぼ3分の1ずつと均等だ。

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例えば快進撃を続けるテレ朝『ポツンと一軒家』だと、C層やT層は3層の6分の1未満しかいない。世帯視聴率が20%を超えても、その割に個人視聴率が低い。高齢者が独りで見ているケースが多そうだ。

TBS『金スマ』も、ジャンル別週間視聴率ベスト10に時々ランクインする人気番組だ。ところが視聴者の年齢分布は、過半を中高年が占め、10代と1層は合計しても全体の3分の1しかいない。

現在のバラエティ番組では、『イッテQ』の年齢バランスが最も良い。各層がほぼ均等となっている。家族一緒に楽しむ家庭が多く、広告主からみてもCMで商品を認知してもらうには最適となっている。

一方『24時間テレビ』には、チャリティーの要素があり、深夜早朝もある。

それでも番組全体の平均は10代以下が3分の1を占め、中高年が突出しているわけではない。『イッテQ』には及ばないものの、世帯が横ばいなのに個人が伸びているところを見ると、ここ数年で家族一緒に見る家庭が増えているのは間違いない。

放送における“撒き餌”論

デーブ・スペクターは“チャリティーは隠れ蓑”で、実際は“企業の利益とイメージアップ”が目的と断じた。

もしアメリカのチャリティー番組が、娯楽の要素なしでストレートな福祉番組でもよく見られているのなら、それはそれで立派なことで、筆者はそれを否定する気はまったくない。

しかし日本では、真面目な福祉番組は実態としてあまり見られない。

NHKのEテレで放送している『バリバラ』は、大切な問題提起をしているものの、見ている人の数は少ない。

『24時間テレビ』の裏で、「2.4時間テレビ 愛の不自由、」と『24時間テレビ』に関連づけても、視聴者数はほとんど増えなかった。

こうした現実を前にした時、チャリティー番組に娯楽や感動の演出を加えるのは間違いと言えるだろうか。

筆者はイギリスの公共放送BBCを取材した際、「大切なメッセージに視聴者が偶然出会ってもらうために、娯楽は必要」と話していたことを思い出す。

いわゆる“撒き餌”論だ。

NHKもドラマやバラエティを放送している。

受信料で放送する必要はないと主張する人もいるが、重要なテーマに触れてもらうために、娯楽でアクセスし易くするのは、表現の世界ではよく見かける手法だ。

「チャリティーとどう結びつくのかは誰にも説明できない」という批判があったが、現に視聴者層は拡大し、福祉問題に新たに触れた若者は少なくない。募金も毎年7~10億円ほど集まっている。

「視聴率3冠王に黄色信号がともり始めて・・・」という批判もあったが、これは事実誤認だ。

テレ朝が全日(6~24時)で日テレに迫っているのは事実だが、19年は既に7か月が経過し、日テレがリードを保っている。しかも8月はテレ朝が失速気味で、『24時間テレビ』がなくとも両局の差は拡大していた。

残り4か月で逆転するのは容易ではない。

個人視聴率上昇の要因

今年の『24時間テレビ』には、企画に進化があった。

福祉に関わるものも少なくなかったが、“熱血”“スポーツ”“アート”“パフォーマンス”など、障害の有無に関係なく感動でき、楽しめる取組がたくさん紹介された。

例えば「国技館100人ダンス」「聴覚障害の少年が挑む1500m走」「羽生結弦×松任谷由実のコラボ」「義手の野球少年」「嵐×高校生ブラスバンド甲子園」「世界記録チャレンジ・フライングディスクリレー」「熱血スポーツアートパフォーマンス」「ゴルフ10人パターチャレンジ」などだ。お腹の底から笑えるシーンも少なくなかった。

日テレは90年代から、ドキュメントバラエティという新ジャンルを開拓した。『進め!電波少年』『ウリナリ!!』などに象徴されるガチな企画を柱にしたバラエティだ。

バカバカしいことに真剣に挑戦する熱量に、視聴者は魅入った。今年の『24時間テレビ』は、その手法により若年層を今まで以上に取り込み、世帯は変わらないものの、個人視聴率を伸ばしている。

令和の『24時間テレビ』は、恐らくこの方向をブラッシュアップして行くのだろう。

日テレの決算報告には、「生活者ファースト」と「クライアント満足」という言葉が出てくる。より多くの視聴者に見てもらい、広告主のニーズを満たす道だ。

ここから見れば、「企業の利益とイメージアップ」は明らかに視野に入っている。いわば民間放送局の本来業務だが、それを誰が批判できるのだろうか。

撒き餌としてのエンタメの先の感動を、ドキュメントバラエティ的手法を通じて究める。今後も『24時間テレビ』の進化は続きそうだ。