フジ月9のテレ朝化が止まらない!?~医療×刑事の上野樹里『監察医 朝顔』の明暗~

GP帯(夜7~11時)の夏ドラマ初回が、これまでに7本放送された。

その中でフジテレビの月9『監察医 朝顔』は、テレビ朝日の初回2本と並び、高い視聴率で始まった。

上野樹里と時任三郎が、法医学者と刑事という異色の父娘となった。「すべての視聴者に生きる意味と喜びを贈る!」感動作という触れ込みだ。

ただし初回の視聴者層を分析すると、テレビ朝日の3本平均と酷似しており、日本テレビや4年前の月9とは大きく異なる。

若年層より高齢層を重視したかのような、“テレ朝化が止まらない”月9の明暗を考える。

初回の視聴者層レーダーチャート

主人公の万木朝顔(上野樹里)は、懸命かつ真摯に遺体に向き合う新米法医学者。そして父・万木平(時任三郎)は、仕事でも寄り添うベテラン刑事。

娘は解剖・父は捜査で、遺体の謎を解き明かすサスペンスドラマ。遺体から見つけ出された“生きた証”が視聴者の心を癒すヒューマンドラマのようだ。

ビデオリサーチの世帯視聴率では、初回が13.7%。

7月上旬放送のテレ朝3本は、『刑事7人』13.2%、『科捜研の女』12.1%、『サイン-法医学者 柚木貴志の事件-』14.3%。これら4本が上位だが、いずれも刑事・医学をフィールドにする鉄板モノのサスペンスドラマだ。

特に『監察医 朝顔』は、1つのドラマで医学と刑事の二つのフィールドを併せ持ち、数字への強いこだわりを感ずる。

初回13.7%は狙い通りと言えるが、個人視聴率を調べるスイッチ・メディア・ラボのデータでみると、必ずしも喜んでばかりいられない。

個人全体を分母に、男女年層別の比率を追うと、今回の月9はF3(女50歳以上)、M3(男50歳以上)、F2(女35~49歳)の順となり、フジ月9が得意としてきたF1(女20~34歳)やFT(女13~19歳)は、4年前の2分の1から3分の1に激減している。

かつての月9と最も近いのは日本テレビだ。

『ボイス 110緊急指令室』と『偽装不倫』の初回、および春からの2クール連続『あなたの番です』の平均は、1層2層で高く、3層の中高年層は低い。

そして世帯視聴率でトップを行くテレ朝の3本。

個人視聴率ではT層・1層・2層で最低だが、極端に高い3層が世帯を支えている構造だ。フジはかなりテレ朝に近いレーダーチャートを描いている。

月9の世帯視聴率推移

かつてフジ月9は、平成のテレビを象徴する大ヒット枠だった。

男女の恋愛やトレンドを描き、バブル景気で夢を膨らませた若い女性を虜にした。主役は旬なアイドルなど。役柄はいわゆる“カタカナ職業”。そして話題のスポット・ファッション・ライフスタイルなどが描き込まれ、大ヒットを連打した。

画像

初期の注目作は『東京ラブストーリー』や『101回目のプロポーズ』。91年の同枠年間平均は21%を超えた。

そして93年、『ひとつ屋根の下』と『あすなろ白書』が25%超。平均は23.2に跳ね上がった。

さらに97年、30%前後の『ひとつ屋根の下2』と『ラブジェネレーション』で、年間25%超を達成した。ドラマ枠としては空前絶後の全盛期だった。

ところが勢いは、次第に衰え始める。

2002年に初めて15%を切った。09年以降は15%未満が普通となり、16年は遂に一桁という不名誉な記録を出してしまった。

その後も一桁が続いた。

ところが去年夏以降、『絶対零度』『SUITS』『トレース』と二桁を回復し、春の『ラジハ』で12%台の大台に戻した。

『監察医 朝顔』初回13.7%も、『SUITS』に次ぐ高さとなっている。

個人視聴率で分析すると・・・

ただし好調ぶりは、刑事モノ・弁護士モノ・医療モノなど、数字のとれる鉄板ネタで攻めた結果という側面が否めない。

かつての煌びやかなトレンディ路線のテイストは、大きく影をひそめている。

画像

この方針変更は、過去5年を振り返ると3期に分かれる。

全盛期を踏襲した恋愛モノ期、低迷脱出を狙った模索期、そして数字重視で鉄板ネタを並べたこの1年だ。

この間の変化を個人視聴率で精査してみよう。

17年夏の『コード・ブルー』はシリーズ3本目ゆえ、例外として見て頂きたい。すると18年冬までが世帯の下降期で、18年春以降に反転攻勢が始まったことがわかる。

ところが個人視聴率では風景が異なる。

恋愛モノ期のF1F2平均が一番高く、この1年は世帯こそ高いが、若年女性は当時をあまり超えていない。

では世帯視聴率は、なぜ上がったのか。

実はF3が最悪期の2倍ほどに跳ね上がり、世帯全体をけん引したからだ。

今のテレビの視聴者は、3層が6割強を占めている。この10年でみると、実際の人口動態以上に、テレビ視聴者の高齢化が進んでいる。高齢者の人口増と、テレビの長時間視聴の影響だ。

逆に若年層は、テレビ離れで絶対数が減ると同時に、一人当たりの視聴時間が減っている。

テレビ視聴者の極端な高齢化は、こうして進んでいた。

フジ月9のこの1年の好調ぶりは、テレビ視聴者の動向を前提に中高年シフトを果たしたことでもたらされていたのである。

月9好調の明と暗

ではフジ月9が中高年を獲り始めた効果はどんなものか。

実は17年に就任した宮内正喜社長は、「フジは完全に非常事態」とし、去秋まで3回の改編で、編成の一新を図った。

『とんねるずのみなさんのおかげでした』『めちゃ×2イケてる!』の長寿2番組を打ち切り、この直後から月9を視聴率重視へと舵を切ったのは、こうした危機感からだった。

かくして月9の世帯は、安定的に二桁を獲れるようになった。

この果実を今年6月、前社長からポストを引き継いだ遠藤龍之介新社長は、「さらなる視聴率の回復と、その結果としての業績の回復」と発言した。

画像

かくしてフジの17年度G帯視聴率は前年度比-0.3%だったが、18年度は+0.2%と反転攻勢に成功した。

ところが広告収入は、17年度より改善したものの、依然-2.3%と下落は止まってない。15年前と比べると額にして1100億円以上、率にして4割弱を失っている。

実はフジ月9が視聴者層のレイダーチャートで寄せて行ったテレ朝も、状況は似ている。

17年度の世帯視聴率-0.6%を、18年度は+0.6%とした。ところが広告収入は17年度より逆に悪化し、-2%強となっている。

ところが視聴率がプラスからマイナスに転じた日テレは、逆に広告収入をプラスにしている。

世帯は良くないが個人で若年層を高く保ち、広告主からの出稿を順調に得ているからと考えられる。

民放の本来業務が、遠藤社長の発言通り「業績の回復」とするなら、高齢層だけで世帯の回復を達成させると、明暗が伴う。見た目の数字は改善されるが、広告収入増につながりにくいからだ。

やはり課題は、全盛期のように若年層を取り込めるドラマの制作だ。

春の『ラジハ』では、医療という鉄板ネタながら、恋愛モノの要素も前面に出したため、F1は順調に高まっていた。ところが今期の『監察医 朝顔』は、鉄板ネタを二つ重ねて世帯増に成功したが、F1は逆に下がってしまった。

「業績の回復」が果たせるか否かは、どうやら若者の胸を躍らせる面白い番組を繰り出せるか否かにかかっているようだ。月9全盛期の良さをすべて否定せず、ぜひ面白いドラマを発明してもらいたいものである。