F1の田中圭×子供の古田新太×中高年のムロツヨシ~『Iターン』はテレ東ドラマのイノベーション!?~

夏ドラマが次々に始まっているが、そんな中でテレビ東京のドラマ24『Iターン』の試写を見る機会を得た。

同ドラマ初回では、「ビジネスにはイノベーションが必要」というセリフが3回出てくる。激変の時代、どんな組織も個人も、生き残るために進化が求められている。

ドラマは不幸の無限ループに陥った男の“イノベーションによる再生と復活”=“I(自分)ターン”の物語で、タッチはバイオレンス・コメディとなっている。

ただし初回を見ていると、単なるお笑いと感動の物語だけでなく、テレ東ドラマのイノベーションぶりに感心せざるを得ない。

ユニークな存在

テレ東ドラマ24は、2005年秋に『嬢王』でスタートした。

箱入り娘の女子大生が、借金返済のためキャバクラ嬢No1を目指す物語だった。3シリーズまで放送されるほど注目を集めた。

以後同ドラマは、ユニークな作品で異彩を放ち続けた。

制作費は明らかに安そうだが、深夜の放送枠ということもあり、奇想天外な切り口や展開のドラマが多い。その自由さが魅力で、ギャラが安くとも参加したがる俳優やクリエーターも多いと聞く。

例えば『マジすか学園』(10年)は、前田敦子を初めAKB48のメンバーなどが大量投入され、「このドラマは、学芸会の延長であり、登場人物の一部に、お見苦しい(?)演技がございますが~」のテロップが流された。未熟さを逆手に取った、なかなかの戦略だ。

ところが始まってみると話題を集め、結局シリーズは7作まで放送され(第4作以降は日本テレビの制作)、舞台化も3回されている。

ドキュメンタリー風な『孤独のグルメ』シリーズは、超安上がりドラマ。それでもシリーズ7作まで放送されている(ドラマ24としては、5・6・7シリーズを放送)。

「深夜の食テロ」という言葉が生まれたほどの成功作だ。

他にも、『モテキ』(10年)、『勇者ヨシヒコ』シリーズ(11年・12年・16年)、『まほろ駅番外地』(13年)、『アオイノホノオ』(14年)、『侠飯~おとこめし~』(16年)、『バイプレイヤーズ』『下北沢ダイハード』(以上17年)、『きのう何食べた?』(19年)など、ユニークで話題となった作品がたくさんあった。

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上昇する視聴率

ビデオリサーチによる世帯視聴率も、実はこのところ上昇を始めている。

17年までは、深夜の放送ということもあり年間平均は2%前後に留まった。ところが18年は2.6%、19年はまだ半年だが、今のところ3.2%と3%台にのせている。

では誰が見ているのか。

深夜の放送ゆえ若者中心と思いきや、実は中高年で人気に火がついている。関東で5000人を超える個人視聴率を測定しているスイッチ・メディア・ラボによれば、19歳以下や1層(20~34歳)では、世帯が上昇しても個人は全く反応していない。

ところが2層(35~49歳)では1.5倍ほど、3層(50歳以上)では2倍近くまで視聴者が増えている。

自由で奇想天外な物語は、実は若者より中高年の心に火をつけている。

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男女で好みのテーマがやや異なる。

M2(男35~49歳)は、『孤独のグルメ』シリーズ・『勇者ヨシヒコ』シリーズ・『侠飯~おとこめし~』などに反応した。

ところがF2(女35~49歳)は、『孤独のグルメ』にも反応したが、『忘却のサチコ』『フルーツ宅配便』『きのう何食べた?』など、女性やLGBTの生き方に触れるドラマにも熱い視線を送っていた。

ドラマ24が新たな客層を狙う余地は、まだまだ多く残されている。

『Iターン』のイノベーション

そんな流れで、ムロツヨシ・古田新太・田中圭による『Iターン』が始まった。

左遷同然の異動で単身赴任した先で“中年の危機”を迎える広告代理店の営業マンのムロが、2人のヤクザの組長(古田と田中)の間で右往左往するドタバタ・バイオレンス・コメディだ。

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試写を見てまず関心したのがキャスティング。

ムロは18年秋の『大恋愛~僕を忘れる君と』で、戸田恵梨香演ずる女医と運命的な恋に落ちる二枚目役を演じたのが記憶に新しい。

このドラマは世帯視聴率を二桁に乗せる健闘ぶりを見せたが、実は古典的な恋愛物語に心動かしたのは、F3(女50歳以上)が最も多かった。

今年春クールの『俺のスカート、どこ行った?』で、古田新太はゲイで女装家の教師役をやったばかり。衣装・言動・考え方で強烈な印象を残したが、実は最も見入っていたのはC層(男女4~12歳)やMT(男13~19歳)だった。

そして今年4月から9月まで2クール続く『あなたの番です』で、主役を演じているのが田中圭。同ドラマは世帯視聴率が今一つだが、個人視聴率では若年層に抜群に強い。

去年春クールで放送されたテレ朝の土曜ナイトドラマ『おっさんずラブ』で一躍有名になったが、彼の支持者は圧倒的にF1(女20~34歳)。他に2層(男女35~49歳)も強い。

つまりドラマ24は、このところ中高年の視聴者層を急増させていたが、今回のメイン3人で一挙に若年層を開拓しようとしているようだ。

F1に強い田中、子供を集める古田、中高年に共感されるムロ、この3人がどう視聴者層を広げるか、壮大な実験になっている。

視聴者の声

制作側が狙った3人の効果は、一般の方を集めた試写会の感想を見る限り、見事にはまったようだ。

「ムロツヨシさんの演技が予想以上に脳裏に焼き付いて離れません」

「内容自体、ともすれば悲惨な男のつらい話になるところを、ムロツヨシさんがやることで楽しく安心してみれました」

「田中圭さん演じる竜崎さんが甘くてカッコイイ金融屋でした!!ホレます!」

「ムロさんのキャラクターと古田さんの人情味が物語を身近に感じさせてくれている様に思います」

「田中圭さん古田新太さんのシリアスな演技とムロさんのコミカルな演技のギャップにドハマリしました」

「ムロさん演じる主人公が善人って訳でない所が、ヤクザに虐げられてても心から笑えて良かった。もっともっと2つの組からイジメられて欲しい」

試写会に参加し、感想と評価を寄せた112人の5段階評価の平均は4.81。

映画のように閉じ込められた空間で集中して見た結果の評価としても、かなり高いと言えよう。