新海誠監督の最新作『天気の子』が公開されることを記念して、6月30日に『君の名は。』が放送された。

放送は新しい映画との連動企画が多く、番組中に流された広告もコラボCMがたくさんあった。

ただし番組連動CMは近年増えているが、コラボしたからといって視聴者が注目するとは限らない。

放送された連動CMの成功例と失敗例から、より巧みなCMの出し方を考えてみた。

意外に多い流入流出

今回の『君の名は。』は2回目の放送だ。

1回目は去年1月3日。その時の平均世帯視聴率は17.4%で、今回は12.4%と5%ほど下がった(ビデオリサーチ関東地区)。

同じ関東地区で、41万台以上のネット接続テレビの視聴状況を調べるインテージ「Media Gauge」によれば、番組は接触率5%ほどで始まり、終了近くに11.3%まで上昇した。時々刻々と視聴者が増えていたことがわかる。

まず数字が大きく上昇したのは冒頭の1~2分。

最初の1分で2%ほど、次の1分で約1%のテレビが番組にチャンネルを合わせた(流入)。最初から同アニメを見ようと思っていた人は、かなりの数に上っていた。

その後も1分あたり1800台前後が流入を続ける。裏番組がCMに入った時や、毎正時前の5~6分で、ザッピングが急増した影響が大きい。1分あたりの流入は、平均で0.4~0.5%ほどもある。

こうした流入をすべて番組に留められれば、接触率は凄い数字になる。2時間9分の放送時間全体では、余裕で接触率は50%を超える。

しかし途中で番組の視聴を辞める人(流出)もいるので、実際には11.3%までにしか上昇しなかった。その流出の最大の要因は、途中で挿入されるCMである。

CM次第で流出量に大差

放送全体の中で、CMは7回挿入された。

そのCMの中で、15秒あたりの流出が最も多かったのは、最初のCMの途中だった。次にCM6とCM7の冒頭で激しく視聴者が逃げている。

またCMに入った瞬間としては、CM2・CM3・CM5は比較的穏やかで、特にCM1の冒頭はほとんど流出が起こっていない。またCM4もごくわずかな流出に抑えることに成功している。

一般的に番組に見入っている視聴者にとって、CMは邪魔な存在だ。

よって一部の視聴者は、ザッピングして裏番組がどうなっているかを覗いたりする。結果として、その番組を見ていた人の1割前後が逃げ出すこともある。

こうなるとテレビ局にとっても広告主にとっても、流出を起こさせないCM挿入の工夫が求められる。番組本編などとの連動CMは、そうした工夫の一つとして近年増えている。

それでも『君の名は。』で挿入された7回のCMをみる限り、工夫次第で流出の多寡には大差が出てしまうことがわかる。

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本編と同じテイストのCM

今回の放送では、最初に挿入されたのは、Z会のCM『クロスロード』だった。

番組本編『君の名は。』と同じ新海誠監督の短編アニメーションで、本編と比べて流出は全く増えていない。実は去年1月の『君の名は。』1回目の放送の時も全く同じ状況だった。やはり本編とCMが、ほとんど同じトーンで展開されると、視聴者はそのままCMにも見入ってしまう。

ところがこの方式には“落とし穴”がある。

直後に放送されたドコモのCMで、全体で最高の量となる流出を引き起こしていたのである。同CMはディズニーの動画配信についてのもの。『アナと雪の女王』や『スターウォーズ』など、興味深い映像が満載だった。それでも最高の流出が起きているのは、直前に裏番組からの流入があり、このタイミングで元番組に戻っていたこともあるが、やはり本編と無関係なCMへの失望が大きかったと言えよう。

つまり連動性の完成度が高いZ会『クロスロード』は、多くの視聴者に見られて効果が上がった。

ところが直後のCMは、その反動として本来のCMの実態以上の流出に巻き込まれてしまうリスクがある。所詮CMは、本編に見入る視聴者にとっては邪魔者であることに変わりはない。どんなに工夫をしようが、CM全体ではゼロサムゲームなのかも知れない。

スポンサーは意外な“落とし穴”を覚悟しなければならないようだ。

CM冒頭の工夫

ちなみに番組本編と同じテイストのCMを毎回用意するのは難しい。

次善の策として、CM冒頭でちょっとした工夫をしたら、流出は防げるのだろうか。

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今回のCM2とCM4では、『君の名は。』と新作映画『天気の子』の両方を引っ掛け、それなりの効果を上げていた。

両CMの冒頭は提供コールだったが、2社並んだロゴが互いに入違っており、アナウンスでそれを指摘すると、正しいロゴに戻るという流れだった。

『君の名は。』の主人公二人の入違い物語を、CMでもやってみせたのである。

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次に提供コール明けは、『天気の子』のアニメ映像に、スポンサーの商品が露出された。

二つのアニメを引っ掛けた工夫により、二つともCMパートでの流出が比較的少なく済んだ。CM冒頭での流出が小さかっただけでなく、CMの間での15秒あたりの平均流出量も抑えられたのである。

ところが工夫が施されないCMでは、明らかに流出が増える。

CM3では、普通に提供コールを行った結果、相当数の流出が起こってしまった。結果として、15秒あたりの平均流出量も、CM2やCM4より大きくなった。

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ただしCM3では、挿入を9時50分台に始め、53分台に本編に戻した点が功を奏した。

裏の3番組が同じタイミングで終了し、CMやミニ番組になったため、大量の流入が発生したからである。結果として、流出を補ってあまりある流入を得、接触率の右肩上がりが保たれた格好だった。

番組後半CMのリスク

CM5とCM6も、工夫なく提供コールをした結果、流出が大きくなった。

しかも両CMで、もう一つの課題が見えた。同じやり方なのに5より6の方が、格段に流出が増えたのである。

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この違いは、本編が佳境に近づくにつれ、CMを邪魔者扱いする気分が高まる点にありそうだ。

視聴者からすれば、内容に深く関与すればするほど、CMは煩い存在になる。テレビ局は佳境に入れば入るほど、CMで離脱する視聴者は減る。よって物語の山場近くにCMを多く置きがちだ。

結果としてザッピングが多くなる。

つまりスポンサーにとって番組後半のCMは、視聴者数が大きく減り、煩いと思われるリスクが伴うと覚悟した方が良さそうだ。

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CM7でも、明らかに同様の課題が浮かび上がる。

ここは『天気の子』のアニメ映像を使って本編と直列につながったので、CM冒頭での流出は抑えられると思われた。

ところがCM6と同じ程度に流出が起こってしまった。やはり本編が佳境で挿入されると、どんなに工夫が施されようとも、視聴者の視線は厳しくなるようだ。

しかもCM7は、CM4で一度使った映像だ。これでは視聴者の目を誤魔化すことは出来ない。

コラボの効果

2回目の放送となる今回の『君の名は。』は、まもなく公開される『天気の子』とのコラボという位置づけだった。

そこで番組ラストで、『天気の子』の未公開映像が披露された。直前の『君の名は。』エンドロールの最中に、流出はかなり大きくなった。ところが未公開映像は、見事に流出を抑えた。

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名作を見た後に、次の一作のさわりを見せるやり方は、確実に効果があるようだ。しかも量の問題だけでなく、見る者の心への刺さり方と言う意味で意味を持ちそうだ。成功例と言えよう。

CM1冒頭の『クロスロード』、提供コールの入替り、『天気の子』のアニメ映像の活用、番組ラストの『天気の子』未公開映像など、“意識のしりとり”となるコラボは着実に成果を上げていた。

ところがCM1内で反動が起こっていた。3・5・6などコラボなしCMでは、流出が増えてしまった。さらにCM6や7など、本編が佳境に近づいた際のCMの問題点が、データでは明確に炙り出された。

テレビ局にとってもスポンサーにとっても、CMの置き方や内容は、まだまだ工夫の余地がありそうだ。データに基づくPDCAを回すことで、CMはもっと進化する時代に入ったと言えよう。