地域情報でテレビに活路~『ケンミンSHOW』は若者を集め新規事業を開拓する!?~

番組ホームページから

スタートして間もなく12年の読売テレビ『カミングアウトバラエティ!!秘密のケンミンSHOW』。

制作費が安い割に安定した視聴率を獲れ、業界では優良番組と位置付けられてきた。

ところがテレビの番組評価は、世帯視聴率から個人視聴率に代わった。さらに視聴データを詳細に分析し、番組の価値を深掘りする時代になろうとしている。

そうなると『ケンミンSHOW』は、これまで以上に真価を発揮する可能性がある。

地域情報は若者を惹きつける

まず確認しておきたいのは、地域情報が若者を惹きつける時代になりつつある点。

関東地区で5500人以上の個人視聴率を測定するスイッチ・メディア・ラボのデータで確認してみよう。

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『チコちゃんに叱れる!』(NHK)・『ポツンと一軒家』(朝日放送)・『ケンミンSHOW』(読売テレビ)のバラエティ3番組は、世帯視聴率が10%前後で凌ぎを削っている。

男女年層別の個人視聴率で見ると、『ポツンと~』は50歳以上の男女、特に65歳以上の視聴者が圧倒的なボリュームとなる。

一方『チコちゃん~』は、50歳以上でかなり稼いでいるが、2層(男女35~49歳)は3~4%。そしてT層(男女13~19歳)や1層(男女20~34歳)は2%未満と、若年層で苦戦している。

ところが『ケンミンSHOW』は、50歳以上は8%前後で3番組の中で最低だが、逆に若年層では断トツだ。

2層は7%前後で、『チコちゃん~』の2倍、『ポツンと~』の1.5倍ほど。さらにT層や1層では、他2番組の2~3倍と若者の人気は絶大なのである。

多くのスポンサーは近年、ターゲットとなる若年層の含有率が高い番組を求め始めている。

個人視聴率を指標に広告取引を行うようになった今後、CM単価は上昇する可能性があると言えよう。

テレビと中央集権体制

テレビ局のネットワークは、中央集権的なしくみで出来ている。

例えば民放では、番組の制作量も広告売上も、東京キー局の存在が圧倒的だ。広告売上では、民放127社のうち東京キー5局で、全体の約半分を占める。

そして大阪と名古屋を加えた15局で、4分の3ほどに達する。つまり残りのローカル民放112局は、平均するとキー局の数十分の1程度しか広告売上がないのである。

こうしたネットワーク体制の下で、とかくテレビは大都会の“煌びやかで便利”な情報を地方にばらまいてきた。結果として地方の若者は都会への憧れを抱き、東京一極集中をテレビが加速させてきた側面がある。

かつて片山善博氏が鳥取県知事だった頃、筆者はテレビと中央集権体制についてインタビューしたことがある。

その際片山氏は、地方の疲弊をテレビは加速させて来たと批判した。

「テレビが都会を取り上げる時は、繁栄・流行・先進性などポジティブな話が大半。一方、地方を取り上げる際は犯罪・事件・事故が多く、マイナス・イメージを全国にばらまいて来た。これでは都会は人をますます集め、ローカルは疲弊の一途となってしまう。テレビの責任は重い」

ところが片山氏が、そう批判していた頃に生まれた『ケンミンSHOW』は、一極集中とは逆のベクトルの情報を流し続け、番組として定着した。

そして若者も惹きつけ、広告主からみても魅力的な番組に成長した。

同番組はさらに視聴データを活用することで、エリアマーケティングなど新たなビジネスを開拓する余地が生まれている。

地元で急伸する視聴率

例えば「祝新元号!令和も秘密が止まらない大カミングアウトSP!」と銘打った5月30日の放送。

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全国のインターネット接続テレビ約90万台の視聴データを集めるインテージ「Media Gauge」によれば、東京の接触率は普段と変わらぬ10%足らずだった。ところが冒頭30分ほどで「秋田のマル秘ラーメン特集」を組んだ影響で、秋田県の接触率は33%超に跳ね上がった。

普段が17~19%なので、地元ネタで倍近くも見られたのである。

吉田輝星投手率いる金足農業が準優勝した昨夏の甲子園。

1回戦の秋田での接触率は20%、2~3回戦は30%前後だった。そして準々決勝から決勝までは40~45%。つまり今回の『ケンミンSHOW』は、金足農業の活躍に迫る快挙だったのである。(「甲子園決勝の接触率 秋田44.3%vs大阪16.3%~エリア別データが示す“感動の伝播”~」参照)

躍進ぶりは県内の民放3局争いでも顕著だ。

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地元ネタを放送した30分間、日テレ系列の秋田放送(ABS)が普段の倍近くに接触率を上げていた。そのあおりを食ったのが、フジ系列の秋田テレビ(AKT)とテレ朝系列の秋田朝日放送(AAB)。共に5%前後も数字を失っている。結果としてAABは、日ごろの半分ほどまで接触率を落としてしまった。

影響はその30分間に留まらない。

さすがに地元ネタが終わると数字は下がり始めるが、一度『ケンミンSHOW』を見始めた人々は、そのまま最後まで見てしまう人が少なくない。10%以上も高かった接触率は、番組ラスト近くでも5%高かった。

さらにブリッジ効果で、10時台の番組も2~3%高く推移した。この日のABSは、まさに大漁豊作だったのである。

市町村単位でも差

同特集では、3市1町のラーメンが取り上げられた。

横手市は麩が特徴の十文字中華そば、能代市は馬肉チャーシュー入り醤油ラーメン、黒い醤油スープが特徴の秋田市の末廣ラーメン、そして小坂町では常識を覆すかつラーメンが登場した。 

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いずれも4~5分のVTRだったが、市町村別の毎分接触率でみると、能代市だけが地元ネタの紹介までに数字が最高域に達していた。見たいと思いながらも見逃した人は、ほとんどいなかったのである。

ところが横手市と秋田市は異なった。

地元ネタのVTR中も接触率は上昇を続け、地元紹介が終わった後の8時15分頃に数字はピークを迎えた。見逃した人は接触率換算で横手市が3%以上、秋田市でも1~2%いた計算だ。

同番組には見逃しサービスがあるが、おそらく両市での利用はかなりの数に上っただろう。秋田県全体でも、4ラーメン紹介のVTRを全て見られなかった人は4%ほどにのぼった。

地元ネタは鉄板なだけに、見逃しサービスを活性化させると言えよう。

群馬県でも同様

秋田県だけが例外じゃない。この半年で3回も地元ネタが紹介された群馬県でも、状況は同じだった。

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1月31日の放送では群馬のパスタ事情、4月4日は上毛かるた、そして5月9日は伊勢崎市のもんじゃ焼きが取り上げられた。

結果は3回とも、視聴者数が1.7倍以上増えていた。特に直前3回を1度も見ていなかった新たな視聴者で比べると、3回とも2~2.5倍に急伸していた。

近年欧米では、アドレッサブル広告が使われ始めている。視聴者の特性に合わせた広告を、個別に配信するCMだ。

テレビ広告は従来、マスに届けてブランドの認知を高めるのが主な役割だった。ところがアドレッサブル広告になると、関心の高い視聴者を特定して情報を届けるので、広告効果は各段に高まる可能性がある。

この時に威力を発揮するのが、『ケンミンSHOW』の地元ネタだろう。

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例えば5月9日放送「伊勢崎市のもんじゃ焼き」では、伊勢崎市内の接触率は20%超、周辺でも20%近くが出ていた。

これを前提に、全国向けには自動車の宣伝をするが、伊勢崎市やその周辺だけは、地元のディーラーを前面に出したCMに置き換えると効果が増すだろう。

テレビによるエリアマーケティングが格段に進化する可能性がある。

地域活性化の可能性

地元ネタが鉄板でも、実は例外もある。都会のネタは、地方ほど効かない点だ。

『ケンミンSHOW』は読売テレビの制作だけあって、大阪ネタがよく出てくる。この半年では、4月4日が「関西のぱん」、5月9日が「オカンの青春」、そして6月13日が「大坂のチーズケーキ」だった。

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これら3回を、放送直前の3回を1度も見ていない視聴者をどれだけ集めたかで比較してみよう。大阪が取り上げられていない回の平均を1とすると、一番高かったのは4月4日「関西のぱん」の1.5倍。5月9日「オカンの青春」に至っては0.9倍と、普段より新規の視聴者を集めていない。

逆に地方各地は、毎回2倍から3倍強も集めている。

恐らく都会の視聴者は都会の情報を見慣れているので、地元ネタが取り上げられてもさほど反応しない。ところが地方は、地元ネタが全国放送となることは少ないので、その分大きな反応になるのだろう。

ならばテレビは、地方ネタを料理する番組をもっと開発すれば良い。

より多くの人に見られ、若者も惹きつけるので広告収入が増える。しかも視聴データ分析が深化するにつれ、番組の価値が高まる可能性がある。テレビ局のメリットは小さくない。

地方から見れば、これまで少なかった地元情報のエリア外発信が増え、観光客増や地元物産の売上増があり得る。

実際に『ケンミンSHOW』では、番組で取り上げた地方の物産を上野駅のエキナカで販売したことがある。結果はJR史上最高の売上につながった。

“テレビで見た”という効果は、絶大だったのである。

テレビ視聴の測定方法が変わると、ビジネスモデルにも変化が生ずる。

そこを織り込んで番組を進化させると、テレビの価値が高まる可能性がある。地域情報はその可能性の一つとして、ぜひ積極的に開拓してもらいたい。