小川彩佳『news23』失敗は三重に間違い~TBS報道は目指す未来が違う!?~

テレビ朝日からの独立およびTBS『news23』キャスター就任で何かと話題になった小川彩佳アナ。

6月3日から放送が始まると、「スタートダッシュに失敗」「初回でつまずく」「ホロ苦の船出」など、否定的な記事が目立った。これらは放送初日の世帯視聴率で断じられたが、ニュース番組の成否はそんなに単純ではない。

データを分析すると健闘しているとも読める。そもそもTBSの報道番組は、目指す未来が違うという側面すらある。

小川彩佳『NEWS23』を失敗とする記事

同ニュースを失敗とする記事は以下の通り。

『小川彩佳「news23」はスタートダッシュに失敗、“期待外れ”の原因をプロが分析』は、裏の『news zero』(日本テレビ)や、古巣『報道ステーション』(テレビ朝日)の初日の世帯視聴率と比較し、「Wスコア以上の惨敗で、大荒れの船出」と断じた。

『小川彩佳アナ「news23」ずっこけのワケ… 関係者「初回でつまずくのは痛い」』は、「同番組は前週も4%前後を推移しており、どうも小川アナ効果の恩恵にあずかれなかったようだ」とした。世帯視聴率のアバウトな分析が根拠だった。

『“有働zero”に完敗…小川彩佳アナ「news23」はホロ苦の船出』も同様だ。『news zero』と比べ、「ダブルスコアの完敗」と、後出しの記事の割に同じ理屈しかない。

以上は紙メディアの記事だが、彼らはテレビ番組をいつまで世帯視聴率だけで論評するつもりなのだろうか。

今やスポンサーは、別の詳細なデータも参考にし始めている。ましてテレビ局は、ニュース番組を世帯視聴率だけのために放送しているわけではない。

間違い その1

そもそも『news23』の当初は、通常とは異なる波乱の3日間だった。

まず初日、テレビ東京で『全仏テニス』の錦織圭vs B.ペール戦が22時台まで放送された。

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全国で90万台以上のインターネット接続テレビの視聴動向を調べるインテージ「Media Gauge」によれば日テレの『しゃべくり007』は、全仏の影響で関東地区では接触率が2%以上低かった。それでも錦織の勝利が決まった後に、『しゃべくり007』は通常通りの数字に戻した。

『news zero』はその勢いを受けて、30分近くまで10%弱で推移する。つまり同番組は、前番組の恩恵に預かっている。この辺りの数字の推移は、同じ月曜の過去10回平均とほとんど同じだった。

一方『news23』の前番組は、接触率4%前後。これを受けた『news23』も、4%弱で推移する。

批判記事は「Wスコア以上の惨敗」と言うが、そもそも前の数字も「Wスコア以上」だ。ブリッジ効果を考えると、『news23』の責任とは簡単には言えない。

間違い その2

しかも小川キャスターに代わった『news23』(太い青の実線グラフ)は、同じ月曜の前10週平均(点線グラフ)と比べると、数字は高めに推移していた。

「初回でつまずく」「ホロ苦の船出」というが、新キャスターの効果はあった可能性がある。

毎分の流入で見ると、より明確に確認できる。

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番組が始まって20分まで、流入(緑の実線)は過去10回平均(点線)より高い。新番組を見に来た視聴者は、相当数いたのである。

では、『news zero』で有働由美子キャスター、『報道ステーション』で徳永有美キャスターが新たに就任した去年10月1日ではどうだったのか。

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共に冒頭20分ほどは、同じ曜日の過去10回平均を下回った。新キャスターの効果は認められなかったのである。

つまり前番組や旧キャスターとも比べないと、評価は安直には出来ないのである。

二日目も健闘

二日目の放送でも、小川『news23』の健闘ぶりが見える。

この日は『全仏テニス』錦織圭vs R.ナダル戦が11時から放送された。

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この影響で『news zero』は前10週平均比で1%ほど接触率を落としていた。テレ朝の番組も、普段より少し数字を下げていた。

ところが小川『news23』だけは違っていた。

冒頭10分こそ普段より低いが、その後はいつも通りの数字だ。テレ東に大きく視聴者を奪われずに踏ん張ったと言えよう。

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関東地区で5500人以上の個人視聴率を測定するスイッチ・メディア・ラボによれば、小川『news23』の当初3日間は、雨宮塔子時代の最後5週間と比べ、幾つかの層で個人視聴率を上げている。

F1(女20~34歳)とM2(男35~49歳)で微増、M3-(男50~64歳)とF3+(女65歳以上)で0.5~0.8%高かった。

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有働キャスターが『news zero』に就任した前後4週を比べると、男女どの年代層でも個人視聴率はほとんど上がっていない。それと比較すると、小川キャスターは一部の層を引き付けていたのである。

間違い その3

三日目には、さらに異なる状況が生まれていた。

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この日の夜、山里亮太と蒼井優の結婚会見が行われた。

この会見の模様を伝えた『報道ステーション』と『news zero』は、普段より大幅に数字を上げた。特に『news zero』は冒頭で短く紹介し、23時17分過ぎから15分以上伝えた。このため会見の15分間は、普段より最大6%弱も接触率が高くなったのである。

一方『news23』は、冒頭で二人の結婚に触れなかった。

番組後半に入って、ようやく1分30秒ほど触れただけだった。この結果、日テレに大量に視聴者を奪われ、普段より接触率は下がってしまったのである。

実は両者の差は、番組が目指すところの違いでもある。

『news zero』は明らかに数字を重視している。番組冒頭での紹介、本編15分の長さは、同ニュースだけだった。しかも本編は、笑いを獲るバラエティのテイストで編集されていた。

結果として二人の人柄・幸福感・微笑ましさなどが余すことなく伝わった。ネット番組はノーカットで70分以上生中継したが、録画編集された15分は、普通の人々がより分かりやすい、上手い作り込みだった。これが高接触率につながった。

一方『news23』の編集方針は異なる。

1分30秒ほどのニュース項目は、コメントが主体。会見での発言は短かく切り取られた。「入籍させて頂きました」「ずっと頑張りたい」など、事実や気持ちを短く見せるだけだった。

笑いは言うに及ばず、二人の感情を伝える気もない編集だった。あくまで事実を淡々と伝える硬派ニュースの姿勢を崩していない。

視聴率と一線を画すニュース

TBSの佐々木卓社長は小川アナを、「ジャーナリストとしてもしっかりしている」「ニュース番組を引っ張っていくのにふさわしい方」と評した。経営トップもニュースとしての品格を重視しているのである。

実は1989年から筑紫哲也がキャスターを務めた時代、『news23』は23時台の放送なのに、22時台並みの単価で広告が売れていたと大手広告代理店の知人から聞いたことがある。

同ニュースにCMを出すことが、ブランディング上プラスだったからである。

同局には安易に数字を追うより、ニュース本来の姿を追及する姿勢が残っている。

例えば日テレ『真相報道バンキシャ!』とTBS『報道特集』は、共に報道番組でありながら世帯視聴率は倍前後の差がある。

前者はより関心の高いネタを、短く分かりやすく伝える方針で構成されいる。ところが後者は、伝えるべきニュースへの拘りが強く、一般的には取っつきにくいにくいネタが多く取り上げられる。

筆者はこの違いについて、TBS編成担当者と議論したことがある。

ところが彼らの返事は、「視聴率を上げるためにどうすべきかは分かっている。ところが報道の担当者は、聞く耳を持たない。手の出しようがない」と諦めていた。

明らかに日テレとTBSでは、報道担当者の目指す未来が違う。

以上3つの理由から、小川彩佳『news23』は失敗と断ずるのは早計と言える。

民放である以上、視聴率は高いに越したことはない。それでもニュース・報道である以上、TBSには優先すべきものがある。

そこを守りつつ「前より数字が改善する」とか、「スポンサーの評価が上がる」のは歓迎なのだろう。ただしそこを第一目標にするつもりはないようだ。

メディアを論評するメディアは、こうした内実をもう少し取材して、客観・公正な記事を書くべきではないだろうか。