広瀬すず『なつぞら』は『あまちゃん』に次ぐ今世紀の朝ドラ第3次イノベーション!?

(写真:つのだよしお/アフロ)

朝ドラ100作目の『なつぞら』(広瀬すず主演)が、放送1か月を経て、勢いを増している。

ビデオリサーチの世帯視聴率で過去10作と比べると、好成績だった『花子とアン』(吉高由里子主演・14年度上期)・『とと姉ちゃん』(高畑充希主演・16年度上期)などと数字は大差ない。

ただし男女年層別の個人視聴率で見ると、面白い事実が浮かび上がる。

男女共に高齢層と34歳以下の若年層で、高い視聴率を出しているのだ。

どうやら同作は、『ゲゲゲの女房』(松下奈緒主演・10年度上期)・『あまちゃん』(能年玲奈主演・13年度上期)に次ぐ、今世紀の朝ドラ第3次イノベーションとなる可能性がある。

視聴率の推移

ビデオリサーチが公表している世帯視聴率では、『なつぞら』は第4週までの平均が22%台。

好調な滑り出しで、『花子とアン』・『あさが来た』(波留主演・15年度下期)よりも少し上を行っている。ただし『とと姉ちゃん』とは互角で、世帯視聴率だけでは何が傑出しているのか見えてこない。

画像

ところが個人視聴率を測定しているスイッチ・メディア・ラボのデータを使うと、今回の『なつぞら』は、誰がハマっているのかが浮かび上がる。

これまでより視聴率が高いのは、男女「3+層」(65歳以上)・「M3-層」(男50~64歳)・男女「1層」(20~34歳)で、これが世帯視聴率の盛り上りを支えている。

これを世帯視聴率が22.6%と高かった『花子とアン』の個人視聴率を100として他を指数化すると、『なつぞら』の凄さが明確になる。

画像

「F3-」は78、「M2」が87と下回った。ただし他の層は概ね『なつぞら』がトップクラス。中でも「F1」と「M3+」が130前後と高くなった。そして特筆すべきは、「M1」の236という突出だ。

『なつぞら』は高齢層と若年層で、新たな朝ドラファンを開拓していたのである。

キャスティングと演出

高齢層と若年層からの支持は、関東地区960人を対象にエイト社「テレビ視聴しつ」が実施している満足度調査でも確認できる。

満足度を5段階評価で投票してもらっているが、『なつぞら』4月の平均値は3.89。4月放送の全ドラマの平均は3.65なのでかなり高く、ドラマ全体でもベスト3に入る。

平均点を上げているのは、やはり高齢層と若年層だ。

高齢層は草刈正雄が体現する北海道の人々および自然、さらにはドラマの雰囲気を評価している。

「草刈正雄の名演技が心に響く」女59歳・満足度5

「草刈正雄など脇役の演技が光っている」男64歳・満足度5

「開拓者やその周りの人々の考え方・生き方がよくわかる」男69歳・満足度5

「北海道の自然が見ているだけで癒されます」女60歳・満足度4

「爽やかでいいです」女66歳・満足度4

そして若年層は、俳優たちに反応している。

「吉沢亮くんがかっこいい」女18歳・満足度5

「ナツガカワイイ」女16歳・満足度4

「女優がキレイ」男28歳・満足度5

さらに出てくる風景、ドラマの内容や雰囲気なども支持している。

「映像の色が好き」女25歳・満足度4

「雰囲気がよかった」男16歳・満足度4

「北海道の自然感が朝みていて気持ちがいい」女23歳・満足度3

「ストーリーに独自性があって良い」男17歳・満足度4

「付いているとついつい見ちゃいます」女25歳・満足度5

広瀬すず人気は相変わらず高い。

加えて『真田丸』(堺雅人主演・16年)で怪演した草刈正雄が、“渋かっこ良い”祖父として人気を集めている。『真田丸』で妻役を演じた高畑淳子との阿吽の呼吸も健在だ。

朝ドラ歴代のヒロインが次々に登場するのも、好評の要因になっている。

『ひまわり』の松嶋菜々子が育ての母役。『おしん』の小林綾子は友達の母。『ふたりっ子』の岩崎ひろみは教師。朝ドラ第1作『娘と私』の北林早苗は、幼少期のなつと出会う老女。

そして5週目からは、『どんど晴れ』の比嘉愛未が、新宿・川村屋のマダムとして登場。『純ちゃんの応援歌』の山口智子も、元ダンサーでおでん屋の女将となった。

さらに今後は、『ちりとてちん』の貫地谷しほりが、凄腕のアニメーターとして出てくるようだ。

「女優がキレイ」という感想があったが、朝ドラのヒロインが7人も次々に出演するくらいだから、当然の感想と言えよう。

イケメンも黙ってはいない。

柴田家の父が藤木直人、兄が清原翔。友人・天陽が吉沢亮で、その兄が犬養貴丈。さらに幼馴染に山田裕貴と工藤阿須加で、実の兄に岡田将生が続く。

広瀬すずを含め、男女若年層が反応する所以である。

しかも若年層対策には、極めつけがある。

ドラマ内にアニメが時々出て来る。オ―プニングも全編アニメーションで描かれている。しかも主人公のモデルは、草創期日本のアニメーターだ。

今週からアニメの制作現場が出始めているが、「付いているとついつい見ちゃいます」という感想も納得できる。

朝ドラ第3次イノベーション

今世紀に入って、朝ドラには過去2回の転機があった。

2010年に、開始時間を15分繰り上げ、8時スタートとしたのが1回目。これをきっかけに、10%台前半まで低迷していた視聴率が、20%台まで戻すようになった。

2回目の転機は『あまちゃん』。

クドカンの脚本で朝ドラらしからぬ作りとなった作品だ。実は高齢者にはやや敬遠された。ところが若年から中年の間で新たな朝ドラファンをつかんだ。そして次の『ごちそうさん』(杏主演・13年度下期)以降、伝統的な朝ドラに戻り、平均視聴率が上昇して行った。

そして『なつぞら』の可能性。

『あまちゃん』同様、若年層を取り込んでいる。しかも『あまちゃん』が逃がした高齢層も、序盤から惹き付けている。例えば男性50歳以上では、明らかにこれまでの朝ドラより視聴率が高い。

女性が主人公となることが多い朝ドラにおいて、草刈正雄vs藤木直人が務める農協のような物語を入れることで、高齢の男性ファンを新たに作り出している。

しかも歴代のヒロインを湯水のごとく使うことで、高齢女性対策も盤石だ。

つまり『なつぞら』は、有名で人気のある俳優を次々に投入する力技と、増えてしまった要素を1つの物語に落とし込む脚本力および演出力で、幅広い視聴者層の取り込みに挑戦している。

ストーリーテリングも良く出来ている。

戦争孤児だったなつが、十勝の酪農家・柴田家に引き取られる第1週。

兄に会うための家出を経て、柴田家に居場所を見出す第2週。

高校3年生になったなつが、現実の問題に向き合い始める第3週。

問題解決のヒントになればと、演劇をすることになった第4週。

そして母と共に兄を探しに東京に出た第5週。

ここまでは、なつの生い立ちと成長、周囲の人々との関係の進展、時代の課題とその解決などが、手際よく織り込まれている。

この調子で人気俳優を取り込み、面白い展開を続けれられば、多くの視聴者を逃がさずに進むだろう。そもそも日本のアニメ制作という、多くの人に興味のある縦軸がしっかりしている。

以上のように、5週目までは見事に転がった。

そしてアニメが物語のテーマになり始めた6週目。どうやら『なつぞら』は、夏に向け青く冴えわたった快晴に恵まれそうだ。

この1か月で幅広い層を取り込む新たな手法を確立した同ドラマ。朝ドラ第3次イノベーションを成し遂げる予感に満ちている。