若者と高齢者の両方に強い広瀬すず主演『なつぞら』~ヒットの秘訣は“良いとこ取り”~

(写真:つのだよしお/アフロ)

朝ドラ100作目となる『なつぞら』が好調だ。

第1週を過去10作と比べると、最高の視聴率でスタートを切った。しかも高齢者にも若者にも好評と、ファン層が“両齢具有”の珍しい作品となっている。前提には、キャスティング・ストーリー・演出など、これまでのNHKドラマのヒットの法則がある。

何が評価されているのかを分析してみた。

両齢具有の妙

過去10年の朝ドラのヒットを振り返ると、『あまちゃん』(13年上期)の健闘が最も印象的だった。

クドカンの脚本で朝ドラらしからぬ作りが光り、高齢者にはやや敬遠されつつも、若年から中年の間で新たな朝ドラファンをつかみ、全体の平均視聴率を押し上げた。

ここ5年の主な朝ドラの、男女年層別個人視聴率を見てみよう。

『花子とアン』(14年上期)を基準に、スイッチ・メディア・ラボの男女年層別個人視聴率(最初の一週間)を比較すると、おもしろい事実が浮かび上がる。

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永野芽郁主演の『半分、青い。』(18年上期)は、日本の高度経済成長期が丹念に描き込まれ、40代から60代前半を狙っているように見受けられた。ところが、その層は必ずしも多くは見ておらず、むしろ当初は男女65歳以上が反応していた。

視聴率的には19.4%と大台割れをしてしまった土屋太鳳主演『まれ』(15年上期)。『あまちゃん』路線を狙ったようだが、やはり男女50歳以上で躓いていた。

ただし『あまちゃん』同様、若年層では奮闘し、朝ドラの視聴者層拡大に貢献した。

そして広瀬すず主演の『なつぞら』。

ここまでは男女65歳以上が突出している。さらに男女1層(20~34歳)と4~19歳でも健闘している。いわば視聴者の年齢が“両齢具有”となっており、これまでにない珍しい状況となった。

幅広い人々の心を掴む要素を持って始まったドラマと言えそうだ。

好調なスタート

スイッチ・メディア・ラボのデータによると、前作最終週と新作第一週との間の視聴率は、一定の傾向がある。

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前作最終週が低いと、新作第一週は上昇する傾向がある。『あさが来た』(15年下期)、『ひよっこ』(17年上期)、『半分、青い。』(18年上期)などだ。

ところが前作最終週が高いと、新作第一週は下がるものが多い。『マッサン』(14年下期)、『とと姉ちゃん』(16年上期)、『まんぷく』(18年下期)など。

ところが『なつぞら』は、前作最終週が過去5年で2番目に高かったにも関わらず、第一週が断トツのトップとなった。

これまでの法則性から外れる、傑出したスタートだった。

“これまでにない”作戦

まず挙げたいのは、話題性という点で“これまでにない”作戦がうまく行ったこと。

初回冒頭のファーストカットは、ジブリ映画『トトロ』に出てくるような鮮やかな十勝の緑。そこで広瀬すず演ずる主人公が、アニメーターになると宣言する。

直後に、昭和20年3月の東京大空襲がアニメで表現され、続いてオ―プニングが全編アニメーションで描かれた。100作目にして初めての演出だが、裏番組の大半が新元号問題を扱うワイドショーだっただけに、幼児から20代まで若年層の多くが、冒頭の数分間に釘付けとなったのは想像に難くない。

ドラマの主人公のモデルは、「漫画映画」と称された草創期日本アニメのアニメーター・奥山玲子。

アニメといえば、テレビアニメの第1号は1963年放送の『鉄腕アトム』。56年前の放送で、当時10代でブラウン管に釘付けとなった世代は、既に65歳以上の高齢者だ。

また奥山が関わったアニメ『魔法使いサリー』『ひみつのアッコちゃん』『母をたずねて三千里』などを見た人は、現在40~60歳代になっている。

しかもアニメといえば、現在もテレビ東京だけで毎週30枠以上が放送されるほど、テレビの人気番組だ。

つまり幼児から中高年に至る全世代に馴染みがある素材とテーマを『なつぞら』は選び、結果として多くの視聴者を初っ端から惹き付けることに成功した。

“良いとこ取り”作戦

第1週を見る限り、“良いとこ取り”作戦も見事だ。

第54作『ひまわり』のヒロイン・松嶋菜々子、朝ドラの金字塔を打ち立てた第31作『おしん』の小林綾子、第55作『ふたりっ子』の岩崎ひろみ、朝ドラ第1作「娘と私」のヒロイン・北林早苗が出演している。

今後も第41作『純ちゃんの応援歌』の山口智子、第76作『どんど晴れ』の比嘉愛未などの出演があるようだ。次々に歴代のヒロインを登場させ、話題を集めようという作戦だ。

今回のヒロインの少女時代を演ずる粟野咲莉も、第95作『べっぴんさん』ヒロイン・芳根京子の少女時代を演じている。

その粟野演ずる少女時代のヒロイン・なつは、連れてこられた柴田牧場の大黒柱・泰樹(草刈民雄)に厳しくあたられる。まるで『おしん』を彷彿とさせる辛いシーンの連続だが、第4話でそれまでの布石は早くも回収された。

戦争で両親を亡くし、東京の闇市で兄・妹の三人で必死に生きてきたが、兄弟は離ればなれになることを余儀なくされたことを知った泰樹は、それまでのなつの働きぶりへの評価を初めて口にした。

「ちゃんと働けば、必ずいつか報われる日が来る」

「お前はこの数日、本当によく働いた」

「お前なら大丈夫だ。だから、もう無理に笑うことはない。謝ることもない。堂々と、ここで生きろ」

この第4話をSNS上では、神回という評価が早くも殺到した。

「めちゃ泣けた。神回。草刈正雄、すごい」

「第4話にして神回か?」

「厳しいおじいちゃんのやさしさに朝から号泣!」

その草刈正雄は、2016年の名作大河『真田丸』で高畑淳子と夫婦役となり、3年ぶりに軽妙な会話を披露した。これに対してもSNSは、大いに反応した。

「草刈正雄&高畑淳子の掛け合い、息ピッタリ!」

「真田夫妻の転生再会が嬉しくてニヤけた」

「草刈正雄と高畑淳子ってあうんの呼吸すぎる」

『なつぞら』第1週では、幅広いファンの心を掴むためのダメ押しもあった。

2話で登場したのは、柴田牧場の従業員役の音尾琢真。4話では、帯広の菓子屋・雪月の息子役の安田顕。そして5話で、郵便配達員役で戸次重幸が出演した。

北海道が舞台ということもあり、北海道出身のTEAM NACSから早々と3人も出してくるあたりは心憎い。

つまり第1週は、キャスティング・ストーリー・演出などで、話題力バツグンだった。

空前の人気はかくして成り立ったのである。

しかも第2週に入っても、勢いは衰えない。

8日(月)の朝イチで藤井隆は、『なつぞら』ではなく、BSで放送された『おしん』の受けをして話題を集めた。

9日(火)の第8話では、孤児院までなつたちを探しに来て、一緒に北海道へ連れて行こうとした柴田家の父(藤木直人)に対して、兄は末妹のために「なつだけお願いします」と身を引く。兄への負担を減らすために、なつも兄の提案を泣く泣く受け入れる。幼くして出来る配慮ではない。

こうした状況に対して草刈正雄から、またしても名言が飛び出す。

「あの子はさぞ怒っているでしょうねえ。大人らに、あっちに行かされ、こっちに行かされて」という嫁・松嶋菜々子の言葉に対しての発言。

「怒る前にあの子は諦めている。それしか生きる術がなかったんじゃ」

「怒れる者はまだ幸せだ。自分の幸せを守るために人は怒る。今のあの子にはそれもない」

学校でも決して怒りで言い返さないなつに対して、娘・夕見子(荒川梨杏)は気持ちがわからず、ずっといら立っていた。こうした布石に対する見事な回収が、第2週でも早々に出てきている。

なつが見せる生きる場所を得るために必死で生きる姿。

これは現代の多くの視聴者にも共通する思いだろう。

『てるてる家族』を執筆した大森寿美男の脚本は冴えわたっている。

この調子でいけば、『なつぞら』はこの夏、人々の心を快晴にする名作となること間違いなしだろう。