NHKは“老人専門ch”で良いのか? 新元号特番に見る新時代に相応しい“伝え方”の問題

筆者撮影

新元号「令和」が4月1日に発表された。

菅官房長官の発表と安倍首相の談話が中継された11~13時の2時間、NHKから民放キー局の合計6チャンネルは、特番などで歴史的瞬間を放送した。

世帯視聴率ではNHKが断トツだったが、視聴者層を見ると歪な偏りが気になる。

“あまねく”を前提にした公共放送は、社会が共有すべき基本的な情報を広く国民に伝える義務がある。ところが重大関心事を扱った今回の特番では、一定の年齢以下でも日本テレビはしっかり見られているのに、NHKはあまり見られなかった。

視聴者層の極端な構成はなぜ生じたのかを考えてみた。

公共放送の役目

ビデオリサーチによる関東900世帯の調査では、午前11時から57分までのNHKの特別番組は、平均視聴率が19.3%と、通常の何倍もの数字となった。上田会長は「公共放送としての役目をしっかり果たせたのではないか」と、定例会見の席上で自画自賛した。

ただしスイッチ・メディア・ラボが、関東地区2000世帯・5500人ほどを対象に調べる男女年層別の個人視聴率では、世帯視聴率とは大きく異なる風景が見えてくる。

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多くの局が特番で臨んだ11時から13時の平均では、NHKは男女65歳以上で圧倒的に見られたものの、男女49歳以下ではあまり見られなかった。

逆に日テレは、男女65歳以上はそれほどでもないが、男女50~64歳でNHKと互角、男女49歳以下ではすべての層でトップとなった。

特にFT(女13~19歳)とF1(女20~34歳)では、他局の追随を許さないほどの独走ぶりだった。

NHKは“老人専門ch”とも言うべき状況の公共放送で良いのだろうか。

元号が変わるという歴史的瞬間だ。性年齢に関わらず多くの国民の圧倒的な関心事を伝える報道特番だった。にも関わらず日テレと異なり、若年層に相手にされていない。

「公共放送としての役目をしっかり果たせた」は正しい認識だろうか。

視聴者層の実態

男女49歳以下での両局の差は決定的だ。

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男女2層(35~49歳)では、日テレの個人視聴率が1.5倍ほど。男女1層(20~34歳)では2倍の開きがついた。そして13歳から19歳では、春休み中だったこともあり特番はよく見られたが、両局の差は4倍ほどにも広がった。

特に若年女性での差が顕著だ。

F1ではNHK3%に対して、日テレは6.7%と2倍以上。女13~19歳に至っては、1.7%対8%と5倍近い差がだった。

当日11時41分から7分ほどの菅官房長官の新元号の発表と、12時3分から20分ほど続いた安倍首相の談話の中継は、どの局も“ほぼ同じ音声と映像”だった。さらにその前後も、基本的には同じテーマだ。

それでも全体としてかくも差が出来たのは、記者のリポート・解説や番組の演出に原因があると言わざるをえない。

“急伸・急落”のNHK

人々の関心は、明らかに新たな元号が何になるかだった。

「令和」の文字を菅官房長官が掲げた瞬間、NHKの世帯視聴率は27.1%と最高を記録した。この歴史的瞬間に向け、NHKの視聴率は急伸し、その後はみるみる数字を落として行った。安倍首相の談話を含め、NHKはスタジオでの解説なども、あまり聞かない視聴者が多かったようだ。

対照的なのは日テレだ。

歴史的瞬間に向け、じわじわ数字を上げていたが、興味深いのはその後のスタジオ解説でも数字を上げ続けた点だ。

安倍談話になるとさすがに下落を始めたが、それでも談話後は横ばいと、数字を落としていない。解説を聞いてもらう演出が機能していたようだ。

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その状況をM3-(男50~64歳)と、F1(女20~34歳)の毎分視聴率で分析してみよう。

M3-では、両局で大きな差がなかった。強いて言えば、「令和」発表の瞬間に向け、NHKの方が急伸し、安倍談話後に急落していたくらいで、全体平均ではほぼ互角だった。

F1では平均だけでなく、毎分視聴率の軌跡が大きく異なった。

日テレは新元号発表に向けジワジジワ上昇したが、発表後のスタジオ解説で一段と数字を上げていた。その後の安倍談話および談話後のスタジオ解説も、数字をほとんど落とさず横ばいを続けた。

F1が同局の特番をじっくり見ていた印象だ。

一方NHKでは、M3-と同じように、歴史的瞬間に向けF1の数字は急伸した。

ところが菅官房長官の会見中継が終わると、潮が引くように、視聴率は急落した。さらに安倍談話の約20分は横ばいだったが、その後のスタジオ解説で再び数字を落とした。

NHKのスタジオ解説などは、残念ながらF1には受け入れられていなかったようだ。極論するとNHKでは、「令和」など事実だけを確認した人々が少なくなかった。

流出データから見える事実

インテージ社「Media Gauge」は、全国約90万台のネット接続テレビの実数調査を行っている。この中から関東地区約37万台のテレビが歴史的瞬間にどのチャンネルを映していたかを追ってみよう。

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NHK総合の流入と流出を毎分で追うと、菅官房長官の新元号発表の瞬間まで、大量の流入が発生していた。その瞬間までの15分間で4万8千人以上がNHKを見始めた。関東地区では、約13%のテレビがNHKに殺到した計算だ。

ところが「令和」と書かれた額が映された直後、この報道特番の中で最高値となる5498台がNHKから流出した。NHKから一瞬で3%が逃げ出したのである。

さらに菅官房長官の発表が終わって、次に安倍首相談話が始まるまでのNHKの解説コーナーでも、大量の流出が発生した。この15分間で3万5千台以上がNHKを辞めている。約9.5%のテレビがNHK以外を映し出した計算だ。

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日テレの流入・流出は、NHKの軌跡と大きく異なる。

特番の序盤で1.4倍以上の視聴者がいた日テレは、歴史的瞬間までの流入数がNHKほど大量ではなかった。また「令和」発表の瞬間も、流出は約3000と跳ね上がるが、NHKほどではない。しかも流入が流出を上回り、視聴者数は減っていない。

さらに発表後のスタジオ解説も、流出より流入が多い状況が続き、視聴者数が減少したNHKと異なり、横ばいで推移した。

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両局の流出を比較すると、新元号発表の瞬間の流出量が大きく異なるほか、発表後のスタジオ部分で大差がついている。

スタジオ解説では、NHKではなく日テレに軍配が上がっていた。

鍵を握る演出力

では、両局スタジオの明暗を分けた要因は何か。

まずNHKはスタジオに戻った11時48分、岩田明子記者が安倍首相の考え方を「想像なんですが・・・」と代弁し始めた瞬間に、1分間で3645と流出が急増した。15秒単位では千台前後のテレビが逃げ続けた。

ところが日テレの同時間帯は、流出がそれほど発生していない。

菅長官の発表直後は、ゲスト2人の解説が行われた。ただし映像は、渋谷スクランブル交差点や上野公園の中継映像を多用し、歴史的瞬間の街の表情を伝えた。音声と映像で、歴史的瞬間を立体的に伝えた点が奏功したようだ。

この間の日テレからの流出は、15秒単位で600~800で済んでいる。NHK岩田記者の解説時の7割前後だ。

そして日テレの記者による解説は、外部ゲスト二人の後に行われた。

政治部の小栗泉部長だ。時間にしてわずか30秒、「日本の古典からは安倍総理の意向」「万葉集が候補」などの事前の情報を簡潔に解説していた。

この間の15秒当たりの流出は500前後。菅官房長官発表直後に最初に1分20秒解説した岩田記者の半分ほどに抑えることに成功していた。

流出入の関係では、日テレはゲスト2人と小栗部長の発言の合計2分15秒を、流出超過500強で通過した。政治部長1人では65の流出で済んでいた。

ところがNHKでは、岩田記者の80秒で2200ほどの流出超過だった。ゲスト3人が語り、再び岩田記者が解説した合計5分では、5000ほども失っていた。

解説の内容および演出への視聴者の評価は、歴然と言わざるを得ない。

安倍談話後も同様

12時台の安倍談話の後も、視聴率が急落したNHKと横ばいだった日テレで大きな違いがあった。

まず流出で見ると、日テレにもNHKと同じ規模の流出が何度も起こっていた。実は日テレでは、安倍談話中に入れられなかったCMが貯まり、ラストまで2分を超えるCMを6回も入れたからである。

ただしCMとCMの合間に、岐阜県の平成地区・判子メーカー・大坂造幣局からの中継を1分強ぐらいでテンポよく入れ、CM時の流出超過を流入超過で補っていた。

スタジオ部分ではゲスト2人と政治部長の発言があったが、一人30秒の分かりやすいトークで、流出過多にならずに通過した。

一方NHKは、ここでも安倍談話直後に岩田記者が解説を始め、一挙に流出が増えた。1分30秒の間の流出過多は1000を超えたが、問題はその後も続いた。

ゲスト3人が発言したが、一人平均1分40秒のトークの間に、流出超過は3000超となった。

話が長いことと、バストショットで工夫のない映像が続いたことが、日テレと比べ致命的だった。

さらにVTRでも大差が出た。

NHKは12時30分過ぎから「今朝からの動き振り返り」を3分半ほど放送した。ところが冒頭30秒はその日の朝から振り返ったために不評で、大量の流出が発生した。VTR全体でも1000の流出超過だった。

ところが日テレは、歴史的瞬間に絞って日本各地の様子を伝えた。12時42分台から約6分間のVTRは、流入超過2750で視聴率を盛り返した。

これらの演出の違いで、両局の明暗は生まれていたのである。

若年女性での大差の意味

以上4月1日11時から13時までの2時間は、スタジオゲストと記者の使い方や演出力で両局の明暗が生まれていた。

最後にもう1点、興味深い事実がある。

日テレの特番は図1にあった通り、10代やF1でNHKに何倍もの差をつけていた。また図3にある通り、「令和」発表以前に既に若年女性に多く見られていた。最大の要因は、ニュースに登場する記者やリポーターだろう。

両局ともキャスターは男性が務め、スタジオでのボード説明は女性が担った。

ただし中継先からのリポートは、NHKは4か所あったが全て男性だった。ところが日テレは、5か所の中継で4か所が女性。男性は1か所だけだった。

画面に登場する人物は、閣僚会議など政府関係者は圧倒的に男社会を感じさせる。ところが日テレの特番では、状況を伝える役割を女性たちが担ったために、“自分事”の身近なニュースととらえた若年女性が多かったのではないだろうか。

時々刻々事態が動くこうした特番では、視聴者は各チャンネルを頻繁にサーフィンする。その結果、分かりやすい解説や演出に加え、見やすさや身近さという点で、NHKではなく日テレが選ばれて行ったのではないだろうか。

公共放送NHK。

事実を正しく伝えることは当然大切だが、分かりやすく見やすくする努力も不可欠だ。

新時代「令和」の到来を伝える特番は、奇しくも新時代に相応しい伝え方の模索が必要という事実をNHKに突き付けたようだ。