坂上忍だけでは志村けんに届かない!~『坂上どうぶつ王国』と『志村どうぶつ園』の明暗~

(写真:アフロ)

昨年一挙に4本のMC番組をスタートさせた坂上忍。

これで合計8本のレギュラー番組を抱える人気ぶりとなったが、動物番組に限って比較すると、『坂上どうぶつ王国』は『天才!志村どうぶつ園』に大きく水をあけられたまま。引っ張りだこの坂上忍(51歳)は、今や高齢者となった志村けん(69歳)に全く届いていない。

「動物のお世話をして人生を終えたい。最後の終活」と坂上が意気込みを語って始まった同番組だが、視聴率が低迷し、一時は半年で打ち切りの報道までされるほどだった。

両番組の明暗はどこから来るのか、各種データから分析してみた。

世帯視聴率の推移

 

鳴り物入りで始まった同番組の放送は金曜よる7時。

14年半の歴史を持つ同一テーマの『志村どうぶつ園』より1日早く、明らかに似た視聴層を獲りに走った。ところが始まってみると、初回3時間スペシャルこそ『志村どうぶつ園』の3分の2ほどの視聴率をとったが、2回目以降がいけない。

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関東地区5500人ほどの視聴率をリアルタイムに測定し、かつ視聴者の属性も分析するスイッチ・メディア・ラボの調査によれば、世帯視聴率は4回目の3.7%まで6割以下に急落してしまった。

その後やや回復したが、年末までは5%前後で、『志村どうぶつ園』の半分ほどと低迷を続けた。

堪らずフジテレビは当初の約束を破って「半年で終了」を打診し、坂上の逆鱗に触れたなどの報道が出る始末となってしまった。

結局この春改編での打ち切りは回避されたが、今年1~3月も視聴率は回復の兆しを見せていない。半年平均でみれば、志村vs坂上は3対2。勝負になっていないと言わざるを得ない。

両番組の見られ方の違い

世帯視聴率3対2は、個人視聴率では2対1と広がる。つまり両番組の差は、世帯数より視聴者数でより大きくなっている。

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性年齢で比較すると、興味深い事実が浮かび上がる。

M3+とF3+(男女65歳以上)では、さほど大きな差になっていない。ところがMT(男13~19歳)では3対1以上、M2(男35~49歳)では、2.5対1、それ以外の男女64歳以下でも2対1前後と、若年層では志村番組が圧倒している。

“若い人ほど坂上ではなく志村”という事実は、坂上番組のスタッフにとって考え直すべき点がいろいろありそうだ。

次に家族の形態別に見てみよう。

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両番組の見られ方で最も差が小さいのが単身世帯。ところが複数家族では、差が大きくなる。

例えば夫婦のみ世帯では、坂上番組は志村番組の約6割で、単身世帯の約8割より差が広がる。ところが三世代世帯では53%、二世代世帯では47%と差が一段と開いてしまった。

家族が一緒に見る“どうぶつ番組”として、坂上ではなく志村が圧倒的に選ばれているのだ。

ではペットの飼育状況で、両番組に差が生ずるだろうか。

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興味深いのは、両番組とも猫を飼っている家庭での視聴率が最も高く、犬を飼っている家ではそれほど見られていない点。猫派の人々は、より“どうぶつ番組”に惹かれるということなのか。

ただし両番組の比較でもっと面白いのは、ペットを飼っていない家庭で、坂上番組は志村番組の48%ほどしか見られていない点だ。

動物好きとは言えない人々への訴求力が異なる。敢えて言えば、志村番組はより普遍性の高い作りになっているのである。

満足度の違い

こうした見られ方の違いは、実際に見た人々の満足度評価や声に反映されている。

エイト社「テレビ視聴しつ」調査は、関東地区960人を10~70歳代までを対象に、5段階の満足度調査を実施している。これによると、『坂上どうぶつ王国』が始まった当初、両番組の満足度の差はあまり大きくなかった。目新しさも手伝い、同番組への興味と評価はそこそこだった。

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ところが志村番組は今年1~2月で、評価を大きく上げた。既に15年近く放送している番組だが、まだ進化の余地を残しているのだろう。

いっぽう坂上番組は、視聴率という量的評価で改善の兆しがないばかりか、満足度という質的評価でも上昇が感じられない。それどころか今年1月は、ドラマやバラエティを含め、全200番組あまりの中で志村番組が満足度1位だったにも関わらず、坂上番組は190位と下位1割の中に埋没してしまった。

課題を残していると言えそうだ。

視聴者の声を拾うと、両番組に共通するのは「動物に癒される」という点で、高く評価をする視聴者は両方に一定数いる。

問題は違いの部分だ。

まず坂上番組では、志村番組を盗んだだけという批判が当初から半年経った今も続く。

「パクりじゃん」男21歳・満足度2・10月

「志村どうぶつ園?」女41歳・満足度1・10月

「ぱくりっぽい」女48歳・満足度3・11月

「パクりみたいでたまにしか見ない」女28歳・満足度3・1月

「パクリ」男45歳・満足度2・2月

もっと気になるのが、番組の出来に対する評価。類似番組と比べて、厳しい評価の人が少なくない。

「キャストが今人気ある人を集めただけで中身がない」女50歳・満足度2・10月

「動物の本来の姿ではない感じがして違和感がある」女57歳・満足度2・11月

「他の動物番組と比べると全く面白くない」女51歳・満足度2・12月

「志村動物園の方が面白い」女30歳・満足度2・1月

「動物が好きだから視ている程度」男53歳・満足度3・1月

「何がやりたいの?」女50歳・満足度2・2月

『坂上どうぶつ王国』の視聴者数が増えないのも、満足度が上がって行かないのも、『志村どうぶつ園』をパクったという印象が残っている点がまず大きい。そして内容が今一つで、志村番組を超えないために、新たに見始めようという人の数が視聴を辞めていく人の数を上回らないのが致命的なようだ。

筆者の番組制作の経験から言えば、坂上番組で紹介されるVTRは、段取りを並べた“大いなる紹介”に留まるものが多い。ハプニングが少ないし、動物に関わった人間の驚きや困惑など、本物の感情があまり出ていない。ロケ力の差が歴然としているのである。

こうした差は、『志村どうぶつ園』に対する声にも表れている。画面に現れる動物と人間の関係性を評価する声、テーマや切り口に対する評価が目立つ。

「志村園長の動物が離れないシーンをみて心が綺麗なんだろうなって思った」女47歳・満足度4・10月

「相葉くんのトリミングが好き」女17歳・満足度5・10月

「感動するストーリーが多い」女26歳・満足度4・11月

「動物と話せる女性ハイジさんのコーナーが特に大好き」女24歳・満足度4・12月

「毎回の新鮮なテーマと定番が安定した面白さを出す」男68歳・満足度5・1月

「動物たちについて考えさせられることが多々ある」男39歳・満足度4・2月

同番組の強さを示すのは、「家族一緒に見ている」「いつも欠かさず見ている」と言った声が多いこと。残念ながら坂上番組では、そうした意見はあまり見られなかった。

「二歳の息子が動物好きなので、一緒に見ていてこちらも癒される」女38歳・満足度5・10月

「子どもが大好き」女37歳・満足度4・11月

「家族でみられる」男33歳・満足度5・12月

「家族で欠かさず見ている」女46歳・満足度4・1月

「子供によい番組だ」女44歳・満足度5・2月

大切なのは外形ではなく本質

以上の比較から、両番組の明暗がなぜ生まれたのかは、もうお分かりいただけただろう。

引っ張りだこの坂上忍をMCに据え、評価の高い番組を真似ただけでは成功しない。

フジは最初の3か月で、番組打ち切りを考えたようだが、継続を決めたその後も内容に改善が見られないのが問題だ。

表面的な面白さだけでは、子供を騙しきれない。予断を持たない視聴者が感動し、納得するからこそ、「家族で見たい」と思い、「欠かさず見る」ようになる。

そのためには、カメラの前で動物と人間の交流が本物でなければならない。VTRで表現するストーリーのテーマに普遍性がなければならない。

その境地に達するロケ力と番組力こそが問われているのであり、「MCが誰なのか」「今どんなネタが受けているのか」などに本質はない。

春編成でも継続が決まった『坂上どうぶつ王国』のスタッフには、誰に何をどう見せるのか、『志村どうぶつ園』の外形ではなく本質にこそ学んでもらいたい。