『いだてん』は危険水域に突入!?~それでもテコ入れヒントは『あまちゃん』にある~

「大河史上最短での1ケタ」など、視聴率低迷が頻繁にニュースになる大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』。

13日の定例記者会見で木田幸紀放送総局長も、「1回1回のリアルタイムの視聴率については、あまり気にはしていない」としつつも、「やはり、リアルタイムでも少しでも多くの人に見ていただくに越したことはない」と、前半の山場に向けテコ入れを宣言した。

しかし見られ方の詳細をみると、今後の回復はかなり苦しい。

同じスタッフが制作した『あまちゃん』(13年度上期)と比べても、序盤の失敗は決定的だ。新たな視聴者を巻き込むには、危険水域に突入してしまった同ドラマは絶望的と言わざるを得ない。

それでもどん底から蘇るヒントは、やはり『あまちゃん』にある。

壊滅的な視聴率

『いだてん』の内容・出来については、「明らかに異色であり、思いきり異端」と評価する記事もある。

SNS上でも支持する声は少なくない。

「めっちゃ面白いけど、この面白さを言語化するのむずい~!」

「視聴率が悪いって、ちょっとびっくり」

「面白いんだけど、カツ丼頼んで天丼が来た感じなのよね」

個人的には、こうした声が指摘する同ドラマの面白さを否定する気はない。

ただしこれらの声は、全体からみると一部に限られる。多数の視聴者は、次々と同ドラマから離脱しているのが現実だ。

冒頭のグラフにある通り、『いだてん』の視聴率の下落ぶりは「明らかに異色」だ。

12.0%と年間平均が史上最低だった『平清盛』(12年)でも、6話までの下落率は23.1%に留まっていた。『いだてん』の36.1%は、3分の1以上が早々に逃げ出したことを意味する。

6話までの平均視聴率12.1%も、目立って低い。

これまでの最低は『花燃ゆ』(15年)の14.4%だったから、2%以上も記録を更新してしまった。18年いっぱいで現役を引退した滝沢秀明が主役を演じた『義経』(05年)と比べると、半分にも満たない。

6話で一桁に落ちたことが判明した際、NHKの編成局や制作局ドラマ部では、悲鳴にも似たどよめきが起こったと報道された。筆者も編成局に3年在籍したが、関係者の落胆ぶりはさもありなんという感じだ。危機感は、NHKの職員が一番感じているはずだ。

「『いだてん』面白いけど、録画で見てる人が多いんじゃないの?」という声もある。

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ところがビデオリサーチ社のタイムシフト視聴率データでは、初回が5.4%で2話が4.5%。3話以降はベスト10の圏外となったために詳細は不明だが、『トレース』『3年A組』など民放ドラマ上位と比べると、半分から3分の2程度。去年の大河『西郷どん』と比べても2%ほど低い。

残念ながらじっくり見るタイプの視聴者からも、あまり支持されてはいない。

ネット接続テレビの視聴動向

関東900世帯のサンプル調査とは別に、インテージ社「Media Gauge」による全国100万台弱のネット接続テレビの実数調査で傾向をみてみよう。

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まず初回から6話までを毎分の視聴動向で比べると、『いだてん』をつけているテレビ台数は回を追うごとに減少していた。

初回の毎分平均は5万1382台だったが、徐々に減り6話では3万2582台となった。減少率は36.6%で、視聴率の下落率36.1%とほぼ一致している。

一般にドラマへの期待感や失望感は、番組が始まる直前や直後の流入・流出データに表れる。

流入とは、他の番組からそのドラマに切り替えたテレビの台数。逆に流出は、そのドラマを途中で見なくなったテレビ台数を指す。

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これらでみると、初回は流入がかなり多い。そして4話まで高水準を保ったが、5~6話で極端に減った。『いだてん』への関心が4話で途切れ、新たに見始める人がいなくなったことを意味している。

逆に流出は、初回はあまり多くない。まずは試しに見てみようという人々が大半だったからだ。

ところが2~4話と次第に大きくなった。「面白くない」「自分には合わない」と感じ、番組を見限った人が増えていたことがわかる。

そして5~6話で再び減り始めた。“試しに見る”人が、4話まででほぼ脱落し切ったからだろう。逆にここまで見続けた人は、同ドラマを支持する人々。最初に紹介した一部の評論家やSNS投稿者などから成る層と言えよう。

筆者は拙稿「『いだてん』は『あまちゃん』の再来となる!?~初回の不安解消は2話以降次第~」で、初回の流入者がほとんど定着することなく、番組の途中で流出した事態を危ぶんだ。試しに見に来た視聴者の大半が、厳しい評価を下していたからである。

活舌の悪いたけし・時代がスリップする瞬間・外国語や議論の頻出・過去の映像シーンなどで大量の流出が発生していたが、ユニークさを狙った演出は明らかに裏目に出ていた。

また拙稿「『いだてん』は4話がラストチャンス!?~大河ドラマは複数回の視聴が前提で良いのか?~」では、「1年間続く大河ドラマは、つかみとしての序盤が極めて重要」と指摘した。序盤で失敗し、結局年間平均で数字を下げてしまった大河ドラマが過去にたくさんあったからだ。

「一握りの専門家やドラマ通だけが納得する作りに走ってしまっては、多くの視聴者が脱落する。この辺りのバランスを取り直していることを、4話では明確に見せてもらいたい」と締めくくったが、実際には4話はそうならなかった。

5~6話の低迷は、同ドラマが新たな視聴者を巻き込む可能性を失い、危険水域に突入してしまったことを示していた。

流入者も流出者ももはや少ない。いわば視聴者の流動性が減り、固定ファンが徐々に先細りしていく循環に入ってしまったように見える。

『あまちゃん』との決定的な違い

『いだてん』は脚本・演出・音楽・プロデューサーなど、主なスタッフが『あまちゃん』と同じ。さらに共通する役者もたくさん出演している。ゆえに『あまちゃん』が朝ドラの流れを変えたように、『いだてん』も画期的な大河ドラマになることを期待されてスタートした。

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実際に当初の視聴者層をみると、『あまちゃん』は高齢層の一部を逃したが、代わりに30~50代を増やした。同様に『いだてん』も、新たな視聴者を獲得していたように見えた。

ところが内実は、大きく異なっていた。

『あまちゃん』の当初6週間は、確かに高齢層の一部を逃したが、それを補うだけの30~50代ファンを獲得していた。結果として序盤でも視聴率は下がっていない。

そして次第に話題が広がり、中盤で視聴率20%超が当たり前になり、最終週は23.5%と好記録をたたき出していた。

ところが『いだてん』は、高齢層の離脱が大きく、30~50代は期待したほど伸びなかった。結果として6話の視聴率は初回の3分の2となってしまった。

視聴者の満足度でも大差がある。

『あまちゃん』の当初1か月の満足度は、データニュース社「テレビウォッチャー」調査では5段階評価で3.91。13年4月クールの全ドラマの中でも上位に入る堂々たる成績だった。

ところが『いだてん』は、エイト社「テレビ視聴しつ」調べで3.41。今年1月時点では、『3年A組』4.09、『トクサツガガガ』3.99、『グッドワイフ』3.95、『家売るオンナの逆襲』3.90などが上位を占め、大きく水をあけられた『いだてん』はドラマ部門の最下位に沈んだ。

『あまちゃん』では、東京の女子高生だった主人公が、母の故郷で祖母の後を追って海女になる前編と、東京に戻りアイドルになるために奮闘する後半を通じて、成長していく姿を描いていた。

「笑いの中に人間の優しさがある」

「喜怒哀楽を揺さぶられ、元気をもらえる」

「好きなドラマは沢山ありますが、あまちゃんは別格」

等身大の主人公(能年玲奈)・母(小泉今日子)・祖母(宮本信子)などの人間ドラマが骨太に描かれ、それに共感する視聴者が続出していたのである。

一方『いだてん』は、SNS上では好意的な評価が目立つが、満足度調査では厳しい意見が少なくない。

「初回でつまらなくて二回目を見る気がしなかった」

「明治と昭和を行ったり来たりするのは鬱陶しい」

「期待は大きかったが今のところあまり面白いと感じない」

「今までの大河ドラマの中で最低で面白くない。特にたけしはミスキャスト」

「これは、がっかり。いつになったらおもしろくなるの?」

高齢層が厳しいだけでなく、『あまちゃん』を支持した若年層もダメ出しの声が少なくない。最大の問題は、人間ドラマとしての共感ポイントが明確でない点だ。

クドカンワールド云々と言われても、普通の視聴者は手法だけでドラマを面白いと納得するわけではない。基本となる人間ドラマが希薄では、貴重な時間を投入して見続けてくれない。

起死回生はある?

4話をターニングポイントに、5~6話で圏外離脱してしまった『いだてん』。

木田放送総局長はテコ入れ策として、「分かりにくいところをPRや解説番組などで補強」と発言した。しかし一旦脱落した視聴者は、PRや解説番組で納得して戻ることはない。対症療法では解決しないのである。

やはりテコ入れの基本は、ドラマ本体の中でこれ以上の流出を出さず、求心力を大きくすること。時間をかけて途中からでも見たいという人を増やすしかない。

この“途中から見始める”についても、実は『あまちゃん』が大いに参考になる。

博報堂DYメディアパートナーズのメディア環境研究所は、視聴者が『あまちゃん』をどこから見始めたのかを調査していた。

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これによれば、見始めた時期で最も多かったのは初回から。ドラマの見方として、至極当然の結果である。

そして見始めの時期は、第6週にかけて徐々に減って行く。つまりドラマは途中から見始めても筋が分かりにくいので、次第に途中から見始める人は減って行く。

ところが『あまちゃん』の場合は、普通のドラマと異なる側面があった。

見始めた時期として初回に次いだのが、「8月16~18日」だった。実はNHKが、深夜に3夜連続のダイジェスト放送を編成したからだった。

話題になっていたドラマを、あらすじを理解できるようにダイジェストでみせ、そこから見始めハマっていった人が全体の1割以上もいたのである。

7月頃に20%超が当たり前となっていた同ドラマが、最後に23%を超える背景に、こうした編成的努力があったのである。

もう一つ見逃せないのが、第6週以降12週にかけて、見始めた人がジワジワ増えた点。

実はドラマで出てくる「じぇじぇじぇ」という奇妙な言葉や、80年代の聖子ちゃんカットの有村架純の登場など、話題になる要素が検索やSNSで拡散し、見始めた人が少なくなかったのである。

こうして普通のドラマより途中から見始めた視聴者が格段に多かった『あまちゃん』。

途中からでも見やすい骨太な人間ドラマがあり、途中参入組が脱落することも少なかった。結果として、19%台で始まったが、7月には20%超が当たり前となり、8月中下旬から急伸し、最後の1か月は22%超となった。

この時の教訓を再現できれば、『いだてん』にも可能性がある。

序盤の失点を中盤以降で挽回すれば、スポーツなら感動的なレースになる。そしてラストを華麗に疾走すれば、感動は一層増すだろう。

危険水域突入に落胆することなく、強かに復活することを願って已まない。