『いだてん』は『あまちゃん』の再来となる!?~初回の不安解消は2話以降次第~

大河ドラマ58作目となる『いだてん~東京オリムピック噺~』。

13年度上期の『あまちゃん』が朝ドラの流れを変えたように、スタッフや出演者が多く重なる『いだてん』も、画期的な大河ドラマになることを期待されている。

しかし初回を見る限り、不安が拭えない。

各種データや人々の発言を交え、2話以降での大逆転の可能性を考えたい。

『あまちゃん』との共通点

『いだてん』は脚本・宮藤官九郎、演出・井上剛、音楽・大友良英、プロデューサー・訓覇圭と、主なスタッフは『あまちゃん』と同じ。小泉今日子・杉本哲太・橋本愛・平泉成など、共通する役者も散りばめられている。

初回放送直前の土砂降りのような番宣番組の編成を見ても、『あまちゃん』再来を願うNHKの並々ならぬ力の入れ様がわかる。

男女年層別の見られ方では、『あまちゃん』と同じ傾向が初回から出た。

『あまちゃん』はそれまでの朝ドラと比べ、高齢層の視聴者を減らした。伝統的な朝ドラを好む人々に、クドカンの世界観が合わなかったようだ。

代わりに若年層をいつもになく獲得した。新規の視聴者を集めたのである。

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『いだてん』初回も、ほぼ同じ結果となった。

そもそも大河ドラマの視聴者は、圧倒的に高齢者が多い。ところがインテージ社i-SSPデータでは、50~60の女性が『西郷どん』より減った。ところが20代と30~40代は伸びている。男性でも、60代は減ったが、40代が大きく伸びた。『あまちゃん』同様、新しい視聴者を獲得したようだ。

『あまちゃん』の時は若年層を開拓したため、後を受けた『ごちそうさん』以降で視聴率が上がった。伝統的な朝ドラファンが戻ってきたので、新規顧客を獲得した分だけ増えたのである。

大河ドラマも、平均視聴率20%以上が頻発した時代があった。ところが近年は、10%台前半に低迷することが多い。『あまちゃん』のような起死回生を、NHKは番宣番組を大量投入した『いだてん』でも狙っているのだろう。

視聴者の出入り

ところが初回を見る限り、思惑は外れている。

ビデオリサーチ社が調べる初回視聴率15.5%は、『西郷どん』初回とほぼ同じで、決して悪いとは言えない。それでもインテージ社「Media Gauge」の流入率・流出率を精査すると、不安材料がたくさん見える。

クドカン大河で話題性は十分だった。

『イッテQ』『ポツンと一軒家』『坂上&指原のつぶれない家』『ジャンクSPORTS』など裏番組がCMに入った際に、大量の流入が発生していた。ところがザッピングでちょっと覗きに来た視聴者を定着させられないまま、ほとんど逃げられてしまっている。魅力的な出来とはなっていなかったようだ。

例えば2分半ほどのタイトルがあけから、裏番組のエンディングなどで大量の流入が発生する8時50分までで、流入率と流出率を比べてみよう。40分間の延べ流入率は111%。対する延べ流出率は107%。序盤で多少増えた以降は、接触率がほぼフラットになっていることからも、流入者の大半は定着せず逃げていたようだ(冒頭のグラフ参照)。

視聴者の感想

では視聴者の評価はどうだったのか。

Yahooテレビ「みんなの感想」に寄せられた5段階評価の平均は3.31。残念ながら『家売るオンナの逆襲』4.07、『3年A組』3.61、『メゾン・ド・ポリス』3.52に大きく後れをとった。

『いだてん』に感想を寄せた人は、1月12日時点までで220人。

そのうち30人以上が票を入れた感想(大勢の納得を得た感想)は48件。内容がドラマに肯定的だったのは16件、否定的なものは32件だった。ダブルスコアだ。

特に50人以上が票を入れた感想だと、4件すべてが否定的だった。残念ながら初回への視線は、かなり厳しかったようだ。

まず否定的な感想は以下の通り。

「ビートたけしの志ん生も全然よくない、しかも滑舌悪くてセリフ聞きづらい」

「始まって15分でチャンネルかえた。全然おもんないし、たけしが何喋ってるかを聞き取るので疲れる」

「非常に疲れるドラマでした。時間、場所、登場人物がころころ変わる」

「あれっ今昭和?明治?と混乱しながら見た」

肯定的な意見でも、懸念材料を指摘する声が少なくなかった。

「好き嫌いが分かれるだろうが、自分は大いに気に入った」

「いい意味ではスピーディーだが、ちょっとついていけない人もいるのではないだろうか」

「(初回で)脱落する人も多いと思うが、(クドカンは)伏線を後半きれ~いに回収していく様が圧巻なので、見続けた人だけに後半ご褒美があると信じて見続けます」

流出率での裏付け

こうした懸念の声は、「Media Gauge」の流出率データからも裏付けられる。

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セリフが聞き取りにくいなどの批判が集中したたけし登場のシーンは、明らかに流出率が高くなっている。例えば番組開始2分での、志ん生による「富久」の噺。直前の流出率3%強に対して、4%弱が逃げている。

流出率とは、直前の総接触者数に対して逃げた人の比率。大量の流入により全体の数が増えているにも関わらず、流出率が増えたというのは逃げた人が増加したことを意味する。

12~13分での志生(たけし)の解説が絡むシーンも、流出率3%弱を5%に急伸させた可能性がある。裏3番組がCMとなり、流入率も急伸したので、その人たちがちょっと覗いた後に元の番組に戻って行ったとも解釈できる。ただしその瞬間が志ん生(たけし)のシーンでなければ、もう少し留められた可能性も否定できない。

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34分からの志ん生宅のシーンも、流出率が上昇した。さらに番組最後の57分の急伸も見逃せない。ぼちぼちお仕舞ということで視聴を辞めた人もいるだろうが、それにしても急上昇しすぎだ。

以上のように、たけし登場シーンでことごとく流出率が高まっている。感想にあった通り、ミスキャストと思った人がかなりいたようだ。

明治と昭和の50年ほどを行き来する構成にも、多くの視聴者が戸惑ったようだ。

5分・6分・11~12分・34~35分・37分・57分と、時代が50年ほど移動した直後の流出率は大半が高まっていた。制作側が頭で考えた展開は、一部の視聴者の感性に合わなかったようだ。

他に外国語のシーンや、オリンピック参加をめぐる議論のシーンも苦戦した。

14分でのフランス大使館でのやりとり、校長室での嘉納治五郎(役所広司)と可児徳(古館寛治)の議論(17分)、永井道明との激論(18~20分)、文部省でのやりとり(21~22分)、校長室での「スポーツか体育か」の議論(37~38分)、予選会でのマラソンを巡る議論(45)は、いずれも流出率が上昇したり、高いままで推移した。

ちなみに同ドラマでは、当時のフィルムが多用されている。制作者側は貴重で興味深い映像と考えたのだろうが、残念ながらこれらも流出の要因となっていたようだ。

大河ドラマ近年の傾向

大河ドラマの視聴率動向は、かつてと近年で大きく異なり始めている。

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例えば08年の『篤姫』や06年の『功名が辻』では、初回より後に高い数字の回が多い。『篤姫』の初回は20.3%だったが、20回目以降は25%以上が当たり前となり、最高視聴率は最終回の29.2%。1年の平均視聴率も24.5%と初回や序盤よりかなり高い。

86年『いのち』、89年『春日局』、95年『八代将軍吉宗』など、そのパターンの大河は幾つもあった。

ところが2010年代では、初回より平均が上回ることはなくなった。

それどころか、初回が最高というパターンが頻出している。13年『八重の桜』、15年『花燃ゆ』、17年『おんな城主直虎』などだ。去年の『西郷どん』も、初回15.4%は2番目に高く、0.1%上回った最高は5話目。その後は下がって行き、平均は12.7%と低迷した。

つまり10年以上、大河ドラマでは初回や序盤を中後盤が上回ることがない。

その流れで言えば、『いだてん』初回はかなり重要な回だった。にもかかわらず、『西郷どん』と同等の数字で、大河ファンが多い高齢層を減らしている。30~40代こそ増えているが、たけしのシーン・時代がスリップする瞬間・外国語や議論が頻出するシーン・過去の映像シーンなどがマイナスに作用した。

制作者の不安

実は先月中旬に行われた『いだてん』初回の試写会で、めずらしい現象が起こっていた。

チーフ演出・井上剛の「なんか、笑いが少なかったので、ちょっとショック」という言葉や、訓覇圭チーフ・プロデューサーが頻繁に発した「ダメですか?」という発言だ。

これに対しては、取材陣が「ダメではないです」と励ますという不思議な展開になっていた(「大河いだてん試写会、弱気なPを記者が励ます珍現象」)。

この記事を目にした際、筆者に一抹の不安が過った。

試写会は映画のように暗くした部屋で、招待された記者たちが大画面を凝視する。リテラシーの高いメディア関係者が、高い集中力をもって注目するので、その記者たちの「ダメじゃない」は当てにならない。

テレビドラマは家庭で見るものだ。

中には食事をしながら、あるいは家族で会話しながら見る人も多い。食い入るように画面を注視し、セリフを一言も聞き逃さないように見る視聴者は少数派だ。

『いだてん』初回で、「たけしのセリフが聞き取れない」「混乱した」「疲れた」という感想が頻出したのは納得できる。制作者はそこを織り込んで、情報量・ストーリー展開・感情表現・笑いの塩梅を最適化するのが仕事だ。

その意味で、『あまちゃん』の夢再びという大きなプレッシャーがかかり、しかも2020年東京オリンピックという大イベントに絡んだ注目の大河ドラマを担当した人々の重圧が、情報過多でバランスを欠いた初回にしてしまった経緯が推察できる。

自由に遊んだ『あまちゃん』の時とは、ドラマの性質も局内事情も大きく異なる。担当者の苦労は想像以上だろう。

ちなみに17年秋のクドカン作『監獄のお姫さま』も、『いだてん』と同じ様に時間を激しく行ったり来たりし、「ついて行けない」と脱落した人がたくさん出た。やがて多くの伏線が回収され、最終話でのカタルシスには高い評価があったものの、9.6%で始まったが中後盤では5~6%台まで下がってしまった。

『いだてん』が同じ轍を踏むか否かは2話以降の出来次第。

初回の叙事詩的展開と異なり、2話では金栗四三(中村勘九郎)の故郷・熊本での少年時代を描く人間物語となるようだ。

『あまちゃん』のようなクドカンドラマらしい面白さと、自由闊達さが画面から滲み出ることを期待したい。