紅白で視聴者を魅了したのは・・・1位米津、2位サザン、3位サブちゃん、別格チコちゃん~

昨年大晦日に放送された“平成最後”の紅白歌合戦。

視聴率は後半が41.5%で2年ぶりの40%超え。ネット上でも「神回!」「出演者が豪華」など賞賛のつぶやきが飛び交った。

そして歌手別の視聴率では、1位がサザンオールスターズ、2位に米津玄師、3位ユーミンで同率4位がMISIAと星野源とする記事が出た。

いずれも素晴らしいパフォーマンスだったことは間違いない。ただし世帯視聴率の多寡で、単純に歌手をランク付けするのは抵抗がある。関東900世帯をサンプルとする視聴率だけでは、正確な評価ができないからだ。

別の指標も動員して、視聴者を魅了した出演者は誰だったのか。もう少し深層に迫ってみたい。

視聴率の留意点

ビデオリサーチが発表する関東の平均視聴率を根拠に、「後半が41.5%で2年ぶりの40%超え」と騒ぐメディアが多いが、同社の視聴率には測定誤差がある。

『紅白歌合戦2017』について書いた拙稿「『紅白歌合戦2017』は成功?失敗?~今こそ番組論の深掘りが不可欠~」で詳細に説明したが、視聴率40%の番組は36.7%から43.3%の範囲にあったと解釈するのが正しい。よって過去5年の紅白後半の高低は、いずれも誤差の範囲に過ぎなかったのであり、一喜一憂するには及ばない。

次にネット上の記事には、視聴率で歌手をランキングしたものが散見される。例えば紅白2018での序列を次の通りに発表した記事があった。

1位:サザンオールスターズ【45.3%】

2位:米津玄師      【44.6%】

3位:松任谷由実     【43.7%】

4位:星野 源        【43.4%】

4位:MISIA     【43.4%】

6位:TWICE     【42.7%】

7位:西野カナ      【42.6%】

7位:松田聖子      【42.6%】

9位:AKB48      【42.4%】

10位:三山ひろし     【42.3%】

10位:嵐         【42.3%】

ところが視聴率による序列が、歌手の力量を正しく反映しているかは怪しい。

そもそも上位が全て後半にあるのは、毎年『紅白』ではラストに近づくほど視聴率が上がる傾向があるからだ。つまり前半に置かれた歌手は、実力とは関係なく上位に入るのは難しい。

また視聴率は裏番組との関係で決まる。例えば『紅白2018』の裏番組では、日テレ『ガキの使い』が12~14%台。テレ朝『よゐこの無人島0円生活』5~6%台。TBS『SASUKE&ボクシング』4~6%台。フジ『RIZIN.14』5~7%台だった。

特に大晦日は各局を渡り歩く視聴者が多く、日テレとNHKとの間は言うまでもない。加えてこの日は、TBSのボクシング井岡戦やフジRAIZINのメイウェザー戦などを覗き見た人はかなりいた。

つまり『紅白』の中の単純な数字比べは、意味がない。

ネット接続テレビで見えるもの

ならば詳細なデータに簡単にアクセスできるインテージ社「Media Gauge」のデータで見てみよう。

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インターネットに接続したテレビ80万台超の視聴状況を調べているが、2017年と2018年の数字はビデオリサーチ社と結果が真逆になっている。

関東900世帯と全国80万台超と分母が異なるので単純に比較できないが、肌感覚で言えば引退を発表していた安室奈美恵の存在は、『紅白2017』で絶大なインパクトを持っていた。

インテージ社のデータでは、視聴率ではなく接触率と呼んでいる。

歌手別の高低を見ると、1~7位はビデオリサーチ社の視聴率とほぼ同じような関係になっている。ただし嵐とAKB48は西野カナより上にきているし、三山ひろしはインテージ社のデータではかなり低い。さらにいきものがかりやKing & Princeの数字が大きく違っているようだ。

ただし歌手間の序列が当稿の主題ではない。

これら接触率も、単純に高低を比べただけでは、裏番組との関係は見えてこない。大切なのは裏番組から『紅白』への流入であり、『紅白』から裏番組への流出だ。

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例えば7時台を見ると、日テレ・テレ朝・TBS・フジの各番組は1時間に数回ずつCMを放送している。このCMの間にザッピングする人が少なくない。結果として7時15分に始まった『紅白』では、7時台の45分間だけで6~7回、CMで裏番組から流出した視聴者が『紅白』に流入している。

特に日テレからの流入は大きく、7時40分頃の流入は、直前の接触率の1割ほどに及んでいる。

逆に『紅白』が少しつまらないと、大量に視聴者が流出する。例えば7時30分前後、審査員の紹介から始まり、裏トーク・ラジオ・4K8K放送に触れている時に、2割近い視聴者が逃げている。

実は毎分の接触率は、こうした流入と流出の差で決まる。ビデオリサーチの視聴率も同じ原理だ。要は流入が敵失みたいなもので、『紅白』の出来とは関係ない。ただし流出は、視聴者にどれだけ逃げられたかを示すデータで、この多寡で各歌手やコーナーの良し悪しを判断できる。

流出が少ないパート

この見方で見ると、7時台の序盤は実に出来が良かった。

オープニングのVTRの作り、三代目J SOUL BROTHERS・坂本冬美・郷ひろみを各2分ほどでテンポ良く見せる構成は、視聴者をまったく飽きさせない作りだった。誰もが知る『R.Y.U.S.E.I.』ダンス、『夜桜お七』と世界一のダンスチームとのコラボ、郷ひろみの歌の間に登場した2018年の主な出来事など、よく練られた演出で視聴者はチャンネルを替える暇がなかった。

7時40分以降の『夢のキッズショー』、Hey! Say! JUMP、畠山愛理のダンスとコラボした丘みどりの歌、そして『チコちゃん』コーナーも高く支持され、概ね流出は2~4%におさまった。

この間にCMによる流出の多くが『紅白』に流入し、接触率は3%以上上昇していた。

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20時台も、裏からの流入が大量に発生した。

日テレ『ガキの使い』からは、CMで5回も大量流入が発生した。特に3回は1割以上の流入となった。またボクシング中継で井岡一翔が日本ボクシング界初の世界4階級制覇を逃した直後、TBSからも流入がかなり発生した。

ところがマジシャンのメイガスと水森かおりのコラボ、刀剣男子『刀剣乱舞』、島津亜矢や五木ひろしのコーナーで大量の流出が発生した。

またYOSHIKIが『紅白』史上初めて「紅」「白」両組から出場し話題になったが、サラ・ブライトマンとの歌で流出が大量だった。

演歌や外国語などは、一部の視聴者に逃げられる要因と認識しなければならないようだ。

魅了された歌手は・・・?

9~11時台の流入・流出も、基本的に似た構造にあった。

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例えば9時台。いきものがかり・福山雅治・関ジャニ∞と、若年層に支持されていると思われる歌手でも、4~6分と他の歌手の2倍以上歌った場合、結構逃げられていた。単に歌うだけという単純な演出も響いたようだ。

ところがAKB48の場合、タイのBNK48とのコラボと演出に工夫があったために、5分も歌った割に流出は多くなかった。演出力も視聴者を留める上で、大きな要素なのである。

さて歌手別に視聴者をどれだけ魅了したのか、本題に戻ろう。

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紹介された際、あるいは歌っている間に流出が少ない歌手は、明らかに視聴者をテレビにくぎ付けにさせる実力がある。

その意味では、歌手別視聴率1位だったサザンは、2位の米津玄師に及んでいなかったようだ。米津が歌っている間は、じっくり歌を聞かせるシンプルな演出だったにもかかわらず、流出は2%ほどしか発生しなかった。全アーティストの中でピカ一の実績と言えよう。

しかも米津のコーナーが終わった瞬間、次がMISIAであるにもかかわらず、流出は10%超に及んだ。如何に彼だけが目当てだった視聴者がいたか分かる。

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米津には及ばなかったものの、サザンには歌2曲というハンディがあった。

1曲目の『希望の轍』で、3~4%の流出が起こっていた。『LEMON』の吸引力との差と言わざるを得ない。

それでも2曲目の『勝手にシンドバッド』は圧巻だった。

流出も4分間2~3%に留まり、米津と互角の実績となった。画面に入ってきた北島三郎やユーミンとの絡みが秀逸。特に歌の終わりに、桑田が司会の4人に一言ずつコメントし、最後に「サブちゃんサスガ」と韻を踏んで声がけする辺りは脱帽だ。コンサートで場数を踏み、客を喜ばせる実力は他を圧倒するものがある。

歌手別視聴率の順位と流出率の実態に大きな乖離があったコーナーも見逃せない。

オオトリながら同率10位と視聴率はパッとしなかった嵐。流失率でみると、2曲歌ったにもかかわらず、2~3%台におさえ続けた。やはり客を引き付ける実力のあるアイドルグループと言えそうだ。

逆はTWICEだ。

視聴率では6位と上々の出来だったが、流出では4~7%台と高めだった。同じ時刻に日テレなど3局のCMが重なり、流入が13%以上あったために欠点が隠されてしまったケースだ。外国語で歌われると、逃げ出す視聴者が一定程度いる。

圧巻の演出

米津玄師・サザンに次いで流出が少なかったのは、意外にも演歌歌手の北島三郎。

『まつり』を歌っている間、流出は2%台に留まった。大掛かりなセット、出演者総動員、お決まりの多すぎる紙吹雪などに加えて、歌を2分ほどと短くした点が幸いしたようだ。すべての演歌の中で断トツの数字だった。

もう1つ忘れてはいけないのは、歌手ではないがチコちゃんコーナーだ。

7時台の最後に置かれたが、やはり流出率は2%台が続いた。生でチコちゃんのCGがどう出てくるのか、視聴者は興味津々だったのだろう。

その後もチコちゃんが何度も登場するように、2018年を代表する番組であり、パワフルなキャラクターと言えよう。

以上のように『紅白2018』は、歌手の力、歌の力、そして演出の力が存分に発揮された。

これまでに触れなかったコーナーでも、Eテレとのコラボの『夢のキッズショー』は、幼児向けの歌でも幅広い層に届くことを証明した。

Hey! Say! JUMPでは男子チアの力、Sexy ZoneやPerfumeではデジタルの力が圧巻だった。また松田聖子やユーミンは、70~80年代の歌の魅力を見せつけてくれた。

こうした優れた才能が卓越した演出で、次から次へと惜しげもなく登場する『紅白』。改めてテレビの力と可能性を示した番組だった。

ただし4時間半は、さすがに長すぎる。歌手別・コーナー別に分析すると発見がたくさんあるので、改めて録画かVOD(NHKオンデマンドあるいはテレビで見られるアクトビラ)で、優れたコーナーを見直すことをお薦めしたい。