M-1上沼審査は的外れ!?~お笑いもビッグデータで評価できる時代~

霜降り明星の最年少優勝で幕を閉じた『M-1グランプリ2018』。

平成最後で過去最高の注目度と言われたが、番組の平均視聴率も関東18.8%・関西28.2%と、共に歴代で5本の指に入るほどの盛況ぶりだった。

ところが番組終了後に、M-1はもっと注目されるようになった。

とろサーモンの久保田とスーパーマラドーナの武智が、審査員を務めた上沼恵美子を痛烈に批判したからだ。

「審査員の皆さん、もう自分の感情だけで審査するのやめてください。1点で人の人生変わるんで、理解してください」

「お前だよ!分かるだろ?右側のな!クソが!!」

かなり口汚く否定された上沼恵美子だったが、彼女の審査はそんなに頓珍漢だったのか。

当日リアルタイムで番組を見ていた全国1000万世帯ほどの動向を分析すると、他の6人の審査員とはやや点の入れ方が異なるのは事実だが、実は大多数の視聴者の感覚と近かったことがわかる。

視聴者はどこで離脱したのか?

まず大多数の視聴者が、M-1グランプリをどう見ていたのかを追ってみよう。

インテージ社の「Media Gauge」は、全国80万世帯超のインターネット接続テレビの操作ログデータを集めている。

今回の放送では、調査対象のうち番組平均で16万世帯ほどが視聴していた。

そこで準決勝に挑んだ10組について、4分の漫才が始まって、何台のテレビが途中でチャンネルを替えたり、テレビを切ってしまったのかを調べると、視聴者による10組の評価が見えてくる。つまり途中流出の多さは、「つまらなかった」とみなす手法だ。

結果はベスト3がミキ・和牛・ジャルジャルとなった。

準決勝での7人の審査員による点数では、ベスト3は霜降り明星・和牛・ジャルジャルで、4位のミキは決勝進出を逃していた。ただし2~4位は視聴者のベスト3と重なっている。視聴者評価とプロの審査がかなり似ていることがわかる。

視聴者評価では霜降り明星が最下位!?

ただし最大の違いは、プロの審査で1位だった霜降り明星が、視聴者評価では最下位になっている点。

実はこれは、放送時間による影響だ。

霜降り明星の漫才が放送されたのは、8時57分以降で9時1分までにわたった。つまり4分のパフォーマンスは、不幸なことに“9時またぎ”となり、多くの視聴者がザッピングなどをする時間帯と重なってしまった。しかも9時からは、TBS『下町ロケット』・日テレ『行列のできる法律相談所』・NHK『NHKスペシャル』など、強力なライバルの番組が始まる。ここまでM-1グランプリを2時間半ほど見てきた人も、さすがに一定量が流出してしまったようだ。

つまり霜降り明星の漫才4分に問題があったのではなく、最初から「9時になったら他の番組を見る」と決めていた人々が、たまたま霜降り明星の時に流出していた可能性が高い。

いわば“追い風参考”記録だったのである。

つかみで失敗したトム・ブラウン

視聴者の評価を分析すると、各漫才のどの部分がダメだったのかが見えてくる。

典型的なのはプロの審査で633点をとり6位となったトム・ブラウン。3位ジャルジャルには16点およばず、決勝進出を逃していた。

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視聴者の評価では、最下位とプロより厳しい。

最大の敗因は、漫才が始まって1分間の“つかみ”。冒頭30秒では他の出演者に遜色はなかった。ただし30秒から1分の間に、最初から見ていた人の2.2%が流出している。10組の出場者の中で断トツの落ち込みで、“つかみ”に問題があったのは明白だ。

ここでトム・ブラウンは『サザエさん』に出てくる中島君を5人集めて合体させ、「最強のナカジマックスを作る」話を展開した。会場からも失笑がこぼれていたが、すべった感は拭えなかった。ここで何と、50世帯に1世帯以上が見るのを止めていたのである。

プロの評価では、97点と他と比べ突出して高い点を入れた志らくは、「意味も全くわからないんだけど、衝撃を受けた」「変なのが好きなのかも知れない」と評した。

91点とした松本人志は、「面白かったですよ。でも今日で良いですわ」と微妙な表現。

そして86点と7人の審査員中最低点を入れた上沼恵美子は、「未来のお笑いという感じかな。私には歳だからついて行けないかな」と、笑えなかったと明確に述べた。

表現は微妙に異なるが、3人とも同じ方向で評価している。この奇妙な芸が、冒頭2.2%の流出につながっていたのである。

7審査員の中の上沼恵美子

さて本論のテーマは、上沼恵美子の審査は的外れか否かだった。

まず審査員7人の中での位置づけを見てみよう。7人の総合評価は赤で示した折線グラフだ。これと比べると、確かに上沼恵美子の評価はかなり突出している。

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彼女が7人の中で最高得点を入れたのは、2位の和牛・4位のミキ・7位スーパーマラドーナ・8位ギャロップの4組。そして最低点は、1位の霜降り明星・3位ジャルジャル・6位トム・ブラウン・10位ゆにばーすの4組だ。そして単独で最高点か最低点となったのは、10組中5組とふり幅がかなり大きいことがわかる。

他6人の審査員で単独で最高あるいは最低点をつけたのは、立川志らくが10組中4組。サンド富澤と中川礼二がそれぞれ1組で、松本人志・オール巨人・ナイツ塙の3人は皆無だった。やはり上沼恵美子の審査はユニークと言えそうだ。

視聴者の感性に近い上沼恵美子

ただし以上は、プロの審査員の中での話。

10組による4分間のパフォーマンスの間に、視聴者がどれだけ見るのを止めたのかでも、漫才の出来についての基本的な評価になる。なぜなら視聴率が番組評価の指標であるのと同様、パフォーマンスは“見てくれてなんぼ”の世界だから、流出は致命的なのである。

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これで見ると、4分間で視聴者がもっとも釘付けになっていたのは、プロの審査で4位だったミキ。ただ一人上沼恵美子も1位に挙げていた。

2位はプロでも2位の和牛。上沼はミキと同点の1位と高く評価していた。

3位はやはりプロでも3位のジャルジャル。ここでは上沼の評価は低く6位だった。

追い風参考の霜降り明星を除く9組について、視聴者離脱率による順位と上沼恵美子の順位を比べると、乖離は全部で13位分となり、1組平均1.4となった。

この数字は、サンド富澤の1.2が最も小さく、上沼の1.4はオール巨人・中川礼二と並んで2位に入る。ちなみに視聴者の感性とズレが大きいのは、1.8のナイツ塙・1.9の立川志らくと松本人志だった。

ちなみにプロ7人の審査結果と比べると、上沼恵美子の乖離は1組あたり2.1と断トツで大きい。次が立川志らくの1.6。小さかったのは、0.8のオール巨人とサンド富澤、0.7の松本人志、0.6のナイツ塙だった。

つまり上沼は、漫才村の内部の論理からはやや外れるが、視聴者の感性に近い存在かも知れないのだ。

「審査員の皆さん、もう自分の感情だけで審査するのやめてください。1点で人の人生変わるんで、理解してください」と批判したとろサーモン久保田とスーパーマラドーナ武智。二人はプロの審査員の中での突出ぶりに違和感を持って、発言していたのではないだろうか。

ところが視聴者の感性と比べると、上沼審査はかなり普通の人々の意見を代弁していた。漫才村の内側の論理だけにどっぷり浸からず、漫才のお客さんたる視聴者の評価にも、もう少し目配りをした方が良さそうだ。

ビッグデータが番組を変える!

こうした視聴者や一般の消費者の意見を反映させると、“身近”“自分事”と感じられて、番組はより多くの注目を集める可能性がある。

実際にNHK『紅白歌合戦』は、ネットやデータ放送経由で視聴者の声を集めて審査結果に反映させている。こうした手法は、クイズの解答などの演出も含め、通常の番組でも時々みられる。ただしこれらの声は、いずれも自ら番組参加すると決めた一部の人々の意見であり、必ずしも普通の視聴者の声と同じではない。

ところがネットにつながるテレビの操作ログで、何十万世帯がどう番組を見ていたのかを分析する手法だと、客観的な意見に近づける。納得性が格段に高まる。

しかもITの進化は目覚ましい。リアルタイムに近い集計が可能になっている。かつてのテレゴング(電話投票)やネット投票より、コストも安い。生放送でも使えるようになっている。

テレビ局の側も、ぜひ新しい武器を活用して、面白くて説得力のある番組作りを目指してもらいたい。

最後に今回4640組の出場者の中から頂点を目指した漫才師の皆さんに、一言提言しておきたい。

上沼恵美子への強烈な批判の文言は、そのまま自分たちにも帰ってくるという事実だ。

「出場者の皆さん、もう自分の感情だけで審査員を批判するのやめてください。ビッグデータとして視聴者の評価は見える化できる時代になったことを、理解してください」

M-1グランプリが面白くて、後味も良い番組に発展することを願ってやまない。