綾瀬はるか進化論!~『セカチュウ』から『ぎぼむす』までの軌跡~

(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

『義母と娘のブルース』が第7話で視聴率15.1%を記録した。基本的に右肩上がりで、初回から3割強も数字を上げている。

主演の綾瀬はるかについては、「最強女優の座は盤石」と絶賛する夕刊紙もある。

「綾瀬は、タレント個人が持つとされる潜在視聴率は14%近くあるといわれています。今回はそれを実証してみせた(中略)綾瀬の安定ぶりが際立つ形になりました」

出典:夕刊フジ

広島で生まれ育ち、16歳の時に偶然ホリプロタレントキャラバンで審査員特別賞となり、芸能界入りした綾瀬。

『世界の中心で、愛をさけぶ』でブレイクし、数々の人気ドラマを経て、今回の『ぎぼむす』に至っている。彼女のここまでの進化の軌跡を振り返っておきたい。

ドラマ出演での進化

16歳で特に目標もなく芸能界入りした綾瀬は、事務所に言われるままオーディションを受ける日々を過ごしていた。「いつ広島に戻ろうかなあ」という感覚だったと言う。

ところが04年夏の『世界の中心で、愛をさけぶ』だけは、原作本を読んでいたこともあり、「初めて自主的にやってみたい」と思った作品だった。19歳の時である。

平均視聴率16.0%で同クール全ドラマの中で2位。白血病の演技のため、実際に7kg痩せた。治療の副作用のため、頭も剃った。こうした体当たりの演技は、衝撃を以って視聴者に迎えられた。

「すべてを全部ここに捧げよう」「この作品が終わったら辞めていい」という気持ちだったという。

しかしその後は『ホタルノヒカリ』の2シリーズを除くと、主役級となった4ドラマは必ずしも好成績とは行かなかった。

画像

それでも『ROOKIES』『MR.BRAIN』『仁-JIN-』『南極大陸』などヒットドラマで重要な役を演じ、知名度は着実に上がっていた。

そして26歳の若さで、大河ドラマ『八重の桜』の主役に抜擢された。

以後民放ドラマでは、1本を例外に、主役級のドラマはすべて好成績となっている。同一クールの全ドラマの中で、トップを争う位置にい続けている。

“潜在視聴率14%”と言われるゆえんである。

ちなみに例外の1本は、16年1月期の『わたしを離さないで』

ノーベル文学賞作家のカズオ・イシグロが原作だ。本格的な文芸作品ゆえに、視聴率はやむを得ない部分もあった。ただし彼女の演技は、天然な一面と異なりシリアスで難しい役を演じ、評価を一段と高めることになった。

演技の進化

20代前半までは、天然・ぐうたら・可愛い“女の子”の役が多かった。ところが20代後半から、俄然進化を始める。

第1弾は大河ドラマ『八重の桜』

米俵を軽く持ち上げるほどの腕力、性格は自由奔放かつ男勝りという役だ。戦場では男装してスペンサー銃をもって戦うなど、勇猛果敢な一面をみせた。

広島時代に、足が速く陸上部にスカウトされ、リレーではいつもアンカーだったほどの負けず嫌い。こうした性格が演技にも生きたようだ。

16年から18年にかけて放送された大河ファンタジー『精霊の守り人』では、さらに過激に進化した。

精悍で男勝りな役に抜擢されたが、実はアクションシーンだけで朝から夜まで数日かけて撮るスケジュールだった。

「撮影が終わって帰るやバタンと寝てしまうような、まるで部活の夏合宿のようなハードな日々」と綾瀬は振り返る。それでも「猛獣みたいな感じのイメージ」と注文を付けられ、何度も挑戦しているうちに「自然と気持ちが高ぶって、いつのまにか“猛獣化”している自分」に気づくまでになった。

これも高い身体能力と芯の強い性格ゆえの進化だろう。

これが17年10月クールの『奥様は、取り扱い注意』では、現代の最先端アクションへと進化する。

元々は天涯孤独で某国の特殊工作員だった主婦という設定で、ハリウッド映画のワンシーンのような衝撃的でインパクトのあるアクションをこなすようになった。

しかも普通の主婦の常識が欠如したキャラクター。的外れなエッチ路線に真面目に挑戦する役柄も斬新だった。

そして『義母と娘のブルース』。身体を使ったアクションは言葉の格闘技へと進化した。

ビジネスライクな交渉やプレゼンコンペ、PTAでの権威的な主婦たちとの舌戦、そして事なかれ主義の教師たちとの交渉などが出てくる。

言葉を使ったアクションでは、微妙な間合いや迫力がものをいう。ビジネスライクで沈着冷静な演技は、新たな境地に到達したことを示すドラマとなった。

進化を裏付けるデータ

「女性らしい役」⇒「自由奔放&男勝り」⇒「猛獣のようなアクション」⇒「最先端アクション&奇妙な妻」⇒「沈着冷静な武闘派&義母」と着実に階段を上ってきた綾瀬。

その女優としての進化は、こんなデータで裏付けられる。

画像

「女性らしい役」で主役やヒロインを演じていた時代、実は出演したドラマの大半は、初回以降で視聴率が下落することが多かった。『セカチュウ』から4作、連続ドラマの平均視聴率は初回より10%以上低い。

特に06年1月クール『白夜行』では、30%以上も数字が落ちている。

ところが近年は、初回より中後半の数字が高いドラマが多い。

直近の2作『奥様は、取り扱い注意』『義母と娘のブルース』も、10%以上上昇している。

「自由奔放」「男勝り」「野獣のようなアクション」「ビジネスライクな言葉のアクション」と、新たな役を演ずる中で、女優としての幅を広げてきたこともあろう。

物語が回を追うごとに、彼女の引き出しが幾つも開き、役者としての奥行を視聴者は堪能できるので、ドラマが面白くなって行くのではないだろうか。

今期でも『高嶺の花』を初め多くのドラマが右肩下がりとなっている。こうしたドラマとの違いを考えるのも、一興と言えよう。

CMでの躍進

綾瀬の進化は、ドラマの中の演技に留まらない。実はここ数年、広告塔としても存在価値を高めている。

過去5年の女優のCM起用社数を振り返ると、有村架純(14年)・上戸彩(15年)・吉田羊(16年)・広瀬すず(17年以降)がトップとなってきた。

画像

その厳しい戦いの中、30歳を迎えて以降の綾瀬がベスト5入りし、年々数字を上げている。去年は初めて二桁、そして今年は上半期だけで11社に達している。

CMはスポンサーにとって、商品の売れ行きを左右する重要なクリエイティブだ。

幅広く多くの人に好感を持たれるキャラクターが選ばれるか、特定ターゲットに深く刺さる個性が起用される傾向にある。

芸風を広げ、ドラマの実績を底上げしてきた綾瀬の起用が増えたのは頷ける。

特に筆者が注目したいのは、パナソニックが展開する「Beautiful JAPAN towards 2020」

放送用の短尺CMとWeb用の長尺CMがあるが、2020年に向けて47の都道府県を訪ね、アスリートたちを鮮やかで緻密な4K映像で撮影するという力の入り方は見応えがある。

画像

しかも綾瀬が実際に各地を訪ね、各競技に挑戦しながら魅力を伝えていく演出だ。彼女の身体能力の高さ、芸風の幅広さ、そしてインタビューでの人柄が、名品に結実している。

例えば「綾瀬はるか meets 愛知・空手篇」

空手の型の一部を実際に綾瀬が挑戦すると、アスリートが思わず「おっ、上手ですねえ」と反応してしまう。体幹が強く、一挙手一投足が美しいゆえの称賛だ。

他にも「福島・新体操クラブ篇」で試みたボール演技、「岩手・スポーツクライミング篇」での彼女の身軽で大胆な登攀ぶりなど、綾瀬でなければ出来ないシーンが幾つもある。

そういえば次に出演する大河ドラマ『いだてん』は、1964年の東京オリンピックまでの物語だ。

進化してきたこれまでのドラマや、実際に47都道府県のアスリートを訪ねるCMの仕事などが、新たな演技に必ず活きてくるだろう。

「天の時・地の利・人の輪」を備え、今後どこまで進化して行くのか目が離せない。