『西郷どん』らを支えた幕末の中間管理職たち~上地雄輔と吉川晃司の交情が秀逸 『黒書院の六兵衛』~

WOWOW『黒書院の六兵衛』ホームページから

西郷隆盛にスポットを当てたNHK大河ドラマ『西郷どん』

前々回で西郷(鈴木亮平)は、勝海舟(遠藤憲一)や坂本龍馬(小栗旬)と出会った。これから秋に向け、徳川幕府の大政奉還、鳥羽伏見の戦いを経て、江戸城無血開城に向かって行く。

実はその『西郷どん』より一足早く、WOWOWが江戸城無血開城をドラマにして放送している。

しかもスポットを当てているのは、西郷隆盛や勝海舟など幕末維新のヒーローたちではない。彼らに仕えた中間管理職たちが主人公だ。

時代が大きく動く瞬間、リーダーではなく、彼らの命を受けて任務を遂行しようとしたり、あるいは自らの信念に従って時の流れに竿さそうとする中間管理職たち。彼らの心の揺れや激変の中で獲得する認識こそ、ITやAIなどの進化により仕事の仕方が変わろうとする現代のサラリーマンに共感できる部分があるような気がする。

『黒書院の六兵衛』の設定

慶応4年(1868年)、幕府と新政府の談判が成り、江戸城は不戦開城と決した。

大河ドラマ『西郷どん』では、西郷隆盛を鈴木亮平が演ずるが、『黒書院の六兵衛』では上野の銅像のイメージに近い竹内力也が演じている。そして『西郷どん』で遠藤憲一が演ずる勝海舟は、『黒書院の六兵衛』では寺島進が受け持った。

これら二人のキャラクターの出し方の違いを見比べるのも一興だが、『黒書院-』がスポットを当てているのは下級武士たち。

WOWOW『黒書院の六兵衛』ホームページから
WOWOW『黒書院の六兵衛』ホームページから

一人は将軍直属の御書院番士・的矢六兵衛。勝海舟が主導した江戸城明け渡しに対して、自らの信義を通し一切口を利かぬまま江戸城内に居座り続ける“とびっきり”の変わり者だ。希代のロックスターで、俳優としてもカリスマ的存在の吉川晃司が演じている。

WOWOW『黒書院の六兵衛』ホームページから
WOWOW『黒書院の六兵衛』ホームページから

そしてもう一人は、官軍側に寝返った尾張藩から遣わされ、六兵衛排除の任を負ってしまった下級藩士・加倉井隼人。歌手・タレントとして活躍しながら、俳優としても独特の味わいを出す上地雄輔がキャスティングされた。

興味深いのは、二人の置かれた状況。

まず加倉井(上地)は、徳川御三家中の筆頭格でありながら、戊辰戦争で新政府軍に寝返った尾張藩の下級藩士。江戸城内検分の先手として遣わされることになったが、城内に残る幕府側の藩士たちは皆“裏切者”として加倉井を見下すため、通常のアウェー以上のアウェー状況に陥る。

しかも下級藩士ゆえ当然江戸城内は不案内。“恐る恐る&あたふた”ぶりは、上地雄輔ならではの共感できるキャラクターだ。会社で気が付けば損な役回りになってしまう人、あるいは上司にとても反論できないようなタイプのサラリーマンには、自らをダブらせてみると間違いなく面白い。

いっぽう六兵衛(吉川)は、気位だけは高いが気骨に欠ける幕府軍側の武士たちの中にあって、口をまったく利かぬまま居座りを続けるという“たった一人の反乱”の挙に出る。ストイックな吉川のキャラクターにピッタリの、静かだが強い意志を感じさせる人物だ。

しかも既にドラマは3話まで放送されたが、この間に吉川は主人公なのに一言のセリフもない。「男は黙ってサッポロビール」じゃないが、三船敏郎を彷彿とさせる存在感は、ドラマ界の事件と言っても過言でない。

いずれにしても、人間性がつい溢れ出てしまう上地雄輔と、一言もしゃべらず所作だけで“ラストサムライ”を演じ切る吉川晃司の対峙は、ドラマの切り口としては極めてユニークで魅力的だ。

物語の展開

第1話で恐る恐る江戸城の検分に入った加倉井は、一癖も二癖もある勝海舟(寺島進)に、城内で居座りを続ける六兵衛の存在を知らされる。二人の対面は、“未知との遭遇”ここに極まれりと言った感じだが、あろうことか、その六兵衛はある時期から本物と入れ替わった偽物であることが判明する。

しかも六兵衛は次々に突拍子もない行動に出る。謎が謎を呼ぶ展開は、静かな所作を基本としながらも、ミステリーとしての緊張感はアップテンポで高まっていく。

第2話から3話にかけて、六兵衛の素性・経緯の一部が少しずつ分かってくるが、皮肉なことに謎の方はどんどん深まってしまう。心憎い構成だ。

・六兵衛はある日を境に本物と入れ替わった偽物。しかも家族全員がニセモノ。

・それでも所作や礼儀作法、さらに剣術も完璧。

・ところが夫婦そろって指先が汚い。

・薩摩藩と関係のある高利貸・淀屋辰平が鍵を握るらしい。

・次々に格式のより高い間に移動して行く。

・西郷隆盛(竹内力)、天璋院・篤姫(前田亜季)、徳川慶勝(千葉哲也)など、高位の者が興味を持つ。

どうやら六兵衛は、中学校で習った図形問題を解く時の“補線”のような存在らしい。

六兵衛の突拍子もない行動(補線の引き方)により、周囲の武士たちや高位者たちの思惑が少しずつ見えてくる。謎も少しずつ解けるようで、逆に新たな謎も生まれていく。

おそらく最終回では、その補線が決定的な事実を浮かび上がらせるのだろう。幕末維新という激動期の真実が垣間見えるのだろう。

実は当ドラマの原作は、浅田次郎が日経新聞に連載した歴史小説だ。

当時と同様に激動の現在を意識し、下級藩士と中間管理職を重ねて描いているのであろう。激変の中で大切なポイントとは何か。変化に際して求められる生き方・姿勢とは。そんな解を同ドラマは用意してくれているような気がする。

六兵衛が無言を通して語ろうとしていたモノとは何か。最終回までに吉川晃司にセリフはあるのか。あるとしれば、何を語るのか。そして“恐る恐る&あたふた”の上地雄輔は、一連の激動を経てどんな境地に達するのか。

眼から鱗を落としてくれる予感に満ちたドラマである。

<※ ちなみに初回は8日(木)深夜25時に再放送(無料)、第2話は26時、第3話は27時に放送予定>