平成に入って最悪の被害をもたらした西日本豪雨。

長時間にわたり同時多発的に大量の雨が降り続き、各地で被害が拡大した。

7日午前6時から9時までの2時間、NHK総合テレビへの人々の接触状況を見ると、地域によっては報道内容を食い入るように見ていた人が少なくなかったことがわかる。

異常気象が常態化する新たな時代に突入した今、災害時のテレビ報道も進化を求められている。

西日本豪雨

一連の豪雨について、気象庁は「平成30年7月豪雨」と命名した。

同庁によれば、6月28日0時から7月8日9時までの総降水量は、四国地方で1,800ミリ、中部地方で1,200ミリを超えた。西日本から東海地方にかけて、広い範囲で長く雨が降り続いた“異例の豪雨”だったのである。

72時間降水量でみても、119の観測点で統計を取り始めてから最多を記録した。中には1,000ミリ以上というとんでもない地域もあった。

最大級の警戒が必要な「特別警報」が出た府県は、これまでで最も多い11。河川の氾濫・浸水・土砂災害が同時多発的に発生する未曾有の事態だったのである。

国土交通省によれば、堤防の決壊や氾濫など被害が出たところは全国で180以上。愛媛県の肱川など、大規模な一級河川までが氾濫する異例の事態で、土砂災害は西日本を中心に519件にも及んだ。

西日本の22府県全て、および岐阜県など東日本の一部でも被害が発生しており、“超広域”と呼ぶべき災害だった。2011年の東日本大震災以来の広域災害となる。

被災地は情報を求めている

各地の災害は、7日早朝から発生し始めていた。

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その瞬間、7日朝6時から9時までの2時間に、NHK総合テレビを見た人は急増した。中でも岡山県全体の平均接触率は17.0%、広島県16.7%、愛媛県14.0%、鳥取県12.6%、高知県12.5%と、全国平均の8.3%を大きく上回った(インテージ社Media Gauge調べ)。

これらの数字を、1か月前の6月平均と比べると、切迫した状況が見えてくる。

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最大は岡山県の4.51倍。次いで広島県3.64倍、愛媛県2.76倍、鳥取県2.84倍、高知県2.36倍。身の危険を感じた多くの人々が、情報を求めてNHKのニュースに殺到していたのである。

この状況は、市町村単位でみると、緊急性がより明らかになる。

この時間帯に肱(ひじ)川があふれ、多くの住宅に津波のような濁流が押し寄せた愛媛県西予市では、同じ愛媛県の他の市町村よりNHK総合への接触率が倍近くにまで高まった。

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市全体では、5時台に既に接触率が10.1%と他の市町村の倍になっていた。そして6時台には23.6%、7時台27.1%と急伸し、その後お昼まで25%を超え続けた。

ちなみに大きな被害のなかった愛媛県内の四国中央市では、接触率は10%前後に留まった。愛媛県全体でも13~14%ほどで、西予市は6時間ほど県全体の2倍以上になっていた。

7月7日の同時間帯を、6月一か月の平均接触率と比較してみよう。

当日の5時台は10.1%に対して、6月平均は3.5%に過ぎなかった。6時台は23.6%に対して9.1%、7時台は27.1%対11.3%だ。しかも9~11時台も25%超が続いたが、6月平均は6%前後に落ちている。その差は4倍となる。

如何にこの時の西予市にとって、災害報道が重要だったかがわかる。

異常気象新時代

ここで注目したい番組が、12日放送のNHKスペシャル『緊急検証・西日本豪雨 “異常気象新時代”命をまもるために』だ。

同番組は今回の災害が如何に未曾有の規模であるかを分析し、「異常気象が常態化する新たな時代」に突入した今、災害対策を改めて考え直す必要があると警鐘を鳴らしていた。

例えば広島県呉市とその周辺だけで、220か所もの土砂崩れが発生した。しかも多くの現場は、大量の水を含まない限り崩れない緩斜面。今回は長時間にわたり大量の雨が降ったため、「これまで危険はない」と考えられていた場所も、何か所も崩壊した。安全の基準が明らかに変わっている。

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被害を大きくした原因に、人々の意識の問題もあった。

岡山県倉敷市真備町では、6日夜10時に避難勧告が出ていた。その翌朝に堤防が決壊し、4時から6時までの2時間で2階まで浸水した住宅が多かった。国土地理院の推計では、浸水は最大約4.8mの深さに達し、亡くなった50人は全員が水死だった。

住民へのインタビューで、「大丈夫」と考え避難が遅れた人がたくさんいたことが浮き彫りになった。過去の常識が明らかに通用しなくなっている。

今回は“広域”どころか“超広域”で大量の雨が降ったことも被害を大きくした。流域全体で雨が降ると、下流域に膨大な水が流れ、大きな被害をもたらす。同時に複数個所で土砂崩れが起き、避難経路の確保が出来なかったケースも見られた。

防災無線の悲劇

もう一度、NHK総合テレビの見られ方を見て頂きたい。

実は西予市では、被害が発生した7日朝より24時間ほど前の6日早朝から、接触率は6月平均より倍増していた。しかもネットでの検索数も、前日より4~5倍に増えている。降り続く雨と直近の気象予報で、不安を抱いていた人は明らかに少なくなかったことが分かる。

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では被害が発生した7日早朝はどうだったのか。

午前6時半ごろから川は一気に増水。津波のような濁流が押し寄せ、1時間後には住宅の屋根まで水が及んでいたという証言がある。3400棟以上が浸水し、9人が亡くなっていた。

増水の原因は、肱(ひじ)川野村ダムの「異常洪水時防災操作」と呼ばれる大量放流だ。その4時間ほど前、ダムの管理所長から市に「過去最大の放水をする」と通告があったそうだ。これを受けて市は、5時10分に避難指示を野村地区に出した。防災無線でも3回ほど避難を呼びかけていた。それでも放流を知らせるサイレンや放送は雨音でかき消され、気付いていなかった住民もいたようだ。

2004年に10個目の日本上陸となった台風23号は、日本付近の前線を刺激して、九州から関東にかけて記録的な大雨をもたらし、多くの犠牲者を出していた。京都府舞鶴市では、バスの屋根の上に37 人が避難して夜をあかしたが、その時の空撮の映像をご記憶の方も多いはずだ。

この台風を受けて、筆者はNHKの解説番組で、以下のように指摘したことがある。

「防災無線の充実を国はいうが、本当に防災無線が必要な大災害の時、放送内容は雨や風の音でかき消され、避難すべき人々に情報は届かない」「スピーカーは屋外に置くのではなく、室内のテレビについているスピーカー、あるいは普段肌身離さず持っている携帯電話などを活用すべき」という旨だった。

残念ながら、この教訓は未だにじゅうぶん活かされてはいない。その後も防災無線が聞こえなかったための被害は、何度も起こっている。

再考が求められるテレビ報道

西予市のケースに話を戻そう。

肱川野村ダムの放流前の5時台には、既に10軒に1軒がNHK総合をつけていた。放流時点では4軒に1軒に跳ね上がっている。もしこの時、ダムの放流開始の情報がテレビで流れていたら、もっと多くの人々が避難できていたはずだ。ダムが満水になっている映像を何らかの手段で見られたら、間違いなく避難を決断したはずだ。

携帯電話のプッシュ通知で、ダム放流の予定時間を知らせる手もあっただろう。さらに多くの人たちの安全が確保された可能性はある。

現実問題としては、複数社ある携帯キャリアの全システムを、市町村単位の避難指示にリンクさせるには、課題が少なくない。キャリアは民間企業である以上、とれる体制にも限界がある。

それでも、ほぼ全ての家庭にあるテレビの災害報道を見直すのは、実現性がある。

例えばNHKには、全国に設置したお天気カメラが大量にある。さらに河川や道路などを監視するための、国土交通省など行政機関が置いたカメラともつながっている。こうした映像を、テレビあるいはインターネットで必要とする人に届けるシステムの整備だ。

今回被害が出た西予市で言えば、大雨に対する視聴者の関心が急伸していたことは前の日のデータから把握できる。気象予報でも、災害が起こっても不思議でないほどの大雨が降ることがわかっていた。

ならばNHK総合テレビのサブチャンネルを使って、危険と思われる地域の天気カメラや監視カメラを、マルチ画面で同時に、数十秒ごとに次々と各地の映像を映し出せないだろうか。あるいはNHKのサイトに映像を載せ、放送から誘導し、地域毎に人々が必要とする映像にアクセスできるようにする手もある。こうすれば、緊急避難の必要性が、リアリティを以て地域の人々に伝わるはずだ。

“百聞は一見にしかず”というではないか。

こうしたシステムが広島県や岡山県にあったとしたら、どうだっただろうか。

岡山県倉敷市真備町では、6日夜10時には避難勧告が出ていた。ハザードマップは既に作成されており、同エリアの浸水の危険性は分かっていた。避難勧告以降から、遅くとも多くの住宅の2階まで浸水する1~2時間前に、高梁川や小田川の映像が映っていれば、過去の経験則にとらわれ避難を躊躇っていた人の何人かの行動を促せたのではないか。

NHKの経営計画(2018-2020)『大切なことを、より深く、より身近に~“公共メディア”のある暮らし~』には、「安全で安心な暮らしに貢献」と謳われている。

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「“命と暮らしを守る報道”に全力を挙げる」「大規模災害時には、さまざまな状況に置かれた人々が必要とする情報を得られるよう、テレビ・ラジオ・インターネットを最適に活用」と明記されている。

大幅な人員増は必ずしも必要ない。

例えば福岡・広島・松山・大阪などの拠点局に、防災・減災担当者を置けば良い。地域の人々のニーズは、市町村単位のニュースへの接触率で把握できる。インターネットの検索状況については、ポータルサイトの運営企業と連携すれば良い。天気カメラや行政の持つ防災カメラについては、拠点局の防災・減災担当者が取捨選択して、サブチャンネルあるいはNHKサイトに載せれば良い。

NHKスペシャル『緊急検証・西日本豪雨 “異常気象新時代”命をまもるために』では、将来予測として言われていたような状態が、既に起き始めているとしていた。2000年代後半に起こると予想されていた梅雨時の大雨が、今回のように既に前倒しで始まっているというのだ。

また「正常性バイアス」「お役所任せ」という住民の意識の問題にも触れていた。経験則からまだ大丈夫と自己判断し、避難し遅れる行動パターンだ。

そして市町村単位で行われてきた防災には限界があるとも指摘していた。今回のような“超広域”と呼ぶべき災害では、いわゆる“首長防災”ではなく、広域対応の防災が必要という意見だった。

これら全ては、全国区で情報網を持ち、九州・中国・四国・関西など広域で情報収集を行え、情報発信を設計できるNHKなら、防災・減災の一助になれる可能性がある。予算も人材もノウハウもある。

今一度、件のNHKスペシャルを見直して欲しい。基本的には大災害が発生した後の、何が起こっていたのか全貌を把握すべく、情報を上手に整理した番組だ。さらに教訓を手際よく抽出している。

ただしここまでは事後報道だ。

“異常気象新時代”に対応し、国民の命をまもるために、“事前報道”あるいは“現在進行形報道”のあり方が求められている。

Nスペで触れられた様々な事柄を、“情報収集と情報発信”のリデザインにぜひ活かしてもらいたいものである。