『おっさんずラブ』は誰が評価していたのか~SNSによる幻想か? 実際に名作か?~

男同士の三角関係を柱にした『おっさんずラブ』。

ツイート数が爆発的に増え、これまでに絶賛する記事が数多く書かれた。さらに海外でも人気爆発と報じられている。

ところが視聴率で見ると、テレ朝土曜ナイトドラマの中では高い方だが、同局の金曜ナイトドラマと比べると、必ずしも高くない。しかも回が進むにつれて徐々に上昇していないところを見ると、人気が多くの人に波及したわけでもない。

ただし、実際に視聴した人の満足度は極めて高い。今クールでは二宮和也主演『ブラックペアン』とほぼ互角でトップを行く。

つまり同ドラマは、一部の人にディープに響くという特殊なドラマと言えよう。誰の心をどう捉えたのかを考えてみた。

例を見ないツイート数展開

同ドラマへの視聴者の反応で、まずユニークだったのがツイート数の動向だった。

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一般的にドラマのつぶやきは、放送前後に急増し、24時間以内に騒ぎは収束する。今クールの初回ドラマでは、放送日の24時間でつぶやきが5万8000を超えた『ブラックペアン』、5万を超えた『花のち晴れ』が群を抜いていた。

ところが『おっさんずラブ』は、初日こそ2万5000とトップ2ドラマの半分に満たなかったが、2日目3万

7000、3日目8500と騒ぎが継続した。3日合計では7万超とトップに躍り出たのである。

2話以降も傾向は同じで、第6話では遂に3日合計が21万を超えてしまった。Twitterの世界トレンドで「#おっさんずラブ」が1位となるほどの大盛況ぶりだのである。

視聴率はソコソコ

ところがSNS上でこれだけ大騒ぎになれば、ドラマとして凄いことになっているかと思いきや、現実はそうでもない。

視聴率で見ると、去年秋からスタートしたテレ朝土曜ナイトドラマの中で、一応3作中1位である。

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それでも『オトナ高校』第6話までが3.5%、『明日の君がもっと好き』3.6%に対して、『おっさんずラブ』6話までは3.7%なので、ほぼ誤差の範囲となってしまう。

同局金曜ナイトドラマと比較すると、前クールの『ホリデイラブ』は6話までで5.1%だった。今クール『家政婦のミタゾノ』に至っては6.9%で、一部のGP帯の連続ドラマを凌駕している。

残念ながら爆発的なヒットとは言えない。

しかも初回からの視聴率の推移を見ても、数字が右肩上がりとは言い切れない。

2.9%→4.2%→3.8%→3.5%→3.9%→3.9%は上々の出来ではあるが、SNSの騒ぎはほとんど視聴率に影響を与えていないことがわかる。

ラウドマイノリティの強烈な声も、サイレントマジョリティを動かしてはいないようだ。

満足度は断トツ

量的評価はソコソコだが、同ドラマは質的にはかなり高く評価されている。

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データニュース社「テレビウォッチャー」の満足度で見ると、土曜ナイトドラマの中では断トツの1位。金曜ナイトドラマ『ホリデイラブ』をも凌駕し、GP帯で今クール最も高い評価を得ている『ブラックペアン』と互角に推移している。

視聴者数はさほど多くないが、見た人の心をしっかり掴んでいるドラマであることは間違いない。

しかも男女年層別の満足度を見ると、面白い事実に気づく。

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高い満足度はF1(女20~34歳)とM2(男35~49歳)の突出にけん引されてのことで、F3M3(男女50歳以上)は平均的なドラマと同じ程度の評価に留まっている。

男同士の恋愛が中心だが、どうやら年配者の心には届かなかったようだ。

「面白かった」女28歳(初回・満足度5・次回絶対見る)

「強烈だった!」男38歳(初回・満足度5・絶対見る)

「男同士の恋愛、腐女子としてとても気になるし面白かった」女30歳(初回・満足度4・絶対見る)

「荒唐無稽なストーリーであまり面白くなかった」女55歳(初回・満足度2・たぶん見ない)

「なんてドラマだ(笑)」男47歳(初回・満足度2・なるべく見る)

「どうなんだろうね」男57歳(初回・満足度3・見るかも知れない)

F1とM2では、高い満足度や次回への強い視聴意欲が目立った。ところが中高年になるほど、微妙な表現や評価が目立つ。

第2話以降も、基本的に感想や評価は二つに分かれた。絶賛と微妙な反応とである。

「本当に面白いドラマだと思う、役者もすばらしい」

「今までにない設定だけに斬新」

「人と人が誰を選んで共に歩むかには男女の差はないと感じた」

「ちょっと気持ち悪いところもあったけど、面白かった」

「非現実的なドタバタで面白い」

「バッカじゃなかろか」

集中度は微妙

このドラマを評価する際、もう一つ興味深いデータがある。

TVISHON INSIGHTS社が、関東800世帯をモニターとして調べている視聴の集中度だ。

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テレビにセンサーを設置し、テレビの前に何人いて(VI=ビューアビリティ・インデックス)、どの程度テレビを見ているか(AI=アテンション・インデックス)を測定している。VIとAIを掛け合わせた数字が、実際にどのくらい集中して見られていたかを示す指数としている。

この指標で見ると、『おっさんずラブ』の集中度は0.9ほど。

同社が発表する今年1月クールの「テレビ番組視聴質ランキング」では、『西郷どん』が1.66で1位、『イッテQ!』が1.51で2位。

ドラマでは『トドメの接吻』1.45、『もみ消して冬』1.38、『隣の家族は青く見える』1.30と、1.0を大きく超える番組はたくさんあ。第6話までが0.9留まる『おっさんずラブ』は、視聴者の広がりに欠けることもあり、同社が示すランキングでは上位に入りそうにない。

それでも集中度を性年齢層別に見ると面白いことに気づく。

M1とM2がかなり低いが、F1からF3までの女性陣はかなり高い。例えばF2に限定すれば、前クールで1位だった『トドメの接吻』と肩を並べる。満足度でさほど高く評価していなかったF3も、1.24なので微妙な思いではあるものの、かなり画面に見入っていたと推測される。

アイデアの勝利

以上のデータを総合すると、同ドラマはこんな総括が相応しいだろうか。

90年代に多く描かれた純愛ドラマは、今は影をひそめてしまった。ところが男同士、しかも“おっさん”が真面目に純愛に走るという設定で、今回は強烈なインパクトを持った。

ところが見る側には、絶賛と微妙な感想に見られるように、評価は分かれた。ここが一部の視聴者に極端にディープに受け入れられたが、必ずしも視聴者層の広がりにつながらず、視聴率ソコソコという結果だろう。

個人的にはLGBTの恋愛に困難が伴い、それゆえに味わう武蔵(吉田鋼太郎)や牧(林遣都)の切ない思いが強烈に伝わった。こうした現実を初めて目の当たりにした人も少なくないだろう。マイノリティ問題に対する教育効果は抜群で、社会派ドラマと言っても良いくらいだ。

また主人公・春田(田中圭)を中心にした三角関係に、蝶子(大塚寧々)・ちず(内田理央)・武川(眞島秀和)・歌麻呂(金子大地)などを絡ませる絶妙な脚本に、次の展開が待ち遠しくて仕方なかった視聴者も多かっただろう。

そしてコミカルと純真の振幅の激しい役を見事に演ずる役者たちの力量。さらに心情を吐露するシーンで、背景の光をハート型にボケさせたり、二人の会話をピン送りで際立たせるカメラワークなど、アイデアの勝利というべき部分が随所にあり、娯楽としても大いに楽しめるドラマだった。

さて最終回。直前の予告では、多くの人が「えっ、そう来るか?」と思うような突拍子もない展開に持ち込んでいる。これがどう着地するのか。心憎いことに、ラストは絶対見逃せないドラマにして呉れている。

恐らく制作陣が用意したエンディングに、納得する人と納得できない人と、最後までこのドラマは賛否両論が分かれそうだ。

それでも大丈夫。いまやビンジウォッチング(一気見)が可能な時代だ。ラストを見て、制作陣の手口を最初から検証したくなった人には、『おっさんずラブ』大特集などで、初回から一気に見直すことをお勧めしたい。

いずれにしても、同ドラマはテレ朝ナイトドラマの新たな扉を開いかことだけは間違いなさそうだ。