プロ野球CMはソフトバンク・広島・阪神・楽天が独走!?~地域によってCMはこんなに違う!~

(写真:アフロ)

プロ野球が開幕して一か月。

セパ両リーグの戦いはいよいよ熱を帯びてきたが、実は舞台裏ではビジネスの世界も白熱している。

CSを使って有料多チャンネル放送を行っているスカパー!は今春、プロ野球12球団別にCM素材を制作し、地上波テレビで地域毎に異なるCMを放送している。

有料放送の競争が激化する中、より効率的な展開をめざしてエリアマーケティングに取り組んでいるが、その放送の仕方は地域によって極端に異なっている。

野球に注力するスカパー!

スカパー!は、プロ野球セパ12球団の公式戦全試合を中継し、パソコン・スマホ・タブレットでも見られる「プロ野球セット」を売りにしている。例えば5月では、150試合以上が中継される予定となっている。

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4月29日時点で2位DeNAに2.5ゲーム差をつけ首位を行く広島のファン、あるいは2位日本ハムに早くも4.5ゲーム差をつけ独走する西武ファンにとって、全試合が見られるのはありがたいことだろう。

また首位チームでなくとも、各球団には熱いファンがいる。毎晩テレビやPC・スマデバで観戦できるのは、楽しみが倍加することだろう。

実はスカパー!の経営にとって、プロ野球は重要なコンテンツだ。

同社ホームページ上の加入件数データによれば、2001年度以降、同社は3~4月で2~7万の加入件数を増やしている。その主な要因は、プロ野球の開幕に合わせて、新規加入あるいは再加入する人々だ。

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ところが同サービスの年間の純増純減をトレースしてみると、2000年代前半は30万件以上の伸びを記録することもあり、順風満帆だった。ところが2000年代後半は、数万件しか伸びなくなっていた。そして2010年代は、純減となる年が増え、14年は24万件減、16年は16万件減と、大幅に契約を失っていた。

もしプロ野球の中継サービスがないと、同サービスは5年以上早く純減体質になっていたかも知れない。毎年コンスタントに数万件の純増をもたらすプロ野球は、いわばキラーコンテンツなのである。

今年のCM

今年は「プロ野球セット」の宣伝のため、元プロ野球選手で日本プロ野球史上唯一、三度の三冠王を達成した落合博満を出演者に迎えた。堺雅人が各球団の今年の見どころを聞く『レジェンドに聞くプロ野球12球団見どころ』篇を、球団ごとに制作したのである。

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例えばセリーグで今のところ首位の広島篇はこんな感じだ。

堺 「落合さん、今年の広島東洋カープ、どう見ますか?」

落合「三連覇という大目標があるんでね、いろんな方が優勝候補に挙げる、そういう位置にはいるんだと思います」

堺 「なるほど!」

このCMは15秒と短いので、明らかに食い足りない内容だ。そこでラストカットで「全コメントはWEBへ。#オレ流」とテロップを出し、ホームページへ誘導している。そこでオレ流の辛辣な意見が開陳されている。

「一番怖いのは慢心でしょ。そりゃ、自信を持つのは良いけど、自信と過信は違うんでね。」

「(短期決戦は?)アメリカを見れば一番良いんじゃないんですか。昨日先発した奴を今日行くのかという・・・でも日本ではまだそこまで腹括っていないでしょう」

他の球団についても、落合らしい辛口コメントのオンパレードだ。

ソフトバンクについては、「今年、首脳陣変わってんです。その辺りをどうやって工藤監督が、教育をたばねていくかという・・・」

阪神「去年2位だっただけにねえ、やりようによっては優勝する目はあるんだろうと思います。金本監督がどういう野球をやるのかが一番なんじゃないんですか」

楽天「優勝もあれば、最下位もあるというところなんじゃないですか」

巨人「ジャイアンツ自体が3年優勝から遠ざかっている。今年は選手全員、必死になっていくでしょう」

中日「外国人選手次第です。(松坂は)ゲームで投げている姿を一回見てみないことには・・・」

日本ハム「非常に不安です。ピッチャーでゲームを作ってきてたチームは、そんなに簡単に点数をとれるのか・・・」

かなりの“上から目線”で、各球団のファンから見れば、「喧嘩売っとんのか?」という側面もある。

地域で異なるCMの放送

以上のように球団ごとに異なるCMだが、実は放送の実態も地域により極端に異なっていた。

PTP社はエリア毎のCM状況を把握するMadisonというサービスを今春からリリースしている。そのホワイトペーパーによれば、今年3月中の宮城県の放送では156本のスカパー!CMが流れたが、そのうち144本は東北楽天イーグルスについてだった。楽天一辺倒と言っても過言でない。

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同じように極端に一球団に偏った県が、他に2県あった。204本中188本がソフトバンクホークスのCMだった福岡県と、151本中139本が広島東洋カープのCMだった広島県だ。

他にも関西広域圏では、153本中114本(75%)を阪神タイガースが占めた。中京広域圏では、184本中107本(58%)は中日ドラゴンズだった。

ちなみに読売ジャイアンツは、179本の関東広域圏で80本45%にとどまった。同エリアでは、西武ライオンズが39本22%、千葉ロッテマリーンズが27本15%と、同一エリア内に複数のフランチャイズ球団が存在するために、球団別CMにバラツキが出た。

それでも読売ジャイアンツは、中日が強い中京でも64本35%、阪神が強い関西でも16本10%も放送された。さらにフランチャイズ球団のないエリアでも、静岡で42本59%、長野で22本30%、楽天の本拠地が近い福島で34本41%、ソフトバンクが近い鹿児島28本34%と、多くのエリアで相当数のCMが放送された。

エリアマーケティングと地域の実態

以上のようにバラバラな放送の実態だが、スカパー!は気まぐれに決めているのではなく、根拠をもって放送している。各球団のファンの分布である。

ソニーネットワークコミュニケーションズニュースアプリ「ニューススイート」を展開し、ログデータの分析を実施している。このシステムで2016年のセパ公式戦開幕日から日本シリーズ優勝決定までの間(3月25日~10月29日)を分析した結果、「広島県、北海道、岐阜県、高知県、福岡県のユーザーは野球記事に対して感度が高いことが推察」された。

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この分析では、広島と日本ハムが本拠地のあるエリアが突出して興味関心指数が高くなった。前提が各球団の記事の読まれ方なので、この年の日本シリーズが広島と日ハムで戦われたことも影響しているだろう。

他のエリアでは、福岡県でのソフトバンク、関西広域圏での阪神、中京圏での中日、宮城県での楽天が首位だ。そして巨人は、関東広域圏で首位、中京・関西で2位、フランチャイズ球団のない福島・長野・静岡・鹿児島などで高位を占めた。

スカパー!の球団毎CMの地域別放送の仕方とほぼ重なる。やはり同社は、各地域の実態に即して、加入者獲得の効率を最大限に上げるために、放送の仕方を工夫していたようだ。

テレビCMは大手企業が同じCMを全国一律に放送していると思われがちだ。

ところが実態は、エリア毎に分量やタイミングを変えている。中にはキリンが2016年に実施した「47都道府県の一番搾り」のように、エリア別に別々の製品を製造しCMも作り変えていた。エリアマーケティングは、かつてより緻密に計算され始めている(詳細は拙稿『“ローカルCM”戦国時代~嵐「47都道府県の一番搾り」から考える~』)。

またプロ野球のCMの場合、地域の実情に大きな違いがあり、それを考慮しなければならない。例えば16年のセパ両リーグのCSファイナルでの視聴率は、広島地区が43.%と極端に高かった。同シリーズに出ていた日本ハムやソフトバンクの本拠地とは大差だった(詳細は『ファンの熱量は日ハムより広島が上!?~日本シリーズ視聴率対決の行方~』)。

スポンサーから見れば、マーケティングROIを高めるに、エリアごとの最適な資源配分が不可欠だ。そのためには、競合他社の広告出稿状況と各地域の特性を前提に広告宣伝戦略を決め、それらの施策がどんな結果につながったのか、PDCAを回していかなければならない。

漠然と認知度をあげるために、数千GRPを獲得すれば事足りる時代は終わろうとしている。広告効果を少しでも上げるために、多くの企業がデータに基づき、緻密なエリアマーケティングを実行し始めている。

今回のスカパー!のプロ野球CMのような取り組みは、今後まちがいなく増えていくだろう。