データが示すフジ月9と民意とのズレ~長澤まさみ『コンフィデンスマンJP』初回で抱いた不安~

欲望や金をテーマに、3人の信用詐欺師たちが欲望にまみれた人間たちから大金をだましとる、痛快エンタメコメディー『コンフィデンスマンJP』。

これまでの月9と路線を変え、フジテレビがこの春の改編で示した「変わる、フジ 変える、テレビ」というテーマを具現化する一つの試みとして、満を持して放送された。

ところが蓋を開けてみると、初回の視聴率は一桁、満足度もドラマの平均に届かなかった。データと視聴者の声を分析する限り、フジ月9と民意とのズレという基本問題はあまり“変わっていない”ように見受けられる。

データが示す位置づけ

去年から今年1月クールまでの月9をデータで示すと、第3シリーズだった『コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命-』を除く4シリーズは、視聴率・満足度・次回視聴意向のいずれも芳しくなかった。

例えば『コード・ブルー』は、初回視聴率16.3%・シリーズ平均14.8%・初回満足度4.01・初回での次回見たいポイント239。この1年では『99.9』『陸王』『小さな巨人』に匹敵する好成績だった。ただしその前後2本ずつの合計4本は、いずれの指標も低迷していた。

平均視聴率は全て初回より2割以上ダウンで一桁どまり。

データニュース社「テレビウォッチャー」が調べる初回満足度も、いずれもドラマの平均を大きく下回った。

そして同調査が出す「次回見たいポイント」も『コード・ブルー』のほぼ半分以下と、2話以降で視聴率を上げたり、話題を集めたりするだけのパワーに欠けていた。

フジ月9とTBS日9

2015年春クールからの12期につて、両者の対決を振り返っておこう。

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平均視聴率ではフジの3勝9敗。快勝したのは去年夏の『コード・ブルー』だけである。しかもフジ月9は、『コード・ブルー』を除くと右肩下がり傾向にあるのが気になる。

過去12回の対決を、初回視聴率に対してクール平均視聴率はどの程度増減したのかで見てみよう。

まずTBS日9は、上昇5回・減少7回だ。しかも1割以上のダウンは2回だけ。逆に1割以上のアップは3回。特に過去2クールは大きく上昇し、しかも平均視聴率は15%超と大成功となっている。

一方フジ月9は、平均が初回を上回ったのは15年夏の『恋仲』の1回だけ。以後10回はずっと減少パターンを抜けられていない。しかも去年春以降は、4クール中3クールが2割以上ダウンしている。

実は視聴者が連続ドラマを見続けるか止めるかの判断は、けっこう早い段階で行われる。生活のテンポが速くなり娯楽も増えた昨今、ドラマに貴重な自由時間を投資するか否かは、ドラマの内容への厳しい吟味の結果行われている可能性がある。

この視点で去年春以降のフジ月9とTBS日9を比べてみよう。

初回を見た人のうち、第2話で脱落し以降を全く見なかった人の発生率、および第2話は見たが第3話で脱落し、第4話以降を全く見なかった人の比率をグラフ化してみた。要は序盤で見切りをつけた人の比率である。

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これで見ると、フジ月9がTBS日9より優れていたのは、『コード・ブルー』だけ。前クールの『海月姫』や昨春の『貴族探偵』では、4人に1人が序盤で脱落していた。ちなみに『海月姫』は、初回視聴率より平均視聴率が29%落ちている。『貴族探偵』も25%の下落だった。

逆に序盤脱落率が15%未満だった『コード・ブルー』は、初回と平均の落差は1%で済んでいた。TBS日9では、序盤脱落率が1割未満の『陸王』と『99.9』で、初回より平均の方が視聴率が高くなっている。

要因は初回や第2話の出来だけではないかも知れないが、序盤脱落率と視聴率の動向には相関関係があるように見える。

『コンフィデンスマンJP』初回

では、今期の『コンフィデンスマンJP』は、データ上ではどんなパターンになっていたのか。

実は冒頭のグラフで見ると、昨秋の『民衆の敵』に軌跡が酷似している。初回の視聴率と満足度、そして次回視聴意欲がピッタリと重なっている。

では平均視聴率も、『民衆の敵』の6.7%とほぼ重なるのか。もちろん単純にそうは言いきれないが、データ上は他の要因も結構似ている。

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例えば初回を見た人たちが、5段階で評価する満足度。平均値は『民衆の敵』が3.50、『コンフィデンスマンJP』が3.48とごく近いが、評価の構成もほぼ重なる。最大多数は“普通”を意味する「3」で、共に38%だった。“たいへん不満”と“どちらかというと不満”の「1」と「2」は、今回の方が少しずつ多かった。そして「たいへん満足」の「5」が4ポイント少ない。

こうした満足度は、第2話以降の視聴にどんな影響を与えるだろうか。

データニュース社「テレビウォッチャー」では、次回視聴意向も聞いている。「絶対見る」「なるべく見る」「見るかも知れない」「たぶん見ない」「絶対見ない」の5段階で質問している。

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これによると、「絶対見る」は両ドラマとも42%で同じ。59%の『コード・ブルー』には届かないが、『貴族探偵』や『海月姫』よりは高い。

ただし「なるべく見る」で『民衆の敵』に5ポイント後れをとり、逆に「たぶん見ない」で5ポイント上回ってしまった。

視聴者の声

ちなみに『民衆の敵』の初回は、「テレビウォッチャー」のモニター2400人のうち173人がリアルタイムあるいは録画再生で視聴した。そのうち19%に相当する33人が序盤で脱落した。そして視聴率は初回9.0%が最も高く、第2話以降減少傾向が続き、平均は6.7%で終わった。

『コンフィデンスマンJP』の場合、視聴率が9.4%で『民衆の敵』と誤差の範囲だ。「テレビウォッチャー」のモニター2400人では、207人と『民衆の敵』より2割ほど多くの人が見ている。

手法が全く異なる調査なので単純に比較してはいけないが、視聴率がほぼ同じなのに視聴者数が2割多かったというのは、途中で見るのを辞めるなど一部しか見なかった人が、今回の方が多かったかも知れない。

視聴者の声に耳を傾けると、不安要素が垣間見られる。

まず満足度3の人の中にも、ネガティブな発言がけっこうあること。

「わちゃわちゃし過ぎ?」男49歳

「設定が突拍子すぎてあまりよく分からなかった」女46歳

「最後まで勢いが持てばいいね」男34歳

「古沢さんだから期待したけど、面白くなかった」女43歳

「滑稽だが内容が薄い感じがする」男69歳

脱落予備軍と思しき人々が少なくないように思える。さらに満足度が「2」や「1」の人の場合、発言はより辛辣になる。

「私にはちょっと理解不能でした」女47歳(満足度2)

「正直、全体的にかなり雑な作りでガッカリ。騙すとか騙さないのお話以前にこのノリで1クールいくのかと考えたら、見ている方が飽きて疲れちゃいそう。求めていた爽快感&痛快感が足りない」男35歳(満足度2)

「現実離れしてて入り込みづらかった」女31歳(満足度2)

「何が面白いのか分からないし、世界というのか雰囲気というのか、苦手」女38歳(満足度1)

「面白くない」男47歳(満足度1)

「好ききらいが分かれるドラマだと思う」女60歳(満足度1)

今後の展望

視聴者の声を読んでいると、こんなことを考えてしまった。

フジテレビが快進撃を進めた80年代から2000年代までは、「楽しくなければテレビじゃない」というキャッチコピーが確かに多くの視聴者の心を捉えた。ただし日本社会は今や右肩下がりの時代を迎え、将来を楽観ししてばかりもいられない。

“楽しいばかりのから騒ぎ”に対して、人々は一瞬面白いと思っても、それだけでは好感が長続きしないのではないのか。

この1年でヒットした民放ドラマを見ても、仮に楽しい要素が散りばめられているとしても、ストーリーの基本に“小が大を逆転する”“誠意・熱意が最後は人を動かす”“手間暇かかっても地道が幸せ・成功の近道”など硬派なメッセージが込められているものが多い。

フジ月9で唯一成功した『コード・ブルー』も、派手で大掛かりな緊急救命の物語から、人間の成長に寄り添った生き方を見つめる姿勢へと変わることで、昨夏の成功につながっていたような気がする。

1982年につかこうへいが脚色し深作欣二が監督した『蒲田行進曲』では、“泣きと笑い”“人情と破天荒”という両極端がジェットコースターのように展開し、大ヒットをおさめた。その年にテレビ業界に入った筆者にとっては、ストーリーテリングの一つのひな型としてこの構成法を心に刻んだ記憶がある。

この言い方を前提にすると、実力者が集結した『コンフィデンスマンJP』は、優れた要素を幾つも持ちながら、似た要素が連続するために奥行に欠ける印象がある。人によっては面白いと評価するが、自分事として感じ取る部分がない分、大騒ぎしているうちに視聴意欲が減退してしまう人も少なくない。

初回を見ていると、こんな不安が頭をよぎった。

データが酷似していた『民衆の敵』は、序盤で約2割が脱落した。その後も新たに見始める視聴者より脱落者が上回ったために、各回の視聴者数は尻つぼみになってしまい、視聴率も右肩下がりを辿った。

『コンフィデンスマンJP』の場合、データや視聴者の声を分析すると、初回視聴者の2割ほどが脱落する可能性がある。それでも第2話以降で、脱落者数を補って余りある新規視聴者を獲得すれば、外見上の実績は問題ない。ところが一般論では、新規視聴者数は回を追うごとに激減していく。やはり見に来てくれた視聴者を失望させない・脱落させないのが最も重要な戦略であることに変わりはない。

視聴者の多様性が増し、重層的な展開を求めることが多いのなら、その民意を前提に面白いドラマを作ることが成功の近道と考えられる。

『コンフィデンスマンJP』が初回の不安を払拭し、新しい月9のひな型となってくれることを願って已まない。