大河ドラマ『西郷どん』は“出会いと別れ”の物語~林真理子&中園ミホの魔法で今後は静かにブレーク!?~

大河ドラマ『西郷どん』HPから作成

NHK大河ドラマ『西郷どん』が当初3か月・12話を終え、いよいよ新クールに入る。

ここまでの実績を過去5作と比べると、視聴率は“中の下”・満足度は“中の上”とまずまずと言ったところ。ただし圧倒的な特徴は、視聴率も満足度も極めて安定して推移している点にある。

視聴者の評価が大きくブレないのは、ここまで12話の中で主人公(鈴木亮平)が、4人の女性を初め多くの人との出会いと別れが散りばめられ、幕末維新の男の大活劇ドラマに、“LOVE”の要素がバランスよく配されているからだ。

二重構造の大河ドラマを視聴者はどう見ているか、データから浮き彫りにしてみたい。

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視聴率推移

今期の『西郷どん』を、柴咲コウ『おんな城主 直虎』・堺雅人『真田丸』・井上真央『花燃ゆ』・岡田准一『軍師官兵衛』・綾瀬はるか『八重の桜』の5作と比較してみよう。

初回から第12話までの平均視聴率では、『真田丸』が17.7%でトップ。続いて『八重の桜』と『軍師官兵衛』が16%台、そして『西郷どん』は14.7%で4位につけた。可もなく不可もなくと言った感じだ。

ただし初回視聴率を100とし、第2話以降増減がどう推移しているかを見ると、風景は一変する。

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まず初回に比べて第2話で1割ほど数字を落としてしまったのが、『おんな城主 直虎』『軍師官兵衛』『八重の桜』の3作。特に『八重の桜』は、第8~12話あたりで6~7掛け程度まで数字を下げ、下落率が最も高い。他の4作も第9話以降は8掛け程度で推移しており、視聴率を維持するのに苦労していた。

一方『西郷どん』は、第2話以降第12話まで、下落率は全て1割未満に収まっている。特に第6~8話は、多くのドラマが数字を大きく落とした平昌オリンピックと時期が重なったにも関わらず、あまり変化していない。

そもそも評判も視聴率も良かった『真田丸』でも、2割ほどの範囲で上下動を繰り返していた。『西郷どん』が如何に飛び抜けて安定しているかが分かる。

満足度

安定しているのは視聴率だけではない。データニュース社「テレビウォッチャー」が調べる満足度でも、特徴的な推移を示した。

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まず初回から第12話までの平均満足度では、3.88の『真田丸』に続いて『西郷どん』が3.73で2位になった。ドラマの平均は3.6~3.7だ。視聴率で後塵を拝した『八重の桜』『軍師官兵衛』を、『西郷どん』は平均で0.2~0.5ポイント上回った。大健闘と言えよう。

さらに回による振れ幅が凄い。

満足度トップの『真田丸』でも、最高値と最低値は0.34ポイントほどあった。大きな上げ下げも3~4回ずつあった。ところが『西郷どん』の最高と最低の差は0.17ポイント。『真田丸』の半分だ。さらに序盤は3.7前後だったが、第7話と第12話で最高記録の3.83を出している。要所要所で満足度を上げる、上手いストーリー展開を見せている。

言葉で苦戦した初回

『西郷どん』初回「薩摩のやっせんぼ」の視聴率は、歴代ワースト2位でメディアを騒がせた。

前作『おんな城主 直虎』の苦戦で、視聴習慣が途切れたという報道もあった。「薩摩ことばがわからなかった」という視聴者の反応も見逃せない。関東で2400人のテレビ視聴動向を調べる「テレビウォッチャー」でも、それを指摘する声は少なくなかった。

「内容は良かったが、鹿児島弁はわかりにくい」男75歳(満足度5)

「言葉が難しかった」女37歳(満足度5)

「鹿児島弁が早口でよく聞き取れなかった」女65歳(満足度5)

ただし方言に触れた人の大半は、満足度を最高の5としている。過去5作の初回と比べても、『真田丸』『八重の桜』に肉薄する3.70は、第3位と健闘している。言葉が致命的なマイナスだったとは言い切れない。録画再生で見る人の増加、BSや再放送で見る人が増えるなど、視聴習慣の変化が主な原因だろう。

初回では西郷隆盛が小吉と名乗っていた幼少期に、お忍びで国元に帰っていた斉彬と3度の劇的な対面をしていたというフィクションは圧倒的だった。特に怪我をして「生きていても仕方ない」と絶望した小吉に、斉彬が「死んではならぬ」と諭すシーンは圧巻。後の二人の関係の原点となった。

さらに初回は、後に明治政府の要職に就いた西郷の政策に反映された「弱者救済」「女性にも機会均等」などの考え方が少年時代に育まれたことを描いており、必ずしも歴史的事実通りではないようだが、女性の原作・女性の脚本ならではの名作と言えよう。

「今後の展開に期待が持てた」男57歳(満足度5)

「これからの展開が楽しみ」女39歳(満足度4)

「面白くなりそうだ」男38歳(満足度5)

多くの人が第2話以降への期待を膨らませ、安定的な実績の第一歩となっていた。

林真理子&中園ミホのマジック

初回で特徴的だったが、同ドラマの面白さは人との出会い・別れ・対決シーンにある。これが男女年層別の満足度で見ると、意外な反応となっているのがわかる。

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成長した吉之助が郡方書役助(こおりかたかきやくたすけ)になった第2話「立派なお侍」。F2(女35~49歳)の満足度が、初回から0.47ポイントも上昇して3.70となった。

貧農のふきを、上役の賄賂を無断で使って助けたり、自分の弁当を子供たちに分け与えたりと、西郷の原点が描かれた。それでも最後にふきは売り飛ばされる。時代状況の厳しさもしっかり書き込まれていた。

「西郷さんも熱演だと思ったけど農家の娘役の女の子の演技がとても良かった。思わず泣いてしまった」女44歳(満足度5)

「子供に必要な事を教えてくれる」女41歳(満足度4)

「農民の女の子を助けられなかった西郷どんの無念さが画面から伝わってきて涙が止まりませんでした」女42歳(満足度4)

M2へのマジック

「弱者救済」「女性にも機会均等」の精神はF2に刺さったが、M2(男35~49歳)の心を動かしたのは第4話「新しき藩主」だった。M2の満足度が4.01と初めて大台を出した他、F3(女50歳以上)と1層(男女20~34歳)も3.80と高いポイントを示した。

いわゆる「お由良騒動」を描いた回で、斉彬派から数名の家臣が切腹、50名ほどに蟄居・遠島の処分が下された。番組では、赤山(沢村一樹)が切腹、大久保利通(瑛太)の父(平田満)が遠島となった。

そしてラスト。父・斉興(鹿賀丈史)に引退を迫る斉彬(渡辺謙)が、二丁の拳銃で雌雄を決するシーンは緊迫感ある秀逸なシーンだった。

「本当にロシアンルーレットやったの?」男41歳(満足度4)

「沢村一樹の切腹シーンがすごい。最後のシーンもよかった」男42歳(満足度5)

「迫力があって凄かった」男49歳(満足度3)

「ロシアンルーレットが面白かった」男39歳(満足度5)

林・中園マジックは女性だけではなく、M2にも存分に効果を発揮したようだ。

別離4連発

林・中園マジックの真骨頂は、第1クールを見る限り、やはり“LOVE”をめぐる別離にある。

第6話「謎の漂流者」では、吉之助の表の活躍として、漂流者・ジョン万次郎の心を開く物語があった。この仕事の功績で、斉彬から褒美を与えられる。近い将来、正助らの処分が解かれることと、吉之助および正助が殿の仕事に取り立てられる約束だった。

このストーリーだけでも十分魅力的だったが、その直後に“西郷吉之助×岩山糸×大久保正助”の三角関係の綾が展開され、橋の上での吉之助と糸(黒木華)の別離が描かれた。「メリケンでは親が決めた相手ではなく、好きなもん同士が夫婦になれると聞きました」「早うそげんよか国になるよう、気張ってたもせ」という糸の思いを吉之助に託しての別れだった。

1層の満足度は4.24、全話全層の中で断トツの好成績だった。

第7話「背中の母」は、全層平均の満足度が最高値、F2とM2も他の回よりかなり高い数値となった。母を気遣い江戸を諦めた息子、その息子の情に厚い性格を心配する母。親子が互いに思いやる姿に涙した人が多かった。

「桜島を背景にしての母子の最期の会話が泣けた」男30歳(満足度5)

「母の想いに心がジンとして涙が止まりませんでした」女42歳(満足度4)

「実直な人の人生という感じが良く出ている」男50歳(満足度4)

第8話「不吉な嫁」も、秘めた気持ちの切なさでは負けていない。

ペリー来航で斉彬が江戸へ出向くことになり、家族や友人などが吉之助の支度金を工面する。ところが夫婦となったばかり須賀は、離縁を申し出て手切れ金を置いて去って行ってしまった。吉之助が自由に活躍できるように、本当は好きだが相手のために身を引いたのである。

「須賀どんの自ら身を引いた所が泣けた」女42歳(満足度5)

「わざと悪い嫁を演じて離縁する多賀の本心が切なかった」女59歳(満足度4)

「いい嫁さんだった」男50歳(満足度5)

「西郷のためにみんなが金策に走る様子に泣けた。日頃からの人徳がこういうところに表れるんだなぁ」男30歳(満足度5)

篤姫を演ずる北川景子が持ち味を存分に発揮した第12回「運の強き姫君」も、満足度3.83で第7話と並び最高となった。それまでと異なり身分の高い姫との禁断の“LOVE”だが、吉之助の真心を確認した篤姫は、大儀のために女の幸せを犠牲にすることを、威厳と矜持を示して受け入れた。ギリギリのところで想いにブレーキをかけた別離は、見る者の感動を一挙に頂点に押し上げた。

「吉之助が地震が相次ぐ中、篤姫を助けに行ったシーンは胸が熱くなった」男23歳(満足度5)

「二人きりになったときに本音を漏らすシーンに感じ入った」男30歳(満足度5)

「篤姫の切ない気持ちにジーンときました」女42歳(満足度4)

「西郷と篤姫の交流に心打たれた」女59歳(満足度4)

以上の別離4シーンの他にも、西郷の相手を思いやる気持ち、相手が権力者でも率直にいうべきことを直言する潔さは、視聴者の心を洗い物語に強烈に引き付けていく。

これに加え、男女の関係を初め親子や上司部下の“LOVE”をストイックに表すという、林真理子の原作・中園ミホの脚本に込められたマジック。三谷幸喜の手による『真田丸』のような爆発力はないものの、ボディブローのように視聴者の感動を増幅させる作りは、大河ドラマとして今後ゆっくり静かにブレークしていく予感につながる。