大野智が全国首位!東京は井川遥・北海道で市川海老蔵がリード!広瀬すず苦戦!~“花粉症CM”春の乱~

スポンサー各社のHPから作成

「杉の花粉、ヒノキの花粉、水に変えるマスク~♪(ホーッ!)」×2

「その秘密はハイドロ銀チタン、医師が考えたマスク(ホーッ!)」

「杉の花粉、ヒノキの花粉、DR.C医薬!」

歌舞伎役者を従え、市川海老蔵が懐かしい曲とベタな歌に乗って登場するCM。

原曲はオペレッタ『放浪の王者』中の「放浪の歌」。かつては蒲田撮影所の所歌で、1982年に映画『蒲田行進曲』の主題歌となった曲の替え歌だ。幅広い世代に馴染みのあるメロディが、この春テレビから大量に流れた。

実はこの一か月、この市川海老蔵のCMの他、嵐の大野智・木村文乃・井川遥・広瀬すず等が出演する“花粉症対策”のテレビコマーシャルが花盛りだった。例年この時期に多く見られるが、今春は特に例年とは異なる状況となった。まさに“春の乱”だったのである。

“春の乱”は新製品から

強烈な春一番が吹き荒れたように業界を揺らしたのは、市川海老蔵が出演した新製品「花粉を水に変えるマスク」(DR.C医薬)のCM。今年1月15日から3月15日の2か月の間に、全国11エリアで6814本ものCMが流された。GRP(延べ視聴率)に換算して1万7000%もの露出を果たした格好だ。花粉症対策を市販薬が独占してきたマーケットに、対策マスクが敢然と割って入ってきたのである(注)。

実はこうしたデータは、従来は全国の限られた地区でしか取得できなかった。ところがPTP社は今回、全国エリア毎のCM出稿状況が翌日に把握できるシステムを発表した。Madisonと呼ばれるサービスで、関東・中京・関西など全国11地区が対象だ。

画像

このMadisonによれば、過去2か月間で最も露出されたCMは、嵐の大野智が出演する久光製薬「アレグラFX」。大野が“アレグラ星人”のリーダーに扮し、花粉に苦しむ地球人を救うコミカルな作品だ。9610本、GRPにして2万7000%も流された。

第2位は、女優・木村文乃が出演するのがエスエス製薬「アレジオン20」。“1日1回で24時間ずっと効く”をうたい文句にしている。7115本、2万2100%だった。

そして第3位に割って入った市川海老蔵「花粉を水に変えるマスク」にやや後れを取ったのが、女優・井川遥出演の大正製薬「クラリチンEX」。格好いいスポーツカーと共に登場する井川が、「今までと同じ花粉対策でいいの?」と語りかけ、「新しいクラリチンはスピード勝負」「すぐ溶けるからよーく見て」と語ると、彼女の後ろを猛スピードで車が走り抜ける。1969年に放送された、小川ローザが「OH!モーレツ」と叫ぶ丸善石油(現コスモ石油)CMをちょっと彷彿とさせる内容だが、時代を反映してか、お色気はほとんどない。それでも“早く溶ける”と飲みやすさを前面に押し出したCMだ。

そして他社に水をあけられたのが、10代最後の広瀬すずが出演するGSK「コンタック600プラス」。カメラに向かって語りかける彼女の顔のアップが印象的なCMだ。最下位とはいえ、2003本、6000%にも及んだ。

注:2018年1月15日~3月15日の全国11エリア(視聴率調査のPM地区および52週地区)の民放各局の累計アクチャル時点GRP(関東、関西、名古屋、北部九州、札幌、仙台、広島、静岡、福島、新潟、岡山香川)

共通の戦略と個別戦略

スポンサー各社のCM出稿には、実は緻密なマーケティング戦略がある。

画像

前提となるのは、毎年の花粉の飛散量と飛び方と市場規模。日本気象協会が発表する花粉飛散予測に基づき、各社はCM出稿の戦略を立てる。2018年春で一番特徴的だったのは、東北地方や関東地方が例年以上に多くの花粉が飛ぶと予想された点だった。

これに基づき、各社の方針は共通する部分と異なる部分が出てきた。各社に共通するのは、人口も多く花粉の飛散量も多い関東地方に、最も大量のCMが投入された点だ。ニーズおよび市場規模を考慮した、ある意味当然の展開だったと言えよう。

画像

他社と異なる戦略を執ったのは、井川遥出演の「クラリチンEX」・大野智出演の「アレグラFX」・市川海老蔵が出演した「花粉を水に変えるマスク」の3CMだった。

「クラリチンEX」は関東中京関西の三大都市圏にCM出稿を集中させた。市場規模の大きいエリアでの売上確保を最優先したようだ。

「アレグラFX」は、飛散量の多い東北で唯一大量のCMを出稿した。SOV(Share of Voice)と呼ばれる広告投入量シェアで4割近くに達しており、ニーズを優先したと思われる。

「花粉を水に変えるマスク」は、どのエリアもほぼ均等にCM出稿した。今年初登場の新商品ということもあり、全国満遍なく認知度を上げようとしたのかも知れない。特に要注目は北海道地区。スギやヒノキの花粉は少ないと言われているが、それでも他地区と同じ割合でCM出稿した。エリア毎にきめ細かく投入することに不慣れなのか、他社の裏をかく高度な戦略なのか、売上との関係が注目される。

ニーズ重視の姿勢

もう1点、ニーズ重視の姿勢では、関西地区と中京地区の状況が興味深い。

市場規模では、明らかに関西地区が大きい。今年の花粉飛散予測では、両地区とも極端には異なっていないように見えた。それでもCM出稿総量では、関西より中京の方が多くなった。

画像

実は過去の飛散実績を見ると、関西より中京の飛散量が多かった年が多い。つまり花粉症に苦しむ人の比率が中京の方が高い可能性が高い。これを見越して多くの社が関西より中京地区に多くのCMを投入している可能性が高い。

もう1点興味深いのはCMを流すタイミングだ。

画像

気象庁は南から北上する桜前線と同じように、毎年スギ花粉前線の予想も発表している。これによると大阪は2月20日、仙台は2月25日、秋田は3月5日、青森3月10日となっていた。

一方、「アレジオン20」のCMが各地で放送され始めたタイミングは、福岡2月5日、大阪2月12日、仙台3月5日、秋田3月12日、青森3月12日と、スギ花粉前線の北上に従って微妙に異なっていた。明らかにベストなタイミングにCMが視聴者の目に触れるように、綿密な戦略を立てていたと思われる。

以上が花粉症をめぐる今春のCM戦争“春の乱”の概要である。

実はこれまでは、エリアごとにどの社のCMがどの程度、どういうタイミングで放送されたのかは、放送後しばらく後でないと把握できなかった。

画像

ところが例えば、冒頭の市川海老蔵「花粉を水に変えるマスク」は全国11地区で同様のCM量を放送した結果、北海道ではSOVが断トツだが、関東と中京地区では低くなってしまっていることが直ぐに把握できる。つまり広告主から見ると、エリアマーケティングを格段に進化させられるようになった。データの時代は、テレビにも間違いなく押し寄せているのである。

今春の“花粉症CM”春の乱は、まだ前哨戦に過ぎない。今後は業界ごとに、年中いつでも情報を早く入手し、データ分析を詳細に行った社が、競合他社を出し抜く可能性が出てきた。

これによりテレビコマーシャルの世界がどう変わっていくのか、画期的なCM戦略の登場に期待したい。