女は浮気な狼男を許せるか?~初キスも処女も別の男に奪われた魔女『ウィッチ・フウィッチ』が問うもの~

映画『ウィッチ・フウィッチ』から

2月下旬に劇場公開され、昨日からネットでの配信も始まった映画『ウィッチ・フウィッチ』。26歳と若い酒井麻衣監督による“ちょっぴり危ないラブ・ファンタジー”だ。

実はこの映画、“予算500万円・全編ケータイ撮影”という条件で製作されている。若い才能に活躍の場を提供し、これまでにない新しい映画表現の可能性を追求しようという方針による。

実際ケータイ×予算500万円とは思えないほど、VFXがふんだんに出て来るファンタジー映画に仕上がっている。この映画で、若い才能は何に挑んだのか。

凸凹ラブ・ファンタジー

物語は“一途な魔女”と“浮気性な狼男”のラブ・ファンタジー。

画像

主人公のイチゴ(小川紗良)は、大学の芸術学部・音楽科の3期生。一見ふつうの女の子だが、先祖は遊郭の花魁。実は男を虜にして魔力を得る「魔女」の家系だ。

一人前の魔女になるには、たくさんの男を手玉にとらなくてはいけない。ところがイチゴは、たった一人の男を愛し、しかもその男を虜にできていない。

画像

その男・ジン(萩原利久)も実は狼男の家系で、しかも浮気性。女の子にモテモテと来るので始末が悪い。

こんな二人の“すれ違い”の末、イチゴはファーストキスも処女も別の男に奪われてしまう。ところが「魔女」の家系ゆえ、男女の営みが起爆剤となり、魔力は格段にパワーアップしてしまう。

こうした出来事が、イチゴとジンの関係に大きな転機をもたらすのだった。

ざっくり言うとストーリーはこうだが、正直言って映画のテイストは大学の映画研究会的な作り方。展開も時間がゆったり流れているし、劇中のセリフも素人っぽい。TVドラマだったら、途中でチャンネルを変えられてしまいそうな感じである。

ところが酒井麻衣監督は、意図的にこうしたテイストで撮っている。

画像

「ファンタジーの世界に迷い込ませたい」

「この世界“あり”な気がして来たと思ってもらいたい」

「酔わせたい」

“映画は魔法”と考える監督の確信ゆえの演出だ。

確かにテレビドラマの場合は、“ヒットの法則”に合わせる場合が多い。“早いテンポ”“強烈な刺激”“洗練されたセリフ”など、現実にはない完成度で物語が展開する。最大公約数の好みに合わせ、視聴率を上げようとするからそうなる。

ところが『ウィッチ・フウィッチ』は前半で“うん?”と首を傾げる人もいるだろう。テレビドラマに慣れた人から見ると、あまりにユニークに見えるからだ。ところが見続けているうちに独特の世界観に漬かり、“気が付いたら騙されていた”と思えるようになる。

「実際にはこうした人々が、そこに住んでいるんですよと信じ込ませる、魔法をかけるための演出」と監督は言う。

テーマもユニーク

画像

映画のクライマックスは、魔女のイチゴが他の男・シュウ(藤田富)に襲われる。浮気性な狼男・ジンがそのシュウをやっつける。

画像

ところが処女を失った後に覚醒したイチゴが、ジンにも魔法で襲いかかる。その痛撃をかわしてジンはイチゴを抱きしめキスをする。

物理的に二人が抱き合うまでに、イチゴの心の中では葛藤が渦巻く。

浮気性でモテモテだったジンは、これまで多くの女の子を傷つけて捨てて来た。そんな女の子が「私たちの思いを背負う覚悟はあるの?」とイチゴに問いかける。女の子たちは、ジンを許せない自分たちの側にイチゴを引っ張り込もうと迫ってくる。

画像

ところが様々な声と闘いながら、最後にイチゴは「過去のことはどうでも良い」と断ち切る。

「あなたたちが何時どこで、ジンと何をしていたのかは、どうでも良い」

「私たちには私たちにしか分からない理由で一緒にいるんだから、それで良い」

画像

酒井監督は言う。

「浮気性な狼男・ジンを許すか許さないかと言ったら、一途なイチゴは最初からジンを許していました。問題はジンが関係を持った女の子たちとの関係でした」

「女性アイドルに彼がいた場合、男性ファンはふつう、その女性アイドルに抗議しますよね。でも男性アイドルに彼女がいた場合、女性ファンは男性アイドルを責めずに、相手の女性を責めるじゃないですか。だから浮気性なジンとの関係を確かなものにするには、イチゴは捨てられた女の子たちと向き合わなきゃいけなかったんです」

これがVFXをふんだんに使ったクライマックスの裏にあった監督のテーマだった。この圧巻のシーン、実は何度か見ないとディテールの妙は見抜けない。映画公開二週間で複数回劇場に足を運んだ観客が何人もいたようだが、注目ポイントの一つは一連のやりとりだっただろう。

続編の可能性

画像

様々な葛藤を乗り越えた壮絶なバトルの末、イチゴはジンに抱きしめられ、二人はキスをした。かくして二人は、ようやくアツアツのカップルになれたように描かれている。

しかし、ちょっと待って欲しい。

魔女の家系のイチゴは、本当に好きな彼とキスをすると魔法が失われる掟だったはず。実際にはどうなったのか、物語はそれを語らずに終わっている。

もっと言えば浮気性のジンは、クライマックスでは一途にイチゴを求め射止めた。しかし本能ともいうべき浮気性は、これで本当に収まったのか。

映画の中では、ミッチー(ミッチー・ザ・ミステイク)がイチゴとジンのドキュメンタリーを撮っている。その1シーンで、「今は狼男だからもてる言い訳もできる。人間になったら女癖は治るんですかねえ」とイチゴがカメラ目線で語る場面がある。ちょっと男にとっては怖いカットだが、その伏線は回収されないままに映画は終わっている。

画像

そして映画のエンディングも暗示的だ。イチゴの処女を奪い魔力を備えたシュウが、ジンに倒されたはずなのに、息を吹き返したことを暗示するように目が赤く煌めき、「to be continued」とテロップが出る。

酒井監督がクライマックスで描いたのは、ジンが捨てた女の子たちとどう向き合うか、イチゴの葛藤だった。しかし本当は、ジンの方にもっと大きな葛藤があるという。

「ジンの心の問題の方が一番大きいと思っています。今後二人の関係が壊れてしまうとしたら、イチゴの今後のジンの浮気癖を心配するよりも、イチゴの初めてのキスや処女喪失にジンがどう向き合うかだからです」

一方、今回の映画全体のメッセージについては、酒井監督はこう言っている。

「“好きな人には好きって言おう”って感じです。やっぱり女の子は好きな人がいても、強がってしまったり、気をひこうと駆け引きをしがち。でも結局、好きな人には笑顔で好きって言った方が強いよ」

「そして男の子には、“好きだったら早く好きって言わないと、他の奴に取られるぞ”って感じな映画です」

一見きわめてシンプルなメッセージだが、現実には男と女の間には深くて暗い溝がある。26歳と若い酒井監督は、その辺りを分かった上で、若者向け学園ラブ・ファンタジーに仕上げている。

“予算500万円・全編ケータイ撮影”ゆえにバッターボックスに立てた若い酒井監督。彼女の才能が今後どう進化していくのか。『ウィッチ・フウィッチ』は物語の続きと、監督の今後という意味でいろんな楽しみを含んだ映画である。