『紅白歌合戦2017』は成功?失敗?~今こそ番組論の深掘りが不可欠~

“ワースト3位”というけれど・・・

去年大晦日に放送された『第68回NHK紅白歌合戦』から一週間。

放送中から翌元旦にかけては、高く評価する記事が幾つか出た。

(1)『【紅白】嵐、二宮の司会ぶりを褒めちぎる「毎年やって!」』

(2)『<紅白歌合戦>ウッチャンの司会ぶりネット絶賛 抜群の安定感に「来年も」の声多数』

(3)『けん玉失敗、倒れる欅坂... 2017年紅白「演出」、前回と比べた評価は?』

ところが二日午前にビデオリサーチ社から視聴率が発表されると、低い数字についての記事が一挙に増える。

(4)『NHK紅白視聴率は39・4%、史上ワースト3位』

(5)『「紅白」後半視聴率 安室出演も歴代ワースト3位39・4% 前年下回り2年ぶり大台40%割れ』

(6)『<紅白歌合戦>視聴率ダウンで39.4% 15年以来5度目の40%割れでワースト3に』

中には率が判明した後に、内容を批判する記事も散見されるようになった。

(7)『紅白に欠けていた「スリル」 司会の“安心感”が裏目?』では、「欠けていたのは視聴者をドキドキさせる「スリル」だった」と断じている。

(8)『「紅白歌合戦」歴代ワースト3位の視聴率 低調要因にジャニーズやAKB系の口パク疑惑か』では、「ネットではジャニーズが5組も出演していることから“結局ジャニーズ”“飽きた”という声も少なくはない」「ジャニーズやAKBグループの“口パク”疑惑にもネットは飽き飽きしていた様子」などと原因を断じていた。

視聴率で評価が一転したように見える『紅白』。実際には成功だったのか。失敗だったのか。大多数の視聴者は、どう評価していたのか。各種のデータから客観的に位置付けてみたい。

“ワースト3位”の意味

「前年の40.2%を0.8ポイント下回った」

「後半の第2部が40%を割り込むのは2015年以来で5度目」

「89年に紅白歌合戦が2部制になって以降、ワースト3位の結果」

先に挙げた(4)~(6)に出てくるこれらの数字は全て事実である。

『紅白』の二部は39.4%。民放1位が日テレの『ガキ使 大晦日SP』で、前半は17.3%だった。ついでテレ東の『第50回年忘れにっぽんの歌』が8.4%。他3局は5%前後となっていた。

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ただし『紅白』がワースト3位だったのは、1989年から二部制になった二部での数字である。

一部を詳しく触れるメディアが少なかったが、14年以降の数字を並べると、35.1%→34.8%→35.1%→35.8%だったので、過去4年では最も高い。

原因論として、「裏番組の奮闘」「中でも、テレビ東京系で放送された『第50回年忘れにっぽんの歌』」という記述が(8)にある。しかし同番組は16~22時に放送したので、影響を与えるとしたら『紅白』二部より一部の方が大きい。ところが前述のように、一部はこの4年で最高視聴率を記録している。十分な説明とは言い難い。

誤差の範囲

そもそもビデオリサーチ社は、測定しているリアルタイム視聴率には「考慮すべき誤差」があると説明している。「標本調査から得られる視聴率は、標本誤差(=統計上の誤差)を伴います」と言うのである。

例えば16年10月以降の関東地区の標本数900の場合、視聴率40%だと±3.3%の誤差がある。しかも信頼度95%なので、100回に5回はもっと大きい場合もあるという。

つまり視聴率40%の時は、36.7%から43.3%の範囲にあったと解釈するのが正しい。しかも15年の紅白までは、標本数は600だったので、誤差は4.0%だった。視聴率40%は、36%から44%の範囲だったのである。

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この誤差を、2004年以降の紅白に当てはめると、一部も二部もほとんどの回が誤差の範囲で、上がった下がったと一喜一憂するのは意味がないことが分かる。

ただし誤差の範囲でも、何年間かの傾向は見ることができる。例えば二部は13年をピークに下落傾向に注意すべきだろう。個人的な直観で言えば、この間に録画再生視聴が増えており、リアルタイム視聴率がタイムシフト視聴率に回っている可能性は否定できない。それでも一部がその限りでないので、この仮説も必ずしも正しいとは断定できない。

もっと長期的な傾向を見てみよう。

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1963年に81.4%の歴代最高を記録し、80年代まで70%台以上を出し続けた。ところが90年代に50%前後に下がり、04年に以降40%前後で推移している。50年以上のスパンで見ると、誤差の範囲を超えて確実に『紅白』は長期低落傾向にある。

ただし日テレが『ガキ使!SP』を06年に裏にぶつけてきて以降、同番組の視聴率は10%ほどから10%後半まで上昇した。ところがその10年ほど、紅白はほぼ横ばいだ。つまりライバル番組が数字を下げているとも、単純には言い切れない。

つまり視聴率の動向だけで、良くなっているとか悪くなっているとは簡単に言えない。ましてや原因を安易に特定するのは危うい。

質的評価

では、内容についての評価はどうだろうか。実は番組の出来不出来を数字で評価するデータは十分に揃っていない。

そんな中データニュース社は、2012年から「テレビウオッチャー」でモニターが自発的に視聴した番組の満足度を、5段階で評価してもらっている。これによると、15年まで『紅白』の満足度は3.3前後だった。ところが16年は3.12と、例年より0.2ポイントも下がってしまった。

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同調査モニターの中で、低い評価をした人の中には、作り物の演出がスベッたり、グダグダしたりした点を批判する人が多かった。。タモリとマツコ・デラックスによる寸劇を疑問とする声、映画『シン・ゴジラ』とのコラボが必要だったのかとするモニターも少なくなかった。

ところが17年は、3.12から3.41と0.3ポイント上げている。上げ幅は近年では一番大きい。

16年と17年のモニターでは、メンバーや数が異なるので単純な比較は危険だが、『ガキ使!SP』も0.13ポイント上げており、『紅白』は上げ幅がより大きいことから、傾向として『紅白2017』が『紅白2016』より高く評価された可能性は高い。

モニターの自由記述を見ても、その傾向は見て取れる。

「オープニングからすっかり変わった紅白歌合戦。以前のNHKと全然違う」女75歳(満足度5)

「いろいろ工夫されていて面白かった」男64歳(満足度4)

「去年が酷すぎたのもあって凄く良かった」女39歳(満足度4)

「今までで一番よかった」男40歳(満足度5)

「ウッチャンの司会が安定していて、安心してみていられた」女37歳(満足度4)

「引退発表後に安室奈美恵のHeroを聴けたのが1番感動」女29歳(満足度5)

「家族全員の評判も大変によく、満足感の高い、久々の紅白歌合戦でした」男64歳(満足度4)

「いろいろな出演者がいて、今年は飽きなかった」男45歳(満足度4)

一体感なき時代

筆者は個人的な受け止め方として、「去年の惨状と比べ、“復活”と思えるような出来だった」と拙稿『紅白復活!?~内村光良×二宮和也×有村架純も好評だが真の勝因は音楽“ドキュメント”バラエティ~』に記した。予定調和でないハプニングがあったこと、歌と踊りやパフォーマンスなどガチなコラボが幾つもあったからだ。

ところがその後、逆の見解を持つ評論家の意見が出て来た。

「2017年の『紅白』は無難にまとめたという印象だ。全般的に企画性が乏しく、工夫がなかったと言えばなかった」『無難な策を選んだ『第68回NHK紅白歌合戦』──『紅白』のこれまで、そしてこれから』

「全体の出来としては、明らかに前年のほうが上でした(中略)視聴者の“求めているもの=見たいもの”と、制作側が“創りたいもの=見せたいもの”のバランスが、2016年の『紅白』は絶妙だったからです」『40%近い視聴率を獲得したこと自体が驚きの「紅白歌合戦」』

なるほど人の感じ方は十人十色というか、主観的真実は人によって真逆のことがしばしばある。

「テレビウオッチャー」のモニターにも、『紅白2017』を批判する声は少なくない。

「感動がなかった。年寄りには向かないね」男69歳(満足度1)

「あまりのグダグダに、見る気が失せた」女68歳(満足度2)

「NHKらしくない、軽薄な笑いをとることに集中」女69歳(満足度1)

「紅白歌合戦も俗化してきました。面白くもなんともなかった」女61歳(満足度1)

「見たことも聞いたことも無い歌手のオンパレード。実につまらない紅白だった」女64歳(満足度1)

こうした低い評価を下したモニターの声を拾っていくと、評論家の方々の声ともまた違うことに気づく。今回が「無難にまとめた」とか「前年のほうが上」という意見はなく、どちらかと言えば“高齢者向きでない”“知らない曲が多い”“音楽以外の要素が多い”という批判が中心だ。

明らかに視聴者の趣味・志向・価値観が多様化し、もはや“皆が知っている有名曲が並ぶ一体感ある『紅白』”の時代ではないことを意味している。

制作陣は若年層を意識し、若い歌手・アーティストを多く並べている。それでも若年層ですら、“一体感”を持てなくなっている現実が、モニターの声からは感じられる。

「知らない歌手多すぎ」男27歳(満足度1)

「知らないアーティストばかりで新鮮だった」女33歳(満足度3)

「もはや音楽番組ではない。かと言ってバラエティとしては低水準」男49歳(満足度1)

「毎年メインの司会進行はつまらないので今年もウラトークを中心に見た」男28歳(満足度4)

止まらない“視聴者の高齢化”

以上を総合すると、リアルタイム視聴率はほぼ横ばい。誤差の範囲で推移しており、上下動は安易に判断できない。

満足度については、今回は前回より顕著に上がっている。ただし3.41は、裏のどの番組より低い。日テレの『ガキ使 大晦日SP』やテレ朝『くりぃむvs林修!超クイズサバイバー』とは0.2ポイントほど差をつけられている。似た趣味・志向の人々をターゲットにした番組では、満足度は高くなりやすいが、“一体感なき時代”の音楽バラエティは不満を持つ人が多くなりがちで、満足度は高くなりにくい。

それでもデータをつぶさに見ていくと、『紅白』ならではの変化が一つあった。視聴者の高齢化である。

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もちろん日本の人口構成は徐々に高齢化している。ところが『紅白』は、それ以上に速いテンポで視聴者が高齢化している。3層(男女50歳以上)は過去5年で41%から52%に増え、1層(男女20~34歳)は25%から18%に減っている。

『紅白』自体はこの5年、明らかに演歌歌手やベテランを減らし、若いアーティストを増やし、ダンスやバラエティの要素も厚くしている。ネットとの連携を増やし、CGやAR・VRなど最新テクノロジーも導入している。

それでも視聴者の高齢化は自然増より早く推移している。若年層の『紅白』離れを十分には阻止できていない。

個人的な仮説になるが、“一体感なき時代”の強力な求心力を、今の『紅白』はまだ見つけ出せていない。キャスティング・演出のテイスト・IT導入などは、実は本質的な問題ではなく、単なる手段のレベルに過ぎない。

何が最も根本的な問題か、NHK制作陣がそこに気づき、実践できるようになることに期待したい。