“すれ違い”ドラマは進化する!?~昭和『君の名は』から平成『逃げ恥』『君の名は。』まで~

(ペイレスイメージズ/アフロ)

“すれ違い”三部作

この年末年始、“すれ違い”を前提にした物語が快進撃を見せている。

一つは大みそかと元旦の2日間で、全11話が一挙に再放送された『逃げるは恥だが役に立つ』。

3枠構成で「1~3話」視聴率が6.7%、「4~8話」9.2%、「9~11話」が6.8%だった(ビデオリサーチ社・関東地区)。このうち9.2%の枠は、昼のNHKニュースを除くと、全裏番組に大差をつけて横並びトップとなった。16年10月クールの放送だったが、相変わらずの強さである。

そして3日夜放送の映画『君の名は。』。

「興行収入250億円」「観客動員約1900万人」という実績は、邦画歴代2位。2016年の日本国内映画興行収入ランキングでは、2位に倍以上の差をつけた。

「同じ時間に何十万人、何百万人の人が見るので、いろいろな感情が同じ瞬間に起きる」「“同時代感”“リアルタイム感”みたいなものを楽しんでいただければ」と新海監督はコメントしているが、当日は映画『天空の城ラピュタ』の時のような大量のツイートが発せられるかもしれない。

両番組とも社会現象といっても過言でない話題作だったが、“同時代感”“リアルタイム感”では、2作をはるかに上回る物語が66年前に放送されている。NHKラジオ連続放送劇『君の名は』だ。「番組が始まる時間になると、銭湯の女湯から人が消える」と言われたほどの人気ぶりだった。

その後に3部作として映画化されたが、1部と2部は1953年度の配給ランキング1位と2位、3部は翌年度の1位と上位を独占した。また岸恵子が演じた主役・氏家真知子のストールの巻き方が「真知子巻き」と呼ばれ、女性の間で大流行となっている。

66年前の『君の名は』

3作に共通するのは“すれ違い”だ。

元祖“すれ違い”は、菊田一夫脚本のラジオドラマ『君の名は』。

1945年5月の東京大空襲の夜、互いに見知らぬ氏家真知子と後宮春樹は、助け合って火の海を逃げ、何とか銀座・数寄屋橋までたどり着く。翌朝二人は、互いに生きていたら半年後、それがだめならまた半年後に、この橋で会おうと約束し、双方名も知らぬまま別れた。

やがて2人は戦後の渦に巻き込まれ、お互いに数寄屋橋で相手を待つも皮肉な運命のめぐりあわせで再会が叶わず、1年半後の3度目にやっと会えた。ところが真知子は、既に明日嫁に行くという身だった。

その後も結ばれない二人の愛の運命が描かれる展開である。

こうした“劇的なすれ違い=結ばれそうで結ばれない”状況が繰り返されるのは、後の恋愛ドラマでもよく見られる展開となる。その意味で『君の名は』は“すれ違い”の古典というべき名作だ。

同作はその後も、4度もテレビドラマになっている。津川雅彦&北林早苗版(62~63年)、伊藤孝雄&萩玲子版(66~67年)、古谷一行&酒井和歌子版(76年)、そして鈴木京香&倉田てつ版(91~92年)である。

現代の“すれ違い”

時は流れて66年。

IT・デジタルの発達で、『君の名は』で描かれたような愛を隔てる“障害”や“すれ違い”は激減した。その結果、恋愛が成立しにくくなったと言われる。

男女の連絡は、携帯やスマホで簡単にできる。待ち合わせで場所や時間でトラブルが生じても、直ぐに連絡できるので“すれ違い”は起こりようがない。

困難が伴うゆえに“ますます燃える”という状況もなければ、“運命を感ずるような偶然”も減ってしまった。フジテレビの月9が視聴率を大きく下落させたように、恋愛ドラマを描きにくい時代となってしまったのかも知れない。

ところが2016年10月クール。

全く新しい“すれ違い”ドラマの傑作が登場した。『逃げるは恥だが役に立つ』だ。

橋の上で物理的に“すれ違い”の連続となった『君の名は』と異なり、『逃げ恥』は物理的には恋愛以前の男女が一つ屋根の下に暮らしてしまう。問題は考え方とか感情という精神的な“すれ違い”。ここから1LDKの中で起こる、静かだが劇的なドラマが紡ぎ出されたのである。

出発点では職ナシ彼氏ナシで小賢しい森山みくり(新垣結衣)と、恋愛経験が無く自尊感情の低い津崎平匡(星野源)。“仕事としての結婚”をしたが、雇用主と従業員としての距離を保ち、これ以上互いに踏み入ってはいけないという葛藤を抱きながら“一つ屋根の下”で眠るようになった。

ところが来客が泊った夜、みくりが平匡の布団で寝たために二人に異変が起こる。平匡の匂い・存在が感じられるベッドで、なかなか寝付けないみくり。翌日の夜、自分のベッドに戻った平匡は、みくりの残り香のために容易に寝付けない。気持ちと理性が“すれ違った”瞬間だ。

他にも平匡の後輩・風見(大谷亮平)がみくりをシェアしたためにギクシャクする二人。恋人感を出すための“資源ごみの日のハグ”でチグハグとなる二人。温泉旅行に行くハメになり、ニアミスが続く二人。さらに温泉旅行の帰路、電車が駅に到着した瞬間に、平匡は突然みくりの手を握りキスをする。ところがその後、キスがなかったかの如く振舞う平匡に、二人の“すれ違い”は深まる。

新たな“すれ違い”の威力

現代の“すれ違い”に、多くの視聴者が魅せられた。

まず視聴率。初回10.2%は平凡な数字で、決して良くはなかった。ところが回を追うごとに上昇し、最終回は20.1%と、そのクール首位の『ドクターX』に肉薄した。

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ただし以上はリアルタイム視聴率の話。ビデオリサーチ社はこのクールから、関東地区で録画再生などのタイムシフト視聴率も計測し始めていた。これによると最終回を除く全回で後者が前者を上回り、最高では17.5%に達していた。この結果、最終回の総合視聴率は33.1%となり、『ドクターX』を上回った。

今世紀のドラマで33.1%と言えば、最高が40%を超えた堺雅人『半沢直樹』・木村拓哉×常盤貴子『ビューティフルライフ』・松嶋菜々子『家政婦のミタ』には及ばないものの、木村拓哉の『GOOD LUCK!!』『HERO』に次ぐ記録だ。数年に1作の傑作だったと言えよう。

高いのは視聴率という量的評価だけではない。データニュース社「テレビウォッチャー」が調べる質的調査・満足度でも、『逃げ恥』は凄い。

ドラマの平均は3.6~3.7だが、同作は初回から3.94と極めて高い。そして2話以降は全て4.0以上となり、後半5回は4.25・4.19・4.26・4.17・4.25とあり得ない高ポイントを連打した。11回の平均4.11は、12年から始まった同調査の中でもトップクラスだ。

「キュンキュンした」女22歳

「ハラハラドキドキした」女31歳

「回を追うごとにムズキュンが増してて、今回もキュンキュンが止まりませんでした」女37歳

「2人の気持ちのすれ違いが切ないですね」女61歳

いずれも満足度で最高点をつけ続けている方々の感想だ。表現は違えど、心理的“すれ違い”にハマっている様子がわかる。

しかも二人は「草食カップル」からスタートしたが、関係に変化が生ずるに従い、明らかにみくり(新垣結衣)は肉食化している。ところが平匡(星野源)の方は“草食をこじらせる”状況のままで、心理的な距離が縮まっても“すれ違い”が深化する“心憎い”展開を見せる。

物理的に“すれ違う”ことのない現代の、“すれ違い”ドラマの白眉と言えよう。

もう一つの“すれ違い”

物理的な“すれ違い”の『君の名は』、心理的な“すれ違い”の『逃げ恥』に続き、3日放送の映画『君の名は。』は時間空間的な“すれ違い”を軸に物語が展開する。

夢をきっかけに出会ってもいない男女二人の高校生が入れ替わる。次第に事情を理解して行くと共に、思春期ならではのプロセスでお互いを意識し始める。ところが時間空間的な“すれ違い”が前提になっているために、二人は出会うことがない。出会えないはずなのに、劇的なラストへと物語はなだれ込んでいく。

自身も作家でありながらプロデューサーを務めた川村元気氏が、「新海誠の最高傑作」と絶賛するSFアニメ。絵もとても美しく、十分堪能できる名作だ。

以上のように“すれ違い”は、過去から現在までパターンが進化している。そんなことを視聴後に考えながら内容を反芻すると、新たな発見がいろいろあるだろう。場合によっては、『逃げ恥』を再び見て見るのも一興だ。

たまたま“すれ違い”の名作が目白押しとなった今回の冬休み。“すれ違い”をクローズアップして、ストーリーテリングの妙をしみじみ考えてみるのは如何だろうか。

<『逃げ恥』はTBSオンデマンドあるいはアクトビラなどで配信中。『君の名は。』も、アクトビラほかビデオパス・ケーブルテレビなどで配信中>